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リトアニア国立交響楽団 大阪公演

日時
1999年11月28日(日)午後2:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
リトアニア国立交響楽団
独奏
マチュー・ロゲ(Vn)
指揮
ヨザス・ドマルカス
曲目
チュルチョーニス…交響詩「森の中で」
ドヴォルザーク…チェロ協奏曲 ロ短調
ショスタコーヴィッチ…交響曲第5番
座席
1階H列23番(A席)

パイプオルガンが鳴り響く中

 昼飯を喰ってのんびりしていたら、ふと今日の演奏会は2時から開演だということを思いだし慌てて家を飛び出しました。そしてJR福島駅からシンフォニーホールへ突撃! 会場に飛び込むと開演10分前のパイプオルガンが鳴っていました。ぎりぎりセーフ。いやぁマジ焦ったわ〜。
 席に着くとまだ息が整わないうちにオケのメンバーが入場してきました。客席を見ると2階のバルコニー席が半分ほどでしたが、だいたい8割ほどの客の入りでした。

 音合わせが済み会場の照明が落ちると指揮者のドマルカスさんが登場しました。大変立派な胴回りをしていて相撲取りのようにのしのしとやってきました。
 この人はマルケヴィッチのアシスタントをした人で、1964年に28歳で今日のリトアニア国立交響楽団の音楽監督に就きました。以来35年間その関係が続いているそうです。
 黒縁眼鏡の奥からぎょろりとした視線が覗きますが、優しい笑顔も見せ、恐い人なのか優しい人なのか良く解んないと思った。

チュルチョーニス…交響詩「森の中で」

 この曲、知らない人がほとんどだと思うのでどんな曲なのかを中心に書くと、第一に聞いた印象は弦と金管の使い方はワーグナーを思い浮かばせ、木管の音色などはシベリウスを思い浮かばせました。低音楽器から充分に鳴り響かせていながら、ドイツ音楽のように重苦しさは感じさせず、セピア色を連想させるオーケストラサウンドでした。
 作曲年代は1901年で後期ロマン派の時代です。同時期にはマーラーの交響曲第4番やシベリウスの交響曲第2番などがあります。
 曲は森のざわめきから始められますが、弦がppでトレモロをするのではなく、mpくらいでなにかモチーフの断片を奏でます。これに管楽器がかぶさって次第に盛り上がっていきます。メインテーマが弦楽器で歌われると以後このテーマを中心として進行します。オケのメンバー全員が全身全霊込めて演奏しているのがこちらにも伝わって来ます。
 直接的な森の描写は一切なく、森の中で生きていくことの心情を表現したものと言えます。また後期ロマン派らしく曲想が変化する境目は非常に曖昧で一聴しただけではよく解りませんでした。
 曲の後半に冒頭部分の雰囲気が回帰して、トランペットがテーマらしい音型をやや哀愁を込めて何度も繰り返すと曲は再び昂揚してきて、雄大でありながら優しい響きをもってこの交響詩は終了しました。
 なかなか良い曲だと思いました。他の人も同じだったらしく、大きな拍手が起こり、ブラボーの歓声も上がってました。

ドヴォルザーク…チェロ協奏曲 ロ短調

 チュルチョーニスの後、チェロのお立ち台が運び込まれるとチェリストとコンダクターが入場しました。それほど体格のいい人とは思いませんでしたが、ステージでの存在感はかなりのものでした。
 演奏の方は入魂のもので、叩きつけるようなアタックは凄まじく時には弓をボディーに直接ぶつけてしまうほどでした。所々うなり声を上げながら汗を飛び散らせて弾いていました。また楽器の音がとても大きくオケがフルパワーを出してもそれに負けていませんでした。
 しかし、チェロが完全に鳴りきった時の野太くも艶やかな響きとは若干遠く、ドヴォルザークの全曲に溢れる旋律美を歌っているとはとても言えたものではありませんでした。
 バックのオケもチェロと遊離してしまう瞬間があって、ソロをサポートしているとは思えなかった。曲の最後で取り敢えず大音量を出した感じがしてガッカリした。

 ……それにしてもコンチェルトでソリストを誉めたことがないですね。自分でも不思議に思います。あ、前橋汀子さんだけは良く書いてますね。でも他の人の評判を聞くとこの時の演奏の評価が悪いんだよなあ。

ショスタコーヴィッチ…交響曲第5番

 休憩の後はショスタコーヴィッチ。リトアニアと言えばソ連崩壊まではソビエト連邦に所属していたのだから、言わば自国の作曲家と言ってもいいくらい身近な作曲家だ。
 この交響曲は『ショスタコーヴィッチの証言』以降様々なアプローチがあるが、今日の演奏はこの曲の裏側に秘められた作曲家の思いには目を伏せ、この曲を古典的な交響曲として捉えたものだった。
 それ自体は何の問題もないが、テンポがとても速いスピードで進められてしまったため、音楽に内容がなく上滑りを起こしてしまった演奏となってしまった。またこのテンポに必死で追いていくためにかえって指揮者の指示よりも速く出てしまう瞬間がそこかしこに見られて残念だった。
 詳しく書くと重箱の隅をつつく感じがして嫌になるので書かないが、オケの方は技巧的に申し分なく低音部からどの楽器も良く鳴っていて、特に木管楽器のその鳴らしっぷりには感心した。また彼らのコンディションも良くこの演奏会を成功させようと必死になってやっているのが十二分に伝わるだけに、今日の演奏における中味のなさは残念に思うと同時に正直言うと辟易した。これはもう指揮者と私の感性が合わないのでしょう。仕方ない。
 蛇足ながら付け加えるとフィナーレのテンポは改訂前の速いまま終わる方だった。

 曲が終わるとワッと大きな拍手が起こりました。しばらくするとブラボーの声も掛かり、会場は大いに盛り上がりました。

そしてアンコール

 会場の熱い拍手に応えてアンコールがかかりました。
 ブラームス…ハンガリー舞曲集より第1曲
 指揮者の弦に対するコントロールが良く効いていたが、なによりオーケストラ全員が伸び伸びと歌いきったのが大変良かった。私はこの演奏が今日一番良いと感じました。

 再び大きな拍手と歓声が湧き起こる。ドマルカスはそれに満足げに応えると、1st.ヴァイオリンのトップサブの女性にすっと腕を差し出しました。すると彼女は彼の腕を取り、並んで退場しました。これに続いて全員が退場し、コンサートの幕が降りました。粋な解散の合図です。

おわりに

 今回は残念ながらひとつも感動することができませんでした。いくら一生懸命にやったからと言ってもね……。プロのオーケストラなんだから“努力賞”はないのです。
 しかし! ノルマをこなすだけの醜態を舞台で見せられるのに比べたら何十倍も価値があったと断言できます。そういった意味では非常に満足することができました。

 総じて、熱意だけは伝わった演奏会でした。

 さて、来月は恒例の第9集中月間に突入します。今年もバカみたいに足を運ぼうかと思います。(去年は3つだったのに今年は5つだ。ははは)
 1発目はたぶん井上道義&大フィルのコンビです。ミッキーの指揮は初めて聞くので、今から大変楽しみにしています。

 ……と、書いたのですが結局その演奏会を聞きに行くことはできませんでした(涙)。しかし次の日のアンサンブル・シュッツの第9は行けたので、その感想をアップしています。


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