管楽器奏者の歯のためのページ

たわごと 2002


楽器選びも腕のうち??(02.12.24)

つい最近楽器を買った。私はアレキサンダーの103モデル(定番です)のユーザーを25年間やってきたが、今回買ったのは他の工房製の103に大変よく似た楽器である。簡単に言うと103の欠点を無くしていった楽器ということだ。癖が少なく吹きやすいが、悪く言えば特徴のない楽器である。アレキの103というのは、ある意味扱いにくい楽器であるが多くのユーザーに愛用されている。吹きにくい楽器は十分な息の圧力あるいは息の量が必要で、そのために魅力的な音色が得られるが、逆にラクチンな楽器というのは自由がききやすいというか表現に余裕を持つことができるように思う(イメージの問題かもしれないが)。ウン十過ぎたらラクチンな楽器だよ!とも思うが、このままアレキの吹けない身体になってしまうのかな〜〜と思うとそれも寂しい気もする。悩むところである。
で、今まで使っていたアレキサンダーであるが、これを機会に修理(オーバーホール)に出すことにした。最近ではウォーミングアップに異様に時間がかかったり、2時間位吹いてやっと鳴り始めたり、レスポンスが悪いし音は暗めだし・・・でも自分の不調のせいか歳のせいかとずっと思っていたのだけど、どうやら楽器も原因の一つらしいということがわかった。今年マウスパイプをノイネッカータイプに交換した直後にキツイ感じがしたので、マウスパイプ自体もしくは半田付けの過程でキツくなったのかなと思っていたが、そうではなく、長年の使用でテーパーがなだらかでないというか管が真ん丸でなくイビツになったというか、楽器の歪みによりキツクなっているということであった。マイスターの話によると、楽器自体の重みかかかるため、例えばケースを下に置くたびに管に力がかかって歪むものなのだそうだ。楽器の扱い方とメインテナンス、何より楽器に関しての知識というのも腕に関係するのかなあとつくづく反省をしているところである。


ウォーミングアップ(02.11.22)

ウォーミングアップに異様に時間がかかるのがこの数年の悩みであった。年齢のせい?マウスピースやアンブシュアを変えたということもあって仕方ないとか思っていたが、ある程度安定してコンスタントに練習している時でも最低30分かかる。私にとっての30分というのは何の時間かというと、スムーズに分散和音ができるようになるまでの時間なのだ。最初ド/ミ\ド/ミ\ド/ミ\ド〜〜から始まってひらすら分散和音、上のソまでスムーズに上下できるようになるまで30分以上かかる。自然に分散和音ができる頃にようやく口唇も振動してくれるようになるが、それまではみっともなくて誰にも聞かせられないような状態である。おまけに私は毎週のオケの練習開始の1時間前まで(昼休み無しで)働いて練習場にタクシーで駆けつけるような生活をしているので、良い状態で吹けるわけもなく、無理して吹いて調子を崩すこともしばしばであった。
そもそもウォーミングアップというのは、身体を温めて血流を増やし心拍数を上げて運動に適した状態に持っていくことではないかと思う。管楽器演奏の場合、それを口唇とその周囲の筋に限ってそれを行うことになる。全身のウォーミングアップに必要な時間は筋肉の温度が十分に上昇するまでの15分が目安だそうだが、管楽器の場合、口唇とその周囲の血流が良くなって演奏状態に持っていくのには3分あれば十分らしい。
じゃあ何で私はそんなに時間がかかるか考えたが、管楽器でいうウォーミングアップというのはアンブシュアの確認をすることなのかもしれない。下顎の位置と筋のバランスと息の方向のコンビネーションを脳が記憶していないものだから音が鳴り始めるのに時間がかかるのだろうか。不自然な位置というかどこか無理をして音を出しているので、そのアンブシュアになかなかたどり着けないとも考えられる。顎関節症持ちの私には所詮無理な顎位だったのかもしれない。10月には全く症状のなかった「首が痛い病」も最近再発したし(忙しくて1ヶ月間程まともに吹かなかったのであるが:全く吹かなかったわけじゃないよ、本番も何度かあったし・・・この間は首が痛くないし絶好調だったのに、ホルンの練習を再開したら首が痛くなってきた)、それで↓にも書いた下の前歯用のアダプターを実用化するべくこの1週間ほどいろいろ試作・調整をした。それで、三作目にできたのが、結構良い出来で、楽なのかどうかはまだ何とも言えないけど確かにウォーミングアップに時間がかからず、すぐに分散和音がスムーズに吹けた。音色も随分クリアに明るめになった。実際に使うにはまだ少し不安が残るが、少なくとも、ウォーミングアップに時間をとられずに本来の意味での基本練習をすることができそうである。


アダプターについて最近思うこと(02.11.18)

最近、自分用のアダプターを新しくした。昔は実験的に自分用に作って試したことはあったけど全然吹けなかったが、今年の春くらいから実際に使うようになった。最初は側方歯部(右下の第二小臼歯が内側にあるので、そこだけにつけたもの)を1ヶ月くらい。その後これに加えて前歯上下(右上の側切歯と右下の側切歯)につけたのが1ヶ月、その後は6ヶ月間右上側切歯にのみつけて吹いている(口角より後ろはあんまり関係ないみたい)。少し前には下の前歯部全体(犬歯から犬歯まで)のものを作りそれなりの効果を感じた(結局現在は使用してないけど)。
通常、ユニファストという歯科用の即時重合レジン(仮歯をつくるのに使うもの)を使ってつくるため、小さくて薄いものは歯に保持させられないし破損しやすいという理由で、私もお勧めしなかったのだが、材料を変えて作り方を変えることで、小さくて薄いものでも可能になった。私がこの6ヶ月使っているものも前歯1歯分で厚さも0コンマ何ミリの物(現在は1.3mm)だけど、破損もなく歯に密着しているし見た目もわからない上出来なものである。大きいものだとどうしても即時重合レジンで作らないといけないのだけど、着脱のためにアンダーカットを削らないといけないのだが、そうすると保持が悪かったり歯から振動が伝わらないためか吹奏感が変ったりするが、2種類のレジンを使って作るとピッタリ密着したものを作ることができる。レジン製のアダプターの応用範囲が広がったということである。
大事なことは、アダプターを使う目的をしっかり持つことでないかと思う。現在の奏法の問題点と歯並びの関連がわかれば、理にかなったアダプターを入れることができる可能性は高い。そのデザインのアダプターを使う理屈が説明できないのに、取りあえず入れてみましょうでは良い結果は得られない。私の診療室に他院でアダプター(金管・臼歯部用)を作った人が何人か来院したが、皆どうしてそのアダプターが必要なのかよく理解できない歯並びの状態だった。一人は、むしろアダプターが奏法の問題を引き起こしている可能性もあったので、説明してやめてもらったら楽に吹けるようになった。一人は、それがないと吹けないというのでしかたなく新しく同じようなものを作ったが、ほとんどお守りのようなものかもしれない。他の人達は全く使っていないということだった。
例えば、私が大昔に作ったアダプターもこの間作ったアダプターも、下の前歯(犬歯から犬歯)の唇側面にツルっと薄めに即時重合レジンで被うというほぼ同じデザインだった。昔は「長時間吹くと下唇に傷ができる」のを防ぐのが目的であったが、それまでと同じようなアンブシュア・楽器の角度で吹いたので全く音が出なかった。レジンの厚みの分色々なところに変化が出ることを理解していなかったわけです。今回は下顎を前に出して吹くとき「顎関節や咽喉周囲の筋に負担がかかる」のを防ぐためだったので、下顎の位置を変えて楽器の角度も意識して吹いたらいい感じで音を出すことができた。
今私の使っている上の前歯用のアダプターは、最初は厚さ0.7mmだったが、数ヶ月ごとくらいに厚くし1.0mmを経て現在は1.3mm厚である。主な目的がマウスパイプを真っ直ぐ当てる(左右的に)なので、当然口唇周囲の筋のバランスにも影響あるわけで、真っ直ぐにしようとしてもそう簡単に筋肉が左右対称になるわけではなく、半年かかってほぼ真っ直ぐになってきたかなという感じである。アダプターを入れないで吹こうとすると思いっきり息漏れがするが、入れ忘れに気がつかずに吹くと普通に吹けてしまう(無意識に楽器がずれてるんだと思う)。
つまり、アダプターを入れれば当然楽器の構え方、下顎の位置、筋のバランスが変るわけで、アンブシュアを変えるつもりはないがアダプターを入れたいというのではいい結果が得られるわけがなく、アダプターの目的がはっきりしていれば、場合によっては意識的に奏法を適応させる必要がある。
金管楽器のアダプターのデザインを考えるとき、リムの当る歯とアパチュアを作る歯と別々に考えたほうがよさそうである。リムの当る歯は、主にマウスパイプの左右の傾きやマウスピースの左右のずれに関連があり、それが筋肉のアンバランスにつながる。つまりほぼ左右対称にするが望ましい(マウスピースがど真ん中が良いというわけでもなさそうで、マウスピースの小さい楽器:トランペット・ホルンの場合だと多くは片方の中切歯と反対の側切歯に当ててるケースが多いようで、単純に全くの左右対称が良いというわけでもないかもしれない)。アパチュアを作る歯(アパチュア上下の歯:多くは上下の中切歯)は下顎の位置やマウスパイプの上下的な角度との兼合いということになるが、どうも理想的な演奏時の上下の中切歯の関係(切縁)は前後的にちょうどそろっている状態よりもわずかに上が前にある状態らしく、それを歯並びが原因で作れないときにアダプターを入れることで作る、あるいは作れるけどその顎位をとると顎関節や咽喉周囲に無理な力がかかってしまうときはアダプターで演奏時の顎位を変えるいうわけである。
具体的には、楽に前歯で噛んだときの上下前歯の前後的なわずかなギャップがほぼ均等になっていて、少し開いたときの空き具合が左右同じ感じになっていると良いようで、調整するときにはそれを見安にしている。
もちろん、アダプターは付け足すことはできるけど、引っ込めることはできない。特に金管の場合、あまり外側に出過ぎてもいいものでもないので、削るあるいは矯正で動かしたほうがベターな場合もあり、アダプターが万能というわけではない。
少し前から興味があるのはクラリネット・サックスのアダプターである。自分でアルトサックス買って吹けるようになろうかくらいに思っている。いわゆる木管用アダプターというのは基本的に同じデザインで、一般的には下顎前歯の歯並びをつるっとさせ、口唇との接触面積を大きくするというものだ(下顎前歯の舌側を全体的に被い、唇側は歯冠側の1/3程度を被う)。モノの本によれば、その効果は「下唇を柔らかく保つ、下唇の振動を一定にする」ことで音色が良くなると述べられているようだが、ちょっと違うような気がする。もちろんそのデザインのアダプターで効果絶大の奏者もいるだろうが全ての人にベストというわけでもないだろう。高さ、前後幅、凹凸という3つの要素が変化するが、たまたまそれが自分に合っていれば効果があるわけだ。誰々に有効だったからといって誰にでもいいというものではない。アダプター自体の是非が議論されたりするのだが、木管用のアダプターの効果というのは多様であるはずで、必要がある人には必要で、必要ない人には必要ないというのが、当たり前のようであるが正解だと思う。そして人によって求められるアダプターのデザインも多様であるはずである。例えば、横に引きすぎている口唇周囲の筋のバランスを変えるのが目的であれば下の前歯を高くすればいいし、上顎前突の人が下顎を前に出しすぎて負担になっているのであれば舌側でなく唇側面を厚めに被えばいいし、上の前歯のデコボコでマウスピースをよく咬めなければ上の前歯の裏側につければよい。何ミリ厚のアダプターがいいのだろうなんていう調査は全く無意味である。まず問題点を把握し目的を明確にしてあれば調整もしやすいし、効果の高いアダプターができるようである。


セファロX線写真の有効性(02.10.18)

一ヶ月近くお休みしておりますが、来週の学会に発表する準備で大変なのであります。それに加えてオケの雑用やら何やらで....無事発表の準備は終わるのでしょうか?私は一応矯正歯科の専門医をしていて、といっても正確には専門医という制度自体はまだないのだけれど、あえて言えば日本矯正歯科学会認定医というもので、大学卒業してからの5年間は楽器もほとんど吹けずに矯正歯科の修業時代を過ごしていたのであります。認定医資格の5年ごとの更新のために半ば仕方なく発表をするわけなのですが、今回のテーマは「プロ金管楽器奏者を矯正治療した3例」。発表のために今まで取ったX線写真とかを細かく分析したり経過をまとめたりしているのだけど、結構フ〜ンと思うようなこともあります。過去に、管楽器奏者の歯並びや骨格の特徴といった論文や管楽器奏者の演奏時のX線テレビといった発表は見たことあったし、管楽器奏者の矯正治療に関してはクラリネット奏者を治療した例についての論文は読んだことはあったのだけど、治療前後の比較のみしか論じられておらず、管楽器奏者が一番興味があるであろう「矯正治療中」のことについては一言も載っていない。今回の発表の「キモ」はどういうことに気をつけて矯正治療をするべきかという点であります。
矯正治療をする場合には、通常でも咬合時の頭部X線写真(詳しくはこちら)の側面と正面の2枚をとり、分析して治療方針を決め治療の評価をするのだけれど、管楽器吹きで矯正をする人は加えて演奏時のX線写真を撮るようにしている(音域や音量等で変化する訳だけど、そうたくさん撮るわけにもいかないんで中音域でmpでロングトーンを吹いてもらってる)。ちょっと歯を削りたいとかアダプターを入れたいという人は演奏時のだけをルーティンで撮っている。
まあ、主に下顎の位置や楽器と歯の位置関係を見るのだけれど、それ以外にも2次元的ではあるが舌や軟口蓋、咽喉の状態も見えるし、上下口唇の接し方(金管では肝心なアパチャー周囲の状態ね)や口唇上下の張り具合も記録される。矯正歯科医ならではの「重ね合わせ」でもいろんなことが見えてくる。ほんと多くの情報が見方によっては得ることが出来るのだ。
セファロX線は、安価に短時間で撮影することができるので、大それた研究のように筋電図取ったり難しい測定器とか使わなくてもいいので、多くの人に応用できるのが最大のメリット。それと普通の写真も撮るのだけど、これもなかなか有用である。
そのうち興味を持っていただけるプロ奏者の方々にご協力を願おうと思っております。もちろんアマチュアの方でも興味があれば検査にいらしてください。現在はどういう形で資料をとるか考慮中であります。
学会は10月23,24日名古屋国際会議場です(日本矯正歯科学会大会)。興味をお持ちの矯正歯科医の皆さん、お会いしましょう(って!?)


0.5mmで大違い(02.9.20)

私の診療室ではこの半年くらいで、上の前歯の長さを削りに来る金管楽器の患者さん(ほとんどがトランペット)が増えている。前歯を削ればその分息が通りやすくなるからと考える人が多いようだが、その程度歯の長さが変ったからといって音質が大きく変るほど息の流れが変るとは考えにくい。おそらく、上の前歯の切縁が長いと下唇に接触して振動を止めてしまっていて、歯を削ることでそれが改善する、あるいは上の前歯の切縁が下唇に接触しないように無理な力がかかっていたのが改善するというのが理屈なのではないかと思う。高音域ほどこの影響がでる。だから演奏時のレントゲンを撮影して上の前歯と下唇の位置関係を確認してから削るかどうかを判断する。その他にも、上唇と上前歯のバランスやアンブシャーの妥当性を検討し、削っても咬合関係を保ち顎運動に悪影響を及ぼさず、しかもエナメル質内でとどまるかどうかを考えたうえで、削るかどうかを判断している。削ってくださいと来院してもハイそうですかといって言われるがままに削ったりは私はしないのだ。
削った人はほとんどが0.5mm程度、ほんのなめる程度に削っただけであるが、音は劇的に変化する。抜けるようになる音が太くなる感じかな。何よりも本人が「違う!」と感じるようだ。
一方、専門家の間では「前歯を削って大成した奏者はいない」「最初は良くても後で吹けなくなる」ということも言われている。私も正直言って、前歯を削って劇的に音が良くなってもそれがいつまで続くかどうかというのはちょっと心配がある。自分で自分の歯を削ったという人を何人か見たが、大抵ヤスリを使ってスパッと(歯科医からみれば)非常に不自然な形に削られているのだ。これじゃあね、とも思う。実際、ウチの診療室で0.5mm削って良い効果を得られた人は味をしめて「あと2mm削ってください」と皆言ってくるのだが、2mmも削ったら大変なことになるのでよく説明して断っている。つまり自分で削った人というのは削り過ぎてしまう可能性が高いのだ。だから、必ずしも前歯を削るのは悪いことではなく、ごくわずかの長さの変化でもそれがきっかけで筋肉のバランスが改善できたとすれば効果も長持ちするとは思っている。
削った人の多くは、上唇の長さと上の前歯の位置のバランスが悪い人である。そして、大抵は鼻が悪かったりする。口唇を閉じている習慣がないと上唇が短くなり、上顎前歯部が長くなるのだ。特に最近の若者は上唇が短い人が増えてきているような気がする。中には上の前歯に2ヶ所の切れ込みがある人もいる。前歯というのは萌えたばかりの状態ではボコボコとチューリップの絵のように3つの山があるのだが、上下の歯で噛みあうことによって削れてまっすぐになる。口開けていて前歯が削れないのでその山が残ってしまっているのだ。むしろそういう人は本来自然に削れた分だと思えば割と気楽に(?)前歯を削ることが出来る。歯を削るのとは逆に上唇を伸ばせればいいのが、それは難しい。でも普段口唇を開いている人はまずは閉じるようにすること、鼻が悪ければ鼻を治すこと、口唇を閉じる筋肉を鍛えることである程度は上唇自体の長さを改善できる可能性があると思う。
また、上の前歯を被せたとき(いわゆる差し歯)吹きにくくなることがあるが、発想としてどっちかというと膨らみ(前後的な位置)を心配する人が多いのだが、実は長さの方が関係大のようだ。膨らみはある程度適応しやすいけど、長さは0.5mm違っただけでホント音が出なくなることもあると思うよ。


ポッセルトのバナナ(02.9.17)

下顎骨というのは全身の骨の中でもかなり特殊な動きをする骨である。関節が下顎骨上部後方の左右にあり、これが単に丁番運動をするのではなく、それぞれが頭蓋の関節窩に沿って前に滑りながら回転をするので、下顎骨はその組み合わせで三次元的に複雑な動きをするのだ。ただし際限なく自由に動けるというわけではなく、動ける範囲というのがある。下顎骨の動きを示す代表点を切歯点(下の前歯の切縁の正中)としたとき、この点の運動可能範囲のかたちがバナナに似ているのだ。これを発表した人の名前にちなんで「ポッセルトのバナナ」と呼ばれ、これは歯学部学生の試験のヤマであった(いまでもそうかな?)。
このページは基本的に「図を載せない」「わかりにくくてゴメンナサイ」をモットーにして書いているのだが、言葉で説明するほうが難しいので、残念だが図を入れることにする。イメージしていただけただろうか。下顎がどういうふうに動くかというのが理解できると、アンブシャーや演奏時の顎の動きも考えやすいと思うので興味のある人は見てください。

切歯点の運動可能範囲を示す
---どの高さの断面も菱形である
正中部における上下・前後の運動限界
 P<-->B:習慣性開閉運動路
 R:下顎安静位

一つのポイントとしては「下顎を普通に開くと後下方に回転する」ことだろうか。たとえば、金管楽器では低音に行くほど下顎を前に出せとよくいうが、実は普通に下顎を開くと後下方に行ってしまうため下顎を真っ直ぐ下げるには意識的に前に出さないといけないからで、下顎が実際にさほど前に出ているわけではないのである。また、自分は上下の前歯を揃えているつもりでも、実は下の歯が後に行っているなんてことは十分あり得る話である。
下顎頭(関節)は後にいけないから下顎が後に行くには限界がある。特にシングルリードの木管楽器で顎関節症が多いと言われているが、この性質のためであろう。これが理解できればマウスピースの向きで改善できる可能性もある。
図を見れば、正中部でのまっすぐな動きが一番自由度がある(上下、前後の可動域が広い)ことが理解できると思う。下顎の左右のずれはケースによっては不利になることもありうるということである。
このバナナの形の外形線が限界運動ということになるが、これは意識的もしくは強制的に動かさないと実現しない顎の位置であるから、たとえ動けても限界運動に近ければ無理がかかっているということでもある。顎の動きを決めるのは関節窩や下顎頭の形態、靱帯や関節円板など顎関節を取り巻く組織の状態にも関係するし、下顎についている筋の状態にもよるし、噛合せも大きく影響する。日頃あまりアゴを使っていなければ当然動きも悪いのである。つまり持って生まれた個人差もあるし、同じ人間でもコンディションで変化するということだ。前に「歯の相談室」でも紹介したのだか「アゴの運動」というのをやってみると有効かもしれないし、やはり基本は「良く噛んで食べる」ことと「良い姿勢」かな。


新説/金管楽器の角度を決めるのは何か(02.9.2)

楽器の角度は本当に咬合状態(噛んだときの上下前歯の位置関係)で決定されるのだろうか?根本先生が本を出されてからほとんど定説になってしまっているのではないだろうか(くわしくはこちら)。しかし、演奏時は歯は開いているのであるから、実は直接は関係がないはずだ。なぜなら、下顎骨は3次元的に動くことが出来るからである。もし咬合で楽器の角度が決まるのであれば、個人固有の角度では決まっているということになるが、実際には色々な角度で演奏可能である。
それでは金管楽器(マウスパイプ)の角度を決定するのは何だろうかと考えたとき、下の前歯の角度が関係している、つまり下の前歯の唇側面とマウスピースが直角になるのではないかと思っていた。金管楽器は音のコントロールの手段の一つとして下顎を動かしているのだが、下唇粘膜と下の前歯の唇側面を滑らせて下顎の位置を変化させる。つまりマウスピースのリムが下の前歯の唇側面と平行であればマウスパイプの角度や口の形を変えずにそのまま下顎を開閉できると考えた。
私の5年前の演奏時のレントゲンもそうであった。私はいかにも金管楽器を吹くのに好都合な歯並びに見えるらしいのであるが(よく言われる)、実際にレントゲンを見ると上下の前歯がかなり外側に傾斜していて(オトガイが比較的出ているのでカモフラージュされて歯が出ているように見えないのである)、下の前歯とマウスピースのリムが平行になっている結果、マウスパイプが下向きになっていた。(レントゲン写真のトレース図はこちら)。そのアンブシュアでもそれなりに吹けていたのだけれど、この1年間のアンブシュア改造(楽器の角度も変えた:水平に近づけた)で考えが変った。
つまり、理想的なマウスパイプの位置は、「口唇の状態」と「それを作る周囲の筋肉バランス」で下顎の位置が決まり、そのときのマウスピースのリムが当たる歯の位置によってマウスパイプの向きが決まる。と言うととってもわかりにくいと思うんだけど、要は「音」を作るのはあくまでアパチュア周囲の振動(バズイング)であり、一番良く振動するときの上下唇の関係を作る「下顎の位置」というのがまずあって、そうするとおのずとマウスパイプの向きも決まる。どうやら上唇が下唇にわずかにかぶさる状態というのが理想のようで、このわずかな「かぶさり」のために下顎が上下にスライドするとアパチュアが相似形で大きさが変化することができるのではないかなあ。そのため、マウスパイプの向きが水平よりちょっとだけ下向きという奏者が多いなのではないか。まれにプロ奏者でもこのかぶさりが上下逆の人もいるようで、そういう人は上下の唇のバランスも逆でマウスパイプもやや上を向く。一般的にそういうケースでは反対咬合だと言われているけど、反対咬合だからといって必ずしも逆になるわけではなく、むしろ軽い反対咬合では普通に下顎をちょっと開けただけで口唇の良い状態が作れたりする。
この下顎の位置のときに下の前歯とマウスピースのリムが平行であれば、楽器の角度を変えずに上から下まで出て音のコントロールもしやすいのだろうが、上下唇が理想的な状態で下の前歯とマウスピースのリムが平行になるためには、少々下の歯が普通より立っている(標準的には下の前歯は少々前に傾いているものなのである)必要がある。実際一流プレーヤーは結構歯が立っているように思う。演奏時の圧力の影響で元々の位置より動いたというのもあるだろうが、無理なく上達する条件の一つなのかもしれない。ではそうでない人はどうしたらいいかであるが、私やごく普通の歯並びの人、特に日本人の場合標準値以上に下の前歯が前に傾いている人が多いのだが、上下唇の関係を保ちながら下顎の開きを変えるためには、マウスパイプの傾きを音域によって変化させる必要がある。というのは、下顎の開きによってマウスピースのリムの位置が変化するが、下顎を開くつまり歯を開くと下の歯の上の方に当り、歯を閉じると下の歯の下の方に当たるからである。つまり、低音域ほどマウスパイプを上向き(水平に近づける)にしていかないと対応できない。
音域によって角度が変ることに関しては、口唇の振動ポイントが変るためという説明も読んだことがあるし、音響物理学的に音のコントロールを考える人は息の方向うんぬんと考えるだろうから、私の「下の前歯の角度との関連説」は確信はないけど、これなら角度を変えろという人や変えるなという人がいることも理解できるし、意外と当たっていたりするかもヨと秘かに考えている。
この音域による楽器の角度の変化の仕方が逆、つまり高音域ほど上向きになる人もいる。単純に下の前歯が極端に内側に倒れている場合はそうなるだろうとは思うが、割合としてはあまりそういう咬合の人はごく少ない(アントニオ猪木くらいを想像して欲しい)はずである。下の前歯が前に倒れていても逆になるケースの多くは、どうやら上の前歯のリムの当たる歯(大抵はどちらか片方の側切歯:2番目の歯)が凹んでいるようだ。高音域ほどどうしてもプレスが増すため凹んだところにリムが入り込むために、楽器が上向きになり、かつ左右どっちかにずれる。そういう人は、低音域でつい下向きになってしまうので、それなりに下顎を開いていても下顎が後に行ってしまい、下唇の下部の筋肉を張ることができずに音がこもってしまう。
特にホルンの場合楽器の位置の自由度が少なく、膝にベルを上げていようものならなおさら楽器が固定されてしまう。少々だったら顔の向きを変えれば済むかもしれないが、顎を引きすぎて吹くとノドの筋(正確には舌骨筋群かな)が緊張してよくない。つまり下顎を自由にして吹くということは非常に大事なことで、下の前歯が前に倒れている人はベルを持って吹くことをお勧めする(持てない私は指かけを付け替えて何とかした)。どうも低音域の音が抜けないという人は試しに低音域に行くほど意識的に楽器を上向きにして練習してみるといいと思う。
では、「咬合状態で楽器の向きが決まる;噛合せが浅いとまっすぐで、噛合せが深くなるほどベルが下を向き、反対咬合では上向き」というのはどうかというと、必ずしも間違いというわけではなく、初級者レベルではそういう傾向があるだろうし、顎関節が楽な状態で吹くためにはそうすればいいのかもしれない。しかし、それでは絶対イイ音しないし上手くもならないケースが多いのだと思う。理想的には、良い上下唇の関係を作る下顎の位置が顎の関節や口唇周囲の筋肉の楽な状態でできればいいが、皆が理想的な歯並びや骨格をしているわけでなく、無理しないと良い上下唇の関係を作ることのできないケースもある。優秀な指導者に恵まれた学生は良い音を出せるようになるけど、顎関節に負担がかかっているなんてことも多い。じゃあ、どっちをとりますか、ということです。腹話術のいっこく堂が自分の芸を磨くために下顎を前に出すようになったら、噛合せが狂って顎関節症になってしまったというけど、私はそっちの方をとりたい。何か器質的な問題がなければ顎関節症というのは必ずしも不可逆的な疾患ではないし、顎関節はある程度は適応できるものだと思うのです。もちろん程度問題ですけどね。
それより心配なのは、「咬合状態で楽器の向きが決まる」つまり各人に固有の楽器の角度があるという意識を持ってしまうことである。是非、アンブシュア作り・基本練習をするときに、楽器の角度は自由であることを思い出してほしいな。


譜面台の高さ(02.8.27)

このページに「下の前歯の角度と楽器(金管楽器のマウスパイプ)の角度の関係」「頚椎と噛合せと姿勢の話」というのをまとめようと以前から考えていてパソコンの前に向かうが、なかなか文章がまとまらずまた更新が止まってしまったのだけど、先日不愉快というか悲しい思いをしたので、その話を先に書きます。実はこれは楽器の角度と頚椎に関係があるのでありまして・・・。
私の譜面台が高くて顔が見えない。顔を隠して吹いていると不信感を持って演奏を聞いてしまう。譜面台を低くしなさい。と言ってきた人がいたのだ。いかにも自分がそのパートを吹いていることを知られたくないがために譜面台を高くしているみたいな言われ方をした。酒席とはいえ今思い出しても不愉快。私は逃げも隠れもしないし「これが私の音よ!私の演奏よ!」といつも本番は演奏しているつもりだ。
譜面台の高さを何気なく合せるけど、基本的には指揮者が見えて周りの人の動きも把握しながら楽譜が読める高さに合せているのだと思う。譜面台の高さは個人によって背の高さも姿勢も視力も違うのであるから、吹きやすい譜面台の高さはまちまちであって当然である。楽器によっても違うだろう。演奏団体によっては(視覚的効果を重んじるコンクールバンドとか)譜面台の高さをあらかじめぴったり合せることもあるだろうが、それはここでは置いておくとしても、私は極端に譜面台を高くしてあるわけではなく、周りとほぼ同じか高いと言っても数センチ程度、まあ背が低いから相対的な高さが高いというわけである。
私は本番の日はリハーサルから、譜面台の高さだけでなく靴のかかとの高さやスカートの開き具合・締めつけ具合にも気をつかい、吹きやすい状態で望むようにしている。顔を隠すなんて目的ではなく必要があっての高さなのである。
座高の高さの他に譜面台の高さを決める要因は顔の向きだろう。顔が下向きであれは視界が下から上に広がるので譜面台は低くなるし、顔が上向きであれば譜面台が高くないと指揮者と楽譜の両方を見ることは出来ない。顔の向きは姿勢にもよるし、楽器と歯の角度関係にも左右されるはずである。理想を言えば良い姿勢を取ったときの顔の向き(一般的にはフランクフルト平面:外耳孔と眼窩下縁を結んだ平面が地面と平行)を変えることなく楽器を吹ければいいのだが、そうもいかない人もいる。吹きやすい楽器の持ち方や歯とマウスピースとの角度関係との兼合いでも顔の向きは決まってくる。その人は元管楽器吹きなのにそんなこともわからないのだろうか。
私は首が悪くて文字通りネックポイントであることはここで何度も書いているが、具体的には頚椎のカーブが真っ直ぐで顔が上向きになっているので首の後方の筋肉に炎症が起こってしまっている状態で、もちろん首だけでなくちょいと猫背になっていた。おまけにホルンのベルを腿にのせる派なので楽器の位置が固定されて、アンブシャーとの兼合いでちょっと顔が上向きになる傾向があったかもしれない。で、過去形で書いたのは、カイロプラクティックや例の咬合治療で最近姿勢が少々直ったのと、アンブシャを変えてマウスパイプと顔の角度が変ったので顔を上向きにせずとも吹けるようになったために、吹きやすい譜面台の高さも変っている可能性があるのである。
まあ、視覚的な効果として譜面台を低めにしたほうがイイ演奏っぽく感じる場合もあることも事実だし、逆に、極端に譜面台が高かったり低かったりしている場合は、演奏時の姿勢に問題がある可能性があるとも言える。でも、譜面台が高い人はわざと自分を隠してコソコソ吹いているなんて考えるお客さんが他にいないことを祈りたい。


カラダの曲がり角(02.8.4)

お肌の曲がり角は25歳というが、カラダの曲がり角は女性30〜32歳、男性41〜43歳なのだそうだ。ちょうど大厄の頃と一致している。この「カラダの曲がり角」いったい何のことかというと、文字通り身体が左右的あるいは前後的に歪んでバランスを崩し、身体の不調(不定愁訴)が起きるというものである。
テレビや雑誌、あるいは歯科医院の広告で「咬合を治療すると、腰痛・肩凝り・高血圧・自律神経失調が治る!」みたいなことをご覧になったことのある方も多いのではないだろうか。ここでいう「咬合」は矯正歯科でいう「咬合」とはちょっとちがう。通常「咬合状態」というと、噛んだときの上下の歯の関係のことをいう:上顎前突とか反対咬合とか開咬とか過蓋咬合とか。これに対し「咬合治療」というのは、顎の位置、つまり頭蓋に対する下顎骨自体の位置をさす。事実、下顎の位置をプレートや咬合調整で動かすことによって、著しい全身症状の改善がもたらされる例は多数あるのだ。つまり、下顎の位置に問題があると、姿勢の異常をもたらし、筋肉や脊柱(血管・神経)に異常を生じるということである。
しかし、腰痛や肩凝りなどにはいろいろな原因があり、不定愁訴と咬合とを明確に関連づけることは難しい。咬合を変えることで肩凝りが治る例は確かにあるかもしれないが、咬合を変えたからといって全ての例で肩凝りが治るわけではないだろう。原因と断定できないけど駄目元で歯の方を変えてみようというのではそれは医学ではない。その変化が不可逆的あるいは患者さんに負担を強いるものであれば安易にやってはいけないと思うし、すべてを咬合のせいにするべきでない、歯医者が身体全部を治そうとするのは無理があり、自分のテリトリーの中で出来るだけの治療をするのがベターであるというのが私の考え方であった。実際、私の診療室に矯正治療の相談にくる患者さんには顎関節症、肩凝りや首の痛みを抱えている人も多いが、矯正治療をしてもそれらが完治するとは限らないと説明するようにしている。
その私もやっぱり自分にもカラダの曲がり角がきてたのかなと思う。今思うと34歳の時、今でも忘れないベト7本番最後の方ハイトーンで叫ぶ8小節間プッっと音が出なくなったのだが、そんなの生まれて始めての経験でこの時も肩凝りがひどかった。肩が凝るのはそれ以前からだったけど、肩凝り過ぎて頭や腕だけでなく顔まで痛くなるようになったのがこの頃で、それから1年くらいして首が痛くてたまらなくなり、その後少しして演奏のスランプを自覚するようになった。ありとあらゆることをやってみて、いろいろ読んで考えて、自分なりに「姿勢」が原因だという結論を出した。現在は薬を飲んだり貼ったりしなくても過ごせる程度になったのだが、自慢じゃないけど首や肩や肩甲骨周りはカチカチに硬いよ。姿勢を良くすればいい、姿勢を保つための筋肉を鍛えればいいと思うのだが、それは正直なかなか難しい。
人はなぜ管楽器が下手になるのか。もちろん練習をほとんどやらなければ下手になって当たり前ではあるが、楽器の演奏を筋肉の運動としてとらえれば、週に1回練習すれば十分に維持はできるそうである。それなりに吹いているのに、明らかに30〜40歳代で下手になったという人も多いのではないだろうか。それはもしかしたら咬合のずれによる「カラダの曲がり角」のせいかもしれない。今までと同じように吹いているつもりでも、「咬合」が原因で、姿勢がずれて顎の動きも悪くなって、アンブシャーが知らないうちに変って、口唇周囲の筋肉の血行障害も起きて、それで思うように吹けなくなってしまうケースも意外とあるんじゃないかな。もちろん、ろくに練習しなくても維持できる人もいる。私の知合いでもめったに吹かないくせに下手にならない奴が何人かいるけど私からみても見事な歯並び噛合せ。歳をとっても上手くなっている人というのは、頭使って地道に練習している人なんだろうな。若い頃何もしなくてもそこそこ吹けたというタイプは奏法や練習方法の理屈がわかってないから体調の変化によるスランプに弱いと思うよ(私のこと)。
ジャズクラリネット奏者の北村英治氏は73歳でバリバリの現役である。もちろん心がけ(酒を飲まないらしい)も努力も違うのだろうが、一番関心したのは「姿勢」のよさである。シャキッとした立ち姿は50歳代で通用する。上顎前歯の捻転(自前の歯だということ:これも結構スゴイ)が原因らしく楽器は少々傾いてくわえているが、何の影響もないようである(かえってこのために多彩な音色が可能になっていたりして)。
それでは、咬合のずれ=下顎の位置をどうやって治すか、である。正しい位置に下顎を持っていくプレート(装置)をはめるだけというものだが、この「正しい顎位」というのが難しい。単純に顎の開閉させて左右のずれをなおせばいいというものではなく、下顎というのは三次元的に動くことができるからだ。こういうときはこうとか何か法則や数字があれば自分で自分の治療をするのだが、何より豊富な知識と経験が物を言うようだ。この道の第一人者はちがうよ、顎の位置を変えたとたんに顔の表情が変わり首の筋肉が柔らかくなるのを実際に見て、信じやすい私はその先生の患者になることにしてしまった。こういうと新興宗教じみているけど、うつ病やアトピーも治ってしまうのだそうだ。
その動かした顎位が本当に正しいのかどうかを判断するのには、腕の筋肉の強さをみる(キネオロジー)。100点満点の顎位にすると信じられないくらい力が強くなるのだ。スポーツガードで咬合が挙上されると瞬発力等筋力が向上することはよく知られているが、三次元的にコントロールされればさらに運動パフォーマンスが向上することは容易に想像できる。
カイロプラクティックとかアレキサンダーテクニックとかと結果的には目指すものは同じだけれど、アプローチの仕方が違うということではないかなと思っている。
今日は首が痛くて練習する気しない・・・まあうつ病にならなかっただけよしとしよう。


上唇の真ん中(02.7.20)

「左右対称大作戦」で、マウスピースのリムがど真ん中にくるようにいろいろ試みた結果、吹けなくもないが、どうも少しずれていた方がイイ音がする。筋肉のバランスの問題で柔らかい部分が真中に来ないせいかなと思っていたのであるが、HPでも紹介しているジャズトランペット奏者の中川さんの4月に行われたクリニックでのお話で、「マウスピースをど真ん中にして吹いている人をみたことがない。それは口の中央が少し突出しており、この突出した部分がマウスピースの内壁に接触するため、いくらか左右にずれてしまうのではないか」ということだった。内壁に接触しているかどうかはわからないが、この上唇中央の出っ張りに関係していることは確かではないかと思う。ど真ん中ではアパチャーがあまりいい形態にはならない(アパチャーとは吹奏時にできる上下唇間の隙間でオーボエのリードの断面のような形が理想的といわれている)。上唇の中央がアパチャーの端に来たほうが口唇が良く振動しアパチャーの形態も望ましくなるようだ。
この上唇中央の出っ張りであるが、解剖学的な名称を私は知らない(あるのかもしれないが大学で習わなかった)。近くに「人中(にんちゅう)」という部位もあるが、これは鼻の下の真ん中にある溝をさす。機能的にも審美的にも何にも影響がないし関連した疾患もないので、ほとんどリサーチもされてないのではないのだろうか。世の中でこのわずかな出っ張りに興味を持つのはフルートと金管楽器奏者のみかもしれない。
私の場合で下に0.5mm、前に1.5mm程度の突出(定規でいい加減に測ってみました)なので、多くの日本人はこれくらいなのではないかと思うが、それなりに個人差や人種間の差があるのであろう。私の診療室でも、この出っ張りを取って上唇の下のラインをまっすぐにしたいという相談を受けたことがある。確かにその人は普通よりも出っ張りがとがっていてりっぱだった。
形態だけでなく、多少中央は表面が硬いような気がするし....。
問題があるほど出っ張りが大きい場合に外科的に形態を修正することができるのかどうかというのは、興味のあるところである。一度形成外科医と相談してみたいと思っているが、往年のホルンの名プレーヤーで、上唇の出っ張りを手術でつめたという人を私は知っている。ハイトーンは出るようになったが、耐久力がなくなってしまい、定年前にオーケストラを引退したということである。まじに手術を考えている人は早まらないで欲しい。
口唇の上の筋肉を使うことにより、上唇のラインがまっすぐになるので真ん中でもアパチャーを作ることができる。だから、突出があってもど真ん中で吹く人もいるのだろうが、真ん中で吹くことを目的に口唇の上の筋肉を余計に使うことは望ましくない。上唇の柔軟性が失われたり下顎の開きが狭くなる可能性があるからだ。
口唇のど真ん中にマウスピースのリムが来ることは必ずしも必要ではない。理屈の上ではアパチャーの幅の1/2程度ずれていい(?)。これはほんの数ミリの世界だから、ずれると言ってもほとんど真ん中だと思うけどね。


口角下制筋の話(02.7.19)

人から聞いた話なので出典はわからないが、ウィーンの大学でトランペッターに対しての赤外線サーモグラフィを使った実験によると、最も活動が大きい筋、つまり顔面皮膚の温度上昇が観測されるのは口角下制筋だという結果だったそうである。
皮膚温度の上昇をそのまま筋活動の比較に置き換えることが出来るわけではない(皮膚からの深さによっても違うわけだし....)が、演奏時の口腔周囲筋のバランスのとらえ方としてとても興味深い結果である。
口唇の上下の筋のバランスについては、大抵のハウトゥー本では「上にも下にも引く」というのが一般的だし、私も長年上下均等(というか放射状に)というイメージで楽器を吹いてきたのであるが、実は私は口唇の上の筋肉を使いすぎだとの指摘を受け、この1年間「口唇より上の筋の力を極力抜いて下の筋を意識する」ことに専念してきた。それもウィーン関係者からの助言であったので、この実験結果を聞いてなるほどやっぱりと思ったのだ。
実験の対象の詳細がわからないので何とも言えないが、国によってオケによってジャンルによっても音色が違うように奏法の特徴も多少は違ってくるはずであり、特にウィーンの金管の場合は、一般的な音(?)より太い豊かな音質で、そのためにはアンブシャーも違うんではないか。だからこの口角下制筋で特に温度上昇したというのはウィーンでの実験だからこその結果かなとも思った。
さて、私の1年前からやっているアンブシャー改造(口唇より上の筋の力を極力抜いて下の筋を使う)であるが、中音域では何とかなっても、高音域ではどうしても上に引いてしまうし、中音域から低音域につながらなかった(いわゆるダブルアンブシャー)。もうあきらめようかと思っていたところで始めたのが「左右対称大作戦」なのであるが、これが功を奏したようだ。左右対称作戦の最初は、アダプターを入れたり姿勢に気をつけてみたりしてマウスパイプの方向が左右にずれないようにしたところ、バテにくくなってはきたがどうにも下顎自体のずれが直らず今一つだった。そんなとき、ワグナーチューバ担当になり、ウォーミングアップに時間はかかるが結構イイ感じでワグナーチューバを吹けるようになってきたのだ。ワグナーチューバはマウスパイプの方向の融通がきかない(楽器を斜めにするバーチ=タイプの持ち方だと下向きにすることは可能だけど、どうもしっくり来なくて嫌い)。背が低く太腿の太い私が顔面に対するマウスパイプの角度をホルンと同じにするためには、顔を上向きにしないと吹けないのだが、そうすると首に負担がかかって辛いことは4年前に体験済みなので、首の角度(頚椎のカーブ)に気をつけるようにした結果、ホルンよりもマウスパイプの角度が上向きになり(つまり下顎を前方に出すようになった)、しかも左右にずれにくい。つまりマウスパイプの角度をまっすぐにして上向きにすればいい具合に吹けることがわかったのだ。やっぱり楽に楽器の持てる姿勢というのはあるわけでその時のマウスパイプの方向が自分には合わなかったということなのだ(ちなみに腕力のない私はベルを膝に置いているのでマウスパイプの上下的な角度は楽器の巻きで決まってしまうし、肩甲骨の動きも悪いので無理しないと左右的にまっすぐにならないのです)。そうだ楽器の方を私に合せよう!ということで、アレキの103を使っている私はさっそくノイネッカータイプのマウスパイプを入手し、改造が終わるまでの数週間、オケの練習以外では一切ホルンを吹かず、ひたすらワグナーチューバで練習したのだ(アンブシャー養成ギブスみたいなもんです)。ノイネッカータイプというのはノーマルの103に比べてマウスピースの位置が変るのだが、103を楽に持てない、マウスパイプの角度が納得いかないという人は試してみる価値ありかも。そもそもドイツ人の大男が普通につかってちょうどいいんだから、女子供が楽に吹けるわけないよね。ノイネッカー女史は小柄ではないと思ったけど、男女で肩の付き方が違うとかあるんじゃないのかな。で、改造した楽器に慣れてきたところで、上の前歯のアダプターのコレだ!というのが完成し、突然楽器が良く鳴るようになり、自由がきく(つまり無駄な動きがなくなったのだと思う)ようになったし、音も揺れず安定するようになったのだ(自己満足かもしれないけどね)。何とかこの前のブルックナーの本番に間に合ってよかった。まだ不完全だが、ようやく「アンブシャー改造」の行き先が見えてきた感じ。
私の身の上話が長くなってしまったが、何を言いたいかというと、口唇の下の筋(主に口角下制筋と下唇下制筋)というのは下顎の位置と非常に関連があるのではないかということ。
口角下制筋は主に口角の位置を安定させる働きをし、下唇下制筋は下唇の下の凹み(いわゆるアゴを張った状態)を作り下唇のポジションを安定させる。下顎の位置が左右にずれていては、左右の筋肉のバランスが異なるだけでなく、口唇の下の筋が十分に働くことは出来ない。また、左右にずれると下顎の可動範囲が制限され下顎を前下方に出しにくい。下顎がずれていなければ自由度が大きくまっすぐ移動させることが出来るのでアンブシャーが安定する。下顎を前に出した方が口唇の下の筋を自然に使うことができ、楽にアゴを張ることができる。これは下顎骨自体の位置変化ではなく、口唇とオトガイの位置関係の問題なのかもしれない。よく「顎がシャクレていた方が金管に有利」というが、オトガイが発達していて下の前歯が内側に傾斜していれば、苦労しなくてもラクに口唇の下の筋を使うことが出来るということなのかとも思う。
心なしか、下唇の下の左右の膨らみが発達してきた気がする。フフフ・・・


舌小帯(02.6.19)

私はいわゆる女性週刊誌をあまり買ってまで読まないのですが、先日つい買ったところ、美容外科医(よく「整形外科」ということがあるけど、整形外科は骨や筋肉を対象とした外科:骨折とか腰痛とかを扱うのがこれ、美容目的の「セイケイシュジュツ」はどっちかというと形成外科の分野であるので、お間違えのないように)のコラムが載ってました。舌小帯が短いと舌を良く動かせないのでディープキスが上手く出来ないが、手術で改善でき費用は約10万円・・・という内容。歯科の世界では、舌小帯の手術は比較的簡単なもので(といっても私は矯正歯科専門なのでやる機会はないのですが)、ちょっと切ってちょっと縫えば済むものでして、保険では380点(=3800円)くらいで初診料などを入れても5千円かからない、自己負担額は3割で1000円台ということになります。殿方を喜ばせるのを目的に治療をするには百倍の費用がかかるということでしょうか。
舌小帯というのは、舌の下の真中にあるスジというかマクというか紐状の物をいいます。これが短かったり前の方まで付いていると舌の動きが制限されてしまいます(舌小帯強直症)。乳児期に舌小帯に問題があると授乳障害が起きてしまうため、深刻な場合は赤ちゃんの時に切ってしまいますが、学童期〜成人で問題になるのは発音で、特にラ行がはっきり発音できなかったりします(日本語ではそれ程困らなくても英語等で"R"が発音できない)。また、低位舌といって、普段の舌の位置が本来上顎に付いているべきなのに下の方にあると噛合わせに問題が出てくるため、舌の位置を直す必要があるケースがあるのですが、低位舌の人の中には舌小帯が短いために舌を挙上できない人もいて、この場合は舌の位置を正す目的で舌小帯を切って伸ばすした方がよいこともあります。
切るか切らないかの判断基準はというと、通常は舌をベーっと出して先がハート型に割れれば手術の適応症ということになります。また、舌を上顎に吸付けて口を開けたときの開口量が最大開口量の1/2以下なら切ったほうがいいという基準もありますが、低位舌が原因の場合トレーニングである程度伸ばすことができますので、とりあえずトレーニング(「オープン&クローズ」等)をやってみてもいいでしょう。
手術は舌小帯をちょっと切って1〜2針縫うだけです。普通の歯科医院でも出来ますが、口腔外科か小児歯科の専門医の方が安心かもしれません。手術直後でも特に日常生活には支障がありませんが、1週間くらいは無理な動きはやめたほうがいいでしょう。最近は歯科用レーザーが普及しており、レーザーを用いるともう少し治癒が早いようです。切っても舌がいつも下の方にいると癒着して改善しないこともありますので、低位舌の人は手術前に多少トレーニングしておいた方がいいようです。
問題は、管楽器をやっている人間が舌小帯を切るかどうかですよね。舌小帯強直症であれば、日常生活に支障がない場合でも、演奏時の舌の動ける範囲が制限されるし、タンギングが出来る下顎の位置の範囲も制限されることになります。ですので、可能性としては、舌小帯を切ることで演奏に有利になることもありえると思います。しかし、演奏に舌小帯が影響しているかの判断は難しい。でも手術自体は簡単で費用も安く、処置による悪影響はほとんどないので、舌小帯強直症かな?という人は、上手く吹けるようになるかどうかはあまり期待せずに手術を受けてみてもいいかもしれません。


口腔乾燥症(02.4.23)

先週末演奏会本番だったのですが、口の中がべたべたして自分の口で吹いた気がしなかったというか、案の定肝心なところでやらかしたというか、楽章間で2回水をこっそり飲んで後で隣に随分怒られたというか、まいりました・・・。前日からやたらノドが乾いて変だとは思っていたのです。風邪をこじらせたときに水持参でステージに上がることはあっても、通常はしなかったんですね。でも、1曲目で異様にノドが乾いたので後半心配になってエビアン持って出たのです。でもこの乾いた感じ、水飲んでも直らなくって。何か病気じゃないかと心配してるところです(早いとこ人間ドックに行こうっと)。それか軽い自律神経の不調かな....私に余計なストレスかけないでほしいわ。
今日は歯の相談室を更新しました。少し前におそらくこれと同じ口腔乾燥症(唾液分泌障害)と思われる相談がありまして、自分なりにまとめて返信したのですが、歯科関係の雑誌2誌の最新号に口腔乾燥症についての記事が載っていたし、今日は花丸マーケット(TBS)でも歯周病との関連で唾液分泌の話題も出たし、タイムリーな話題かもしれません。
口腔乾燥症
=唾液分泌量の減少によって起こる症状名、疾患名。
<原因>
・腺因性:唾石症・唾液腺炎、加齢による唾液腺委縮、シェーグレン症候群などの委縮性唾液腺炎など
・薬物性:抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、降圧剤、利尿剤など
・神経性:末梢神経の障害(顔面神経麻痺)、自律神経失調症、極度の精神緊張など
・全身代謝疾患:熱性疾患、脱水症、下痢、糖尿病など
<症状>
口渇感、口腔内乾燥感、唾液の粘稠感、口腔内灼熱感、味覚異常、口腔内疼痛、食物摂取困難、会話困難
口唇・口腔粘膜の乾燥、口腔粘膜の非薄化・発赤、口角びらんなど。
<歯科疾患との関連>
歯・口腔内の汚染(多量の歯垢、口臭)、齲歯(虫歯)の多発、歯周病の発症・悪化など。
演奏時の口腔内の違和感だけでなく、口内炎・粘膜の痛みにより演奏が困難になる可能性もある。症状が一時的なものではなく深刻な場合は、口腔外科か耳鼻科を受診することをお勧めする。
管楽器演奏で困る場合の多くは、薬や緊張により交感神経のバランスがくずれるために起こる。副作用の予想される薬は必要以上に服用せず、体調を調え、十分な水分摂取を心がける。あとは普段からよく噛んで唾液をたくさん出すようにすることでしょうか。


筋肉の収縮とは?(02.4.4)

筋肉が活動するということは「収縮する」ことだろうとイメージしている方が多いと思う。
筋肉は主に筋線維(筋細胞)からなる。この細胞の細胞質の大部分は収縮性をもつ筋原線維で占められている。筋原線維はさらに細いフィラメント(アクチン)と太いフィラメント(ミオシン)からなり、互違いに並んで筋原線維を形作る。神経からの刺激により、細いフィラメントが太いフィラメントに滑走して入り込むことで筋節(筋原線維の分節:細+太フィラメント)が収縮すると考えられている。
筋収縮というのはこの筋節が収縮して筋力が発生することを意味し、必ずしも筋肉自体の長さが短縮することではない。筋肉の収縮様式には大きく分けて「等尺性収縮」と「等張性収縮」があり、等尺性収縮とは筋肉全体の長さが短縮せずに力を発生する。筋原線維は短縮するが直列弾性要素(腱や筋節末梢部分など)が伸びた状態。等張性収縮は筋肉が短縮しながら一定の張力で収縮することで、直列弾性要素の長さは変らない。
私はこのページで頬筋の活動について何回か書いているが、 また例の先生の話を出して恐縮なのだが、彼のサイトでそれについて否定するような文章が書かれているようだ。おそらくその先生が考える演奏時の筋肉のバランスと私のイメージしている筋肉のバランスはそんなに違わないのだと思うのだが、もしかしたら「頬筋が活動する=筋肉が収縮して長さが短くなる」と解釈されているところが話の食い違う原因なのではないかと思う。
筋肉は長さが変らなくても活動しているのであって、多くの金管奏者は頬筋を「等尺性収縮」させて演奏している。中には頬を膨らませて吹いている奏者もいるが、筋肉というのは伸ばされているからといって弛緩しているわけではない(「伸長性筋収縮」)。あまり望ましくない奏法では長さが短くなって口角の位置が横に引かれるが、これは「等張性収縮」である。
前に、正しいと思われる奏法で咬筋のあたりが軽く疲労するというのは、実は咬筋ではなく頬筋後方の翼突下顎縫線かもしれないと書いたことがある。頬筋が等尺性収縮をするということは、筋の両端の弾性要素にテンションがかかるわけで、頬筋の前方は口角でこの位置を保つために口角上下(主に口角下制筋・下唇下制筋かなとも思うが、個人差アリ)の筋肉の活動を必要とし、後方は翼突下顎縫線でこれが引っ張られるのだ。
昨日、ヤフーの眼鏡マークがついていることを発見しました。パチパチ。


保険歯科診療点数の改定(02.4.1)

今日から保険点数が変る。私は矯正専門でやっているので、一切保険診療をやっていない。もう10年以上保険点数と無縁な生活を送っているが、歯医者になって5年間くらいは大学病院で矯正治療の修業の傍ら一般歯科(主に地方の村立診療所)でアルバイトをしていたので多少の経験はある。一応歯科医師会に所属しているので、この4月からの保険の点数表が送られてきた。10年前と点数はあまり上がっていないし(むしろ下がっているかも)項目(取り方)も随分変っているようだ。毎日ヤマのように患者さんをコナしているのであれば保険診療だけでもそこそこの収入があるのだろうが、実際は保険診療だけではあまり儲けにはならず自費診療(主に前歯の審美補綴)で何とか潤っているのが現状であろうと察する。
例えば歯石除去。何で何度も通わなくちゃいけないんだ・・・という経験がある方もおられるだろう。1/3顎60点(1点10円)、同じ日に1/3を超えて行うと1/3顎40点。口腔全体で1/3顎が6部位あるので、一度に歯石除去を行うと再診料40点+260点だが、6日に分けて行えば再診料6回240点+360点で倍の儲けになる。しかも、優秀な歯科医が丁寧に行っても、無資格の歯科助手(本当はいけない)がざっとやっても、同じ点数である。キレイな口の人ならいいが、大量の歯石を丁寧に取って3,000円は割にあわない仕事だ。
感染根管処置といって、すでに神経が死んでいる歯の根を治療するのに、例えば前歯なら120点+11点回数分+68点+110点+ラバー10点回数分でせいぜい300点くらい。根の先に炎症があると、丁寧に手間ひまかけ掃除して何度も薬を換えに通院してもらわないとなかなか直らないのあるが、それで3,000円?しかも即充(処置をしたその日に根の中にゴムを詰める)だと点数が高いってどうして??これじゃワッテ根充やアクセサリ根充が撲滅しないよ。もちろん保険できちんとした感染根管処置を行う歯科医もいるだろうけど、自費診療の下準備かサービスのつもりじゃないかしらん。
レジン充填も思ったより点数低い。1本いろいろ合せても300点程度。これでは時間をかけた治療はやってられないだろうな。キレイなレジン充填はタマにしかお目にかかれないのが現状かも。
別に保険診療だと悪い治療だと言っているわけではないが、誰がどんな治療をしても同じ報酬なのが保険診療なのであり、国民が平等に最低限の医療を受けられるというのが目的なのだから仕方がない。もちろん保険診療でも的確で丁寧な治療をしている歯科医ももちろんたくさんいるわけだが、その良心にゆだねられているのだ。
保険診療で平均的な報酬を得るためには、1時間に3人程度治療をし、1回一人平均1,000点(1万円:自己負担額は2〜3,000円)あげないと月並みな医院経営は成り立たない。えっ、歯医者って時給3万円なのと思わないでね。家賃・設備費・材料費や歯科衛生士・受付の給料やらで経費はかなりかかり、普通にやっている分にはそんなに儲かる職業ではないのだ。で、何が言いたいかというと、楽器を吹くのに良いように保険診療でこう治療して欲しいし吹きながら調整してくれとリクエストしたってそれは迷惑な話なのである。借金を抱えた真面目な歯医者は、衛生士と助手の手をかり、治療椅子を複数並べて一生懸命働いているのであるから、余計な時間をかけてなんていられないのだ。それが出来るようにするには、かかりつけの歯科医との人間関係を築くか、もしくは自費診療で治療を受けるということになろうか。私のところのように診療室で楽器を吹きながら調整してくれるところは、ほとんど趣味の世界である。
実は保険診療というのは、認められた傷病名が付かないといけない。虫歯とか歯牙欠損とか根の先に炎症があるといった「病気」でないと保険診療は適応にならない。つまり、楽器を上手く吹けるようにという目的では歯の治療を健康保険で受けることはできないはず。私は元々保険診療をする気はなくテキトーに治療費をいただいていたが、ある程度決めておかないと患者さんによって値段が違ったり、材料費にもならないことがあるので、今日から私も管楽器奏者向けの治療費を改正しました(来院希望の方はパンフレットをダウンロードしてください)。保険点数をちょっと参考にしましたが、1人に1時間とかかけているわけで、これでも儲けは出ません(涙)。


ホルンを左右対称で吹くのは難しい(02.3.25)

以前トップページに書いたのだが、なるべく左右対称で吹くように心がけている。よく見ると私の左右の顔面筋の使い方のバランスが結構非対称なのだ。マウスピースの位置は歯並びで決まるとも言われているが、割と許容範囲が広いものだと思うので、諦めずに是非良い音がする位置を捜しながらできるだけ口唇の真中でまっすぐに近い状態で練習することをお勧めしたい(鏡でチェックするとき、唇だけ写る小さなものでなく、顔全体が写る大きめの物を用意してね)。
ホルン吹きにはどうもマウスピースが左にずれマウスパイプが左に傾いている人が多く、右に傾いている人はほとんどいないらしい。それでも名プレーヤーには真ん中にまっすぐ当てている人が多いように思う。アパチャーが上唇の中央にあった方がいいのはもちろんだが、何よりも息がまっすぐ入ることで音が格段によくなるのではないだろうか。マウスピースの位置に影響する要素は、特にホルンの場合たくさんあるように思うので、列挙し対策を考えてみたい。
前歯の歯並び:前歯の歯並びが凸凹で左右非対称な場合、それに合わせてマウスピースを当てるため、マウスピースの位置がずれ左右に傾くことはよく知られている。そのために歯の形態修正やアダプターが有効な場合もある。また、前歯の高さの不ぞろいによっては、低い部位(もしくは歯が欠けている部位)が息の通り道となってそこを中心にするためずれる場合もある。
しかし理想的な歯並びであっても上顎の1番(中切歯)と2番(側切歯)の間にわずかに段差があるものなのだ。ほぼキレイな左右対称の歯並びであっても2番がわずかに内側にあることはよくあることだし、上顎の1番と2番というのは大きさが違い厚さも違うためどうしても段差ができる。ホルンのマウスピースの標準的なリム内径は17から18mm、上顎1番の幅はだいたい8から10mm(日本人の平均は8.6mm)だから、歯とリムの大きさによっては真中にするとちょうどリム内側のエッジが1番と2番の段差に位置してしまう。そうすると左右どちらかにずれないとすわりが悪いので、ホルンの構造上(後述)ずれやすい左にずれることが多いのかもしれない。
私の場合、上顎1番2本の幅が18mm、リム内径17.5mm、こりゃ真中にこないはずだと最近気がついた。人工的に歯の段差をなくすという手もあるがそこまでしたくない。リム内径や形状を変えればもう少し真中に寄るのだろう。
臼歯の歯並び:下顎を演奏時に前下方に動かしたとき、臼歯部の上下の関係が非対称だと、頬を歯列側に寄せようとして下顎の位置自体がずれてしまうことがある。例えば、どちらかの下顎臼歯が内側に倒れていると、下顎を開けたとき、倒れている側では上下の臼歯部のギャップが大きいため頬を密接するのが難しくなるが、下顎をその側にずらすことで改善する。逆に上顎のどちらかの臼歯が凹んでいれば反対側に下顎をずらすことになると思う。
私の場合、左側の4番(第一小臼歯)が外側に飛び出ているのだが、その後ろがやや内側に倒れている。そのため、下顎をまっすぐ前下方に動かすと右は上下の臼歯がほぼそろうのだが、左側はギャップがあるのだ。それをそろえて頬を歯列に密接させるために下顎を左にずらしてしまう。歯並びを直してしまえばすむのだが、アダプターを使うことで、下顎をずらすことなく上下臼歯をそろえられる。
顎関節の動き:顎関節症や噛合せの関係で、下顎の動きに左右差があることがある。顎関節自体に問題があることもあるし、噛み癖などで左右の筋肉がアンバランスの場合もあるだろう。演奏時の下顎が動きやすいほうにずれる場合があると考える。
私の場合、昔から顎関節症で右側にクリック音(顎を開いたときにカクッと音がする)があり咬合時に下顎がわずかに左にずれる。また、この数年は右側の頚から肩にかけて慢性的な炎症があるらしく、しばしば首の痛み・肩こりに悩まされているが、これも関連があるだろう。下顎を左に動かすのは問題ないが、右に動かすときは多少顎関節部に違和感があり、右よりも左のほうが動かせる距離が大きい。スプリント(顎関節症の治療に用いる歯に被せるプレート)のようなもので顎の位置を整えたり、「顎の運動」で顎の可動域を大きくするのも有効だろう。そして適度な運動と正しい姿勢が大切である。
視線の先:ホルン吹きには左手の指を見ながら吹く人が多いのではないだろうか。正面に指を持ってくるとマウスパイプは左にずれる。ベルを上げて楽器を水平に近くするとマウスパイプがまっすぐでも左手の指が視線に入るが、ベルを低くするほどずれは大きくなる。ずっと見ていることはないにしても、私の場合、暗譜しているエチュードとか結構指を見て吹いているし、視野に指を入れておくことで安心しているのかもしれないので、これからは気をつけよう。
楽器の持ち方・姿勢:ベルを膝にのせて吹く人の場合、体格や脚の位置によっては楽器を左に寄せないとベルを膝の上にのせることができないので、その時マウスパイプが左にずれてしまう。また、ベルを持ち上げて吹く場合でも普通左の上腕を浮かせないとマウスパイプがまっすぐにはならず、よほど体格の大きい人でないと左右同じように上腕を脇につけて吹けない。また、これらは楽器のデザイン(マウスピースからレバーまでの距離や巻きの大きさなど)にも影響する。
ということで、この数日、左右対称に吹くための方策をいろいろ考え、実践してみた。
まず、リムの大きいマウスピースを試してみた。シュミットの11番は現在使用しているものよりリム内径が0.5mm大きいものだが、リム内側のエッジがやや角張っている。同じようなものでアレキの31番はこれよりもリムが丸い。この31番だとリムの中に上顎の2本の中切歯を収めることができる。ただ、これだとhighFがちょっとキツイのでトレーニング専用にして、しばらくは今のマウスピース(リムの幅の分だけずれるが)を使い、タイミングをみてマウスピースの変更を検討することにしよう。
次にアダプター。半年前に左下の5番(第二小臼歯)の外側に何種類かのアダプターを試作したものを再度使ってみた。その時は叢生を平らにして息漏れを防止するが目的だったが、使わなくても改善したため結局使わなかった。今回は下顎のずれ防止という目的で、その効果を感じることができた。外側を膨らますだけでなく、咬合面を覆うことで下顎を真中に誘導し噛み合わせのずれを補正できるミニスプリントのようなものにしてある。
そして姿勢。思いっきり右脚を開きベルをのせる(そのために服装にも気をつけ脚を広げられるようにする。タイトスカート履いて吹くと調子が悪いのは楽器が左に寄るせいかも)。それでも左上腕を浮かせないとまっすぐにはならない(それでは肩がこるのだ)。そのため右肩を後ろに左肩を前にする。あまりよくないと思われるかもしれないが、多くのソリストが立って演奏するとき左足を前に出してボクシングスタイルで吹いていることを考えれば、自然かもしれない。ヴァイオリン奏者も多くがそうしている。ホルン吹きの中には右肩を下げて傾いている人をたまに見かけるが、これは首に負担をかけるしかえって下顎の位置が左にずれやすい。
それから、マウスパイプにシールを貼って、そこを視線のマークとした。まっすぐにしなくちゃと時々思い出すことができる。
数日のことなのでまだよくわからないが、疲れないしハイトーンが外れにくいようだ。音がクリアだが硬くなったような気もするが(アパチャが真中にきてもまだ唇自体の軟組織が左の方に寄っているため?)、まだ筋肉の引き具合がやや左右非対称だし、もうしばらくトレーニングが必要だ。
以上文章だけだとわかりにくかったかもしれないが、後日結果報告を兼ねて、写真図解入りで独立したページにしたい(いつになることやら)。


金管楽器と臼歯部の叢生の話(02.3.18)

金管楽器奏者の犬歯より後方の臼歯部に凸凹があると「吹きだまり」を生じるので、歯の形態を修正したりアダプターを入れることで改善する・・・と根本先生の著書にある。マウスピースのリムが大きいほど影響が大きいとあるが、おそらくリムの小さいトランペット・ホルンは息漏れとして現れ、リムの大きいトロンボーン等は頬の空気の溜まりとなるのだろう。
これについては頬筋の話から始めたいと思う。頬筋は口唇周囲の他の顔面筋と同列に論じられることが多いが、筋肉の大きさがまず全然違うし、深さも違うし、開口時には硬組織のサポートがないという点でも性格を異にしている。頬筋の役割というと口角を横に引くことと考える人も多いと思うが、口角を引かずに音を出すのもまた頬筋の役割である。つまり息の圧力に抵抗して頬を歯列側に寄せ、口角の位置を安定させているのである。そして頬筋の使い方は演奏に大きな影響を与える。

頬筋を主に横に引いて使う 
口角を横に引きぎみ
口唇の下の筋肉をあまり使っていない
下顎をあまり開いていない
上下前歯があまり開いていない
口の中が狭い
のどが閉じている感じ
細く薄い音
頬筋を主に歯列側に寄せて使う 
口角は自然な幅
口唇の下の筋肉を使っている
下顎を十分に開いている
上下前歯が必要なだけ開いている
口の中が広い
のどが開いている感じ
太く豊かな音

これらはほぼ連動していると想像している。
「左側」の場合、頬筋が歯列に密着する力が弱いのである。つまり奏法があまり良くない状態だと飛び出た歯や下顎・マウスピースの左右的なずれがきっかけとなって息が漏れるのだろう。奏法が良ければ少々歯並びが凸凹でも息は漏れないし演奏にもあまり影響を与えないのだと私は考える。
しかし、臼歯部のアダプターが有効な場合があることも確かだ。「吹き溜まり」によって歯列と頬の間の左右の息の流れのバランスがくずれるというB.J.誌のデンタル・クリニックの説明は???という感じだが(通常の演奏でそこに影響を及ぼす量の空気が流れているとは私には思えない)、歯列の形態が左右対称になることで頬筋自体が左右対称になるためではないかと私は考えていた。しかし、どうもそれだけではないようだ。歯列がアダプターで膨らむことで頬筋を内側に締めやすい、あるいはアダプターで演奏時の下顎の位置が是正されて真中で吹けるようになるといった理由かではないかと思う。

あるアマチュアのトロンボーン吹きがやってきた。楽器を新調したのを機に奏法を変えて数ヶ月がんばっているがリップスラーが吹けない。これは本の「吹き溜まり」の例と同じで犬歯が出ているせいなので、歯を削ってほしいということであった。私の診断は演奏時に下顎が片側にずれていることと、あまり下顎を開かずに吹いていること。それが原因で息が漏れるしリップスラーがかからないのだ。しかし本人は、下顎のずれを直す気はないし、口の中を広げることなんかできない、この犬歯を直さないと何もできないと言う。シロウトによく見られるのだが、音の高さを口唇を横に引くことで調節し、音が変わるときに口角が無駄な動きをする。まさに上記の「左側」の吹き方なのである。私は、歯のせいではない、まずその吹き方を変えないといけないと何度も言うが本人は納得しない。自分で最初から治療方針を決めてるのならヨソで削ってくれと何度も思ったが、懲りずに遠くから何度もやってくるし議論をするのも疲れたので、形態修正をしたのである。
彼は数ヶ月前まで長年両側の頬に空気を入れて吹いていたのだそうだ。本来彼の筋肉だともう少し下顎を開いてやると頬筋と口輪筋のバランスがよくなると思うのだが、下顎を開かない分、頬に空気を入れることでバランスをとっていたのだろう。いわば空気がアダプターの役割をしていたのかもしれない。そこで空気を入れずに頬を締めて吹く奏法に変えようとした結果、下顎の開きは変えずに頬を横に引くことでバランスをとるようになってしまったのだと想像している。
さて、犬歯を形態修正してどうなったかであるが、1週間後の彼の感想はまだ息は漏れるもののかなり良くなったとのこと。口角の横の動きで音を変えようとしなくなったので、無駄な動きが減っていた。歯を削ったことをかなり満足しているようだった。しかし1週間前には、口角を安定させることと息を一定にして分散和音の練習をしないといけないと私は何度も言ったのである(こんな金管の基本中の基本も忘れていた様子)。私はそのアドバイスで練習した結果だと思っているが、本人は歯のせいと信じているようだ。私のところに来るよりもレッスンに通った方が良かったはずだが、今回の処置で歯のことにとらわれずに練習ができるようになったのであれば結果としては良かったのかもしれない。
彼の問題の犬歯は捻れていて後ろの方だけほんの1mm程度外に出ているだけだったが、私なんて実は下顎の片方の第一小臼歯(まさに口角の辺にある)が5mmくらい飛び出ている(何で矯正専門医のくせに直さないんだと怒られそう)。でも私はリップスラーはかかるし、それなりに吹けているつもりである。正直言うとこの数年は「削りたい」「矯正したい」という衝動にかられることが時々あったのだが、今はこの飛び出た歯をアンブシャーのバロメーターにしている。調子が悪いときは思いっきり息漏れがするので、分散和音を十分にやったり、マウスピースのずれをチェックするようにしている。調子が直れば無理に締めなくても息は漏れないのだ。
「頬に空気が入る」で思い出したのだが、以前たわごとの「頬筋のこと」で「頬筋が働いていなかったら頬が膨らみ音なんて出な
い」と書いたところ掲示板で「頬を膨らませて吹いている例もある」とご意見をいただいた件について。「頬筋が働かない→頬に空気が入る」「頬筋が働かない→音が出ない」(私の予想では、頬筋が働かないと頬に空気が入るだけでなく口角を歯に密着できずに息がほとんど漏れてしまう)だけど、決して「頬に空気が入る→音が出ない」という意味ではない。私の日本語表現能力がないのかしらと反省してる。頬を膨らませて吹く名プレーヤーがいることも当然知っているし、私は時々わざと頬に空気を入れてロングトーンをするから音が出ることは実感してるが、頬筋は緩んではいないように感じる。リラックスは人間の感覚であってフルートも金管も演奏時の頬筋は安静時と同じではないと思うだが...今回の話も、筋肉を使うと言っても、意識的に使うとか動かすとか力が入るという意味ではないので、念のため・・・


いわゆるメディアンスペースについて(02.03.15)

新しく「ケースリポート」というコーナーを設けました。ジャズトランペッターの中川さんが、最近当院に通っていろいろ歯をいじってなかなか快調ということで、ご本人の希望もあり写真等を掲載いたしました。開業してもうすぐ3年になり、もちろん中川さんの治療の他にもたくさん経験をさせていただいていますが、基本的にはプライベートにかかわることなので、このHPには載せていませんでした。今後は患者さん本人の了解がとれれば少しずつ紹介していこうかなと思っています。
一応お断りしておりますが、中川さんは元々プロ奏者として成功されている方で、ご自分の名前の入ったマウスピースも市販されいてるくらい奏法についても知り尽くしています。ですので、かなり高いレベルでの改善で、より理想的な演奏に近づくための試みでした。自分も歯並びが少し悪いからといって、それを同じように直せば同じように上手くなるというものではありません。
今回の治療を通して、いわゆるメディアンスペース=上顎中切歯間の隙間に関しての考え方が少し変りました。
私の今までの考え方はというと、あまり奏法のよくない人がハイトーンを出すときに口唇を無理にしめてアパチャーを小さくしようとすると、上下の前歯の間がかなり狭くなるはず、それでは息があまり出ずにスピードが不十分になっているところに、隙間を開けることで、息が出やすくなりハイトーンがそれまでよりは楽に出るようになる。ですから、十分に歯が開いている上級者(特にクラシック系)は、あまり関係ないのではないか.....と。
基本的には、上顎中切歯間の隙間が大きいことは上下の歯を開いたと同じような効果があるはずです。ですから、隙間が大きすぎると、「歯の開き」と「顎の開き・筋肉のバランス」がリンクしなくなる、つまり中川さんの言う「上下がつながらない」ことになるのだと思います。
しかし、全く埋めてしまうとハイトーンが出にくかった。(出ないわけではないんですよ、レベルの高い話でして、超高音域が楽にタンギングできるかどうかなのです)ほんの1.5mmの三角を付けただけでそれは解消したのです。
上顎中切歯は切縁(歯の先)から歯冠の長さ約1/4のところが最も幅が広いのです。つまり下1/4はわずかに先細りになっているので、実は健全歯は正常な状態で三角形が開いているのです。その三角の大きさは大体1〜2mmくらい。歯の形態が四角っぽければ正三角形に近いし、少し長細い歯であれば最も幅が広い部位がもう少し上にあることが多いため、縦に長い三角形の空隙となります。これが、咬耗によって歯がすり減れば三角は無くなるし、歯科治療によってふさがってしまうこともあります。
この「ごく普通の三角の隙間」が大切な役割をすることがあるのでしょう。理由は良くわかりませんが、B.J.誌のデンタルクリニックでは、メディアンスペースの効果として口腔前庭に出る息のスピードが上がって口唇の振動数が上がると説明されていますが、ちょっとこれは私には良く理解できません。おそらく、この三角が息がアパチャに向かうためのガイドになるんではないかなと想像しています。
根本式のメディアンスペースは、切縁から歯間乳頭先端(歯茎)までの2/3(4mmくらい?)を幅1/3mm(2本合せれば1mm弱)で開けるというものです。これは歯茎まで全部開けたときと先端を塞いで中間だけ開けるの3種類を比べての結果のようですので、もしかしたら、もっと短い隙間でも同じような効果は得られたかもしれませんね。
上顎中切歯間に隙間が空いていることを「正中離開」と呼んでいます。これは黒人に多い症状です。アフリカの社会では正中離開があったほうが美しいという感覚があるくらい(国によっても違うのでしょうが)です。ジャズの世界では、黒人の名プレーヤーが多いのでしょうから、彼らの前歯に隙間がある場合が多いことが予想されます。そもそもはジャズのミュージシャンのマネから始まった話なのかもなどと想像しています。
日本人にも正中離開が見られることがあります。歯が小さかったり、下顎が出ていて上の前歯を前に押すために隙間が生じたり、過剰歯といって顎の中に余計な歯が埋まっていて間が開くこともあるのです。歯が離れていなくても歯が傾いて(遠心傾斜)三角の隙間が大きい場合もあります。
問題はもともと開いていた隙間が何らかの原因でふさがったり大きくなってしまったときです。金管奏者は隙間が大きければ大きいなりに、小さければそれなりに演奏をしているので、急に歯の形が変ったときにそれまでと同じように吹けなくなるのです。


風邪をひいているとき本番の乗り切り方(02.02.27)

いやあ年末に風邪をひいて咳が止まらず、今も咳は少々出るのですが、やっと何とか日常生活ができ楽器も吹けるようになりました。少し前までは外を歩くこともままならず、楽器を吹くと咳込むので1ヶ月間ほとんど吹かなかったのです。途中演奏会本番があったのですが、毎週のオケの練習の他はウォーミングアップも一切せず極力吹かずに過ごしました。周りの皆には「また風邪をひいたのか」「演奏会の時はいつもひいてるね」など言われました。いつも長引かせるので、そう思われてます。風邪をひいて本番にのぞむこともしばしばであります。
風邪をひいて悩むことといえば
・個人練習をするかどうか
楽器を吹くことで咽頭粘膜に負担がかかるのか、楽器吹くとヒリヒリしますよね。少し良くなったと思ってもオケで吹くとまた咳がひどくなることはよく経験します。だから、なるべく楽器を吹かないほうが気管支炎は早く直るのは確か。でも練習に行かないわけにも行かないし、トレーニングしないと本番が怖いし.....。(今回はバテる心配のない曲・パートだったので何とかなったが。)
・薬はどうするか
副作用が演奏に悪影響を及ぼしそうなもの....市販の総合感冒薬や咳止めの中にはボッーとしてしまうのがあります。咳に効果のある塩酸メチルエフェドリンのようなモルヒネに近い薬が入っているからです。それから鼻炎カプセルのような交感神経に作用する薬は、それまではちょうどよくっても本番の時は緊張から交感神経が優位になって薬効き過ぎ状態で口が乾いて大変になることも。交感神経に作用する咳止め薬も同様です。本番は交感神経が緊張して咳が止まるものなのです。
・鼻をかむかどうか
練習の時は仕方ないから人前でもかまわずかんでますけど、本番は鼻水止まりますよね。これも交感神経が緊張するためです。一応ティッシュ持って舞台に出るけどかんだことはありません。
・飴をなめながら吹くかどうか
楽器が汚れるのを気にしなければ、飴なめながらでも吹けますよね。飴の分口が狭くなるはずだけど、さほど音は変わらないようで、コントロールできるものです。でも、ここぞというソロとか目立つ所は気になって飴を口から出してしまいます。今回もどうするか悩んだのですが、飴をなめるとやたら唾がでるので(柑橘系にしたのが悪かった??)やめときました。でも本番はやたら口が乾くので、飴を持って出ればよかったなと後悔。
・水を飲むかどうか
風邪をひいたとき舞台に水は必需品ですね。私はエビアンの300mlのボトルのラベルを剥いだ物を愛用しています。マナーとしては賛否両論でしょうけど、風邪をひいているときはのどが乾きすぎて飲まずには吹けません。薬の副作用と咽喉の粘膜が炎症でうまく機能しないのと両方でしょうね。1年前に地方に演奏旅行に行ったときエビアンを入手できず爽健美茶を何度も飲んで周りに顰蹙を買いました。風邪をひいているときの本番はエビアン300mlとストローを忘れないようにしないと。
まとめると、風邪をひかないように気をつけて、早く直して、本番では自分の症状に本当に必要な物をタイミングよく飲み、水を用意して目立たないように飲む・・・・ということです(当たり前ですね)。何か良い知恵がありましたら教えて下さい。
ということで、現在ホルンのリハビリ中です(HPにも復帰します)。
相談室の方に問合せをいただいて返信したのですが、メールアドレスが間違っているようで送ることができかったメールが何通かありましたので、歯の相談室に直接のせます。トロンボーン吹きのS.Y.さんとY.Y.さん、そちらの方を読んで下さいネ。掲載不可でメールが届かない方もいらっしゃいます。お心あたりの方は連絡ください。BBSに書込みのあった「歯をぶつけてグラグラ」の件についてですが、相談室の方にも問合せがありまして個人宛には返事をしましたが、放っていてスミマセン。近いうちに「歯の外傷について」ということで独立した記事にします。


あけましておめでとうございます(02.1.7)

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。トップページにも書きましたが、HPに書きたいこと、リサーチしたことがたくさんあります。「顔面の骨格パターンと管楽器の関係」「管楽器奏者のための歯の解剖学の知識」「唇の解剖学&病理学」「管楽器奏者が困ったときのレーザー治療」「顎関節症の知識と対処法」「管楽器奏者によい条件の歯並びの子供の育て方」「スポーツ医学を役立てよう」「筋機能療法レッスン3以降」などなど。管楽器をやっている中高生の矯正治療についての調査をしたり、だいぶ前に買った「下顎運動解析システム」を使いこなして楽器演奏時の歯・顎の動きや筋電図を調べられるようになりたいな〜〜と思っています。
まずは掲示板の続きを
>「笑筋を優位に使おうという意識」とお読みになっているようですが、
>それは因果関係の勘違いによる誤読です。あえて書けば、そのような
>意識自体はナンセンスだと考えている、というのが正しい文脈です。
私は単行本を読んだわけではなくパイパース誌の記事とHPと直接的なメールのやり取りからの情報ですので、ここでいう「正しい文脈」の元の文章と違うでしょうから何とも言えませんが、「正しい奏法をすると咬筋に疲れが残る。これは笑筋が咬筋筋膜に付着しているため、笑筋が働くと咬筋に負荷がかかるからである。」というのはその先生が一貫しておっしゃっていることでして、メール読み返した分には誤読ではないと思っています(後でパイパース誌を読み直しますが)。
多分「管楽器の呼吸法」?についての文脈を言っているのでしょうけど、出典が違うんだろうから闇雲に勘違いと決めつけられてもなあ。私に全く読解力がないみたい(実際にあまりないとは思うが)に言われても。
私が謙虚でないと怒られているようですけど、いじめだなんてそんな。私は最初は、パイパース誌に笑筋が咬筋の枝分かれだとあったので、誤植か何かではないかと思ってパイパースに問い合わせたのでした。彼のHPにメールをそっくり無断転載されて、頬筋が優位に働くのは吹き方が悪いと付け加えられ、「解剖学の本を持ってどの筋肉がどうとか言っているラッパ吹きにはろくな奴がいない。そんなの読んでないで練習しろ」みたいな書かれ方をしてしまいました。いじめられたのは私の方です。その先生はご自分の解剖学的な知識に確信をお持ちのようでしたし。書き込みを通して私のHPでその先生のページを紹介していることになるので、一応私の考えていることも書かせていただくことにしたわけです。「咬筋に負担がかかる」から始まる彼の理論を、私は単純によくわからんと思っていたのですが、ふと、もしかしたらこの「実感」が実際は違っている可能性があるなと、それならば言っていることも理解できると「たわごと」書いていて思ったのです。
最初に断っているように「たわごと」として思っていることを書いているだけなので読み流しておいて欲しいし、宮前君のBBSまで行って議論するつもりはないのです、ごめんなさいね。こういった奏法についての言及というのは、立場立場で元になる知識も目的も異なるのです。少なくともネットで議論するようなことではないと私は思います。例えばその先生は奏法を教えるという立場からいかに生徒に理解しやすく表現するかを、私は矯正歯科医の立場から歯・歯並びとの関係や口腔機能・トレーニングを考えるうえで実際にどの筋がどのように活動しているのかを知りたいわけだし、工学部でバイオメカニクスの立場から演奏時の顔面筋の研究をしている後輩がいるけど、彼の考えているアンブシャーの「重要な」筋肉というのはまた違う視点。
今週は忙しいのと気管支炎を患っているのと演奏会直前なのでこの辺で失礼いたします。


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