書名:白浪五人男
著者:鈴木輝一郎
発行所:双葉社
発行年月日:1999/7/1
ページ:343頁
定価:1800 円+税
河竹黙阿弥「白浪五人男」は歌舞伎でも有名。この中に出てくる日本左右衛門は池波正太郎「雲霧仁左衛門」のモデルにも鳴っている。臭い台詞もいっぱい。ちょっとしたパロディ。なかなか面白い。垂井宿から小田原宿までを縄張りとしている盗賊団、日本党の首領日本左右衛門。白浪五人男が江戸城に侵入、家康の御用金を探しに、奇想天外な物語。
本書より
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日本左右衛門
生まれは遠州浜松在。十四の年から親にはなれ、身のなりわいも白浪の、沖を越えたる夜働き。盗みはすれど非道はせず。人に情けを掛川から、金谷をかけて宿々で、義賊と噂高札に、回る配付の盥越し。危なきその身の境涯も、最早二十五に人間の、定めはわずか五十年。六十余州に隠れもなき。賊徒の首領、日本左右衛門
弁天小僧菊之助
浜の真砂と五右衛門が、歌に残せし盗人の、種は尽きねえ七里ヶ浜、その白浪の夜働き、以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの児(ちご)ヶ淵、江戸の百味講(ひゃくみ)の蒔銭(まきせん)を、当(あて)に小皿の一文字、百が二百と賽銭の、くすね銭さえだんだんに、悪事はのぼる上の宮、岩本院で講中の、枕捜しも度重なり、お手長講と札附に、とうとう島を追い出され、それから若衆の美人局、ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた祖父さんの、似ぬ声色で小ゆすりかたり、名さえ由縁(ゆかり)の弁天小僧菊之助という小若衆さ
南郷力丸
富士見の間から向こうにみる、大磯小磯小田原かけ、生まれが漁師に波の上、沖にかかった元船へ、その舟玉の毒賽を、ぽんと打ち込み捨碇(すていかり)、船丁半の側中(かわじゅう)を引っさらって来る利得(かすり)とり、板子一枚その下は。疑獄と名に呼ぶ暗黒(くらやみ)も、明るくなって度胸がすわり、艪を押しがりやぶったくり、船足重き刑状(きょうじょう)に、昨日は東今日は西、居所定めぬ南郷力丸
忠信利平
続いて次に控えしは月の武蔵の江戸育ち、がきの折りから手癖が悪く、抜け参りからぐれ出して、旅を小股に西国を、廻って首尾も吉野山、まぶな仕事も大峰に足をとめたる奈良の京、碁打といって寺々や豪家へ押込み盗んだる、金が御嶽の罪料は、蹴抜の塔の二重三重、重なる悪事に高飛びし、あとを隠せし判官のお名前騙りの忠信利平
赤星十三郎
亦その次に連なるは、以前は武家の中小姓、故主のために切り取りも、鈍き刃の腰越えや。砥上ヶ原に身の錆を研ぎ直しても、抜きかねる、盗み心の深みどり、柳の都谷七郷、花水橋の切り取りから、今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に、月影ケ谷、神輿ケ獄、今日ぞ命の明け方に、消ゆる間近き星月夜、その名も赤星十三郎