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99.3.1(月) 「本格ミステリーを語ろう!」
・鷹見緋沙子問題も終わって、やれやれ。(勝手に終わらせてる奴)
・ミステリ系では著名なサイトだとは思いますが、松本楽志さんの「ぱらでぁす・かふぇ」にリンクさせていただきました。オリジナリティ高い書評には、よく唸らされます。
・鷹見問題再考のきっかけとなったメールを送っていただいた方から、再度メールを送っていただきました。平伏。結果は、内緒。でも、「鷹見緋沙子」の正体に関し、さらに意外なことが書かれていたのは、驚きでした。
・もう、既にWeb上のあちこちに出ているようだが、「EQ」休刊らしい。創刊号から毎号買ってきただけに(その割に何冊も欠けている)、残念。
・「本格ミステリーを語ろう!」(海外編) 原書房
 芦辺拓・有栖川有栖・小森健太朗・二階堂黎人の対談集。意外に面白かったといったら失礼か。新本格のファン向けの啓蒙対談かと思ったが、濃度はかなり。各作家の語り口は、それぞれマニア・詩人・分析家・信者を思わせ(誰がどれに相当するかはご想像におまかせ)、キャラも揃った感じ。特に、前半、カボリオ、ボアゴベ、コリンズといった、余り語られることのない作家たちのところや、クイーンをめぐる部分は興味深かった。一方で、セイヤーズや、新本格派といわれたブレイク、クリスピン、イネス、70年代のイギリス本格(P.D.ジェイムズ、レジナルド・ヒル)といったあたりの英国本格には、共通して、無理解というか、非寛容な点は気になった。ゴリゴリの本格といった面では若干物足りないかもしれないが、この辺への理解が抜けてしまうと、ミステリの楽しみの大事な部分で抜けてしまうようで、なんとも、もったいない。いまだに日本の新本格の多くが垢抜けないのは、この当たりにも一因があるのかもしれない。あとは、個人的好みの問題かもしれないが、二階堂黎人の発言は、あちこちで違和感を覚えた。(彼の語るロードの「ブレード街」のあらすじは全然違うのでは ないか、とか)


99.2.28(日) 緋沙子再襲撃6(一応、最終回、またも長尺)
・メール・コーナー発進です。今回は、洋物・和物幅広く読んでおられるあけみさんの二本分掲載です。当分、彼女の天下になるかもしれませんが、どなたでも、ミステリや山風、当HPに関することをお寄せいただければ、うれしいです。
・リンク遅れてすみません。>関係者
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・昨日、図書館から、愛川晶・美唄清斗「合わせ鏡の迷宮」(96.7創元クライム・ブック)と天藤真「日曜探偵」(92.5出版芸術社)を借り出す。前者は、小林文庫ゲストブックで、謎宮会・高橋さんが鷹見緋沙子ハウスネーム説について触れていると紹介していた本(情報の出所は、葉山馨さん)。  戸川安宣氏が「はじめに」で、内外のミステリの合作について触れているくだりで、確かに次のように書いている。
 「あるいは、数名による合同筆名、鷹見緋沙子という特異な例も思い出される」
 と、これだけなのだが、鷹見緋沙子がハウスネームであることについて明言している資料で捕捉できるのは、これだけ。別段、業界のタブーでもないらしい。 次に「日曜探偵」の方は、巻末に天藤真の作品リストが載っており、その最後で新保博久が「右記のほか、75年8月に刊行された別名義の長編があるが、その名義は複数の作家が共通して用いたハウスネームで、今後他の作家によって使用される可能性もあるため、今回は公表を見合わせた」と書いているのが確認できた。
 それと、昭和48年刊の天藤作品「皆殺しパーティ」も読んでみた。(天藤作品を3作も読めたのが実は最大の収穫)
・というところで、前回に続く。−しかし、そうなると、「わが師はサタン」の執筆者は、天藤真ということになる。(天藤真がハウスネーム鷹見緋沙子の一員であり、種々の噂から「わが師はサタン」か「最優秀犯罪賞」が天藤真の作品であることを前提としている。「死体は二度消えた」は、文章的にも、考慮外と思われる)。
 その色眼鏡で、「わが師はサタン」に当たると、不思議なもので、天藤真の長編と共通する特色を幾つも見い出すことができる。
○探偵役が複数のチームである
 今回読んだ三長編でいうと「鈍い球音」が新聞記者4名プラス監督の娘がチームを組むし、「皆殺しパーティ」では、命を狙われた富豪が腹心の男女に犯人を探らせる。「殺しへの招待」では、殺人予告をされた4人の男と殺人容疑者の愛人がチームを組んで、容疑を晴らそうと奔走する。 「わが師はサタン」は、殺人事件の発生は中盤だが、それ以降は男女の学生6人グループが探偵チームとなる(この探偵チームのリーダー役が次々と変わっていくという趣向については、既述のとおり)
○事件の黒幕が存在する
 ミステリーだから、当たり前じゃないかと思われるかもしれないが、ここでいう「黒幕」というのは、普通の事件の犯人という意味とは、ちょっと違う。「黒幕」は、本来の自分の目的を達成するために、「善意の第三者」(「皆殺しパーティ」の表現)たちが起こす行動を自分の計画に組み込んで、事件というか状況全体の操り手となっている。天藤作品の冒頭の不可思議なシチュエーションも、実は、「黒幕」の考え抜かれた意志による場合が多い。その正体を隠蔽するためのレッドへリングの巧妙さも三作に共通する。「わが師はサタン」にも事件全体の黒幕が存在し、容易にその姿は明らかにならない。
○探偵・犯人・被害者の互換性 上の黒幕の存在というのとも密接に関わるのだが、新保博久氏は、「日曜探偵」の解説で「天童真作品に通底する基本的なミステリー作劇術をお教えしようか。それは、探偵・犯人・被害者の互換性ということだ」と書いている。これは、言い得て妙の指摘であって、三作を並べてみても、殺人事件があって、謎解きというのではなく、登場人物たちがいやおうもなく(黒幕の意志で)、状況に投げ込まれ、その状況の中で、探偵・犯人・被害者の間をめまぐるしく流動する。「わが師はサタン」では、学生たちは、凶悪な冒頭の事件の「犯人」だが、実は「被害者」であることが判明し、最終的には「探偵」の役割に移行する。黒幕にしても、このミステリを構成する3要素の間を行き来する。作中の探偵リーダー交替という趣向も、この互換性という特質の一環として考えられるかもしれない。
 プロットの特徴という点では以上だが、細部においても、天藤作品と思わせる要素が存在する。
○大学が舞台になっているという点。天藤真は、敬愛女子短大の非常勤講師を務めていたのは周知の事実。千葉大で創作講座をもっていたこともあるらしい。作中、非常勤講師の待遇の良くない実態が述べられている(55p)点や、教官の出世争いに言及されている点にも注目。
○中島河太郎が「この田俊二にとどまらず、青春を満喫している学生たちの思考ゃ行動も著者は、温かい目で見守っている」と書いているのも怪しい。読んだ印象では、必ずしも学生たちに温かいという印象はなかったのだが。この解説は、天藤真執筆に係るものであることを念頭に置いているのではないか。
 その他、
○教授夫人が乗っている車は「真珠色のマーキュリー」だが、マーキュリーは、「わが師はサタン」の翌年の短編「宙を飛ぶ死」(昭和51年2月「遠きに目ありて」第2話)に登場する。
○主人公とヒロインがあだ名で呼び合う(「リュー」「サタ」。これは、悪魔の階級の略称)のが、「炎の背景」の若い主人公の二人が「オッペ」と「ピンクル」を思い起こさせる。
○テープレコーダーによる録音が作品中の重要な位置を占める(「皆殺しパーティ」を想起せよ) 
 などにも、共通性が見いだせるのではないだろうか。
 次に文章。
○会話が主体で読みやすい。会話が軽妙。会話に時々が「まァ」というように、カタカナが混じる。これは天藤作品と共通する特徴。
○「シャレながら」「イライラ」「イス」「クタビレ儲け」「キチンと」「バカバカしい」といったように、カタカナが割合、無造作に使われる。
○「階段を下りる」「全く」、「・・の通り」といった書きぶりや、女性の尻を「ヒップ」と表現する点が「皆殺しパーティ」にも見いだせる(「ヒップは「炎の背景」でも同様)。
 (ただし、「ショウ」「ショー」のように、同一作品でも混在しているケースがあり、この辺はあまりあてにならない。(ちなみに、例の「インターホン」については、「殺しへの招待」では「インターホン」と書かれており(創元292p)、決め手にならなかった。「皆殺しパーティ」では、「イヤホーン」という表現あり) 以上の点から、「わが師はサタン」を執筆したのは、天藤真であると推測する。
 ただ、そうすると、幾つかの問題点が出てくるのも事実。
1 一見すると、「わが師はサタン」の扱う題材は、それまでの天藤真作品と大きく異なるように見える。
2 草野唯雄は、昭和50年前後は、旺盛に執筆している時期で、(昭和50年は二作)あえてハウスネームを用いて書く必要性がなかったのではないか。
3 そして、これが最大のネックだが、新保氏が別名義作品を「75年8月に刊行された」としている点。
 これらについては、こう考えてみた。
1について 「わが師はサタン」は、「黒魔術」に魅入られた学生たちの犯罪から始まる点で、それまでの天藤真作品と相当隔たった位置にあるように見える。特に、天藤真ファンにとって強烈な違和感を感じさせるのは、学生グループが教授夫人を張形で陵辱するというセンセーショナルな発端だろう。大学生たちや登場人物たちの多くが、セックスの欲動に突き動かされており、その手の描写が各所に存在するという点も、違和感が大きく、天藤作品の特色とされるユーモアと登場人物に対する暖かい視線もあまり感じられない。
 しかし、女流作家のデビュー作としては、センセーショナルな題材が望まれたのは想像に難くない。さらに、閨秀作家「鷹見緋沙子」の隠れ蓑をかぶるからには、それまでの自分の傾向と違う作品を書いてみたくなるのは、人情ではないだろうか。
 天藤は、「ユーモア推理の旗手」という評価に対し、「私はこのレッテルに感謝したこともあるし、反発したこともある」(「ユーモアミステリーについて」、「推理文学」79年12月」と書いているという(「日曜探偵」新保博久氏解説)
 「わが師はサタン」は、こうしたまわりのレッテルというくびきから逃れるための一つの手段だったのではないか。天藤真がユーモアに富み、暖かく人間を見つめる作家と見るのは、一面的な見方に過ぎない(この辺については「殺しへの招待」(創元推理文庫)の若竹七海の解説「天藤真〜苦くて甘いチョコレート」が的確だ)。東大の国文科を出ながら、「敗戦による空虚感と、当時大本営詰めだった第一線の記者として戦争に協力した責任感」(「陽気な容疑者たち」(角川文庫)大野茂男解説)から、同盟通信を辞め、千葉県の開拓農民に加わった作家が、単純な人間観の持ち主だったはずがない。今回読んだ「皆殺しパーティ」「殺しへの招待」の二作品はは、かなりブラックな味わいの濃い作品で、作者の温顔の背後には、虚無に近い冷徹なまなざしの存在を思わせるものがある。
 例えば、ユーモア・ミステリに定評があるクレイグ・ライスが非マローン物の「居合わせた女」やマイケル・ヴェニング名義の作品で、暗い別の一面を見せているのが思い出される。「クレイグライスの滑稽味は、日常性のなかに、いきなり非日常感覚を持ちこむところから発生する。あの真面目くさったユーモアは、実は煙草に火をつけるのに、「地獄の炎」でもってするところから起るものである。」という中村真一郎の至言が思い起こされる。
 それに、敬愛女子短大の国文学の非常勤講師でもあった天藤真が、大学の学部長夫人を学生たちが陵辱する話を書くのはさすがにまずいでしょう。
 主人公をはじめ登場人物が性的な欲動につき動かされている点についても、若干扇情的な点を度外視すれば、実は性をめぐる悲喜劇の要素を色濃くもっている「皆殺しパーティ」「殺しへの招待」にも繋がるものを感じさせる。
 2については、どうか。前に、鷹見緋沙子は、書き場に困った作者たちの中島河太郎プロデュースの互助組織とちょっと意地悪く書いたが、この見方は若干修正する必要があるのかもしれない。
 確かに天藤真は、昭和48年に「皆殺しパーティ」をサンケイ新聞社出版局から出して以来、昭和51年の「炎の背景」(幻影城ノベルス)まで、著書がない。幻影城は、一般的な出版社とはいえないし、名作「大誘拐」にしても、カイガイ出版という大阪の無名の出版社から刊行されている。(カイガイ出版というのは、大阪にある洋書の専門輸入会社で、出版部長がミステリーの出版に意欲を燃やしていることから、縁があった山村正夫が書き下ろし長編の書き手として天藤真と(辻真先)を紹介した由。(双葉文庫「大誘拐」山村正夫解説)確か、草野唯雄も、この出版社から作品を出していたはず。) 「思えば、このごろ書き始めた推理作家、草野唯雄・斉藤栄・天藤真あたりは、たいへん長い暗いトンネルをくぐらざるを得なかった」と石沢英太郎が書いているという(「日曜探偵」解説) 
 天藤真ら、発表の場を模索していた作家が、現状を打破すべく、力作を連打する閨秀作家として登場することを決意し、中島河太郎がプロデュースしたという考えは、理由があると思う。ただ、それだけではないのではないか。
 山村正夫は、「推理文学」が成立した事情を振り返ってこう書いている。
 「中島氏と私は、草野氏や天藤氏と顔を合わす度に、両氏から、
「同人雑誌的なものでいいんだけど、何とか野心的な試みを実現できる発表舞台を作れないものですかねえ」と熱っぽい口調で相談を受けた。」(前掲「大誘拐」解説)
 この「野心的な試み」が「推理文学」を経て、「鷹見緋沙子」というハウスネームに繋がっていったのではないだろうか。
 ここからは、完全な空想になる。鷹見緋沙子名義を執筆した3人の間では、プロットの交換が行われたのではないだろうか。いや、そこまでいかなくてもプロットに関するディスカッションがあったのではないだろうか。それは、共通する興梠警視が最後に謎解きをするという表面上のプロットを超えて、相当つっこんだ形で。
 先に「わが師はサタン」の天藤真作品に繋がる特徴として、3つ挙げたが、程度に差はあれ、実はいずれも鷹見緋沙子名義の3作に共通する特色でもある。探偵(犯罪者)グループのリーダー交替というプロットは、「死体は二度消えた」でも、「犯罪優秀賞」でも変奏される。(別荘に住むリーダーをが再訪したときには消えているというのは、「犯罪優秀賞」に共通)いずれも、状況を操る操作手たる黒幕が存在し、探偵・犯人・被害者の互換性も同様に見いだせる。「死体が二度消えた」の終幕で、読者が少しでも疑問に思った点をすべてパタパタと蓋をしていくような回収作業の出来は、天藤真のプロットワークを彷彿とさせるものがある。
 「最優秀犯罪賞」なる、いかにも、天藤真的なシチュエーションも、三人の作家のプロット交換なりディスカッションから生まれたと考えると、幾つかの疑問も氷解するのではないだろうか。実は、いままで、作品といわず、「執筆」という言葉にこだわってきたのも、上記ののような考えが捨てきれなかったからである。 「最優秀犯罪賞」の三重交換殺人が、三人の作家によるプロットなりアイデアの交換を象徴しているというのは、さすがに妄想の行き過ぎだろうか。しかし、「死体は二度消えた」で扱われている、小説の現実化というテーマが、実は、以前、草野唯男が「抹殺の意志」で扱ったものであることを考慮すれば、少なくとも、「俺ならこう書く」という競い合いなり、切磋琢磨が3人の作家の中にあったのではないかと想像したくなる。
 要するに、「鷹見緋沙子」というハウスネームは、3人の作家にとって、
・発表の場の開拓である、と同時に、
・「推理文学」で育まれた「野心的試み」の実践であり、
・「推理文学」同人の友情の確認であり
・(天藤真にとっては)貼られたレッテルへの挑戦でもあった
 このように考えれば、草野が旺盛な執筆期に入っているにもかかわらず、鷹見緋沙子名義で作品を供給したということも理解できるのではないだろうか。
 ついでに、「鷹」は、トップバッター天藤真の出世作「鷹と鳶」から一字取っているのではないかという妖説も一言付け加えておきたい。
 で、3最後の新保博久氏が「75年8月」に刊行されたとしている点について。
 今回、改めて「わが師はサタン」の徳間文庫版(初刷)のクレジットを見て、一瞬、青ざめた。
 「この作品は1975年8月立風書房より刊行されました。」
とあるではないか。
 「わが師はサタン」が1975年8月刊であるならば、謎は何もない。自分は、謎のないところを謎解きしていたのか。葉山さんの記述は、誤記だったのか、と一瞬、目を疑った。しかし、中島河太郎の解説を読むと「わが師はサタン」は昭和50(1975)年4月刊行、とある。6月に「死体は二度消えた」、8月に「最優秀犯罪賞」が出版されていることからして、「わが師はサタン」の徳間文庫版のクレジットは、誤記には違いないのだろう。
 しかし、新保氏が、このクレジットを見て、誤記をそのままリストに転記してしまったということが考えられないだろうか。それであれば、新保氏の指摘している作品は「わが師はサタン」であるということになる。 あるいは、単純な誤記・誤植の類なのかもしれない。(「創元推理」の天童真特集で新保氏が天藤真の没年を一度間違って書いたことがある旨書いていたため、あながち皆無とはいえないだろう。)
 もう一つの考え方としては、本来の執筆者がうまく新保氏に伝わっていないのではないかということ。含羞の人天藤真としては、「わが師はサタン」が自分の執筆に係るものであることをはっきりと明らかにせず、「最優秀犯罪賞」をプロットで手伝ったというようなことが不正確に新保氏に入っているというケース(これも、妖説の類か)
 いずれにしろ、自らの推理を是とした上で、「75年8月」を誤りとしている点で、新保氏にとっては極めて失礼な憶測であるのだが、一応考えられることを書いてみた次第。
 以上が、ハウスネーム鷹見緋沙子を巡る私の推理である。
 最後に愉快なエピソードを前掲の山村解説から引いておこう。
「推理文学」の同人たちで箱根へ親睦旅行会を催したときの出来事だ。
「草野唯雄氏と同室だった天藤氏は、夜中に、 「本日はまことによき日なり」 と寝言を言ったそうなのである。
 それ以来、天藤氏は文語体で寝言を言うともっぱらの評判になった。」

 松本清張をはじめとする社会派推理の空前の大ブームから一転、ミステリーの低迷期に入った昭和40年代、「長い暗いトンネル」の下で次第に育まれた「鷹見緋沙子」という器。この器が、上記のエピソードのような雰囲気の中に胚胎した推理作家たちの情熱と野心と友情の証であったと空想することも、ミステリー・ファンの特権として許されるだろう。

・と TV「知ってるつもり?」的ないい加減なオチをつけて、鷹見緋沙子をめぐる旅は一応おしまい。読んで下さった方ありがとうございました。
・以上が私の推理です。再考のきっかけとなったメールをくださった○○さま、こっそり真相を教えてもらえませんか。ちなみに、信頼できる評論家とは、角川文庫の天藤真、草野唯雄のいずれの解説にも登場するある方ではないかと推測するのですが・・。

99.2.26(金)
・右肩が異常に凝る
・パラサイト・関に新着。グリンリーフ新作評ほか。
・「本格ミステリーを語ろう!(海外編)」読了。いろいろツッコミを入れたいところ多し。
・鷹見問題は、その後手つかず。最終回は、土日に。これって、「日曜探偵」?


99.2.22(月) 
・パラサイト・関に、小ネタ6連発。関氏の正体がわかるかもしれない(大した正体ではない)。
・随分、刊行が遅れた創元推理文庫、鮎川哲也「五つの時計」が出る。内容は、「宝石」掲載の短編11編に乱歩のルーブリックを付したもの。(傑作選2も待機中)。考えてみたら、鮎川賞を主催しているわりに、創元で鮎川の小説本が出るのは、これが初めて。これで新しいファンがつけばいいのかもしれないが、年寄りとしては、傑作集などとケチなことをいわず、角川文庫で幻に終わった初期短編を全部出してほしいところ。
・そういえば昨日、半額店で角川文庫の天藤真を一挙7冊見つけて、ホクホク。
・新コーナー新設がすっかりずれこんでしまいました。すみません>関係者の方。

99.2.21(日)−緋沙子再襲撃4−(長すぎ)
・XTC7年ぶりの新作ゲット。待たされた。でも、最高っす。近所のレコード屋(「玉光堂」)で、海外のトップのところにあったけど、本当か。
・我ながらしつこいが、鷹見緋沙子続けます。
 その前に、再読した「わが師はサタン」(第一作)について。
 オカルトにとりつかれた金城大の大学生男女六人が、黒ミサで学部長夫人を陵辱するというショッキングな冒頭。このマジック研の部員たちは、奇人・明日太郎多の指導の下、不義を重ね、学内を私物化する夫人への天誅としてして、この行動に及んだのだが、第二の黒ミサの際に、何者かによって
全裸の女子大生が殺害されてしまう・・。同じ日に、この学生との関係が疑われていた学部長が失踪、後日死体で発見される・・。学生達は、事件の解明に奔走するが。リータービリテイは十分だし、展開も予測を裏切るものがある。最後に明かされる黒幕の正体は想像がつくので、そこに至るまでのサスペンスと、事件と仲間内の男女関係に右往左往する主人公らの青春群像を楽しむべき作品なのかもしれない。初読時は、まだ純情だったせいか、センセーショナルな題材に後味が悪かった記憶があるが、今回は、結構楽しめた。特に、学生たちを引っ張る導師(グル)が次々と交替(明日→南郷講師→学部長夫人)していくというとんでもない展開は、なかなか。黒ミサ中の闇の女の手の謎の扱いも、センスが良い。それでも、せっかく満願果たせそうな主人公が、結末で別な女に逸れていくのは、どうも納得できないものがあるが。

 さて、「犯罪優秀賞」については、葉山響さんが、謎宮会11−12月号で「別名気長編について−天藤真の作品世界後編」で、大要次のように述べている。(詳細はここを参照)
 新保博久氏が『日曜探偵』巻末・天藤真著作リストで、75年8月に刊行された別名義の長編があるとして、その名義は複数の作家が共通して用いたハウスネームで、今後使用される可能性もあるため、今回は公表を見合わせた旨書いている。
 葉山さんの考えるところでは、そのハウスネームは「鷹見緋沙子」で、天藤真の別名義作品とは、75年8月に刊行された第三長編『最優秀犯罪賞』である。しかし、ミステリ業界内の或る人が「それは『わが師はサタン』だと言っていたのをかつて小耳にはさんでおり、その長編とは『わが師はサタン』なのか、それとも『最優秀犯罪賞』なのか徹底的に検証してみたい。
 で、葉山さんの説では、天童真の作品の特徴としては、
(1) 主要登場人物の大半が、予め何か重い物を背負っているか、或いは作品の途中や結末で背負わされることになる。
(2) 自分よりも大きな存在と闘ったり、巨悪と対決しようとする登場人物が多い。
(3) 設定や謎が非常に奇抜なものであり、ミステリ部分に絶対に手を抜かない。
 の3点を挙げ、実例を挙げながら、「最優秀犯罪賞」は、これらの特徴を満たしているとし、さらに、作中の登場人物のある発言をとらえ、「あの作品」の構想につながる重要な作品ではないか、と指摘する。

 検証も十分説得力に富んでおり、特に最後の指摘は、ミステリファンにとっては、とてもファンタスティックな説である。
 さらに、葉山さんは、同じ号の「読書日記・十一月」のno.136では、「わが師はサタン」は草野唯雄である旨推測している。

 今回、葉山さんの説を知って、「最優秀犯罪賞」を読んだときに、私も、この作品が天藤真執筆のものであると感じた。その理由としては、
 ○シチュエーション・コメディ的なミステリである
 ○あるグループの共闘の物語である
 ○随所にみられる反権力的傾向、社会批判的傾向
 ○文章が平易で読みやすく、会話も冴えている
 ○方言の会話がユーモラス
 細かくは書かないが、解説などを参考にすると、いずれも天童作品に共通する特徴といえるのではないだろうか。そのほか、交換殺人グループが自分たちをHPと呼ぶ(Heaven’s Punishment(天誅))のがなんとなく唐突で、「死の内幕」のIGグループを想起させるものがある等。
 そこへ、2/15のメールが来て、再考を迫られたわけである。
 そこでこう考えてみた。
 「最優秀犯罪賞」=草野唯雄執筆説が成立するだろうか。
 葉山さんが「わが師はサタン」を草野唯雄執筆と想定していることからの単純な類推なのだが、「推理文学」の重要な同人の一人なのだから、これを試してみる価値はあるだろう。そこで、今まで食指が動かなかった草野唯雄の作品を一冊(昭和47年「鳴き竜殺人事件」)読んでみたほか、何冊かの文庫解説を当たってみた。
 結論からいうと、「最優秀犯罪賞」草野唯雄執筆説は成立する、と考える。
 天藤真の遺作になった「日曜は殺しの日」は、本人の指名で草野唯雄が後を完成させたという。(角川書店:未見)二人が親友だったということもあるだろうが、天藤真自体が草野との作風、文章の類似性を感じていたから、という捉え方もできるだろう。
 二人はともに、大正4年生まれ。天藤は同盟通信の記者として、草野は兵士としての違いはあるが、戦時中の北支に勤務した。雑誌「宝石」の末期に、ともに宝石賞をとっており、(草野「交叉する線」(昭和37年、天藤「鷹と鳶」昭和38年)、宝石廃刊後は、作品発表の場がなくなって雌伏のときを強いられたというのも共通している。「鷹」は、選考委員会で中島河太郎の強い推挽があったというし、草野の再起作「大東京午前二時」(昭和43年)も中島の勧めで書いたものという。当然のごとく、二人とも、昭和45年に創刊された中島河太郎編集のプロ同人誌「推理文学」に参加している。中島河太郎は、同童雑誌の創刊当時を回想して、こう書いている。

 「この雑誌を出すときには、草野さんの勤め先を何度か訪ねた。明治鉱業株式会社に入社、二十年のキャリアがあったが、当時は鉱山が思わしくなく解散必至のときだった。仕事はなかったし、場所もよかったので、会合の足だまりにさせて貰った。氏自身も新たな職を選ぶか作家専業に踏み切るのか瀬戸際だった。一作一作ごとに精魂籠めて、推理小説の新領域の開拓に全霊を傾注していた。」
 (草野唯雄「明日知れぬ命」(集英社文庫)解説)

 作家専業を固めた後の草野の活躍は、サスペンス物を中心にめざましいものがあったという。昭45「抹殺の意志」、「北の廃鉱」、46年「影の斜坑」、47年「鳴き竜殺人事件」、「天皇賞レース殺人事件」「瀬戸内海殺人事件」、48年「瀑殺予告」「明日知れぬ命」、「闇の臭跡」、49年「女相続人」、50年「もう一人の乗客」「犬の首」・・。このうち、「北の廃鉱」、「影の斜坑」は、自身のよく知る炭鉱や石炭業界を扱ったサスペンスらしい。
 ここで、慧眼なる読者であれば、「最優秀犯罪賞」の主人公たちが九州の炭鉱離職者であったことを想起されるであろう。
 彼らは九州の採炭切羽(切り場のこと)出身であることから「切羽会」を結成し、これがHPの母胎となる。工場爆破のための火薬類は、炭鉱経験を生かし採石場から盗まれる。刑事は、彼らのつながりを調査するために、佐賀県多久市の炭鉱を訪れ、さらに愛媛県北宇和郡日吉村の駐在に、ごくちっぽけなマンガン鉱を調査させる(方言のやりとりがあるのは、この辺である)。
 作品のいくつかの場所で披露される鉱山、あるいは炭鉱労働にまつわる描写は、素人目には、かなり専門的、本格的なもので、作者自身に深い知見があるのではないかと思わせる。工場爆破に関する描写も微に入り、細にうがっている。
 さらに、調査が佐賀、愛媛に及び、両方の地で方言が披露される点にも注目。さして、筋の上からは必然でもないと思われる現地シーンを方言入りで書くからには、作者にそれなりの自信があるからと考えることができよう。草野は、福岡県大牟田市出身であるから佐賀は経験の範疇だろうし、北四国の赤石鉱山にも在職したことがあるという。(「鳴き竜殺人事件」二上洋一解説)(一方、天藤真の方は、父祖の地は清水で、長野、福島、甲府、岐阜、静岡と移り住んだあと東大入学とあるから(創元推理文庫「陽気な容疑者たち」山前譲解説)、四国、九州の居住経験はないのではないかと思われる) 
 この辺は、作者が十分な取材をしていれば、クリアされることかもしれないが、天藤ほど取材が似合わない作家はいないのではないだろうか。(例えば、「皆殺しパーティ」では、大規模な爆破シーンがあるが、爆破計画の描写の精密さという点では「最優秀犯罪賞」と相当な懸隔がある。草野には、「爆殺予告」という作品もあることを思い出そう。)
 さらに、たまたま読んだ「鳴き竜殺人事件」から、草野の特徴でいくつか気のついた点を挙げると、
○ 技術好き(だから、車の部位の描写なども細かい)
○ 目白駅、雑司ケ谷周辺の描写が詳細で土地カンがあるものと思われる。(「もう一人の乗客」では、地図入りでこの鬼子母神周辺が舞台になっている。)
○ 会話の文末に「・・・」を多用し、シーンの切り替えに一行にわたって「・・・」を使うことがある。
 技術の部分には既に触れた。主犯格の古賀が潜伏するのは<「雑司ケ谷二丁目のゴミゴミした路地裏にある、古い木造アパート」で「鬼子母神に近」いところである。「・・」の特徴は、「犯罪〜」にも共通するが、「わが師はサタン」には、会話の文末の「・・」は若干出てくるものの、一行にわたる「・・・」はない。
 付け加えると、「最優秀犯罪者賞」には、捜査中の刑事が荒川堤防で煙草を一服し、川の濁った水を見ながら「都会はいま公害地獄だ」とつぶやくシーンがあって(223p)、当初、らしいシーンだなと思ったのだが、「鳴き竜」の方にも、主人公が高台から多摩川の汚染をみながら、「ひどい川になりましたねー」というシーンがある。両者いずれも本筋に関係ない詠嘆で、書き手の感性の同一を思わせる。
 さらに、もう一つ。「最優秀犯罪者」は、「インターフォン」(260p)と書き、「わか師はサタン」は「インターホーン」(28、269p)と書く。
 草野唯雄は−
 「インターフォン」と書く。(天皇賞レース殺人事件49p)
 (もっとも、煙草−タバコなど表記の揺れというのは、同一作品の中でも結構あるので、多くの作品に当たらないと、作家の書き癖と断定できないとは思うが)
 一冊しか作品を読んでいないのに、おこがましいとは思うが、「最優秀殺人賞」の書き手は、草野唯雄と推理する。しかし、そうなると・・・。(まだ続く)

99.2.19(木)
・パラサイト・関に新着。「泥棒はボガートを夢見る」評。
・徳間ノベルスで出たミステリー書き下ろし湯川薫「ディオニシオスの耳」。著者は東大物理学部卒の理学博士、「科学の終焉」の翻訳者で「シュレディンガーの哲学する猫」ではその文学性を筒井康隆に絶賛されたという。推薦文は、村上陽一郎、竹本健治、藤木稟。エピグラムは、ウィトゲンシュタイン(「神狩り」で有名な奴)。これは、ちょっと期待してしまいそう。


99.2.17(水) −迷宮へ行った男−
・覆面作家の正体を探る男が、謎の書き置きを残し消えてしまったらさらに展開としては面白いのだが、実は、酒飲み、残業と散文的な理由で前に進みません。土、日にゆっくり再チャレンジしてみます。
・パラサイト関に新着2回分。HMM3月号(1)(2)。 


99.2.15(月) −ふりだしに戻る?−
・スレッサー「伯爵夫人の宝石」(光文社文庫:日本で25年ぶりの短編の名手の短編集)、ロジャー・L・サイモン「誓いの渚」(講談社文庫:9年ぶりのモーゼス・ワイン物)、「異形コレクション9 グランドホテル」(廣済堂文庫:日本で最初?のモザイクノベル型アンソロジー。京極夏彦登場)を買う。
・私の尊敬する方(と推定)から、嬉しいメールをいただいて、踊り狂っていたのだが、その内容がまた驚き。
・天藤真の別名義の件に関する結論は間違いなのではないか、とのこと。御本人も『最優秀犯罪賞』がそうだと思っておられたが、信頼できる某評論家に違うんだと教えられた由。残りのどれか推理してみてください、とのこと。
・あややや。「最優秀犯罪賞」が題材も文章も、天藤真に似てるってことで結論づけて終わろうと思ってたのに。この方がいうんなら間違いないという、信頼に足るべき方の言。すると「わが師はサタン」?まさか、まさか「死体は二度消えた」ではないだろうな。これが天藤真だったら、あそこまで書いた手前、もう私はマウスを折る(嘘)。自分でも信じられない展開ながら、ふりだしに戻る(C J・フィニィ)。


99.2.14(日)−緋沙子再襲撃3−
・山風リストに講談社文庫「忍法八犬伝」(解説清水義範)、小学館文庫「柳生十兵衛死す」(解説小沢章友)を入れる。
・ネット上の時間経過は早い。緋沙子ハウスネーム問題については、小林文庫ゲストブックで、福井健太さんが、非公式の伝聞と断った上で「犯罪優秀賞」は天藤真作であっているのではないかと述べているし、謎宮会HPの葉山響さんの読書ノートで、「わが師はサタン」が草野唯雄作と推定されていることも明らかになった(西尾さんの書込み)。フクさんのHP「uncharted  space」でも「犯罪優秀賞」のレビューが出た。既にして、鷹見緋沙子はハウスネームであり、第3作「犯罪優勝賞」は、天藤真の執筆であることは、ほぼ結論が出てしまったような状況であるのだが、いきがかり上、もう少し。
・その前に、初読の第二作について感想を書いておこう。
「死体は二度消えた」 鷹見緋沙子
 商事会社の営業マン竹村は、小説家になるために、憎い上司殺しをテーマにした推理小説を構想している。竹村は、小説に迫真性をもたせるために、プロットどおり夜の会社に潜り込み、残業中のはずの上司をドアの隙間からとんでもないものを目撃する。上司は絞殺されており、何者かによって、隣の部屋にひきずり込まれところなのだ。竹村は、その部屋に駆けつけるが、殺されていたはずの上司も、犯人も不思議なことに消失している。自宅に帰った竹村は、再び上司が自分の部屋で殺されているのを目撃するが、ちょっとした隙に死体はまた消えてしまう。竹村は、その体験を基に推理小説を雑誌に発表し好評を得るが、プロット、トリックとも、ある私家版小説の盗作であると指摘され、さらにその作者まで何者かに殺害されて、窮地に陥っていく・・。
 どうです。なかなか面白そうな話でしょう。推理作家を目指す青年が小説と同じような事件に巻き込まれてというあたり「倒錯のロンド」みたいな趣もあり。途中で明かされる消失トリックは、ちょっと人に喋りたくなるような莫迦莫迦しさだが、私家版の作者が殺された後にも、新展開があり、プロット的には飽きさせない。後段のひねりもなかなかで、かなり華々しい展開も、結末は、きちんと辻褄を合わせている。プロットはよくつくり込まれている印象。前に書いた人物、会話、文章の魅力のなさという欠点に眼をつむって、ちょっと、覚えおきたい作品ではある。作中、カーの名前が出てくるところからも、かなり本格志向の強い作家の作品と思われる。
・さて、「犯罪優秀賞」天藤真執筆を検証する上で、最大のネックだったのは、私が天藤真の作品をほとんど読んでいないことであった(爆風)。既読は、「大誘拐」と「陽気な容疑者たち」のみで、それも随分以前の話。そこで、「犯罪優秀賞」の刊行年(昭和50)の近くの天藤作品を読んでみた。いずれも、噂に違わぬ極めて良質のミステリで堪能した。
「鈍い球音」(昭和46年作 創元推理文庫)
 東京タワーの展望台から、口髭とベレー帽を残して、日本シリーズを控えたプロ野球チーム「東京ヒーロー」の監督が消えた。やむなく代理監督を立ててシリーズに臨んだヒーローズだったが、今度は代理監督が丹前だけを残して宿舎から消失。二人の男は、何処へ。そして、シリーズの行方は。
 本書は、冒頭の不可能興味で惹きつけつつ、@事件の謎を探ろうとする記者グループとその娘の捜査小説、A最終的に監督に抜擢される若いコーチの成長小説、B白熱の戦いを繰り広げるシリーズを描いた野球小説の要素が渾然一体となって結末になだれ込み、読者は作者の手玉にとられる快感を十分に味わえる。そして、最後に明らかにされる事件の真相に、実に見事なミステリであることに気づかされるという仕掛け。監督の娘をはじめ、登場人物も精彩に富んでおり、読み終わったときに読者は、端役に至るまでほとんどの登場人物が好きになっているだろう。
「皆殺しパーティ」(昭和47年作 創元推理文庫)
 富士川市の事業王吉川太平の殺人計画を耳にした青年は犯人を追いかけ、逆に殺されてしまう。青年の恋人は、押し掛け秘書として吉川家に乗り込み秘密を探ることで、青年の仇を打とうとするが、吉川家では、殺人予告が引き金となり、惨劇が繰り広げられていく。
 こちらの方は、読み終わったときに、ほとんどの登場人物を好きになるということはない(笑)。中でも、本書の語り手である吉川は、裸一貫から奇計奸計巡らして事業王に成り上がった好色な人物で、折りに触れて語られる半生も、非道そのもの。にもかかわらず、どこか憎めない人物として印象づけられるのは、作者の語り口のうまさゆえだろう。お話の方は、押し掛け秘書と子飼いの秘書で探偵チームを組織した吉川側と、殺人を仕掛けて来る犯人側の攻防が主筋なのだが、その過程で明らかになっていく吉川家の家族の肖像が圧巻で、全体としては相当ブラックなコメディという印象。特に、養女美那の回想シーンは、強いインパクトがある。探偵小説的構成も抜かりなく、結末はやや想像がつくとはいえ、張り巡らされた伏線が回収されていくのが美しい。間然としたところのない秀作。
・というところで、なかなか本筋にいかない。もう一回続く。(言及したHPにリンクを貼るべきなのだが、それも次回)

99.2.11(木)
・天藤真「鈍い球音」読む。面白え。しかも、東京タワーでのスマートな人間消失もあり。
●国内リスト更新情報
  上記を追加。

99.2.9(火)
・パラサイト・関に新着。台湾事情。今日は、これだけ。


99.2.8(月)  −緋沙子再襲撃2−
・台湾帰りのパラサイト関から新着「馬場死す」。
・乾くるみ「塔の断章」(講談社ノベルス)買う。今度は、どう来るか。
・鷹見緋沙子ハウスネーム説を現物当たって確かめてみる。テキストは「死体は二度消えた」と「最優秀犯罪賞」。ハウスネーム説の前提に立っているせいかもしれないが、明らかに文体が違っているように思われる。
 ○「死体〜」の文体は、どちらかといえば生硬、事物の描写も書込むタイプなのに対し、「最優秀〜」は、会話を多用し、地の文も短く、描写はあっさり。
 ○「死体〜」は、登場人物の心理を( )で描写するシーンが多いのに対し、「最優秀〜」の方は、ごくわずかしか使っていない。
 ○「死体〜」は、比較的漢字の使用が多いのに対し、「最優秀〜」は、かなり漢字をひらいている印象。
 ○「死体〜」は会話が下手。ちょっと似たようなシーンを並べてみよう。

 「素晴らしい。君は、まったく見事な肉体の持ち主だ」
 堀が言うと、由加も賛辞を返した。
 「あなたの技巧が素敵だからよ。だって古川の時には、私、いつも不満が残るの」
 「こうして、人目を避けて愛し合うのは、もう嫌だな。早く、一緒に暮らせるようになりたいものだ」
 「それは、私も同じよ。ねえ、いつになったら、私たちそうできるのかしら」
 由加は、甘えた声で訊いた。                  「死体は二度消えた」(109p)


 「あたしがいまの社長と切れたら、あなた結婚してくれる?」
 寝ものがたりに、女がそんなことを聞くことがある。すると、男は答える。
 「おれは、君とは結婚はしないよ。だが、いつかは奴さんからきみを奪いとって、おれ一人のものにしてみせる。結婚はいい家の娘とやって、ちゃんとしたl立派な家庭をつくるのさ」
 「じゃ、あたしは結婚までの慰みもの」
 「結婚後もさ。きみはいつまでもおれ一人の慰みものだよ」
 はっきりと言う。                          「最優秀犯罪賞」(67p)

 シーンのニュアンスは違うとはいえ、両者の会話の差は歴然だろう。「死体〜」のほうは、学芸会的、紋切り型表現のオンパレードであり、「古川の時には」のようなシチュエーション外の説明が入るのもなんとも、ぎこちない。こんな会話をする男女が現実にいるとは思えない。それに比べると、後者は相当うまい。一行目「切れたら」というのがリアルだし、女の性格もよく出ている。結婚はしないと否定しつつ、女のどきっとする問いに、冴えた切り返しをする辺りも、会話がスイングしている。末尾の文章も主語をあえて落として効果を挙げている。凡手ではない。
 両者を見比べてみると、「死体〜」の方は、「君」、「訊く」を使っているのに対し、「最優秀〜」の方は、「きみ」「聞く」を使っている点にも注目(この使用法は、両者ともに小説中で一貫している)。その他、漢字の表記を細かく拾っている時間がないが、「死体〜」の方は、「明り」「振り」など、独特の使用法が見られる。
○その他、「最優秀〜の方は
 「森重は一人うなずいて」というような完結していない文章の後に会話が入るというような書きぶりが結構あるのだが、「死体〜」には見あたらない、「死体〜」の方は登場人物の服装をかなり細かく描写するが、「最優秀〜」の方は、そうした傾向はないこと等、
 わずか2月を置いて刊行された作品にこうも文章に差が出てくるとも思えないので、少なくとも、第二作と第三作は、まったく別人の作品と考えるのが妥当だろう。ハウスネームというのが一段と信憑性を帯びてきた。
 続いて、天藤真説に移りたいのだが・・(この項続く)


99.2.7(日)  −緋沙子再襲撃−
・名張市立図書館から、「江戸川乱歩リファレンスブック2 江戸川乱歩執筆年譜」届く。(3000円+税)。「リファレンスブック1 乱歩文献データブック」を偶々、本屋で入手していたため、2も欲しくなってしまったのだ。装幀、レイアウトも美しく、用紙も手にも眼にも優しい。内容は、乱歩の公表した物は、断簡;零墨の類まで初出を記した、望みうる最良の書誌。雑誌連載の各月の章タイトルまで入っているし、乱歩が自作に言及したエッセイ等を作品ごとに列挙するという付録までついているという充実ぶり。名張市立図書館えらい!各編の収録本の記載がないのは、残念だが、それは、第3巻以降に期待しよう。パラパラ眺めていて楽しいのは、編年で各月ごとに記載されているせいもある。
 例えば、昭和5年9月の項を見る。乱歩は、「キング」に「黄金仮面」を、「講談倶楽部」に「魔術師」を、「新青年」に「江川蘭子」の第1回目を、「文芸倶楽部」に「猟奇の巣」を、「報知新聞夕刊」に、「吸血鬼」をそれぞれ連載している。す、凄すぎる。
・で、鷹見緋沙子。(錦通信の市川さんは即座に5冊コンプリート、フクさんも件の本を即日ゲットされたらしい。自分の例からそうだとは思ったけど、鷹見緋沙子って集めるのは意外に簡単らしい。「最優秀犯罪賞」1冊余ってしまったので、「赤い額縁」の未来の古本屋よろしく、天藤真説が定着し高値になったところで放出するか。あ、希望者には、差し上げます)
・鷹見緋沙子の「最優秀犯罪賞」(75.8立風書房刊。読んだのは82.3刊の徳間文庫版)
 炭鉱閉山に追い込まれ、東京に流れ着いた男4名。ケチな強盗に揃って手を出して、紐帯を強めた彼らだったが、長老格の男に莫大な遺産が転がり込んで、運命が一変。死期が迫っている長老格は、世間への復讐のため、残りの3人(一人は死亡した炭鉱マンの息子)が、どでかい犯罪を起こせばその犯罪の優秀度に応じて遺産を分配するという提案をする。男達は、個人的な遺恨の対象者を交換殺人することで、長老の申し出に応えようとするのだが・・。した
 三重の交換殺人というアイデアをメインに据えて、その犯行、捜査、計画のもつれ、結末のツイストまでが手際良く描かれている。展開もこなれているし、会話もよどみがない。しかし、ツイストは、予測の範疇を出ないし、社会に押しつぶされた男たちの夢とその顛末がそれほど魅力的なわけでもない。職人の仕事だが、あっさりしていて食い足りないというのが、その印象。
 で、天藤真執筆説についてなのだが、それについて憶測をめぐらす前に、第2作「死体は二度消えた」と第3作である本書の執筆者が同一人かどうかを考えてみることにしよう。(この項続く)

 

99.2.4(木)   緋沙子ハウスネーム説の衝撃
・小林文庫ゲストブック経由で謎宮会のHPみて、びっくり。1975年に立て続けに3冊の単行本を出して話題を読んだ謎の女流作家、鷹見緋沙子が実は複数作家のハウスネームで、第3作「最優秀犯罪者」の執筆者は、たぶん天藤真だという(1作目「わが師はサタン」がそうだという説もあるそうだが)。鷹見緋沙子がハウスネームというだけでも、驚きなのに、一部が天童真とは。
・鮎川哲也は「緋沙子考」の中で、渡辺剣次説、中島河太郎説、藤村正太説を次々と開陳して、最後に雑誌の編集部で鷹見緋沙子の原稿をもった御婦人をみたというフィクションのオチをつけているが、
これも、正体を知っていての出来レースっぽい。
・私は、「わが師〜」の出来が気にいらず1作しか読んでいないのだが、実は「○○」は「××」だ、という話に弱いので、さっそく半額店で5冊の徳間文庫本を入手。文庫の解説はすべて中島河太郎が手がけているが、ハウスネームだっとしたら、中島氏の解説も、なかなか、やるなという感じ。
 「お陰でいたくない腹をさぐられたのはこちらであった。「幻の女流作家」だけならともかく、既成作家の匿名説まで流布される始末であった。」
 「問題小説」編集者の往訪がなかったら、私も女史に復帰を促す気はなかったろう」
(「わが師はサタン」解説)
「家庭の事情でそのまま筆を絶ってしまったため、「幻の作家」としてその実在さえ疑われる始末だった」(「死体は二度消えた」解説)
「私は彼女の原稿を三作続けざまに読んだ。それぞれ一作ごとに趣向を変えたその豊富な才能に注目したので・・」(「最優秀犯罪賞」解説)
 「一時、某々作家の匿名だろうとか推理文壇の関係者の隠れ蓑みたいに囁かれたがどうやらその噂も静まったらしい。/鷹見さんが姿を見せればなんでもないのだが、わずか数作で作家顔をするのが厭だという。」(「闇からの狙撃者」解説)
 「強烈なサスペンスを湛えたこれらの作品は、女性らしい復活ぶりを見せてくれた」
(「悪女志願」解説)
・鷹見緋沙子が、当時作品発表の場を探していた作家の互助組織(中島河太郎プロデュース)というのは、ありうる話だと思う。後は、ゴーリキイ世界文学研究所とロシア科学アカデミー実験語彙学部による文体鑑定を期待したい。
・「最優秀犯罪賞」と密室系の「死体は二度消えた」は読んでみなくては。
●国内リスト更新情報
高橋泰邦『黒潮の偽証』追加。

99.2.1(月)
・ジャイアント・馬場死去の報。年末から体調を崩し、今年になってからこのまま引退か、といわれてはいたげと、まさか、こんなにあっさりと逝くとは。子供の頃から馬場派だった私は、体の力が抜けてしまった。結局、去年の中島スポーツセンターで見たのが、最後の勇姿だった。最期まで現役レスラーだった東洋の巨人のご冥福を祈る。
・新刊レヴューに「恐竜文学傑作大全」「金のゆりかご」。
●海外リスト更新情報
エクストレム「誕生パーティの17人」追加。

99.1.31(日)
・パラサイト・関に新着『よそ者たちの荒野』評。
・西澤保彦『ナイフが町に降ってくる』読了。やられた。佐々木丸美『崖の館』読書中。
・ゴダード『惜別の賦』、恩田陸『球形の季節』等買う。足のほうは、立ち読みも可能になってきたぞ。
・HMM笠井エッセイ、新保、西上、吉野攻撃の後、「間違いだらけの笠井潔」終結宣言。「無知と理解能力の欠如による攻撃性発作、支離滅裂な揚げ足とりの類にたいしても、今後は基本的に黙殺する」とのこと。大戦間ミステリ論の本体批判に移行してこそ意義があると思うのだが。ラインダンス論を通じて、本体批判を吉野仁には期待したい。
・カウンタ問題に関して、T氏から来たメールが面白いので引用

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 渦中のT氏です(笑)。慣れぬメーラーを使いはじめたのでお返事が遅れてしまいました。

 さて、もちろん、
> え゛ー。リロードって知ってるよね、とは冗談ですが、
 やってみました。数回やってみましたが、どうにも4,000件くらいのまま。でもって、キャッシュを全部消して、リスタートをかけてようやっと10,000件超になりました。やっぱり、IE3ですからまともに動いてなかったようです。たいへん失礼いたしました。
 で渦中の(笑)IEですが、CNETの昨年のニュースでは、各ブラウザのタコさ加減について次のよーに報じてました。

>レイランド(←マイクロソフトの人)はワールドワイド・ウェブ国際コンソーシアム(W3C)のハイパーテキスト・マークアップ言語(HTML)に関する標準に触れて「マイクロソフトはHTMLをほぼ完全にサポートしている。HTML 4.0のおよそ9割に対応している」と聴衆に語った。
>  WSPの共同設立者でプロジェクトクールのグレン・デービス最高技術責任者(CTO)は、これをさえぎる形でレイランドに「コンドームが基準を94%満たすことを求める人がいったい何人いるだろうか」と問いかけた。
>  開発者らはこの指摘に賛意を表わした。 (http://cnet.sphere.ne.jp/から「コンドーム」と検索すると出てきます)

 ふっと思い出しましたが、サガミゴムってどうしたんですかね。

 そんなわけで、
> ) アクセス10000件おめでとうございます...って言いたいところですが、私の会
> 社(→仕事中)のブラウザでは4000件台のままです。消えた残り5,000件余りのアク
> セスの行方は?アンゴルモアの大王の先触れでしょーか?
 は忘れてください。お騒がせしました。

 しかし、
> 現実と仮想現実の区別がつかなくなったただの妄想系オヤジかも。
 うーん。「ユニバーサル野球協会」(ロバート・クーバー)を思い出すなあ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・開発者らが賛意を表した、のがおかしいですね。「ユニバーサル野球協会」は、初老の会計士が頭の中につくりあげた架空のプロ野球リーグの話ですね。(未読)近いかも。
●リスト 更新情報
 『ナイフ〜』を追加。


99.1.28(木)
・残業続きと深更のネットで眠。
・HMMとEQをやっと入手。とりあえず「私のベスト3」のみ拾い読み。あまり話題にならなかったところで、気になったのは、「銀行は死体だらけ」「幻夢 エドガー・ポオ最後の五日間」「パンプルムース氏のおすすめ料理」「サムシング・ブルー」というところか。


99.1.26(火)  
・パラサイト・関に「EQ拾い読み」
・「キッド・ピストルズの冒涜」  山口雅也(創元推理文庫)
 キッド・ビストルズの第1短編集。マザーグース絡みの4本の短編を収録。集中の白眉は、「曲がった犯罪」。童謡殺人にふさわしく、ヴァン・ダインが召喚され「僧正殺人事件」の現代的解釈がほどこされるハード本格。作中見られる偏執狂的論理は、第二短編集「キッド・ビストルズの妄想」に結実。。「パンキー・レゲエ殺人」は、童謡の使用方法法そのものは鮎川哲也や風見潤の長編など、先例があるものの、童謡殺人と密室を有機的に結びつけた作品として特筆に値する。
・冊数かせぎのもう1冊。作者が札幌出身、スラップハッピーファンということで気になっていた作品。
 「街の座標」 清水博子 (集英社98.1)
 平成9年すばる文学賞受賞作。下北沢に住む地方出身の女子大生のわたしは、ある女流作家(金井美恵子がモデルと思われる)について卒論が書けず、無為な日々を送っている。やはり、この街に住んでいるその作家の「書生」になった軽薄な男友達を間に挟んで、わたしと作家の間は、奇妙な交感が生まれるが、卒論は一向に書き進められない・・・。唐突な比較になるが、1920年代の乱歩の作品に登場する遊歩者たちは、退屈をもてあまし、非日常の冒険を求めていた。けれども、90年代の遊歩者である「わたし」は、日常の冒険すら求めない。女流作家が描いた虚像の街と現実の皮膜の中をゆらゆら漂うのみ。彼女の冒険は、皮膚感覚の中にこそあり、五感が瞬き、延々うねうねと続いていく叙述が最大の魅力にもなっている。印象深いショットが別な文脈に鮮やかに呼応させていくセンスにも、ときどきハッとさせられる。


99.1.25(月) −アンゴルモア西へ行く−
・カウンタの件、パラサイト・関の会社でも1万越えていたようだ。また、小林文庫ゲストブックでも、ZP期待の星kashibaさんに会社でも自宅でも1万超えてるよ、と教えていただいた。ありがとうごさいました。これで人格崩壊を免れた。T氏は、会社のプラウザをなんとかするように。
・パラサイト・関に新着2件。HMM3月号「私のベスト3」を集計した労作あり。
・「念力密室!」やっと入手。


99.1.23(土)  −早すぎたアンゴルモア− 
・高橋徹氏からメールもらう。
) アクセス10000件おめでとうございます...って言いたいところですが、私の会社)(→仕事中)のブラウザでは4000件台のままです。消えた残り5,000件余りのアクセ)スの行方は?アンゴルモアの大王の先触れでしょーか?

・えー。それが本当だとすると、オレ、ここ半年ばかり現実と仮想現実の区別がつかなくなった、ただの妄想系オヤジかも。今日のカウンタは、10100を超えてます。職場のブラウザも同じなので、愛機のブラウザが気を効かしているだけとは思えないが。謎。札幌〜東京間で半年のタイムラグが生じているとか。パラサイト・関さま、月曜日に、あなたの見える世界を教えてくださいませ(出張中か)。P.K.ディックの「虚空の眼」みたいな話だな。
・北川歩美『金のゆりかご』読了。面白い。今まで読んだ(全然読んでないが)去年の和製ミステリの中では、一番かも。真相には、思わず声が出た。「このミス」でこの作品を選んでいるのは、大森望、千街昌之、福井健太の3氏のみ。んー。
・でも、アンゴルモアの大王の予言は、絶対当たると思いますね。星新一が確か予言というのは、外れたらもちろん意味がないし、当たったら当たってしまったんだから意味がないし、どっちにしても意味がない、というようなことをいっていたと思ったけど、予言(特に有名な予言)の誘導効果というのは、確実にあるわけで。トンデモ系の人のいうように、ノストラダムスの予言を実行している機関が世界にあるとはいわないけど、個人レベルでトラップにはまってしまう人は、出てくるでしょう。背中に「アンゴルモア」と書いてビルの屋上から、飛び降りるとか。それも予言が当たったうちに入るわけでして、そんなミクロレベルまで当てたノストラダムスは、やっぱり凄い、ということになる(ならないか)。
・『当たった予言、外れた予言』 ジョン・マローン 文春文庫(99.1)
 予言者がいっぱい出てきそうだけど、「本職」で登場するのは、エドガー・ケイシーのみ。予言というより、ここ140年あまりの主として科学・技術にまつわる時代的言説を集めて寸評を加えたという趣の肩の凝らないエッセイ。「タイタニック号は沈まない」という世間の「予言」」なども扱われている。内容は、色々と興味深い。飛行機の登場は人間の空想を押し広げる一大革命だったと改めて感じたり、専門家がその分野で自信をもちすぎることは危険(「世界市場のコンピュータ需要は5台」1948、「家庭にパソコンは不要」1977)だとか。特に、テレビ電話の普及とか、ペーパーレス・オフィスとか、はずれた予測は、面白い。現在のインターネットをめぐる様々な言説も、二十世紀に登場した映画、ラジオ、テレビなどにまつわる、結果が明らかになっている「予言」に学ぶべきものは、多いかもしれない。ちょっと引用。
「さらに新しいコンピュタ技術は、予想に反して、場合によってはオフィスで使われる紙の量を増大させた。数多くの専門家が指摘したように、報告書や企画書がワープロで作成できるようになれば効率がよくなる途考えられたが、現実にはますます下書きの作業が増えただけだった。上司が自分の権力こを誇示したいがために書類の変更を求めるという昔ながらの問題は、いっそうひどくなった。」
同感。

99.1.22(金)   −10000御礼−
・昨日、トップページのアクセスカウンターが10000を超えました。昨年の1月25日にカウンターを貼って以来、もう少しで1年という、タイミングの良さでした。つたないHPに、かくも、大勢の方々に足を運んでいただき、ページ制作者は、感激いたしております。本来なら、HP立上げ1周年(昨年の5月)のところで、書くべきだったかもしれませんが、本人も失念しておりましたので、1つの区切りということで、改めて御礼申し上げます。
 特に、HPから、リンクしてくださった、野村さん、よしのさん、no nameさん、宮澤さん、嵐山さん、久留さん、市川さん、大森さん、高橋まさん、松平ひよこ守さん、フクさん、ありがとうございました。野村さんには、貴重な資料の提供もいただきました。また、HPに関連して、メールをいただいた、あがたさん、横田さん、はしさん、杉浦さん、後藤さん、もりみつさん、村上さん、銘刈さん、ありがとうございました。ファイルをなくして慌てたときに、送っていただいた護堂さん、助けられました。HP関係でも色々御教示いただいた高橋徹さま、知友人の皆さま、ありがとうございました。小林文庫ゲストブックで当HPに何度も言及していただいた、小林文庫オーナーさん、皆さんありがとうございました。それに、いつも玉稿を送っていただき、既に母屋を乗っ取ってるパラサイト・関さま、さらなる玉稿を今後ともよろしく。1万突破を喜ぶ夫を冷ややかに見つめる、サイ君もありがとうこざいました。
・カウンタ−つけた当初は、1日20アクセス足らずだったのに、今では、多分、倍以上になっていると思います。(特に、今年に入ってからは、更新が頻繁になったせいか増えていると思う。これは、まさにケガの功名)。私にとっては、HP作成は、雑誌編集ごっこであり、お店屋さんごっこであり、風呂場のつぶやきでもあります。その上、HPを通じて、初めての方とも、繋がることができるのだから、なかなかこの趣味は、やめられません。皆さま、今後ともよろしくお願いします。(音楽高まる)
・御贔屓、矢口敦子『真夜中の死者』が出ていた(光文社カッパ・ノベルス)。「サイバー・ホラー」。うーん、なんとなく悪い予感もするが、読まなくては。
・講談社文庫『伊賀忍法帖』(解説は、京極夏彦だ)を山風リストに反映。


99.1.20(水)
・「パラサイト・関」に「HMM補遺」
・昨日、今月に入って始めて本屋に行けた。その割には、あまり景色に変化がないような気もしたが。庭歩きと同じで毎日通って、微妙な変化を愉しまなくてはダメなのか。本買い欲も、磨耗したのか講談社版「伊賀忍法帖」のみ購入。講談社ノベルス「念力密室!」だけ見あたらないのは、なぜなのだろう。
・今日の夕刊(北海道新聞)に、「芥川賞・直木賞を振り返る」という記事が載っていて、それによると、直木賞は6候補のうち、宮部みゆき、服部まゆみ、久世光彦の3人が残ったらしい。あながち、服部まゆみは、冗談でもなかったのか。五木寛之の「服部さんは非常に強い支持があり、前半は、その小説に酔えたが、後半ファンタジー性が痩せていったのは残念」という談話が載っている。
 ミステリ読者からすると、その痩せる、というか、カラフルな物語が一挙に褪色していくところが最大の読みどころではないかと思うのだが。宮部みゆきのバルザック云々も含めて、未だに「単なるミステリ」は受け入れられないということか。

99.1.19(火)
・「パラサイト・関」に「HMM2月号」、「自殺の殺人」評。時間がなく、とりあえずアップのみ。

99.1.18(月)
・「パラサイト・関」に雑談。「直木賞」
・ギブス外れる。骨もずれていなかったし、ヒビもたいしたことなかたようで一安心。これで、地下鉄通勤と思ったら、残業でまたタクシー。

99.1.17(日)   −湖上の怪物−
・風邪治りかけ。
・15日に触れた東雅夫編「恐竜文学大全」(河出文庫)の中の、W・Aカーティス「湖上の怪物」(佐川春水訳)というのは、解説にあるとおりの怪作でした。(本編発掘の栄誉は、横田順彌・会津信吾コンビに帰せられるとのこと)。
 明治の文語文なので、読むのには難儀したが、あら筋を簡単に書いてみる。(翻案なので、登場人物は、日本人に置き換えられている)

 新高山脈(台湾)の険しい山中に、太古の動植物が生息する不思議な湖がある。どうやら、地球内部は空洞になっており、この湖は、その内部の大洞窟に通じる経路らしい。科学者である深見と私(増山博士)は、学術研究のため、この湖畔で長期滞在中、「大鰐と蛇の混種見た様な太古の怪物」に襲われる。私が、怪物のナイフで頭部に切りつけると、怪物は昏睡状態に陥ってしまう。(意外に弱い怪物である。)私は、怪物の脳をえぐり出すが、この怪物、肉体は衰えず、脳はなくとも抜群の回復力を見せる。
 一方、深見は、大病を患い死期も迫っている。私が「この動物の怪力に気味の智力があれば鬼に金棒なのだが」と冗談混じりにいうと、深見は、喉を切り離して自殺してしまう。私は、深見の暗黙の願いどおり、深見の頭蓋を切り開いて、怪物の頭部に詰め込むという脳交換の手術に着手する。(包帯を巻いて刺激剤を服ませるだけで、この手術は、あっさり成功する)
 怪物は、深見として意識を回復し、時が経つに連れて会話も出来るようになる。それどころか、詩吟!をうなり、謡曲!も謡うのである。(湖に調査にきた別な科学者が「羽衣」を謡う怪物を見て逃げ出すシーンあり。そりゃ逃げるよね)私は、彼が誰かに発見されて見せ物や博物館でさらし物にならないか心配し、そのときは、所有権を主張しようと呑気に考えたりする。
 しかし、怪物となった深見は次第に、怪物の肉体が頭脳にも影響を及ぼし、言動が野卑下劣になっていく・・・。この後は、想像してみてください。
・それにしても、地球空洞説に、ロストワールド、脳交換に、フランケンシュタインテーマ、精神と肉体の相克と原SF的テーマがぎゅうぎゅう詰め込まれているが、全体としてはチープな感じもするこの作品、翻案の落差ともども、賞味したい珍品である。(原作は1899年という。「羽衣」を謡うシーンでは、原作では何をうたっていたんだろう?)。
・乱歩はこの作品について、「怪談入門」の中で「作者も題名も思い出すすべもないが」としつつ、「人の脳を移植せられた恐竜がだんだん人間らしい表情を示し、人語を解するようになり、その苦悶見るに堪えぬものがあるという、身の毛もよだつ恐ろしさが今でも記憶に残っている」と記している。ただし、作品を読む限り、怪獣に脳を植え付けられた人間の「苦悶」の部分は、ほとんど見あたらず、これは、いわゆる記憶の「結晶作用」ではないかと思われる。
・ついでに、「怪談入門」をパラパラ再読。「二重人格怪談を裏返しにして、これに合理的説明を加えたものが、探偵小説の一人二役である」なんていう深い洞察がサラリと出てきて、今更ながら感服。
(「怪談入門」が収録された河出文庫「江戸川乱歩コレクションW 変身願望」の扉絵には、「湖上の怪物」の書影が掲げられていた。)


99.1.15(金・祝)
・直木賞は、予想どおり(笑)、宮部みゆき。マスコミの注目は、戦後4人目という芥川賞の学生作家に集まっているようだけど、これも「童子幻想」?
・風邪で熱。山口雅也「日本殺人事件」、泡坂妻夫「鬼子母像」、「恐竜文学大全」などをうつらうつらしながら読む。最後のは、少年時代の乱歩に感銘を与えたというカーティス「湖上の怪物」の、実に91年ぶりの復刻が入っているので、乱歩ファンは要チェック。


99.1.13(水)
・昨日、「パラサイト・関」アップ忘れ。度々すまぬ。
・宮脇孝雄「ペーパーバッグ探訪」(アルク新書/98.10)
アルクという英語の通信講座が専門?の会社の「CAT」という雑誌に連載されたエッセイをまとめたもの。この雑誌、英語好きの読者を対象とした雑誌らしく、毎回1冊のペーパーバックを取り上げ、その勘所を対訳で示すというスタイルだが、英語を全部すっとばしたため(笑)、すぐ読了。むろん、ミステリのみならず、旅行記からハウツー本、辞書までセレクトは幅広いのだが、「余裕派」とでもいうべき肩肘張らない読書スタイルが実に心地良い一冊。当時未訳だったジル・マゴーンの「牧師館の殺人」を取り上げ、「古くからのミステリ・ファンに「この本を紹介するのは、簡単で「クリスティアナ・ブランドと似たところがあるよ」といえばいい。」と書く辺り、面目躍如。


99.1.12(火)
・パラサイト・関に「EQ1月号」アップ。
・新刊レヴューに東野圭「秘密」。

99.1.11(月)
・パラサイト・関に「雑談」アップ。
・新刊レヴューにトンプスン「ポップ1280」、霞流一「赤き死の炎馬」アップ。
・相変わらず、タクシー通勤。タクシー代払って通うほど、自らの労働力に価値があるとも思えないが。おかげで、本屋と酒の煩悩を断ち切れて、今夜もおうちでごほん。でも、そろそろ下界が恋しくなってきたアル。

99.1.9(土)
・新刊レヴューに牧野修「屍(かばね)の王」、服部まゆみ「この闇と光」アップ。

99.1.8(金)
・パラサイト関に新着。カー「悪魔のひじの家」、宮脇孝雄の料理本。
・「ポップ1280」読了。キーティング、パラサイト・関(笑)絶賛にたがわない傑作。今年、単行本になれば、ベスト10入りは間違いないでしょう。早川書房は、文庫で出すように。でも、帯に池上冬樹をフィーチャーして、「読め!読め!読め!」は、そろそろやめていただきたい。
・小林文庫ゲストブックの小林オーナーさんによると、直木賞候補がミステリだけなのは、特に今回が始めてというわけではないらしい。そうだったのか。ミステリでは、直木賞がとれないような雰囲気があった頃とは、隔世の感。


99.1.7(木)
・「殉教カテリナ車輪」「MOUSE」「フリッカー、あるいは映画の魔」新刊レビューに。(「MOUSE」は全然新刊ではないけど)
・直木賞候補が発表。服部まゆみ、久世光彦、宮部みゆき、東野圭吾、馳星周、横山秀夫(松本清張賞)。久世光彦の「逃げ水半次捕物帖」も捕物帖だとすれば、全員ミステリーの範疇。快挙ではないか(知らないけど)。服部まゆみが直木賞とる前に「この闇と光」を読まねば。
・「コミュニケーター」だとこのページが開かないという話があり、リンクを直し。高橋徹氏ありがとう。


99.1.6(水)
・パラサイト・関に新着。「ポップ1280」評。変になっていたリンク直す。
・「不可能犯罪ミステリリスト(海外編)」また、多少直す。


99.1.5(火)  −初夢−
・初出勤。来週の新年会固辞するも、「昔は入院している奴を送り迎えしてまでやったもんだ」そりゃないでしょう。足を降ろしていたためか、帰ると鬱血。
・パラサイト・関に今年最初の新着。
・「不可能犯罪ミステリリスト(海外編)」多少直す。
・今年のHPの目標を少し書いてみようかな。初夢ということで。
 ・リスト国内編1000編突破(900編超えたとこで、「密室狩り」日記として日記猿人参戦)
 ・パラサイト・関、海外進出
 ・山風レビュー完成(当然「笑う肉仮面」も入手)、多岐川恭に着手 
 ・読感文の即日アップ 
・どんどんスケールが小さくなる。
 

99.1.4(月)
・懸案だった「不可能犯罪ミステリリスト(海外編)」をつくってみた。カーの作品はとりあえず除き、短編もこれからという、お試しヴァージョン。さらに、簡単にわかることも調べていないという、ずさんなものだが、とりあえずアップ。
・お気づきの点等、教えていただければ大変嬉しいです。
・「フリッカー」読了。「ポップ1280」に入る。


99.1.2(土)
・明けましておめでとうございます。年が変わって、3年目に突入した「密室系」、今年も続けますので、一つよろしくお願いします。
・年末の30日、岩井大兄と飲んだ帰り、地下鉄駅から降りて雪道で転倒。左足の甲を捻る。2日経っても、腫れが退かないので、元旦に、救急指定病院へ。レントゲン写真を見た医者曰く。
「骨にヒビが入ってますねえ」。(えーっ)ダメを押すように「診断は骨折です」。(んー)
「仕事は4日からなんですけど・・」と聞くと、「デスクワークなら問題ありません」(なんじゃそりゃ−)
「通うのは大変でしょうけど」(そりゃそうだよな)。
結局、正月早々ギブスをされて、松葉杖をついて帰ってくるハメに。とほほ。
・歩かない限り、さほど痛くもないので、家で酒飲んで、本読んだりしているのだが、しばらく職場通いがやっと、ということにとなりそう。本屋も飲み屋もしばらく行けそうにない。(その分、更新が増えるかも)。
・「殉教カテリナ車輪」「MOUSE」読了。ローザック「フリッカー、・・」読書中。滅法面白い。
・野村さんのHP「Index to Anthologies」に「ミステリ、SF、ホラーファンのための古書店ガイド」が1日付けで掲載されている。東京23区全店制覇をしたという氏の渾身のリスト。また一つ偉業が成し遂げられた。(すんません、リンクがうまく貼れないので(よよよ)、リンクページから行ってください)