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フィンランド放送交響楽団 大阪演奏会

日時
1999年6月12日(土)午後6:30開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
フィンランド放送交響楽団
独奏
前橋汀子(Vn)
指揮
ユッカ=ペッカ・サラステ
曲目
1.ワーグナー…楽劇「パルジファル」前奏曲
2.チャイコフスキー…ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
3.シベリウス…交響曲第2番 ニ長調
座席
1階E列19番(A席)

サラリーマンに捧げる詩

ボーナス出た ちょっと出た
CD買った  いっぱい買った
「は〜、すっきりした」
心はピーカン サイフもピーカン
リーマンは哀しいね、グスン。

ワーグナー…楽劇「パルジファル」前奏曲

 オケが壇上に揃うと、指揮者が登場して大きな拍手で迎えられた。写真で見るイメージとかなり違う。まず頭がだいぶ白くなっていること、そして西洋人にしてはかなり背が小さく痩身だということ。後ろから見ると足の細いこと、そこらの女子高生が見たら羨ましがるほどだ。
 よく似た名前の人でエサ=ペッカ・サロネンと言う人がいるが、今日は童顔の方ではなくヒゲの方だ。お間違えの無きよう。ちなみに私はサロネンとマイケル・ティルソン・トーマスの区別が付きません。
 
 さて、演奏の方はワーグナーに必要である(特にパルジファルには重要である)透明な色彩感が良く出ていた。しかし同時に必要とされるスケール感が出ているとは言い難く、指揮者に対する今後の課題と言えるだろう。
 特出すべきは金管の調子が最初からとても良かったことで、オケの状態が大変良好だと言うのが伝わってきた。

チャイコフスキー…ヴァイオリン協奏曲 ニ長調

 前橋汀子(まえばしていこ)が登場するとまたもや大きな拍手が起こる。それに深々と頭を下げ、応える前橋。黄色のドレスがとても鮮やかだ。ハンカチと靴もドレスに合わせていて、会場が非常に華やかな空気に包まれる。
 
 最初の弾き出しから気合い充分。ド有名なチャイコンと雖も挑み掛かるような姿勢は大変素晴らしく大好きである。フルトベングラーの「君たちはこの曲を何百回もやっているだろうが、それをお客にさとられてはいけない」と言う言葉があるが、まさにそうでなくてはならない。
 前橋のヴァイオリンは激しくて逞しくそれでいて女性らしい柔らかさもあり、「江戸っ子の肝っ玉かあさん」と例えるべきものだった。左手がコード弾きの所で危うく感じるところがあったが、メロディの一音も漏らさず聴衆に叩き込み、またその音ひとつひとつに意味を込めようとしていて、曖昧に耳に届く音は一音もなかった。大変素晴らしい快演だった。

シベリウス…交響曲第2番 ニ長調

 休憩後に後半が始められたが、プログラムには3曲目として書かれてあったフィンランディアがカットされて、いきなり交響曲第2番が始められた。これにはとても驚かされた。
 そして演奏が始まると再び驚かされた。楽想の隅々まで神経が行き届いていて音楽がピンと張りつめていたのだ。日本に来てこれまで連日のようにこの曲を演奏しているためか、全員が迷いなく音を出しきっていて、低音から高音まで素晴らしいとしか言い様がないほど充実していた。オケのメンバーひとりひとりが自分のすべきことを承知している演奏で、自発心が溢れ、テンションの高いものだった。最初から最後まで演奏に引き込まれ、頭の中が真っ白になった。
 サラステの指揮は速めのテンポでぐいぐい音楽を進め、オケの自発心を尊重するものだった。また各声部もくっきりと描き出し、シベリウスの精緻な音構造がとてもよく解る演奏だった。
 あえて苦言を述べるとすれば、中間楽章の持つ明と暗、動と静のコントラストをもうちょっと徹底させてほしかったのと、終楽章へのブリッジが上手く継がれば良かったのにと思った位か。しかし今日の演奏の前ではこんなことはどこかへ吹き飛んでいた。
 非常にダイナミックなクライマックスが築かれると会場から熱狂的な拍手と歓声が爆発した。拍手に応えて各パートの人が立つと、その度にブラボーの歓声と大きな拍手が浴びせられた。

アンコール

 途中で打楽器の人が入ってきてアンコールが掛かった。
シベリウス…交響詩「フィンランディア」
 やっぱりこっちにまわしたか。
 この曲の持つ物語性はあまり出さず、パワーと旋律美を前面に出したものだった。交響曲の成功を受けてオケがとても気持ちよさげに伸び伸びと演奏していた。
 
 全く冷めやらぬ拍手に応えて再びアンコール。曲名を「ドボージャーク、スラブダンス」と告げ始まった。
ドボルザーク…スラブ舞曲集から第10曲
 これも大きな拍手が起こった。
 そしてサラステがコンサートマスターに合図を送ると、指揮者の退場後全員で客席に一礼をして解散となった。それでも一部の客はメンバー全員が退場するまで拍手を続けていた。

さいごに

 2番を演奏後、指揮者と第1、第2Vnのトップとトップサイドの人達が見せた「やったぜ!」という感じの心から晴れ晴れとした表情がとても印象的で、今日の演奏を象徴していると思いました。オーケストラのメンバーも会心の出来だったのでしょう。客が引き上げだした頃、客席にいた降り番の女性がステージに駆け上がり、仲間同士で親指をぐっと立ててました。
 
 総じて、晴れ晴れとした感動に満ちた演奏会でした。
 
 正直に言って、評判であった93年録音のCDが2番については出来がまったく気に入らず、あまり期待してはいなかったのですが、今日の演奏はCDの数段上を行く、一生心に留めておきたい名演と言えるものでした。
 この日の天気のようにピーカンな気分で、シンフォニーホールを出ることが出来ました。今日の演奏は本当に聞けて良かった。
 
 さて、次回は朝比奈隆の軌跡1999シリーズの第1弾「未完成」と「グレイト」です。シンフォニーホールで聞ける御大の演奏、非常に楽しみです。


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