管楽器奏者の歯のためのページ

たわごと 2004年


それでも私はベルを置く(05.2.7)

私はホルンのベルを右の太ももに置いて吹くのであるが、最近気がついたのだが、ベルを置いている部分が凹んでいるのである。練習後になかなか戻らないだけで、お肌の復元力が弱ったのか、歳とったなあ、と思っていたのだが、楽器を吹いてから24時間を過ぎてもまだ凹んでいることが判明し、どうやら脂肪が移動してしまいそういう形の脚になってるようである(悲)。
だったらベルを置かずに持てばいいのかもしれないが、私はたとえ脚が凹んでも断然ベルを置く派である。
一般的には、ベルを太ももに置くと音がこもる/暗くなる、ベルを持ち上げると音がはっきりする/明るくなる・・・と言われる。私の場合、腕の力がなくて楽をしたいのが一番の理由(若い時は持って吹いていたが、肩凝りになって置くことにしたのである)なのだが、ベルを持って音色がよくなるくらいなら、ウエイトトレーニングしてでも持って吹きたい。でもそうしないのは、私には太ももに置くかどうか(つまりベルの端に触っているかどうか)で音色が大きく違うとは思えないからである。確かに、至近距離だとベルの向きが変わるから音も変わって聞こえるが、客席で聞こえる音色はそう違わないはずだ・・・と私は思う。
自分に聞こえる音の感覚がベルを置いたほうが安心する(長年そうしているから)ので持ちたくないというのもある。自分の声が聞こえる声と録音とで全然違うのと同様に、管楽器も自分に聞こえている音色と実際の音色には違いがあるのだ。管楽器の場合、以前読んだ本によれば自分に聞こえる音の20〜40%は骨導音だそうだ。骨導音というのは気導音よりも低い周波数帯域が強いために、実際の音よりも暗くこもった音に聞こえるらしい。ベルを太ももに置くと多少骨導音が増えて「自分には」暗くこもって聞こえるんじゃないかと思う(本当かどうかは知らないが)。
ベルを持って吹くとマウスパイプが水平に近くなるので下唇が前にでる。ベルを置くとマウスパイプが下向きになりがちになるので下唇が後ろに行く。それで音色が変わるのではないかと私は思う。以前のたわごとにも書いたが、アパチュアの周囲の振動部分が上唇のどこにくるかによって音色が変わるのではないかということである。標準的には赤唇(唇の外側の赤い部分)と粘膜(内側の濡れている部分)のほぼ境目くらいが振動するが、それより内側になると柔らかくなり外側になると硬くなる。一般的に、振動体の硬さによって倍音の分布が変わり、硬いほど高音域の倍音が増え、柔らかいほど少なくなるのだそうだ。そのため下唇が後ろに行くほど倍音は少なく暗い音になるという理屈である。
ダークな音を好むアメリカではベルを太ももに置く人が多いし、明るい音色のドイツのオケではベルは持ち上げている人が多い。もちろん、使用している楽器自体の特性もあるだろうが、マウスパウプの角度によるところが大きいのではないかと想像している。
ということで、私は明るい音を出したいがベルを太ももに置いて吹きたい。そのために踵(靴のヒールあるいはつま先立ち)で太ももの高さを調整してマウスパイプが下向きにならないようにしている。
(音響物理学的な用語の使い方とかちょっと自信ないです。)


アンブシュアを歯に合わせるか、歯をアンブシュアに合わせるか (04.11.28)

私の診療室に歯をいじりにくる人には2種類の人がいて、決してアンブシュアを変えようとしないか歯を変えると自然にアンブシュアが変わるかの2つに分かれるようである。歯をいじる目的はアンブシュアを変えることであると私は思っている。歯をいじったとたんに音が変わるということはアンブシュアが変わった結果であるのだ。変えようとしない人というのは、自分のアンブシュアはこうだっ!!というのがあるから、歯を調整してほんのわずかの変化でも、音が出ない・・・ということが起きる。普通は歯の形が変わると自然にアンブシュア(歯の開きや筋肉のバランスなど)が適応してそれなりに音が出るものであるが、わざとでしょ、ていうくらい吹けなくなる。そうやって吹いている人は、楽器の向きなんかも固まっているというか、自由度のない奏法をしているようである。アンブシュアを変えないことはある意味スゴいことであるが、私は正直ちょっとどうかと思う。
アンブシュアは日々変わるものである。私自身、変えようとしなくても少しずつアンブシュアが変わっているのを感じている(マウスパイプの角度とかリムの当たり具合とか)。私のように試行錯誤中でなくても、唇のコンディションだとか疲労度だとか、音質のイメージだとかによって、同じ日の中でも違うだろうし、意識しなくてもほんのわずかずつの変化が長い年月に起こるものなのではないかと思う。だから、過去に固執せず自由度を持たせる事がアンブシュアには必要なのではないだろうか。
歯をほんのちょっと削っただけで、音やアンブシュアが突然変わるという話をすると、どうせ精神的なものだろうという人がいるが、本当に起こるのである。この前もトランペットの人の上の犬歯の先を0.5mm程度削ったとたんに、それまで横に引いていたアンブシュア(下手な人に多くありがち)が、かなりバランスのよい状態にコロっと変わった。ところが、その人が3週間後にやって来て私はガッカリした。アンブシュアは元の横に引く形に戻っていたのである。せっかく整えた上の前歯部の前面が無惨に削られていた。本人は自分で削ったことを一言もふれずに下の方(削った歯と反対側の犬歯部分)を厚くしてほしいとやってきた。聞けば痛かったので削ったというが、よく考えれば当然なことで、正しいアンブシュアになってもそれを支える筋力がなく、リムを上唇に押付け横に引くことで何とか吹き、痛い所を削った結果マウスパイプの方向がずれ下唇の片側の支えがなくなったのだ。せっかく無意識のうちに歯にアンブシュアを合わせたのに、結局悪いアンブシュアに歯を合わせてしまったということ。私はプロもアマチュアも同じように接するようにしているが、プロや紹介がある人しか見ないという気持ちわかるなあ〜〜。正しいアンブシュアのイメージと正しい基本練習の知識がなければ、良いアンブシュアも定着しない。痛い所を削り浮く所に物を詰めるのであれば、何も私の医院までわざわざ来なくたっていいのにネ。


禁煙のすすめ (04.11.23)

還暦を過ぎても活躍しているジャズミュージシャン(管楽器)は、私の知っている範囲では、皆タバコも酒もやらない。クラシックと違って定年がなく高齢でも「味のある」演奏で活躍できるということが違うのかなあと思う。もちろんクラシックの奏者でも演奏のために酒もタバコもやらない人もいるだろうけど、結構大酒飲みが多いような気がする。
タバコが体に悪いなんてことは、誰でも知っているだろう。肺ガンや心疾患・高血圧の原因になることは有名なことであるが、あまり現実として感じていないだろうし、タバコをやめてまで長生きしなくていいなんていう愛煙家もいるかもしれない。このサイトは一応歯に関してのことなので、健康のためにタバコをやめようなんて書くつもりはないが、最近は歯周病とタバコの関係がクローズアップされており、熱心に禁煙指導をする歯科医院もあるくらいなので、歯周病と喫煙の関係について紹介する。
最近の研究では、喫煙は歯周病の最大のリスク因子と考えられている。歯周病の原因はプラークであるが、歯磨きをするしないというだけでなく、歯周病になりやすさにはいろいろな因子があり、その危険率が最も高いのが喫煙で、非喫煙者の3倍ともそれ以上とも言われる倍率で歯周病に罹患しているのだ。しかも喫煙者ほど重篤な歯周病になる。歯周病になると、歯がグラグラするだけでなく歯を支える骨が減ったり歯が病的に移動したり(前歯が前方に出てくるとか隙間ができるとかが多い)して、アンブシュアに影響を与えるし、最悪歯が抜けてもしくは抜歯せざるを得なくなってしまう。それが原因でよく噛めなくなれば口腔周囲の筋肉が衰えたりと、楽器演奏への影響は大きい。実際、歯周病が原因で廃業をするプロ奏者もあるはずだ。
どうしてタバコを吸うと歯周病のリスクが大きいかというと、1)歯面にニコチンが着くことで、プラークが沈着しやすくなる。2)血管が収縮し血行が悪くなることで抵抗力が弱くなる(酸素量が減ることで歯肉が弱くなったり、歯周病菌と戦う白血球の機能が低下する)。3)喫煙によりビタミンCを消耗し歯肉の治癒が悪くなる。・・・ということだそうだ。しかも、歯周病が進行しても喫煙していると歯肉の出血や腫れといった目に見える症状が出にくくなるので、知らないうちに重症になるのである。
どうせ歯周病は年寄りの病気だろうと思っている人もいるかもしれないが、歯周病というのは大変罹患率が高く、軽度なものも含めれば40歳以上ではほとんどの人が歯周病とも言われているし、若年性歯周病といって10代、20代でも進行性の歯周病になることがあるが、これも喫煙と関係があるらしい。歯グキに自信がない、でもタバコはやめられないという人は、ぜひ本数だけでも減らしましょう。
酒については・・・・そのうちに。


高音域のアンブシュアと低音域のアンブシュア (04.11.7)

私はオケで活動しているが、少し前のシーズンでやたら音の低い曲があった。チューバがない編成で、トロンボーンのソロを際立たせるためか、ホルンだけでなくトランペットも総じて音が低く、普通のシンフォニーの音のオクターブル下くらいを吹いている感じ。ホルンでいうと下の下のソの音の伸ばしだらけである。それを吹くのはせいぜい週に1回なので、練習期間は何てことはなかったのだが、本番となると、前日夜、当日午前、本番と3倍吹くわけで、そうしたら普段疲れないようなところが疲れてしまったのでした。まずは顎が痛い。顎関節周囲が痛いのは、音が低過ぎて下顎をガーと開いて前に出し、しかもひたすら伸ばしているので、これは当然。それともう一つ痛かったのが、口唇の下の中央の部分(おそらくオトガイ筋)である。
どうして低音域でそこを酷使するか考えた。低音域を吹くときというのは、下顎を下に開いてアパチュアを大きくするわけだが、中音域と同じ筋肉のバランスで単純に下顎を開くと、口角が下がり緩んで開いた音になる(素人にありがちです)。口角を保ってアパチュアを大きくするためには下唇中央部のみを下げることが必要で、それには下唇下中央部(主にオトガイ筋)の緊張が必要なのだと思う。逆に高音域ではどうかと言うと、アパチュアを小さくしようとすると口角が上に上がってしまうので、口角を保ったまま高音を出すためには、口角が上がらないよう口角の下(主に口角下制筋)の緊張が必要になるのだと思う。つまり見た目が同じアンブシュアでも下唇下部の筋の使い方が違うのだ。
金管楽器の場合、理想的には同じアンブシュアで上から下まで吹けた方が良いと言っていいであろう。もちろん見た目はほぼ同じでも音の高さによって厳密にはアンブシュア(歯の開きや筋のバランス)が違う訳だけど、移行的とでも言うか「つながる」のが同じアンブシュアですべて吹けるということではないかと思う。それに対し、「つながらない」のがダブルアンブシュアなのではないだろうか。プロ奏者でもダブルアンブシュアの奏者も多いし、ダブルアンブシュアは否定されている物ではない。高い方の音域のアンブシュアと低い方の音域のアンブシュアが違っていても、かぶる部分(両方のアンブシュアで出せる)がある程度あるので、使い分けることで問題なく演奏できるという訳である。
私は何年か前まで明らかなダブルアンブシュアであった。上の方はパラパラとよく吹けたが、下のソ(実音C)くらいに切替えポイントがあり、その前後がカラッキし苦手であった。今のアンブシュアとの大きな違いは(ちゃんと写真かビデオを撮っておけば良かった、レントゲンは残っている)、マウスパイプが今より下を向いていることと縦と横の筋肉のバランスだろう。つまり下唇下部の筋の使い方が不十分だったのだ。自由度があるというか自在に吹けるという面では昔の方が良かったので、おそらく自分にはそれなりに合っているアンブシュアだったのだろうが、アンブシュアを変えたことは後悔していない。吹きやすいアンブシュアと機能的なアンブシュアがイコールではない場合は多いのである。
昨日はアンブシュアは3つあるという話を聞いた。高音域、中音域、低音域で舌のポジションが違って口腔内圧をコントロールしており、高音域と低音域は舌のポジションが同じであるということであった(酒席で聞いた話なのでニュアンスが違うかもしれない)。その時はフンフンと聞いていたが、正直言って、私は舌の位置が音の高低を決めるとは思っていない(もちろん演奏上重要な働きをすることは承知しているが)。もしかしたら「高音域は口角下制筋、低音域はオトガイ筋が緊張する」ということに関連しているのではないかと思う。このことを意識して楽器を吹かずに高音域/低音域それぞれのアンブシュアを作ってみると、自然に舌の位置が変わる。逆に舌をリラックスさせたままでは下唇の下部の筋肉を緊張させることが出来ない。これにより、高音域と低音域は舌のポジションが(レントゲン撮影が根拠だろうから、2次元的に)同じように見えるのだろう。下唇下部の筋は頸部の筋とつながっており何らかのかたちで舌骨や舌筋と連動するのではないか。


ドッペルの出る歯並び (04.9.29)

このところ、金管楽器の人でドッペルが出るという相談が続いた。重音(共鳴音、雑音)が出てしまうことをドッペルという。ドッペルというのは金管楽器の場合、アパチュアが複数出来る状態なのではないかと想像している。糸切り歯が極端に前方に出ていると、アパチュアと口角の間の口唇が前方に出て浮いてしまいアパチュアが余計にできてしまうのだ。
八重歯がすべていけないわけではない。普通八重歯というと上の側切歯(2番目の歯)が凹んでいる and/or 犬歯(糸切り歯)が飛び出ている歯並びを指す。八重歯でも良いアンブシュアで上手な奏者が多数存在するが、犬歯の位置がさほど悪くないのだと思う。すなわち、中切歯(中央の前歯)を含めた歯列のカーブ上に犬歯がほぼ収まっていれば問題ないということである。
八重歯の問題点として、凸凹によって上唇がマウスピースに圧迫されてバテてしまう点だと思っている人が多いようだが、そういうことはない。前歯に凸凹がある人というのは、前歯の傾斜・前後的な位置が正常で口唇の力が比較的ある人が多く、そういう面では金管楽器に向いているといっていい。もちろん、中には奏法が良くても口唇を傷つけるような歯並びもあるだろうが、出っ歯ではないのに前歯の凸凹で圧迫されて上唇がバテてしまうのは奏法に問題があるケースが多いと思う。
話をドッペルの出る歯並びに戻すが、上の犬歯が飛び出ていてもドッペルが出ない人もいる。そういう人は不自然なアンブシュアをしていて、口角が上に上がって上唇に力が入った奏法をすることでドッペルが出ない。最近当院に来院した一人はドッペルの原因を親知らず萌出後に少々並びの変わった下の前歯だと思っていた。根拠は昔から犬歯が飛び出ていたけど以前は吹けたからである。多分、昔は口角を上げて吹いていたのでしょう。年を取ってくるとただでさえ口角は下がってきますから。また、別の一人は出ている中切歯を抜いてブリッジにしたらドッペルが出るようになり、中切歯が原因かと自分でヤスリでブリッジを削ってだんだんひどくなったという。中切歯を下げて相対的に犬歯が飛び出ることになった訳です。
ではどうすればいいかですが、出ている犬歯に関しては矯正でもしないと改善は難しく、歯科医としては犬歯は抜きたくない。側切歯にアダプターを入れて改善したこともありますが、原因を考えればあまり理想的な対処法ではありません。


リンガルブラケットについて(04.9.15)

少し前に、とあるトランペット関係のBBSから私の診療室のHPへのアクセスがとても多かった。内容としては、矯正器具を付けて吹けなくなった後輩を何とかしてあげたい先輩の投稿があって、それで当院を紹介してくれた当院の患者さんがいたので、飛んできた人が多かったのでした。
そのなかで、
「金属ブラケットをプラスチックかセラミック製の物にかえるとよい」
という発言がありましたが、これは間違いと言っていいと思います。特にセラミック製ブラケットは厚くて大きく角張っているものがほとんどなので、お勧めしません。(「ハイブレース」というセラミックブラケットだけはまあまあ薄いですが、そんなに使われていません。)金属製のブラケットにもいろいろあり厚いものもありますが、薄くて角張っていない物はどうしても金属製になります。金属製のブラケットだとウイングが大きいのでリングでカバーしてもらうとよいです。当院ではリムの当たる部位とアパチュア近くには通常より太いリングを使用しますが大変効果があるようです。最近は金属製でもデーモンシステムという摩擦が少なく治療期間が短くてすむというブラケットが流行っていますが、小さいけれど厚くて角張っておりカバーのリングもかけられないので管楽器の人にはお勧めしません。
また、私がHPでリンガルブラケットを紹介していること対して
「リンガルブラケットではタンギングやシラブルに問題が出てくる」
とも発言されていましたが、これはそれほど大きな問題にはならないと言ってよいと思います。シラブルについては確かにブラケットのために舌位が変化しますが、数日で適応できるようです。タンギングは確かに本人はやりにくい感覚がある人もいるのですが、出ている音にはあまり問題がないようです。もちろん影響が全くないとはいいませんが、歯並びが変わるメリットと比較したらよい手段であると思います。
BBSに直接発言しようかとも思いましたが、そこはトランペット奏者専門の登録制BBSなので遠慮しました。
リンガルブラケットですが、私は開業当初金管楽器の人には相談の上リンガルブラケットを用いることが多かったのですが、現在は本格的に矯正をする場合には、唇側(外側)ブラケットで治療を始める人が多くなりました。矯正器具なしの状態と同じとはいきませんが、薄い金属製のブラケット装置を用いることで影響を最小限にできることと、歯並びを直してよりよく楽器を吹きたいという人たちは、それなりに上手で奏法にあまり問題のないので無理に押し付けないで吹いているからでしょう。むしろ、矯正治療が進んで歯の位置が変化したことで、矯正治療中であっても以前より調子がいいという人もいます。
とはいえ、昔から「こういう人はリンがルで直すといいのに・・・」と思っている歯並びがあります。上の歯並びはあまり問題がなく奥歯の咬みあわせもずれていないけど、下の前歯にでこぼこがあるようなケースです。そういった人は下の前歯が少々内側に倒れているので下のでこぼこを直すと多少下の前歯が前に出て、上下の前歯の関係や傾きが楽器を吹くのにイイ具合になるのです。こういう場合、抜歯をせずにすむし、治療期間も半年程度、装置を付けるのが前歯だけだと矯正器具の影響もほとんどなく楽器が吹けます。オススメです。(下に症例を一つのせました。)
また、最近リンガルブラケットの小さいものが開発されたようです。このところの傾向として術者に使いやすいように大きくなるかと思っていましたが朗報です。以前、当時発売されているもので一番小さいものを選んでフルートの方に使ったことがあるのですが、舌が痛いということでした。それで、小さければいいわけではなく平らなほうがいいのかなと思い、その小さなブラケットはそれきり使わずじまいだったのですが、後でその方は唾液が出にくかったために舌が痛かったことがわかりました。近いうちにその小さいブラケットについて調べてみたいと思います。

<ホルン専攻音大生の例>
下の前歯が内側に傾斜しているが右下2番が出ているために下顎を前に出せず、右上2番がへこんでいることもあり、左右非対称のアンブシュアだった。リンガルブラケットによる歯の移動で、金管楽器の演奏に適する歯並び・噛み合わせに変化。治療は前歯の裏側のみで、数週間で慣れてからは装置の演奏への影響はほとんどなかった。治療期間は1年間だったが、下の前歯のみの治療であれば半年でOK。

治療前
治療中 最初は下顎前歯のみに装置をつけた(噛み合わせが深いために上に付けられない)。途中3ヶ月間のみ下顎第一大臼歯にバンドをつけ前歯の位置をコントロール。右の写真は治療開始6ヶ月目で、上顎前歯に装置をつけた時点。それまでは右上側切歯(へこんでいる)にアダプターを使用。
治療後

管楽器と顎関節症(04.3.29)

この1年間「歯の相談室」への相談メールを多数いただきました。一応個別に返信メールをしているのですが、1年間HPへの掲載を怠っていました。とりあえず本日10数件分掲載しました。中には「HP掲載不可」という相談も多く、せっかく皆さんの参考になりそうな内容なのに掲載できないものもあります。それで、今度から基本的にHP掲載を前提としたご相談のみを受付けることにしたいと思います。残り(30件分くらい?)は近いうちにアップする予定です、お楽しみに。
ただ、相談のメールだけでは想像だけで物を言うことしか出来ません。中には、相談メールの返信を書く前に本人が直接来院されることがあり、メールで想像した状態と全く違っていて、メールだけで回答する難しさを痛感しました。(この方の場合、メールで「出っ歯になった」とあったのですが、通常歯科で出っ歯というと上顎前突のことを言うので、私は上の歯が出てきたことだとばかり思っていましたが、実際は下の前歯が出てきたことを差していました。)
このところ多いのが、「顎関節症ですが楽器を吹いてもいいのでしょうか?」という内容の相談です。正直言って、メールの内容ではどう答えていいかわからないものがほとんどです。
1)管楽器演奏と顎関節症の関連はどうか
・楽器演奏とは関係なく日常生活で顎関節症の症状があり、それを改善もしくは悪化させないようにするために楽器演奏をどうしたらいいか(=楽器演奏が顎関節症の主原因ではない場合)
・日常生活では何ともないのに、楽器演奏によって顎関節症の症状が出現してしまうので何とかしたい(=楽器演奏が顎関節症の主原因の場合)
このどっちかによっても対応の仕方は違うはずです。もちろん通常、顎関節症の原因が一つだけということは少ないですので原因の断定は難しいですが、管楽器演奏と顎関節症の関連性はどの程度なのかをまず押さえておかないといけません。
2)顎関節症の症状の深刻度と楽器演奏の重要度のバランスはどうか
・顎がカクカク音がする程度なのか、強い痛みや開口障害を伴ない苦痛が大きいのか
・楽器をやめても(休んでも)別にかまわないのか、楽器は大切な趣味でどうしてもやめられないもしくはプロ奏者で休むことができないのか
このバランスによっても対応の仕方は違うはずです。無論、治療する歯医者にとっては、顎関節症の治療をスムーズに行うことが最重要なのだから、割りと安易に楽器演奏を禁止するのではないかと思います。
3)楽器の種類と噛合せ、楽器の構えとアンブシュア
つまりはノーマルな顎関節の位置から楽器演奏時の顎関節の位置への移動はどうかということです。さらに、個人により顎関節の可動域は異なります。
例えば、金管楽器・フルートで上顎前突でノーマルな奏法(楽器の角度もしくは頭部管の位置等)であれば、下顎を通常より前方に出しているので、当然関節周囲の靭帯等に無理がかかってしまう。
これに下顎の左右のずれが加わりますと、それほど前後的な動きが大きくなくても症状が出てしまうでしょう。
上記3項目を書いていただいたからといって、私がきちんとお答えできるというわけではありませんが、管楽器奏者の顎関節症の治療を考えるときは、通常の場合の他に上記のことを考慮したほうがよいと思うわけであります。
毎日少しづつでも練習したほうがいいとつくづく私が思うのは、どうやらしばらく吹かないと顎が前に出なくなるからでして、週末プレーヤー(ウイークディに個人練習しない人)がある程度の年齢になると下手になるのは、この辺も原因ではないかと最近思うのです。若いときは大丈夫だけど・・・ということです。


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