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大阪センチュリー交響楽団
「21世紀への第9」 in’99

日時
1999年12月29日(水)午後5:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪センチュリー交響楽団/京都バッハアカデミー合唱団
独唱
岩井理花(S)、手島眞佐子(A)、吉田浩之(T)、福島明也(Br)
指揮
佐渡裕
曲目
ベートーベン…交響曲第9番ニ長調「合唱」
座席
1階E列26番(A席)

僕はいかにして指揮者になったのか

 見出しにもあります『僕はいかにして指揮者になったのか』(はまの出版)という本を読んだことがありますか? タングルウッド音楽祭とブザンソン国際指揮者コンクールでの話にくわえ、師レナード・バーンスタインとの涙なしには語れない師弟愛が書かれていて感動的です。
 なにより指揮者としての教育を受けていない人間が己の才能ひとつで指揮者への道を歩んでいく姿が大変興味深いです。余りにもシステマチックになりすぎて、型にはまった音楽家しか出てこない今の情勢にでっかい風穴を開けて欲しいものです。

ベートーベン…交響曲第9番ニ長調「合唱」

 座席を見ると補助席が出され、会場がびっしりと埋まった満員御礼。また客の熱気もすごく、今日の演奏会にかける期待の大きさが伝わってきた。

 指揮者がオーケストラの方を向き、ヴァイオリンが弓を構え、今まさにタクトが振り下ろされようとした瞬間、「エヘン!」とおばちゃんの咳払いが高らかに……。最高に緊張感が極まった時だっただけに演奏が止まるかと思ったが、幸いなことに曲は無事に始められた。
 アンサンブル・シュッツの時も感じたが、もう5秒我慢すれば支障のない所に差し掛かるのに、どうして肝心な所で咳すんの? それにハンカチを口に当てようぜ。

 去年よりも若干遅めのテンポで、じっくりと進められた。第1楽章について言えばいたずらに劇性を強調するのは控えられ、腰の据わった音楽が展開された。しかし展開部から再現部にかけての盛り上がりや所々思いっきり強奏されるホルンなど迫力充分の部分も満載だった。
 最近『○○版使用』のようにベートーベンが作曲した当時の姿に立ち返ろう、という風潮がありますが、今日の演奏は従来の慣用に従った演奏だった。
 スケルツォは前半を1回繰り返したが、後はやらないオーソドックスな構成だった。バーンスタインがトリオ後のスケルツォで強制された歓喜とでも言うような悪魔的な表現を見せていたが、佐渡の演奏も同様の効果を狙っていたようだ。鬼気迫る感じは出ていたがまだまだ充分に表現されているとは言えなかった。
 緩徐楽章では去年感じた退屈さが今回は減少して、大変充実したものとなっていた。せこせこと進行した去年とは違い、旋律をきちんと歌い込みじっくりと聞かせていた。この一年での指揮者の進歩がもっともよく解る楽章と言える。
 終楽章では歓喜の主題がチェロとコントラバスによって初めて提示される時、長い間が空けられてフルトヴェングラーを彷彿とさせた。合唱が登場すると演奏も次第にヒートアップしたが、その合唱の出来が大変良く安心して聞くことが出来た。2重フーガも今年はちゃんとフーガになっていて、去年と比べても進歩の後がうかがえた。
 再び独唱が登場する頃から音楽が白熱していく。しかし単にテンポを上げて行くだけの底の浅いものではなく、インテンポを守りながら内在するエネルギーを次第に圧縮していくものだった。それが最後の“Freude, schoner Gotterfunken”(“o”はウムラウト付き)で一気に爆発し、聞いていて魂ごとどこかに連れて行かれるような恍惚感が全身を包み込んだ。

 演奏が終わると会場から爆発するような拍手と「ブラボー!」の歓声が起こった。間違いなくブラボー級。
 燃え尽きたようによたりよたりと舞台袖に引き上げる佐渡の姿が印象的だ。まさに全身全霊を込めた演奏だと言える。
 何度もステージに呼び出され、今日の演奏に対する賞賛の拍手は尽きないかのように感じた。

おわりに

 このコンビの第9は去年も行き感動しましたが、今年はそれを上回るものでした。近年でのフランスのオケとの演奏会で成功を収めている自信があるのでしょうか、去年と比べても音楽の腰が据わり、響きが充実してじっくりと聞かすものとなってきています。願わくばこじんまりとまとまったりせず、スケールの大きな指揮者になって欲しいものです。

 総じて、心身から打ち震えるような演奏会でした。

 さて、今年の第9は結局4つの演奏会に行くことができましたが、満足できたのは今日のものと次の日に行われた朝比奈&大阪フィルの演奏会だけでした。余りたくさんの演奏会に足を運ぶのは大変だから来年はもう少し数を絞ろうかと思っています。(けどやっぱり行っちゃうんだろなぁ)


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