書名:座右の山本夏彦
著者:嶋中労
発行所:中央公論新社
発行年月日:2007/11/10
定価:740円+税
古い友人との語らい。友人というのは故人であったり、本と出会った友人だったりと幅広い人々の友人があると思う。「生きているのは死ぬまでの暇つぶし」「人間というものはいやなものだなぁ」そう思いつつ死の間際までペンを握り続けた当代随一の毒言翁。山本夏彦。
「めでたく時空を征伐してそれだけ暇になりましたか、給金があがりましたか。ただ何倍何十倍忙しくなっただけじゃないかと老荘の徒は言う。けれども出来てしまったものは無かった昔に返せません。こうして人類は刻一刻と破滅に向かっています」「論より証拠というより、証拠より論の時代なのである」「人前で立派なことを言う人なら、たいていうそつきである」「忌憚なく言えということはほめてくれということだ」「私は記事より、広告を信じる」懐かしい夏彦節がいっぱい詰まっている。文語文の素養、漢文の素養、今の人間にはない凄い教養、語彙の豊富さ夏彦を超える人はいないのではないかと思う。またこの人は同じ事を繰り返し繰り返し述べているので、古いようで今でもまた新しい。
短文の良さか?読むたびに違った思いにとらわれる。今はちょっとあの世に出張しているが、何かの拍子にすぐ側に現れるのではないかと期待させられる。夏彦なら「明日のエコでは間にあわない」など全く具体性のない表現など笑ってしまう。「人命は地球より重い」などせせら笑っていた。「婦人には参政権はいらない」と堂々いっている。しかしその後で「男性にも参政権はいらない」と。その本心は?
命を捨ててでも国、国民のことを考える人。行動する人に参政権を。民主主義の限界を知ったつぶやきだったのかもしれない。今の世の中の動きを見ていると夏彦ならずとも笑うしかないなのかもしれない。子育て支援に使うために扶養控除を止める。専用主婦の人権侵害もはなはなだしい。国に育てられた子供は絶対は親、年寄りのことは顧みない。子供はやっぱり親の働いたお金で育てる者、親権を放棄させるような政治に明日はない。とぼやくかも?辛口、毒言に触れるのもまた必要ではないかと思う。久々の夏彦に気分転換出来たような気がする。
こんな小学生どう思います。若い頃に自殺を2回も試みた夏彦と合わせると見えてくるかも。
本書より
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人の一生(山本夏彦 小学校4年生の時の作文)
おいおい泣いているうちに三つの坂を越す。生意気なことを言っている内に少年時代は過ぎてしまう。その頃になって慌て出すのが人間の常である。慌てて働いている者を笑う者も自分たちがしたことはとうに忘れている。かれこれしている内に二十代は過ぎてしまう。少しでも金が出来るとしゃれてみたくなる。その間をノラクラ遊んで暮らすものもある。そうなことをしているうちに子供が出来る。子供が出来ると少しは真面目に働くようになる。こうして三十を過ぎ、四十五十も過ぎてしまう。またその子が同じ事をする。こうして人の一生は終わってしまうのである。