退職・解雇の基礎知識
退職とは
退職とは、労働者と使用者の労働契約の終了をいい、次のような種類があります。
- 自己都合による任意退職(労使による労働契約の合意解約)
- 勧奨退職、希望退職(労働契約の合意による解除。但し強迫・錯誤等による場合を除く。)
- 無断退職(労働者からの労働契約の一方的解除)
- 契約期間の満了(契約期間の終期の到来)
- 休職期間満了による退職(就業規則の定めによる)
- 行方不明期間経過による自然退職(同上)
- 定年退職(終期の到来)
- 本人の死亡
解雇とは
解雇とは、使用者側からの一方的な労働契約の解除をいいます。
- 普通解雇(何らかの事情による使用者側からの労働契約の解除)
- 懲戒解雇(懲戒処分として労働契約の一方的解除)
- 整理解雇(人員整理の必要性に基づく労働契約の解除)
- 反復更新後の有期労働契約の更新拒否(事実上の期間の定めのない契約とみなされる場合は、解雇の法理の適用があります。)
- 本採用拒否(試用期間中の留保解約権の行使)
- 採用内定取消(就労前のやむを得ない事由の発生による労働契約の解除)
退職願の効力
1. 労働者側から、一方的に退職願いが出された場合
→退職の意思表示から2週間で民法上の労務提供義務が消滅するため、2週間(翌日起算暦日数)を経過したら、退職は認められます。
2. 労働者側から一旦出した退職願いの撤回の申し入れがあった場合
イ、使用者がその退職に合意する前・・・撤回は認められます。
ロ、使用者がその退職に合意した後・・・撤回は認められません(昭和36.4.27 最高裁1小 八幡製鉄事件)。
ハ、使用者が撤回を認めた場合・・・撤回できます。
3. 退職日の変更
→労働者と使用者の双方が合意すれば退職日の変更は可能です。
勧奨退職とは
従業員として不適格と判断された場合、或いは経営の悪化や人員合理化等により、使用者が労働者に退職を勧告する場合があります。
退職勧告は、それがどのような理由であろうと、使用者の「退職してもらえないか」という「勧め」であって、それに応じるか応じないかは労働者の自由意思によります。
その勧めに応じて労働者が労働契約の解約に合意した場合は「退職」となり、ここに「勧奨退職」が成立します。ただし、その「勧め」行為が強圧的な態度や長時間に渡るもの、脅迫的な脅し、又は錯誤によるものであった場合は、労働者の自由意思によるものではないとみなされ、勧奨退職とならないこともあります。
使用者の勧めにより、労働者が自らの自由意思で同意したのですから、勧奨退職は「解雇」(労働者の同意がない使用者側からの一方的な労働契約の解除)ではありません。(昭和27.7.2東京地裁)。
退職勧奨が前記の通り強迫や錯誤によりなされたものであるときは、労働者の「退職」は無効となり、場合によっては民法上の「不法行為」による損害賠償を請求される場合があります(H14.3.25.東京地裁 東京医科大学雇用関係存続確認等請求事件他)。
退職勧奨の場合は「解雇」ではありませんから、解雇の法理(合理的理由の必要性)は適用されません。念のため、「退職願い」(合意解約の申込み)或いは「退職承諾書」(合意解約の承諾)をとっておくとよいでしょう。
退職願い等の提出は、労働者の自由意思による退職の意思表示として有効な文書といえます。
希望退職とは
希望退職も勧奨退職と同様です。
会社側の希望退職の募集に対して労働者の自由意思により労働契約を解除するわけですから、労使双方が労働契約の解除に合意した「退職」となります。
勧奨退職と同様、会社都合によるからすべて「解雇」というわけではなく、このような「会社都合による退職」というものもあり得るわけです。
後日のため「退職願い」「希望退職合意書」等の文書をとっておくとよいでしょう。
雇用保険法による失業等給付の給付水準の決定については、人員整理を目的とし、措置が導入された時期が離職者の離職前1年以内であり、かつ、希望退職の募集期間が3ヶ月以内である場合においては、原則として「特定受給資格者」と認定されることになります(ただし、いわゆる「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合はこれに該当しません)。
退職強要
前述したように、勧奨退職、希望退職について、錯誤、詐欺、強迫によって、退職の意思表示が行われた場合は、その退職は無効といえます。
退職強要を行うこと自体が損害賠償の対象となる場合もあります。
長期間に渡って多数回、数名で「退職勧奨」を行ったことが違法とされ、損害賠償を命じられた事例もあります(昭和55.7.10最高裁1小法廷 下関商業高校事件)。
解雇の要件とは
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(労働契約法 第16条)――。
「解雇」には、社会通念上、やむを得ない相当な理由があることが必要です。
◎「その解雇につき万人をして肯首するに足る相当の理由がなければならない」(昭和43.4.24東京高裁)。
◎「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理性を欠き、社会通念上相当と是認することができない場合は、解雇は無効である」(昭50.4.25最高裁2小 日本食塩製造事件)。
合理的理由の判断は、常にケースバイケース、実態に即して判断されるべきものです。
解雇の手順
「解雇」する場合は、少なくとも次の手順に照らして実行しなければなりません。
このうち、[5]の「解雇に正当な合理的理由があること」が最も重要な要素であることはいうまでもありません。
[1] 就業規則等の解雇事由に該当すること
↓
[2] 就業規則等に定める解雇手続きの履行をすること
↓
[3] 労基法の解雇予告(手当)の履行(30日前〜等)をすること
↓
[4] 法律上の解雇禁止事由に不該当であること
↓
[5] 解雇に社会通念上相当な合理的理由があること
普通解雇の事由
1. 心身の事故により業務に堪えられないたき
(例) 身体又は精神の傷病等により、就労が長期にわたり困難又は不可能なとき
2. 業務に非協力的で協調性を欠くとき
(例) 仕事をしない、他人の悪口をはばからない、決まりごとを守らない等々チームワークを 極端に乱す行為をいくつも繰り返し、職場にとって業務の障害となっているとき
3. 勤務成績、勤務態度不良等によるとき
(例) 入社以来の遅刻回数、遅刻合計時間は、昭和37年3月17日から同年11月15日間に48回、701分・・・昭和40年10月1日〜昭和41年1月10日間に22回、903分。上司の再三にわたる注意も聞かず改善の見込みが立たないため懲戒処分による諭旨解雇は有効。(昭43.8.10東京地裁 三協工業事件)
(例) 無断欠勤、上司の指示に対する違反、職場の同僚に対する悪影響を及ぼす発言及び常軌を逸した行為が度々あり、「誓約書」として念書を入れた後も何ら改善がなされないで更に繰り返したケースについて就業規則の「勤務成績が著しく悪く、向上の見込みがないと会社が認めるとき」に該当し普通解雇は有効。(昭49.7.2東京地裁日本エヌ・シー・アール事件)
(例) セールスマンの販売成績が著しく劣悪(最低でも責任額の32%なのに同一期につき4.95%に過ぎない)で、販売活動の面においても活動予定表記載の予定訪問先がしばしば異なっており販売活動に計画性がなく、上司がしばしば注意を与えたが改善の後が見られなかったケースについて就業規則の「業務能率が著しく劣り、その向上の見込みなし」に該当し普通解雇は有効。(昭49.7.2東京地裁 ゼネラル事務機事件)
懲戒解雇の事由
懲戒解雇とは、懲戒処分として労働契約を解除して労働者を企業外に排除するものですから、「客観的にみて企業の秩序維持ないし生産性の維持向上に相反するもので当該労働者を企業内に留めることが社会通念上期待し得ないような行為」(昭49.3.26大分地裁小野田セメント事件)でなければ認められません。
(例) 「会社の企業秩序を乱す重大な規則違反であり、そのような原告を企業内に残しておくならば、被告の企業秩序維持は困難となるから原告は被告から排除されてもやむを得ない」として懲戒解雇は有効(昭50.5.7東京地裁 日本コロンビア事件)。
(例) 「転勤命令に業務上の必要性が存し、転勤が労働者に与える家庭生活上の不利益は転勤に伴い通常甘受すべき程度のものである場合に、就業規則に基づいた転勤命令を拒否した懲戒解雇は有効」(昭61.7.14最高裁2小)。
(例)「駅員が駅に預けられた遺失物を横領したのは懲戒規程の”職務の内外を問わず非行ありたるとき”に該当し、懲戒解雇に該当する重大な非行ということができる」(昭和37.6.6東京地裁)。
(例)「就業規則所定の”刑事上の罪に問われた者”とは、少なくとも公訴の提起を受けた者であることが必要であり、逮捕されて取調べを受けたにとどまる者はこれには含まれないと解するべきであって、懲戒解雇は無効」(昭和47.6.10岡山地裁)。
解雇予告と予告手当
<解雇予告の原則>
使用者は、労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前までに予告をしなければなりません。
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
(労働基準法第20条第1項)
<予告日数の計算の仕方>
予告は30日前であれば30日より長くても差し支えありません。
予告期間の計算は、民法の原則により解雇予告がなされた日は算入されず、その翌日から算入されます。
従って、3月31日をもって解雇したい場合は、少なくとも3月1日には予告をしなければなりません。
また、30日は労働日ではなく暦日で計算しますから、その期間内に休日や休業日があってもそのまま計算します。
<解雇予告の仕方>
予告は口頭で行っても有効ですが、後日の証拠のため、文書で行っておくのが確実な方法です(「解雇通知書」)。2部作成し、労使各自で所持してください。
「口頭」だけで事が足りていると思うのは、後で後悔することになります。
解雇予告は使用者による一方的な労働契約の解除の意思表示ですから、使用者はその解雇予告を取り消すことはできません(昭和52.10.3東京地裁)。
しかし労働者が自由な判断で同意を与えた場合は、これを取り消すこともできます(昭和33.2.13基発90号)。
<平均賃金と解雇予告との両刀使い>
解雇予告をしない(即時解雇をする)使用者は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
また、予告を10日前に行って、平均賃金の20日分の解雇予告手当を支払う(合計で30日分の意)という両刀使いでもOKです。
<解雇予告手当除外申請>
天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が困難になったとき又は労働者の責めに帰すべき事由により解雇する場合は、所轄労基署長の認定を受ければ解雇予告手当を支払わないことができます(労基法第20条1項但し書き)。
労働者の責めに帰すべき理由により解雇する場合の労基署長の認定基準要旨は下記のとおりです(昭和63.3.14基発150号)。
- 極めて軽微なものを除き、事業場内における窃盗、横領、傷害等の刑法犯に該当する行為を行った場合
- 賭博、風紀紊乱等により職場の秩序を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
- 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
- 他の事業へ転職した場合
- 原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
- 出勤不良常ならず、数回にわたっても改めないとき
解雇禁止事由とは
法律上の解雇禁止事由は下記の通りです。
- 不当労働行為となる解雇は禁止
- 業務上の傷病による休業期間とその後30日間、産前産後休業中とその後30日間は解雇禁止
- 国籍、思想、信条等を理由とする解雇は禁止
- 監督機関に対する申告を理由とする解雇は禁止
- 女性であることを理由とする解雇は禁止
- 女性の婚姻、妊娠、出産を退職理由と予定する定めの禁止
- 婚姻、妊娠、出産、産休、育児・介護休業を理由とする解雇は禁止
解雇予告と退職金の受領
解雇された労働者が解雇を承認する意思で解雇予告手当や退職金を異議無く受領した場合には「解雇を承認」したものとして、原則として解雇の黙示の承認があったものとみなされます(昭36.4.27最高裁2小八幡製鉄事件)。
整理解雇の4要件
不況等経営上の事由によって過剰人員になり、経営規模の縮小、部門の閉鎖等に よって人員整理の必要が生じた場合に行う「整理解雇」については、次の4つの要件を充たしていなければなりません。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避の努力
- 整理手続きの適法性
- 整理対象者選定の合理性
1. 人員整理の必要性
「企業が客観的に高度の経営危機にあり、解雇による整理が必要やむを得ないものである」こと。(昭和55.2.29神戸地裁 日本スペインドル製造時件)「使用者が人員整理をするについては失業を避けるためにあらゆる努力を払うべきであって之が為には自発的退職者の募集、配置転換、作業方式の科学化等その他経営の合理化等に手段を尽くした上で、之を為すべく・・・等の手段を尽くさないときは使用者の誠実性が疑われ人整理が真実企業の合理化に基づくものかどうか疑問を抱かれる結果になる」(昭25.5.30佐賀地裁 杵島炭鉱事件)
2. 解雇回避の努力
配置転換、出向、残業の廃止、新規採用の中止、昇給停止、一時金支給の中止、賃金引下げ、一時帰休、希望退職募集、下請けの解約など「解雇を避けるためできるだけ努力を払うべきである」(昭50.3.25東京地裁 川崎化成事件)
3. 整理手続きの適法性
「人員整理にあたっては整理手続きを守らなければなりません。整理手続きとしては整理順序(パートタイマーから先)、整理方法(希望退職募集等)、労組や労働者に対し協議又は説明交渉の義務等があります。
4. 整理対象者選定の合理性
全員解雇ではなく一部解雇のときは、なぜその従業員が整理の対象となったかということについて合理的な理由が必要です。その選考基準とは、
a. 解雇しても生活への影響が少ない者
b. 企業再建、維持のために貢献することの少ない者
c. 雇用契約において企業への帰属性がうすい者等が挙げられますが、具体的に企業ごとに選定基準を策定しなければなりません。
「解雇基準を定立し、これに基づき被雇用者を選定するという配慮をしなかったことは、著しく信義に欠けるものであって、右解雇権の行使は権利の濫用として無効である。」(昭46.6.12津地裁 タチカワ事件)
有期雇用契約の雇止め
一定の期間を定めて雇用した場合には、その期間が満了すれば定年の到来と同じように労働契約が自動的に終了するので、「解雇」ではなく「退職」に該当します(昭23.1.16基発56号)。
しかし、期間の定めのある雇用契約が一回限りで終了するのではなく、契約期間満了時に更新し、反復更新していった場合に、それが慣例的に行われている場合は、原則として期間の定めの無い雇用契約と同等の契約効果をもつものとされます。
イ、更新拒否は「解雇」か
雇用契約を反復更新していくと、「この契約が反復されるにしたがって漸次その有期的性格を失い」(昭46.3.2 水戸地裁 日立製作所事件)、「あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態」となり、「期間満了によって雇い止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推される」(昭49.7.22最高裁 東芝臨時工事件)ことになります。
従って、雇い止めが解雇又は実質的に見てそれと同じような法理が適用されることになります。すると、労基法20条1項の「解雇予告」の定めに従うこと及び雇い止めに当たっての「正当理由の存在」等前述した一般的解雇要件(社会通念上相当の理由等)が必要となってきます。
ロ、期間の途中での解雇
雇用契約書に、契約期間中はいつでも「解雇、退職できる」旨の定めをしておくと、期間途中に契約解除する場合であっても使用者側も労働者側も安心でしょう。
しかし、このような定めがなく、労働者もその期間は退職が禁止され、使用者も解雇が禁止されるとなると問題です。
使用者側としては、雇用期間の途中で解雇する場合は、民法上残余期間の賃金の支払義務が生じる場合があります。
雇用期間中に解雇する場合、それが「一方の過失に因って生じたとき」は、「相手方に対し損害賠償の責めに任ずる」(民法628条)ので注意する必要があります。
その解雇が労働者側の勤務成績不良等が原因である場合は、使用者は、残余期間の賃金の支払いは免除されることになります。
ハ、労働者側から期間の途中で退職の申出があった場合
民法628条の定めにより、やむを得ない事由がなければ退職できないのが原則ですが、労働者がどうしても退職したいと申し出る場合は、労働契約を合意によって解約するか(「退職」)、そもそも当該労働契約で定めた労務提供が今後期待できないとして普通解雇にする方法も考えられます。
試用期間中の解雇
試用契約における留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるとされています。
ただし、この解約権の行使は、その留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合のみに許されます。「3ヶ月の試用契約を付した雇用契約は、解約権留保付の雇用契約であり、本採用拒否は雇入れ後における解雇にあたる」(昭和48.12.12最高裁大)。