管楽器奏者の歯のためのページ

たわごと 2003年


薄い矯正器具を探す(03.12.3)

世の中には、多くのシステム・デザインの矯正用ブラケット(歯に付ける器具)があり、多くのメーカーが色々なシリーズで販売している。矯正歯科の診療室ではあまりたくさんの在庫を抱えるのは困るので、置いているブラケットの種類は通常最小限である。私は開業する際にブラケットはこだわりを持って選んだわけだが、管楽器奏者を相手に診療をしているので(管楽器と関係ない人でも薄い方が快適なはずだが)、より薄いブラケットを探すことを怠らないようにしている。
いわゆるマルチブラケット法(すべての歯1個1個に装置をつけて三次元的に歯を動かす方法)には、大きくわけてエッジワイズ法とベッグ法がある。エッジワイズのブラケットというのは四角くて真ん中に横に溝がある。この溝の断面が長方形でそこに断面が長方形のワイヤーを通すことで歯を三次元的に動かす。ベッグのブラケットは下(歯肉側)に溝があって丸いワイヤーを引っかけ、中央にある縦の溝にピンをさして止める。大きな違いは、エッジワイズでは歯を「歯体移動」つまり歯冠(出ている部分)と同時に歯根も動かすのに対し、ベッグでは歯を「傾斜移動」させる。点でワイヤーとブラケットが接すればいいのでブラケットは小さい。しかし最終的には根を動かさないといけないので複雑なワイヤーが必要となる。現在は圧倒的にエッジワイズ法が主流である。おそらくベッグでは職人的なワイヤー細工が必要なのに対し、エッジワイズはワイヤーの進歩によって弱い力で細かいコントロールが可能になったというのが理由かも知れない。まだ日本でもベッグ法をやっている歯科大学が一つあり、エッジワイズとベッグの合いの子みたいな改良型ブラケットを作って治療を簡単にしているが、その分ブラケットは厚くなってしまっているようだ。
当院のフルートの患者さんが、知り合いがとても小さい装置で治療しているというのだが、おそらく正統派のベッグ法なのではないかと思う。私はエッジワイズで教育を受けているので今のところベックをやるつもりはなく、エッジワイズでなんとか頑張っていただいている。 ベッグ法ではそのうちグチャグチャしたワイヤーが付くだろうし、厚さ的にはエッジワイズの薄めの物と大差ないし、リングでカバーもできないから、管楽器奏者にはエッジワイズの小さく薄いものが適当と私は考えてはいるが、少々ベッグブラケットに興味はある。
エッジワイズ法はスタンダードブラケットとストレートブラケットの2つに分けられる。スタンダードはブラケットが長方形で溝も中央に直角に入っている。左右の差はなく歯の大きさにより1シリーズに5種類(+大臼歯に4種類)くらいしかない。ワイヤーに曲げ・ひねりを入れることで歯の調整をする。ストレートブラケットというのはワイヤーで調節していたものをブラケットに組込む、つまり、歯によってブラケットの厚さ、溝の角度をかえてあり(ということで上下左右各歯によって設計が違うので1つの口に25種類のブラケットが必要になる)、スムーズなワイヤーを入れれば調整できるようになっている。歯によってブラケットの厚さが違うということは、厚いブラケットもあるということで、ストレートの場合、上の2番と下の前歯が通常厚くなる。
下の前歯というのは、管楽器奏者にとって一番ブラケットが薄くあって欲しい部位である(金管では上の2番も薄くないと困る)。だから開業して最初の頃は、管楽器奏者の矯正の患者さんはスタンダードで直していたのである。しかし、ストレートにも利点があり、ワイヤーに細かい曲げを入れなくて済むということは治療期間の短縮につながるため、「下の前歯だけ」スタンダード用の薄いブラケットを付け、他はストレート用にしてそこだけワイヤーに曲げを入れて調節している。
もちろん、スタンダードだからといって薄いとは限らない。メタルでもでっかい物もある。私は国産S社のスタンダードのメタルブラケットを使っているが、これはかなり薄くて(1.6mm)小さい方だと思うのでお勧めである。かなり安価なので、もし患者さんが管楽器をやっていて相談されて、先生のとこのブラケットの在庫が厚いのばかりだとしたら、その患者さんのために取り寄せてあげてほしい。
メタルのストレートブラケットもS社を使っていたのであるが、小さく薄いほうではあるけれどそれでも下の前歯用が厚い(2.1mm)ため前述のようにスタンダードを混ぜていた。ストレートでも下の前歯用が薄いものがないかなと思っていたところO社の新製品がかなり薄いので、これを機会にいろいろ調べてみた。といっても各社のカタログには溝の角度は細かく載っていても厚さを表示しているものはなく(ブラケット選択の基準に厚さを考える人はいないということです)実際に見て測ってみないとわからない。学会の業者展示で、いろいろ見たところT社のO(日本人用の・・・ていうヤツ)が一番薄く、O社のも同じくらいだけど値段が安いのでこっちにした。下の前歯用で1.5mm、これはかなり薄いと言っていいと思う。気持ち大きいけど全体的に薄い。この夏から管楽器の人向けに使ってますが、皆結構吹けるようです。
最近の矯正材料のデザインは、どうも患者さんの快適さよりも術者の簡便さの方が優先される傾向にあるように思う。リンガルブラケット(内側につける)は基本的にエッジワイズで、溝に角度が入っているけど厚さはワイヤーで調節するというストレートとスタンダードの中間的なもの。最近はこれをストレートなワイヤーで治療できるデザインにならないかという試みが盛んにされていて、そのためには一部のブラケットが異様に厚くなるわけです。STロック(歯科医の皆さんはご存知ですよね)もそう、最近デザインが変わって厚くなったのだけど、技工のミスを少なくするためだそうで、私は別に今までのでも困ってなかったのに・・・。あと、私は使う気はないけど年取ると楽だよと言われているのがタイしなくてもいいブラケット。つまりブラケット自体に蓋が付いているのです。当然その分とっても厚い。
審美ブラケット(透明あるいは白っぽくて目立たない)については、私は長年S社のC(コンポジットレジン製)を使っているが、これは下の前歯で1.9mm(ストレート・スタンダードとも)で、上の前歯用も同じくらい。メタルと比べれば多少厚いが、審美ブラケットでこれより薄そうな物は今のところ見つかっていない。木管の人は上の前歯だけでも目立たない装置にと希望する人が多く使っているけど、演奏にあまり支障はないようだ。樹脂製の場合形はどうにでも作ることができるが、これ以上薄くすると強さ(たわみ)に問題が出るのだと思う。セラミック製の場合、削り出して作るために小さく細かく作ることが難しいためか、大抵大きくて角張っている。私が使っているセラミック製(結構一般的なもの)は下の前歯用で2.5mm。管楽器やってる人には勧めない。セラミック製でもR社のHはセラミックの組成がちがうので、色はいまいちだがメタルブラケット並に薄く滑りも良いが、あまりにも脱落しやすいため私は使わない。
ということで、矯正器具でもいろいろあるのでして、同じ唇側ブラケット(外側)でも物によっては厚さが0.5mmとか1mm以上も違ってくるわけで、それによって随分吹き心地も違うと思う。私としてはより快適に楽器を吹けるような装置の出現を願っている。
注:文中のブラケットの厚さの測定はそれほど厳密ではありません。


続:ホルンを左右対称で吹くのは難しい(03.9.16)

この2ヶ月間、むちゃくちゃ調子が悪かった。いつもならどんなに調子が悪くても、時間をかけてリップスラーで分散和音をやれば何とかなるのであるが、それすらできなくなってしまった。具体的にはリップスラーをかけようとすると右側の口角の下が引きつる感じ(おそらく右側の口角下制筋が余計に収縮して痛みを感じるのだと思う)。音が出ないわけでもなく、タンギングして吹く分には上も下も十分に出るのだが、とにかくスラーがきかない。そうなると精神的に不安になってますますヘロヘロになる。思い当たる原因はたくさんあるのだが、一つはマウスピースを変えたことと、もう一つはアダプターをいじっているうちに左右の筋肉のバランスが変わってきたこと。
マウスピースが原因だとわかっていれば、すぐに戻してこんなにひどい状態にならなかったのだが、マウスピースを変えた直後というのは決まってイイ感じで吹けるようで、今回も調子の悪さを自覚するようになったのがマウスピースを変えた1ヶ月後で、しかもどうもおかしいと思って元に戻したら(しかも合奏の最中に)ますます変になってしまったので、調子の悪い原因を元のマウスピースだと思い込んでしまい、この相性の悪いマウスピースを3ヶ月間も引きずることになった。そこで歯科用印象材でマウスピースの型を取りカップの形を確かめてみたところ、思ったよりもカップが浅く丸みが大きめであった。
一般的に、浅い/Uカップでは明るい音質で高音域が出しやすく、深い/Vカップでは暗めの音質で低音域が出しやすいということになっているが、カップの形態はアンブシュアに変化をもたらす。私の場合はVカップのアメリカンなマウスピースだと自然に口角が上がり、明るめなドイツ系の物だと口角が下がる。おそらく、カップの形態で息の方向が変化するために、口唇のかぶさり具合が自然と変わるのだと思う。カップが浅く丸くボアの細いマウスピースに変えた結果、息が下向きになってかつ歯の開きが狭くなるため(6.20のたわごと参照)筋肉のバランスが崩壊したのであろう。
もう一つは、筋肉のバランスがほぼ左右対称になったことである。右側の口角の下の筋肉の支えが弱いので、4ヶ月くらい前に右下口角部(犬歯、第一小臼歯)に1mm厚ほどのアダプターをつけたところ、パシッと支えられるようになり左側の口角からの息漏れが解消し、快調そのものだった。上がっていた右側の口角も下がってきた。1年ちょっとかかった「左右対称大作戦」もこれで成功か・・・というところだったのに。口角の右下の引きつれを直すだけなら、右下のアダプターを厚く調整すれば改善するが、そうすると下の歯列の幅が必要以上に広くなって下唇が広がり中央に寄せづらく、かえってリップスラーがかかりにくい。とすれば、下顎自体が右に寄るように左下にアダプターをつければ改善できるだろう。
しかし、アダプターの欠点は、その歯でいく「覚悟ができない」ということである。特に私は自分でいくらでもアダプターを新調・調整できる。それではいつまでたっても歯にとらわれてしまう。ウチに来る患者さんでアダプターを使って良かった人が最終的に歯並びを矯正したりレジン充填(取外しできない)で歯の形を変えてしまう気持ちがよくわかる。結局いろいろ考えて、今までのアダプターをやめて大昔のマウスピースを戻すことにし、1年前に削った飛び出た歯を復元するアダプターも作ったが、昔のマウスピースで良い音がするはずもなく、そのアダプターも合宿先でなくしてしまい、やっと覚悟ができた。
マウスピースを選び直し(結局3ヶ月前までのに戻ったのだけど)、歯の装着物をいっさいなくし(元々の歯並びは実はそんな悪くない)、せっかく左右対称になったアンブシュアをあえてヒン曲げ首を傾げて(肩凝るんだろうな)、ようやくホルンを吹いている感覚になった。
でもね、この1年間自分の歯をいろいろいじってみたことは、結果的には失敗だったかもしれないけど、こうすればこうなるんだということがたくさんわかったし、その経験は実際にウチに相談に来る患者さんに活かすことができるかなと思ってる。あくまでもポジティブ思考の私である、後悔はしてないです(迷惑をかけた新響の皆さん、ゴメンナサイ)。
注1:アダプターが悪いというのではありません。ケースによってはとても有効ですし、取外しができるというのは歯の健康面で利点でもあります。
注2:金管楽器を左右対称で吹こうとすることが悪いというのではありません。極端にずれていることは不利になりえるし、ずれていることで具体的な不都合があれば直した方がいいと思います。それを直す手段の一つとして歯があるということです。しかし、前に書いたようにアパチュアは誰でもど真ん中ではないので、通常でもマウスピースのリムは左右どっちかにずれるものなのです。加えて私は歯並びが微妙に傾いていて顎もちょっとずれているのです。人によってはわずかな筋肉の非対称も必要ではないかというお話です。


演奏時の歯の痛みについて(03.9.5)

今まで「楽器を吹くと歯が痛いんです」という質問に、正直言ってどう答えていいか困っていた。歯が痛いというのは色々な原因があって、少なくとも診てみないとわかんないヨと。根尖性歯周炎(根の先に膿などがたまっている状態)を起こしていると、普段は無症状であっても噛んだり歯を叩いたりすると違和感・痛みが生じる。これは歯の神経を抜いてある歯には割と頻繁に見られるものであるので、楽器を吹くと痛いとすれば、根尖性歯周炎である可能性が高いのかなと考えていたのだ。
しかし、実際に受診した患者さんや相談のメールを見ると、「歯医者に行っても何ともないと言われた」ということが多い。虫歯でも歯周炎でもないが歯が痛くなるというのは、どうやら「いわゆる矯正治療の痛み」と同じものであることが多いようだ。
歯を動かす力をかけると、初めは痛くないが2〜3時間すると痛くなってくる。ズキズキといった虫歯のような痛みではなく、違和感程度の緩やかな痛みであるが、圧力に対して過敏になり噛むと痛い。この痛みは通常数日間で消失する。この痛みには個人差があり、同じ力でもほとんど痛くない人もいれば痛みがつらい人もいる。歯を動かすための矯正力というのは意外と弱く歯1本につき50〜100gとかそんなレベルでしかない。
矯正力と同様に楽器を吹くときには歯に力がかかる。私の経験では、このような痛みを訴えるのはクラリネット・サックス、金管楽器に限られるようである。これらの吹奏時にどのくらいの力が歯にかかるかというと、クラリネットで50〜100g、リムの小さい金管楽器で50g程度(高音域ではプロでも200gくらいの強い力がかかるらしい)といったところだろうか。だから、長時間演奏して歯に連続して力がかかれば、感受性の高い人の中には歯の痛みが生じる人も当然出てくるのだろう。
どうして、このような痛みが起るかというと、歯に持続的な力をかけると、まず歯根膜(歯の根と歯を支える骨=歯槽骨の間には隙間があり線維性組織が介在する)に虚血・伸展が起こり、歯根膜の組織が損傷されて発痛物質が放出されるからと考えられている。2〜3日たつと歯槽骨のリモデリング(歯根膜の加圧側で破骨細胞、牽引側で造骨細胞が活性化される)が起こり、歯の移動が始まることで歯根膜が回復するので痛みは消失する。矯正治療は歯の動き始めだけ痛いというのはこうした理由からである。
では、矯正臨床では痛みをどのように軽減しているかというと、力が強くなりすぎない=最適な矯正力、発痛物質の出現を押さえる=鎮痛剤の服用・レーザー照射、血行を促す=チューイングウエファー(矯正歯科専用の弾力のあるシート)を噛む、あらかじめわかっていれば安心するので感じ方が和らぐ=事前に説明といったところであろうか。これを管楽器演奏に応用すればよいのである。
まず、歯にかかる力が強くなりすぎないためには、口唇にプレスする力自体を小さくする。つまり、口唇周囲の筋肉を使い最小限のプレスに押さえることは、より望ましい奏法につながる。また、歯並びによっては、プレス力が一ヶ所に集中することで力自体は大きくなくても1歯あたりの力が大きくなってしまうため、マウスピースを当てる/くわえる位置の再検討あるいは歯の形態修正・アダプター・矯正治療で力が分散するようにするのも効果があるだろう。演奏は毎日の事なので鎮痛剤やレーザー照射は現実的ではないが、チューイングウエファーでなくても、痛くなる前に単に噛みしめるだけとかガムを噛むとかでもいいかもしれない。あとは気にしないこと、病的な痛みでないと思えば安心であろう。演奏で歯が痛いと心配になって歯科医院を受診し、余計な処置をされてひどい目にあった奏者もいるので、ご用心を。
歯に持続的な力がかかると歯槽骨にリモデリングが起こり結果歯が移動するわけだが、楽器を吹くと必ずしも歯が動いてしまうわけではない。それは、一つには力が解除されたときに咬合によって元に戻されることと、あとは歯に力がかかる時間の問題だろう。基本的に矯正治療は持続的な力であるが、1日24時間継続しなくても間欠的な力であっても歯は動く。動く動かないの境目は数字的には1日6時間らしい。つまり1日6時間を超えて演奏していれば歯が移動する可能性はある。もっとも演奏時間中ずっと歯に力がかかっているわけではないから通常歯は動かない。(演奏で歯並びが変化することが知られているがここでは省略)
他に、演奏すると歯茎から血が出るという相談もよくある。何人か診たが、皆単なる歯肉炎であった。歯並びが凸凹で歯石がついていたり歯みがきが十分でなかったりしているが、そういう部位は演奏によるプレス力が集中する場所でもあり、歯を押す力が炎症を亢進する要素になりうる。まずは元々の炎症を直すことが必要であるから、歯石を取って正しい歯みがきをすること。血が出ると心配になって歯みがきしないから悪循環なのです。


アパチュアの大きさとスロート径の関係(03.6.20)

私は最近マウスピースを変えた。といっても、リム、カップの形態はほとんど同じでスロート径を0.2mm細いのに変えたのだが(つまり同じメーカーの同じシリーズの番号違い)、どうしてかというと、あんまり低い音ばかり吹き続けていたら顎が痛くなったから。普通、音域が低い曲や低音パートを担当するときは、じゃあスロートの太いマウスピースにしちゃおうかな、というのが当たり前の発想だろうに。確かにスロートを太くすれば太い「低音らしい」音がする。
どうしてスロートを細くして低音域に順応しようという発想になったかというと、以前から「アパチュアの大きさとスロート径は大いに相関あり」と考えているからである。スロート径を小さくして 同じような息・アンブシュアで吹けば、それまでよりも小さいアパチュアになる。つまり下顎をあまり開かずに吹くことが出来て顎も疲れないというわけである。
実は以前にも音質の変化を求めてこの0.2mmスロートの細いマウスピースにしてみたことがあるのだが、スロートが変ればアンブシュアがどう変化するのか全く考えずに吹いていたものだから、どうもしっくり来なくてやめてしまった。具体的には余計なところに力が入り疲れてしまったのだ。アパチュアが小さくなると自然に顎の開きが小さくなり、それまでと同じように吹くと横に引く力が強くなりがちになってしまうから(おそらく横に平たいアパチュアになる)であろう。今回は意識的に下唇をわずかに中央に寄せるようにして対応したところ、結構いい感じで、むしろ低音域は音も良くコントロールしやすいようである。
私の医院で上の前歯の長さを変えたトランペッターのうち何人かから、歯の長さが変わってマウスピースを変えたということを聞いた。一人は「ケースリポート」にも載せさせてもらっている中川さんで、前歯を長くしたところ、マウスピースのスロートを太くする必要があったということである(カップやリムは全く同じと思われる)。レントゲンを見ると、演奏時の前歯の開きは治療の前後でほぼ同じであるが、歯が長くなった分下顎を前下方に出しており、その結果アパチュアが大きくなっていると予想される。もう一人は、前歯を短くしたところ、マウスピースを大きく感じるようになりサイズを小さくしたということである。もちろんリム内径の問題もあるのだろうけど、スロートも大きな要素ではないかと思う。同様に考えれば、歯を短くしたことで下顎の開きが小さくなりアパチュアが小さくなったということになる。
これらの経験から、「アパチュアの大きさとスロート径は大いに相関あり」と考えるようになったのだ(ある意味当たり前の事なのかもしれないが)。前歯の開き(つまりは下顎の開き)を変えるとアパチュアの大きさが変るわけで、つまりスロート径を変えると(もちろん他の条件:リムやカップ、息、口唇の形etc.はそのままでネ)自然と下顎の開きが変わるので、筋肉のバランスも無意識のうちに変ってしまう恐れもある(02.3.18のたわごと参照)。マウスピースを変えて調子が良くなったり悪くなったりするのは、こういうこともあるのかと思う。これで、私が以前にスロートを太くした直後は夢のように吹きやすかったことと、その後細いのにしてアンブシュア壊してひどい目にあった理屈がやっと良く理解できた。
もちろん、金管楽器の演奏もマウスピースもこんな単純な話ではなく、いろんな要素が絡み合っているわけだけど、この原則をちょっと頭にいれておけば、マウスピースを変えたときのアンブシュアの意識の仕方とか、逆に理想とするアンブシュアに近づくためのマウスピース選びの参考に・・・・なるかな??


モンゴロイドとコーカソイドの差(03.4.7)

「日本人は美しいスマイルが下手と言われているが、これは口唇の動きに影響する口角下制筋が、モンゴロイドの方がコーカソイドより広い範囲に付着しているので、口唇を上方に挙上しづらいからと思われる」(矯正歯科ジャーナル02年10月号より引用)(モンゴロイドは黄色人種、コーカソイドは白色人種のことネ)
これの元になるデータなり研究が何なのかはわからないのでホントかどうか知らないが、なるほどねとも思う。確かに日本人は上唇より上をあまり動かさない。 言語の問題だけでなく、形態的に口唇周囲の筋肉の動きに違いがあるということか。単に、オトガイの形が白人ほど前に出ていないので広範囲に付着しているということではないか、と個人的に思うが。
口角下制筋が広範囲に付着することが管楽器の演奏にどう影響するかであるが、私としてはむしろ有利に働くのではないかと思っているが、まあこれも人それぞれってところでしょうか(楽器によっても違うでしょうし、同じ楽器でも歯の位置や求める音質等で理想的な筋肉のバランスも違うでしょう)。
よく言われるのが、日本人は白人に比べて出っ歯だから楽器を吹くのに不利・・・ということである。これについては「日本人は本当に出っ歯なのか?」と題して独立したページにしようと文章はほぼできあがったのであるが、具体的なデータを捜そうと思っているうちにそのままになってしまってる。スミマセン。
簡単に言うと、日本人も白人も理想とする噛合せは同じであり、平均的噛合せは数字的にもそれ程大きな違いはない。不正咬合の割合もむしろ欧米の方が上顎前突が多く、日本では出っ歯とは逆の反対咬合が多く欧米では反対咬合は滅多にいない。でも、印象として日本人に出っ歯が多いのは、欧米では上顎前突は子供のうちに治療してしまうけど、日本では別に直そうと思わないからかもしれない。日本人としてのDNAが出っ歯にしているのではなく、育児方法や気候、食の嗜好などの環境要因で出っ歯になるケースが多いのではないかと思う。それよりも、モンゴロイドとコーカソイドの大きな違いは、頭の形(:モンゴロイドは横に広く、コーカソイドは前後に長い)、鼻の形、上顔面の形(いわゆるホリの深さ)、オトガイの出具合などであって、噛合せは同じでも鼻とオトガイの出具合が全然違うから、相対的に歯が出ているということではないかと思う。
それともう一つの違いとして、欧米では、管楽器を始めるときに、教師が歯並びの状態を見て楽器を選択するというのが一般的で、伝統的に楽器演奏に有利な歯並びの子供だけがその管楽器を勉強することができるのであって、現在の日本のように、その子がやりたければ楽器も買えるしブラスバンドにも入れる、歯が出ていたり凸凹してるから楽器が上手く吹けないどうしよう・・・といった発想自体がないとも聞いたことがある。だからなおさら、欧米のプレーヤーと比較して日本人は不利な歯並びだと感じるのかもしれない。
現在の日本人は、DNA的には縄文人3割、渡来系弥生人7割の混血なのだそうだ。縄文人というのは、いわゆる濃い顔で下顎骨の形はがちっとして前歯は立っている。それに対し、渡来系弥生人は面長でのっぺりした顔で下顎骨はすっとしていて前歯が少々出ている。長い年月の間にそのDNAは混ざり合い、現在はいろいろなヴァリエーションの顔、顎・歯並びの日本人がいるのである。つまり、管楽器演奏を考える上では「日本人だから出っ歯」ということはなく、あくまでも個人個人について論じるべきではないだろうか。


NHKの朝ドラ(03.3.11)

矯正歯科をやってますと言うと、よく聞かれるのが「矯正はやったほうがいいのですか?」という質問であります。完璧な歯並びの人など稀なことを考えればかなりの人が矯正治療の適応症となるのだろうけど、必ずしも矯正治療をしなければいけないわけではない。そういうときの私の答えは、「自分で気にしているのであればやったらどうでしょう」。矯正治療をするには、お金も時間もかかります。月1回の通院も大変だし、矯正器具はうっとうしいし歯みがきも面倒だし、痛いことも思うように好きなものを食べられない時期も多少あります。そういった「大変なこと」と「歯並びを直したい気持ち」を天秤にかけて直したい気持ちの方が大きければ、そのときは矯正治療を考えてみてはどうでしょうか・・・とお話します。で、もう一つ私の中で「矯正治療をやったほうがいいよ」とお勧めするかどうかの基準がありまして、それは「口唇を楽に閉じられるかどうか」です。
現在やっているNHKの朝ドラ、最初はマメに見ていたんだけど、どうも「宇宙へいきたか〜〜〜」の理由付けのための「宇宙からの天気予報」で、単に宇宙へ行ってみたい(観光気分?)のための無理やりの手段っぽくて、しかもそのために周りを思いっきり振り回していて、朝ドラは非現実的な話と割り切って見ている私でも、どうにも見苦しくて見るのをやめたのだが、そんなことはどうでもいいこととしてですね。今回の主人公「満天」も、その前のクールの「さくら」も口唇を閉じれないのですよ。
さくらは、アゴの形がいいので目立たないけれど、結構な出っ歯ですね。小臼歯を抜いて矯正して前歯を後に下げればかなりの美人になると思うんですが・・・もったいない。いつも口元に笑みをたたえて明るくしゃべりまくってますけど、さすがに深刻な表情をする場面では口唇を閉じるんでアゴに梅干しができて(下唇の下にシワがよる状態)何が不満なんだコイツみたいになって可哀想でしたね。満天は歯並び自体はキレイなので私の予想としては矯正治療済かと思うんですよ。前歯の出具合と唇の閉じ具合というのは相関があって、口唇がいつも半開きで上唇の短いと前歯も出てしまうことになりがちなんですが、矯正して出っ歯は直したけど、唇までは治んなかったって感じの口ですかね(本当はどうだか知りません)。最近は、セリフ以外のところでは口唇閉じようとしてるようだけど、ヨイショっと開けたり閉じたり不自然に口唇が動きます。朝ドラの主人公というと明るくハツラツとしているキャラが多いですけど、いつも白い歯が見えてるとそれらしく見えるんでNHKに好まれるんでしょうか??
で、管楽器やっている人には口唇閉じられない人というのはあまりいないですね。いるとは思うんだけど、そういう人は上手にはなりにくいんだと思うんですよ。口が閉じられない原因というのはいろいろあって、大抵小さいとき鼻が悪かったとか激しく指しゃぶりしていたとかで、口を閉じる習慣がないとですね、上唇自体が短くなったり口輪筋など口唇を閉じる筋が弱かったりして、歯並びにも前歯の噛みあわせや顎の成長にも影響が出るんですが、そんな話をしていると長くなるのでこの辺にしときます。単純に前歯が前に出ていて口唇が楽に閉じられないときは是非矯正治療を検討することをお勧めします。管楽器吹くのに有利になるケースも多いと思います。ただ、上唇が短い人は前歯を後に下げて口唇が閉じやすくなっても上唇の長さはなかなか伸びないようです。そういう患者さんには唇を伸ばすトレーニングをやってもらうんですけど・・・どこまで効果があるかはわかりませんです。で、言いたいことはですね、大人になってからでも矯正はできるけど、子供のうちに口唇を楽に閉じられる環境を作ってやることが、将来管楽器をやらせようと思ったら大事だということであります。


ノドがしめつけられているような音って?(03.2.8)

咽喉のしめつけられているような音というのは、かならずしも咽喉がしめつけられているわけではないような気がします。音質を決める要素というのはたくさんあると思うのですが、その中の一つとして上下の唇の前後的な位置関係があります。
つまり「上唇のどの部分が振動しているのか」ということなのですが、
・赤唇部と粘膜の境目あたりがリードとなる....スタンダードな音色
・粘膜寄りがリードとなる....暗く柔らかめな音色
・赤唇部寄りがリードとなる....硬くクリアな音色
#赤唇:唇の赤い部分=組織学的には粘膜と皮膚の移行部
これが極端に粘膜寄りになると「こもった」「咽喉がしめられたような」イメージの音になり、逆に極端に赤唇部寄りになると「壊れたような」「潰れたような」イメージの音になるような気がします。
このリードがどこに来るかを決めるのは、上の前歯の長さであったり、下の前歯の前後的な位置であったり、下唇の巻き具合だったりするのではないかと思います。
つまり、下顎が十分前に出ていなかったり、下唇を巻き込んでいたり、オトガイ部(下唇の下のアゴの部分)の筋肉が張れていなかったりする(=アゴに梅干しの出来た状態)すると「咽喉のしめつけられたような」音がします。
もちろん下顎が十分に前に出してオトガイを張ることと咽喉を拡げることは無関係ではありませんから、イメージとして咽喉の感覚からアンブシャーを作るのも一理あります。
一般的にマウスパイプを上向きにすると音が明るくなって、下向きにすると暗くなるといわれますが、方向自体が音質を決めるのではなく、実はリード部位の「質」の問題なのかなあ??と考えております。

以上は、数週間前にとあるホルン関係のメーリングリストへ私が投稿したものです。「音を聞いているとなんだかノドがしめつけられていて思いっきり音を出していないようだが、どこかで息を止めているのだろうか。」という問いに対してレスをつけました。MLにはあまり投稿しない方なのですが、最近飲み会でご一緒した方だったので個人宛みたいなつもりで投稿したわけです。
「ノドがしめつけられているような音」で悩んでいる金管奏者っていっぱいいると思うのですが、じゃあノドを開けるようにすれば良いのかというとそういうわけでもなく、中には十分ノドは開いているのに歯や顎位等の関係でノドの締まったような音がするケースもあるようなのです。世の中口を意識することはタブーのようで、とかく「口元だけにとらわれるな」とか「形でなく音を聞いて」「テクニックじゃなくて音楽をしろ」という話になりがちで、それで良い音が出る人はもちろんいるでしょう。でも結局口唇は音質を決める大きな要素でありそれを決めるのは歯なのであって、口唇から奏法を考えることで、遠回りせずに解決の糸口が見つかることだってあると思うのです。
でもこの投稿をした数日後に某匿名掲示板にスレッドを立てられてしまいました(もう落ちているからわざわざ見に行かないでね)。関係あるかどうかはわかりませんが、確かに、こんな話をただのアマチュアの奏者が投稿してくれば、何を偉そうに!と不愉快な方もいらしたのでしょう。このページもそうかもしれませんネ。今回の内容だって、いろいろな人のレントゲンを見たり話を聞いたりした多くの経験から考えた話であって、いわば企業秘密みたいなもので、でも何かのヒントになればいいなと投稿したけど、もう懲りました。
ということでプロフィールのページを更新して余計なことは書かないことにしました。それから「管楽器奏者の歯科医」にメールをいただいた札幌の鈴木先生(札幌市民オーケストラでトランペットを吹かれているとのことです)を登録しました。


アダプターを壊してしまった・・・(03.1.24)

このページ以前書いたように私は上の前歯(左の2番)と下の前歯(4本)にアダプターを使っている。上用は去年の5月から、下用は去年の11月から使っている。元々歯並びは比較的良いほうなので、アダプターを入れると言っても極く薄いものでどちらも約1.0mm厚である(下の方は一番厚いところで1.5mm)。自分でいつでも作れると思っているので扱いが雑なためか、上の方は2回なくして現在3代目(というか以前の試作品を削って使っている)で、とうとう昨日は下の方を壊してしまった。装着感がほとんどないのでアダプターを入れているのを忘れて、ご飯のパッケージを何気なく噛みきろうとしてパキっといってしまったのだ。前歯用のアダプターは高さにもこだわって作っているため咬合時にそこだけ先にぶつかってしまい、演奏には全く支障がないが物は咬めないのだ。
この1ヶ月、楽器を新しくしたり、音だし出来ないままオケの合奏練習に加わることが続いたり、上用のアダプターを無くしたまま2週間くらい吹いてしまったりで、どうもアンブシャーを崩し調子が悪かったのだが、この3日間部屋にこもってひたすら練習して、どうにか調子が戻ってきた矢先のアダプターの破損はショックである。2ピースに分かれてしまったが、幸い各々が歯に密着するのでそのままでも使えるから、本番直前でもあり、とりあえずは作り直しをせずにこのまま使います。

せっかくなので写真を紹介します。
上の前歯(左の2番目の歯:向かって右側)に一つ入ってます。これはあまり出来が良くないので見かけが不自然(幅が広い)だが、チャンと作れば入れたのがわからない位です。わずかにこの歯が内側に入っているので、厚さを増すことでマウスパイプの角度(左右的)を調整して左右の筋肉のバランスをとるのが目的です。
下の方(割れているけどわからないでしょ)は、下顎を大きく前に出さなくでもいいようにするためです。もちろん、入れていても下顎を前に出す必要がありますが、1mm違えば随分楽です。後頭部にかかる負担が少なくなり、音も多少明るくなるように思います。


肩凝りのその後(03.1.24)

私は肩凝りが治るためにいろんなことをしてきた。整形外科、マッサージ、瀉血、カイロプラクティック、ソフトカイロ、中国整体、湯治、咬合治療・・・etc。単に肩が凝ってるくらいならいいのだが、重症になると顔面や頚部の筋肉の痛みを起こして、楽器を吹くのに悪影響を起こす可能性もあるのだ。私の場合、肩凝りが進んで首や頬が痛くて楽器が不調になるなんてことに悩まされつづけているのだが、この前も長時間パソコンいじっていたら異様に肩が凝ってしまい、鎮痛剤飲んで長風呂入ってニンニク食べて寝込んでしまったのだけど、その時ふと「もしや視力のせいでは?」と思い立ち眼科に行って眼鏡を作ってしまった。
8/4に書いた咬合治療はどうなったのかと突っ込まれそうだが、どう考えても狂ったプレートを渡されて、入れたトタンにおかしいからいろいろ言ったのに、ろくに見ないで「わかってもらえないかな〜〜」とか言われ、使ってもかえって苦痛を生じる始末。結局3ヶ月も経って新しく作り直してもらったけど、既に不信感もってるし、プレートを入れたままでは話しもできないから昼間できないし、寝ているときに使うとかえって疲れてしまうし、ということで最初の数日しか使っていない有り様なのであります。
その点、眼鏡は仕事中も使えるし、ゴミ除け(歯医者をしているといろんなものが目に飛んでくるのです)にもなるし、意外と違和感ないものですね。自慢じゃないけど、私は子供の頃から視力検査は右1.2左1.5で少々乱視が入ってるらしかったが全く不自由しなかったのであります。左右視力が違っていて左目で物を見ているという自覚はあったのだけど困っていなかったわけです。眼鏡をしたからといって実際の物の見え方はほとんど変らないが、確かに楽かもしれない(言っておくけど老眼鏡じゃないデス)。本当に肩凝りに効くかはあまり期待はしていないけど、眼鏡をすると、常にコチコチの首の右側に血行が戻るような気がする。
皆さんも肩凝りくらいとあなどらないで、軽いうちに改善しておきましょう。
一番いいのは適度な運動、歩くことだとは思っているのだけど、風邪を引くのが怖くて長時間歩かないようにしているこの頃であります・・・


親知らずの抜歯(03.1.9)

毎日掲示板に書き込もうかと思ったけど、あまり個人的なことを書いてもつまらないので、やはりあの掲示板は「歯に関する書込み中心」という位置づけにしたいと思います。私はどうもBBSに参加するのが苦手で、ヨソ様のBBSは実は時々のぞきに行く所もいくつかあるのだけど、ああこんなこと書かなきゃよかったとか、反応がなかったらいやだなとか、結構後でクヨクヨする質なので書かないようにしてるのであります。
今回更新分の相談の中に親知らずの抜歯に関して1件あったのだけど、当院を訪れる人の中には親知らずの抜歯に関しての相談のみでやって来る人もいて、正直そんなことでわざわざ私のところに来るなよ〜〜と思いながら説明しているのである。親知らずを抜いたほうが良いかどうかというのはその状態によるが、特に日本人の7割は「水平埋伏智歯」といって横(というか正面)を向いて完全に潜っており、まあ抜いた方が良いですね・・という話になることが多い。
ちゃんと親知らずがはえるスペースがあって真っ直ぐはえていてしかも上下でちゃんと噛みあっている人というのは稀であって、大抵の人は無くてもいい状態である。そうなると邪魔なものは抜いてしまえということで、大概抜歯を勧められると思う。かといって潜っている歯は必ずしも抜かなきゃいけないかというと、本当にその歯が悪さをするかどうか何とも言えないこともあり返答に困ることもある。
では抜いたほうが良いときというのはどういうときかというと
・場所が悪すぎて歯みがきがきちんと出来ず歯周病や虫歯になるリスクが高いとき(特に上の親知らず)
(親知らずの虫歯が進んでしまってからだと抜歯が大変になってしまう)
・智歯周囲炎を繰り返す起こすとき(下の親知らずの周りに歯肉を腫らしてしまうこと)
・前の歯を押していて、それが原因で歯並びが悪くなる可能性のあるとき
・前の歯(第二大臼歯)の歯根の吸収(溶けてしまう)を起こす可能性のあるとき
・対合歯(噛みあう歯)が無いために伸びてきて顎運動の障害となる可能性のあるとき(特に上の親知らず)
・矯正治療の際に必要なとき(大臼歯を後方に送る必要があるときや大臼歯が前にずれては困るとき)
ってところかと思う。
大抵は、大急ぎで抜く必要があるときは滅多に無いので、時期をよく考えて抜歯をしたほうがよい。智歯周囲炎であっても、急性期の抜歯は原則的に行わないので、抗生物質の服用や消毒で炎症が治まれば直ぐに抜くこともない。
というのは、抜歯後は周囲が腫れたり口が開かなくなったり、楽器を吹くと痛かったりして、1週間くらいはまともに吹けないことが多いので注意が必要。そんな情報を知らずに大事な本番の直前に抜歯してひどい目にあったことのある人も多いのではないだろうか。親知らずを抜歯すると必ずそうなるわけではなく、水平埋伏智歯のように、歯茎を切って骨を削って歯を割って抜かなきゃいけないときは腫れるけど、まっすぐはえているようなときは抜歯直後でも普通の生活を送れる。
歯の潜り方にもよるけど、抜歯する術者の腕とか傷口の縫い方によっても腫れ方が左右される(抜歯に手間取って時間がかかるほど腫れるし、しっかり縫ってしまうと腫れるのでむしろ穴は開けたままの方が腫れないらしい)。といっても、私は昔完全水平埋伏智歯を口腔外科の教授がものすごい早業で5分で抜いたのにもかかわらず、2日くらい口が開かず痛くて楽器も吹けなかったので、あまり関係ないかもしれないけど。
抜歯の直後に大事な演奏予定を入れないことの他に、管楽器奏者が考えておかなければいけないことは、下の親知らずが深く潜っていて下顎管(下顎骨の中の血管や神経が通る)に近いと、神経が傷ついて下唇に麻痺が起きる可能性があるということである。滅多に起きるわけではないし、最近では歯科用のCTで三次元的に位置を確認することもできるので、心配はいらないのだが、可能性が多少でもあるようなら、管楽器奏者であれば本当に抜歯する必要があるのかどうかよく考えたほうがいいと思う。少し前に掲示板に書込みを頂いたフルート吹きNettiさんのHPによれば、全麻で抜歯して下唇に麻痺を起こし、大変ツライ思いをしたということである。彼女の場合、矯正治療のために抜歯が必要だったということなので仕方がなかったようだが、小臼歯抜歯で矯正治療を行う場合、特に上顎前突のケースであれば大臼歯が前に多少ずれて欲しいことが多いので、私はわざと矯正治療中は下の親知らずを残しておいて大臼歯が前にずれやすくすることが多い。あるいは、どうしても抜歯したいが根っこの先が微妙に神経に接しているときは、歯を半分に割って上の方だけ取り、根っこだけ顎の骨の中に残しておくと、そのうち残された根っこが上に移動して、神経を傷つける心配なく抜歯することができるので、そのやり方でお願いしている。
親知らずに関しては前から独立した1ページにしたいなと思いつつ、今回ざっと思っていること(ちゃんと調べてはいないということ)を書いたが、そのうち図入りでまとめないと・・・そのうちね。
12/24に「今度の新しい楽器は吹きやすくてラクチン」と書いたのだけど、なんのどうしてとってもキツクて(抵抗感が大きいというか)心配です。レスポンスは良いので吹きやすいことは吹きやすいのだけど、高音・ffがキツイ・・・・もうしばらくはこのまま頑張ろうとは思います。


一年の計は元旦に有り(03.1.7)

年齢がイクと時間が過ぎるのが速いというが、本当にあっという間に正月になってしまった感じ。このところ、今年はコレをやろうコウしようと思ってもやれないうちに1年が終わるというのが繰り返されている気がする。だから年賀状に書くネタにも困る情け無さ。まずは、このホームページを何とか一新しようと、掲示板を最新の画像とかアイコンとかレスが付けられるものに改造して気分も新たにしようと試みたが、どうもうまくいかず、かといってトップページのデザインもこれといって良いアイディアもないので、中身で勝負しよう・・・今年こそはマメな更新&反応を心がけます。
早いもので矯正歯科医院を開業してもうすぐ4年になる。お陰様で、いろいろな管楽器関係の方の相談や治療を経験させていただいて、何となく方向が見えてきたような気がする。去年は(認定医更新用の)学会発表も無事終わったので、今年は奏者のデータ集めを行いたいと考えている。まずは「正解」「典型例」が欲しいのである。問題は、どういう形で資料を集めるか。口腔内と顔面の写真、模型、咬合時・安静時のレントゲン写真、演奏時のレントゲン写真(高音・中音・低音)、演奏時の写真・ビデオといったところかなあと。少し前までは、下顎の動き自体に興味があったのだが、最近思うのは・・・・
歯は楽器を吹くためにできたものではないけれど、楽器の音のイメージ(らしい良い音)は長い年月の間に作られているものであるし、テクニックや楽器のデザインもそれように開発されてきたものであるから、そういうふうに考えると、単に「正常な」「標準的な」歯並びが、実は楽器を吹くのに適しているのであって、プラス成長期に楽器を演奏することによって歯並びや顎の骨格・口唇に少なからず楽器特有の影響が出るのであるから、その辺を考えればおのずと、その楽器に有利な相応しい歯並びや顎の骨格・口唇というものが見えてくるというだけのことではないかと。
そうなると、データ集めもあまり意味をなさないかもしれないし、自分が何を一番知りたいのかもわからなくなりそうだけど、とりあえずは、少しづつデータ集めを始めたいと思っております。レントゲンから見えてくるものが必ずあるはずですから。


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