2005年8月はこの3公演

 


Oi-SCALE「ミチガエレセカイ」

THEATER/TOPS 8/11〜8/18
8/13(土)マチネ観劇。座席 D-5

作・演出 林灰二

 下水道臭い刑務所の地下牢。その暗闇に5つの独房が並んでいた。中には、それぞれ5人の死刑囚が収監されている。上野(太田恭輔)、池内(トモヒカン)、新谷(須永祥之)、渋谷(大政知己)、品川(林灰二)、それぞれ人を殺しているが、独房生活の中で徐々に記憶が薄れていて「殺したらしい」という記憶しか残っていない。そんな彼等の牢屋の鍵は何故か壊れていた。ただ、新谷の鍵だけは壊れていなかった・・・。囚人達は、気が狂う前に脱走しようと話し合う。しかし、4人は新谷だけを残して逃げるべきか悩む。しかし、逃げなければ死刑の日は確実にやってくる。ただし、逃げたとして地上に何が待ち受けているかも判らない。
 一方、看守達<新田(星耕介)、四方(人見英伸)、市岡(吉河童夢)、飯田(清水慎太郎)、水橋(川崎賢一)>は、囚人達の食事には強い鎮静剤が入っているので爆睡していると思い、禁止されている酒を飲み、ポーカーで時を過ごしていた。ただ一人を除いて・・・。
 そんな見せ掛けの檻に仕切られた二つの世界。その二つが交錯した時、ある真実が浮かびあがる・・・。

 「この物語の結末は決して他言しないように」との注釈があるので、これ以上ストーリーには触れないが、イマイチ未消化である。・・・う〜ん、触れないと書いてみたものの、やっぱ若干触れないと感想が書けないので、間接的には触れちゃうと思います。ごめんなさい。知りたくない人は、これ以降、読まないでください。

 観劇後“どうなんだろう”的な一つの疑問が頭をよぎった。林灰二は、脚本を書く時に、物語世界をどのようにイメージして書いているのだろうか?舞台が浮かんでいるのか、それとも映像が浮かんでいるのか、そんな疑問がふっとよぎったのである。で、自分的に勝手な想像で結論づけたのが“映像化”しているに違いないという事。だから、頭の中で創造された物語は、凄い事になっていると思う。ただ、それが舞台上では、差程面白くないのである。失礼な言い方かもしれないが、その面白くない状態を、本人は気が付いていないように感じる。

 具体的なシーンを言えば、内面的な世界と外面的な世界(真実と嘘)が交錯した場面。それぞれの持つ意味がわかってくる大切な場面なのだが、それが全然衝撃的じゃない。せっかくの見せ場なのに。もし、映像ならば、その逆転がカメラワークで生かされていたに違いない。しかし残念な事に、舞台では「ふ〜ん、そうなの」程度なのである。あそこで「なるほど!!」と驚愕できなければ、全てのシーンが生きてこない。面白いであろう物語が平淡な芝居になってしまい、心打つには程遠い作品となってしまう。って言うかなっていた。その原因は、伝え方(演出)に何かが足らないからと、考えられないか。まぁ、偉そうに言える程の知識は持ってないけどね。そして、追い討ちをかけるように言わせてもらえば、他の人に演出を任せてみるのも一考ではないかと。あの脚本なら、もっと面白い芝居になったはず。

 と言っても、絶賛できるほどの脚本ではないのであしからず。次第点ではあるけどね。四方のエピソードなど(嫁さんが美人だけど料理は下手だとか、旦那のいない間に男を作って家出したとか)は、ありがち過ぎてガッカリである。全てが内面世界の葛藤であり、四方のエピソードさえも新田の過去のエピソードの移し替えなのかもしれない。だとしても、ベタ過ぎ。もっと創意工夫が欲しい。

 と、文句ばかり並べているが、初観劇での印象は悪くない。希望としては、もっともっとダークサイドに向かって突き進んで欲しいと願う。一番印象に残っているのが、開演前の居心地の悪さ、不安感なので、そんな空気が全編で味わえれば、素晴らしいと思うのだが。

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クロムモリブデン「ボーグを脱げ!」

中野MOMO 8/10〜8/14
8/13(土)ソワレ観劇。座席 F-8(招待)

作・演出 青木秀樹

 ストーリー的なものはあるのだが、どう表現していいやら悩む。いろいろな要素が絡み合い、一つの物語を形成しているのだが、時間軸通りにはなっておらず、ラストシーンのある意味“初まり”で作品が完結する。ただその物語は、主人公であろう信国輝彦演じる中年男性の物語であって、根底に流れる本当の物語は間接的にと言うか、切り取ったものを随所に貼付けたように形成されている。否、ちょっと違うな。核心であろう物語(テーマ)は『たたいてかぶってジャンケンポン!』で提示されているのだから、そこから派生したのが、中年男性の物語と言える。サイドストーリーを語る事によって本質を見せるみたいな、そんな感じ。って抽象的だ。

 舞台は、中年男性が昔流行した『たたいてかぶってジャンケンポン!』(略して『たたかぶジャポン!』)について、少女に話しかけているシーンから始まる(このシーンがラストに繋がっている)。それは、全国的に流行し、戦って勝てれば次の対戦ができるという、トーナメント方式で行われるゲームであった。一般的には洗面器とハリセン(ヘルメットやピコピコハンマーもあり)でジャンケンで勝った者が責め具(ハリセンとか)、負けた者が防具(洗面器とか)を素早く手にし戦う遊びである(まぁよくテレビのバラエティー番組でやっているアレです)。しかし、戦う部屋によっては、ハリセンしかなかったり、剣道の面のみが置かれてあったり、ナイフが刺さっていたり、カメラだったりと様々。そして疑問を投げ掛ける「ピストルに対しては何が防具なのか」と・・・。責め具のピストルに体しての防具は、ピストルなのか・・・。責め具には責め具なのか・・・。それとも「撃たない心」が防具なのか・・・。
 『たたかぶジャポン!』の対戦で、剣道の面をかぶり責め具を探す男がいる。物語は、その中年男性の話へと突入する。その剣道の面は防具ではなく、拘束具であった。男は性犯罪を犯し拘束具を付ける事によって一般社会に復帰を許されていた。そこから物語は、児童虐待、児童性犯罪、犯罪者の更正へと加速する。
 そんな様々な重いテーマが、ナンセンスな流れの中で描かれていく。

 いやぁ〜面白い!ここ3作連続で観ているが、本当に面白い。昔観た『カラビニラダ―雪22市街戦ナウ』のつまらなさが記憶に残っていて、ずーと観る事を拒んでいたが、この変化は何?ってくらいに面白くなっているのである。作者も作風を変えたと明言しているが、同じ人が作ったとは思えない変化。人は変われるものなのね。でも、戦争に対する批判は昔からのような気もする。『カラビニラダ―雪22市街戦ナウ』の記憶が曖昧だけど・・・。

 ラストは、“ある物”(何かは語れないし、明示もしてないけど、ある物が想像できる・・・)を食べるシーンで終わらせているのだが、その構成には鳥肌が立った。時間軸通りに描いていたなら、この嫌な後味は決して出せていない。そんな構成も素晴らしいが、役者が魅力的なのもクロムモリブデンを面白くしている大きな要因だと確信している。森下亮、金沢涼恵、板倉チヒロ、重実百合、信国輝彦と個性豊かな役者が、その個性を生かして舞台にあがっている。なかでも重実百合のかわいらしさったら言葉にできん。客演の浅田百合子にも驚いた。エビス堂大交響楽団ってとこの所属らしいが、まだまだ大阪にはずごい役者がいるのだなぁ〜と感心してしまった。

 それにしても次の公演が一年後というのは寂しい限りである。って言うか、一年先まで重実百合に会えないのが淋しい・・・(本音)


“クロムモリブデン”自分が観た公演ベスト
1.ユカイ号
2.ボーグを脱げ!
3.ボウリング犬エクレアアイスコーヒー
4.カラビニラダ―雪22市街戦ナウ

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ヨーロッパ企画
「サマータイムマシン・ブルース2005」

下北沢駅前劇場 8/17〜8/23
8/19(金)観劇

作・演出 上田誠

申し訳ありません。まだ書けていません。

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ヨーロッパ企画「囲むフォーメーションZ」

下北沢駅前劇場 8/26〜8/29
8/29(月)観劇。座席 D-8

作・演出 上田誠

 とある研究開発会社。ワンフロアの社内は、同じ広さで9つの部屋に区切られており、各部屋は扉で行き来できるようになっていた。その会社では、世界が仰天するほどの画期的な研究が進められている(らしい)。ただし、研究は、事務局の心配を他所に牛歩状態であった・・・。
 そんなある日、この会社のセキュリティが問題になる。メインサーバーにはバックアップの為のメモリーが挿しっぱなしの上、サーバーが置いてある第1開発室までは、人の目も少ない。加えて施錠もされていない。産業スパイが、この研究を狙っているという噂も流れている。そこで、従業員達はセキュリティについて話し合う事に。それを、廊下→休憩室→第3開発室→第1開発室→第2開発室→事務室→所長室→玄関→トイレという順番で舞台を移し、展開していく・・・。

 今回“夏の陣”として企画された再演2本のうちの1本である。上田誠によると「僕がこれまでヨーロッパ企画の中でいちばん好きな作品の再演なのです。(当日パンフより抜粋)」との事。自信たっぷりな作品なのだろうが、自分としては“?”な作品であった。
 さまざまな視点で、ある時間を描いていて、前の場面で隣の部屋に入っていくシーンがあれば、次の場面では、隣の部屋から入って来るシーンになっている。そんな構成の面白さ、発想の豊かさは堪能できるが、それが面白さに結びついていない。時間の流れ的にも矛盾を感じる。同じ人間がいくつもの部屋にいるように感じてしまったのである。これは自分の洞察力不足で、計算されて作られているので矛盾はない、と怒られるかもしれない。それなら素直に「ごめんなさい」と謝るが、自分の体感時間としてはすっきりしなかった。あと、バックアップの為の外付けハードディスクが、しょぼいメモリースティックなのも「あれは何?」って感じなのである。ラストのしょうもないシーン(褒めてます)に繋げるには、あれでいいのかもしれないが、あんなものでバックアップが取れるデータ量で、画期的な研究結果が網羅されているのだろうか?プログラムだけだからあんなものなのだろうか・・・?

 そんな些細な点を除いても、今回は内容の薄さに不満が残る。構成に力を注いだ所為なのか、あまりにも物語が薄く感じてしまった・・・。初めて観たヨーロッパ企画の作品(『サマータイムマシン・ブルース2005』)があまりにも面白く、今回の作品に多大な期待を抱いてしまったから、大きな落胆を感じてしまったのだろうか・・・ホント前回の観劇で大きな衝撃を受けただけに、落差はでかい。急降下っすよ。
 ただ、今後に大いに期待が持てる劇団ではある。役者の個性も好きなので、次回作に期待しようと思う。


“ヨーロッパ企画”自分が観た公演ベスト
1.サマータイムマシン・ブルース2005
2.囲むフォーメーションZ

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