当院の考え方と特徴

どのように音が出て音色が決まり、どのようにコントロールするのかを知る努力をし、
それがどう歯や咬合と関わっているのかを考えた上で治療をしています。

管楽器と歯科との出会い

管楽器との出会いは、よくあるように中学に入学して吹奏楽部に入部したことです。ホルンを始めてのめり込んでしまい、元々真面目に勉強する方ではなかったので、高校生の時は音大志望でホルンのレッスンの他にピアノなどの準備をしていました。私は単にホルンの勉強がしたかったのですが、将来を考えると教師という選択肢が大きくなってしまう。では上京して普通の大学に行って学生をしながらホルンを勉強しようと高校3年になるときに理系転向をしました。1年経つとそれを忘れてしまい、どうせなら医学部に行こうと方針転換し一浪するつもりが、地元の医学部と試験問題が同じで同じ敷地内にある歯学部に下見がてら受験したら合格してしまったのが、私の歯科医師人生の始まりです。


歯科医師になってそこそこホルンが吹けても、管楽器と歯の関係は全くわかりませんでした。でも、歯並びがよいと楽器を吹くのには良いはずだと、卒業後は矯正歯科の道に進むことにしました。

その頃、アマチュアオーケストラでコントラバスを弾いているという歯科医師の先生が、管楽器と歯についての本を出版されました。その先生は矯正治療は行わない・勧めないで、歯列を改善する手段として歯を削るなど不可逆的な方法も取っていました。歯列と演奏との関係についても記述もちょっと違うんじゃないかなと思う点が多々ありました。

医局内で各自がいろいろなテーマで発表をする機会があるのですが、管楽器について取り上げることにし、内外の管楽器関連の歯科の論文を徹底的に集めて読みました。矯正歯科に関しては管楽器演奏と不正咬合に関する論文はいくつかあるのですが、ではどのように治療をしたらと良いかという奏者の立場からの研究はなかったので、自分で自分の歯に矯正器具を着けて楽器(ホルン以外にもサックス、オーボエも)を吹いてみて問題点を検討しました。


その後、音楽専門高校のホルン専攻の生徒さんを矯正治療する機会がありました。勤務医時代でしたので装置の制約はありましたが、下の前歯の装置はどうにも吹けないというので3日で外し、抜歯ケースでしたので上は外すわけにはいかないと我慢してもらいましたが、部分的なワイヤーなどを使ってとりあえずスペースを閉じて前歯の叢生を改善し8か月で器具を外しました。ホルンの先生にはご理解いただいていても、他にオーケストラや室内楽が必修なので、随分辛い思いをしたようですが、今はドイツでプロ奏者として活躍しています。私にとっても貴重な体験をさせてもらったと思っています。

開業してからは、それまで頭で考えていたことを実践しました。使用する装置、治療方法、治療上の工夫などなど。開業当初からプロ奏者や音大生を治療することができ、治療上の問題点や、治療後の演奏上の改善点などがわかってきました。また、矯正治療だけでなく、レジンを使用して歯の形態を整えたり、アダプターを使うことで、歯と演奏の関係が見えてきました。

自分でも長期間アダプターを使って試行錯誤したり、歯にレジンを盛って歯の長さや形を変えて実験的なこともやりました。同じマウスピースのスロートの太さを変えてレントゲンを撮って、顎位・歯の開きがどう変わるかなんていう実験もしました。 今では、楽器を吹いているところを見て聴いて、歯の調整をしてほら音が良くなったでしょなんていう、自分でも職人技的と思うことが出来るようになりました。

管楽器と歯の関係

日本の管楽器界には「歯なんて関係ないよ」という精神論みたいなものがあります。歯並びが悪くても名人はたくさんいるし、歯並びが良くたってうまくなるわけじゃない。と、ネット上で批判されることもあります。そんなことは私は百も承知です。

歯並びや歯の形は、ある意味その人の運命です。歯並びに問題があってもそれに対応した吹き方になるのでそれなりに上手くなります。演奏が好きになって楽器を続け、もっと上手くなろうと奏法を改善しようとしたときに、歯が問題となることがあります。当院で矯正をしようと来院される人の多くがこのケースです。

歯並びに問題がある人の吹き方は、柔軟性のないことがあります。それはそれで維持できればよいのですが、何か歯にトラブルやスランプになると対応できず吹けなくなってしまうことがあります。

歯並びが原因で楽器が傾いていても、素晴らしい演奏をする奏者はあります。でも、もしかしたらまっすぐに構えられれば、さらに素晴らしい演奏ができたかもしれません。それはわかりませんが、歯を直すことでまっすぐ楽器を構えられるようになって、音が良くなる・楽に吹けるようになる人が大勢いるのは事実です。

歯が直接楽器の音を決めるわけではありませんが、歯は何らかの形でリード(発音体)の状態に影響を与え音色に関係します。金管であれば口唇の振動すること、リード木管楽器であればリードがよく振動すること、フルートであればエッジに当る空気柱が整っていることが大切です。ですので、いわゆる歯並びの悪さの程度と楽器演奏の困難さが比例するわけではありません。ちょっとした歯並びの問題が演奏上大きな支障になることもあるし、すごい叢生(凸凹)でも影響が少ないこともあるでしょう。つるっときれいに並んでいればよいというものではなく、上下左右のバランスの方が影響があるようです。

当院で矯正をした方の感想の多くは、「歯のことを考えずに音楽に集中できるようになった」です。歯並びの条件が悪いと、音域によって楽器のくわえ方・当て方に調整を加える必要がありますが、歯並びが良いとその必要がなくなるのが理由です。これを言われるのが一番嬉しいことです。そういう意味でも、私が目指すのは「歯にとらわれないで吹けること」です。ということは、「歯なんて関係ないよ」という人と根本的には同じ意見なのかもしれません。

私と管楽器

現在私は新交響楽団というアマチュアオーケストラに所属し、自ら演奏活動を行っています。自分でもある程度は吹けていないとわからないことがたくさんありますので、自分の技術的なレベルも向上するように努力し、新しい・正しい奏法の知識を常に得るよう心がけています。

そのため、ミーハーだからということもありますが、世界的超メジャーオケの首席奏者のマスタークラスを受講したり、最近は若手の優秀な奏者のレッスンを受けたりしています。

ホルン以外には、大学生の時にオーボエを数年経験(所属していた吹奏楽団で全日本出場)、10年ほど前にはサックス教室に半年間通うなどしました。だからどうということはありませんが、それぞれの管楽器がどのような仕組みで音が出て音を調整するのかということを、知るようにしています。

新交響楽団以外には、全日本医家管弦楽団、ワールド・ドクターズ・オーケストラといった医療関係者の団体でも演奏をしています。耳鼻咽喉科とか整形外科とか形成外科とか神経内科といった、管楽器演奏に関係ある診療科との連携ができればよいなというのが表向きの理由ですが、実際は昔からの友人との楽しみのために参加しています。


偶然たまたま歯科医師になった私ですが、今はこの仕事で良かったなと心から思っています。

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