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佐渡裕/20世紀の交響楽展
ラプソディ・イン・ブルー他

日時
2000年9月5日(火)午後7:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
独奏
山下洋輔(p)
指揮
佐渡裕
曲目
1.バーンスタイン…ミュージカル「キャンディード」序曲
2.ガーシュイン…交響的絵画「ポギーとベス」
3.ガーシュイン…ラプソディ・イン・ブルー
4.バーンスタイン…ミュージカル「ウエストサイドストーリー」より“シンフォニックダンス”
座席
2階CC列25番(A席)

はじめに

 更新をずっとさぼっていたせいで、このコンサートに行ってから1ヶ月経っちゃいました。即時性がウリのインターネットでなに悠長なことやってんだ、と自嘲しつつテキパキと進めたいと思います。(忘却の彼方へと行っちゃわないうちに)

バーンスタイン…ミュージカル「キャンディード」序曲
ガーシュイン…交響的絵画「ポギーとベス」

 バーンスタインが機会あるごとに上演しようとしていた歌劇「キャンディード」の序曲からコンサートの幕は上がった。“才人”バーンスタインの魅力溢れる旋律が色彩的な管弦楽法に乗って炸裂する。この曲は時代を越えて残すべき名曲だ。聞いたことがない人も一度は聞いて欲しい。
 大フィルは荒さをむき出しにしながらパワー全開で、大きく盛り上がった。この時点で今日のコンサートの成功は確約されたようなものだった。
 次の「ボギーとベス」は……覚えていない。ただ一つ覚えていることはバンジョーを弾く人が演奏の始まる前に袖のカフスを弦に引っかけて「ポロン」と音を出したことだ。佐渡が口に指を当て「シー」とやって、バンジョーの人が「ゴメン」と頭をさげたものだから、会場から朗らかな笑いが起こった。
 ひとつ気になったことは、大フィルはポップスもやっていて肩肘張った音楽だけをやっているのではないのだが、シンフォニックジャズの代表格であるガーシュインで、メロディの歌い方が平坦すぎて(ジャズ特有のメロディやリズムの揺れがない演奏)ガッカリしてしまったことだ。いわいるジャズで言う「スイングしていない」演奏だ。
 これは細部の造詣にまったく気を配らない佐渡の責任によるところが大きいが、指揮者とオケを合わせてほぼ全員が日本人であるためどうしようもない問題かも知れない。

ガーシュイン…ラプソディ・イン・ブルー

 ソロを担当する山下洋輔さんについてクラシックしか聞かない人にはピンと来ないだろうが、日本ジャズピアノ界では第一人者の一人。彼の芸風はジャズの中でもフリースタイルと言って即興中心の音楽作りをモットーとしている。特に誰とでもセッションを組む、いわゆる異種格闘技的なステージが有名で、私は以前テレビで見た「山下洋輔、運命に挑む」とベートーベンのあの第1楽章中に即興でピアノを弾きまくっていた彼の姿が忘れられない。
 またガーシュイン生誕100年の今年、山下は「ラプソディ・イン・ブルー」を全国のオーケストラと協演し、そして今日の山下&佐渡のコンビはこの演奏会の前にフランスで(オケはラムルー管弦楽団)大成功を収めている。

 てな訳で注目するのは当然山下のソロ。元来ピアノ独奏は即興で弾くことになっているので、もうやりたい放題のメッチャクチャ。
 足を踏みならし、鍵盤を肘や手のひらで叩きまくる。しかしここから放射されるエネルギーの膨大さは圧倒的で、会場にいた全員(大フィルや指揮者も含めて)が山下洋輔の世界に取り込まれてしまった。
 こういう演奏を聞いてしまうと、今までCDで聞いていたものはなんて創意工夫のないインスピレーションに乏しい演奏なんだって痛感してしまう。(でもまあCDでこんな演奏聞かされたら、くどくて二度と聞けないかも。ライブだからこその楽しさなんでしょう、きっと) 普通15分くらいで終わる曲が30分になんなんとする大協奏曲となった。
 誉めるばかりじゃなんなんで、ちょっと苦言を書くと、オケがスイングできてないのは「ボギーとベス」同様なのだが、ソロの山下もそのジャズ独特のブルージーな響きに乏しかったことだ。しかし彼は戦後日本のジャズ受容期に育った年代なため、ある程度は仕方ないことかも知れない。逆にこの人の場合、黒人臭くない流暢さが貴重なキャラクターとなっていて、彼の演奏は海外でも広く受けている。

 演奏が終わると会場からは割れんばかりの拍手と「ブラボー」の歓声。山下は何度もステージに呼び出され、拍手は永遠に終わらないかのように感じだ。
デューク・エリントン…スイングしなけりゃ意味がない
 そこでアンコールとして1曲演奏してくれました。最初どこかで聞いたことのある曲だと思ったが、原曲の形をとどめていないアレンジが入りまくりの演奏だったため、この時はなんの曲だか解らなかった。

バーンスタイン…ミュージカル「ウエストサイドストーリー」より“シンフォニックダンス”

 素早くピアノをステージ脇に移動させると、佐渡がマイクを持って登場し、恒例のひとことの時間が始まった。
 内容は、3年前から「20世紀の交響楽展」と銘打ってやってきが、シリーズ最後の曲は絶対にバーンスタインの“シンフォニックダンス”で締めくくろうと思っていた、ということと、この曲には「マンボ!」と叫ぶ所があるがその時、客席の方を振り向くから皆さんも一緒に叫んで欲しい、の2点だった。

 男性奏者による指パッチンから曲が始められると、演奏は次第に白熱し、会場中の「マンボ!」あり、打楽器による八面六臂の大活躍(特に木琴を叩いていた女性が良かった)あり、クライマックスに向けガンガンと盛り上がっていった。(後半やや一本調子なのが気になったが)
 そして音響が最高潮に盛り上がり、オケがフォルテッシモで鳴り響いたその時、
「ブラ〜ボ〜!!」
 の歓声と拍手が!! ……ってオイ。「ウエストサイド・ストーリー」てシェークスピアの「ロミオとジュリエット」を現代風にアレンジした悲劇なんだぜ、そんな騒々しい終わり方するかいな。おまけにそこは破滅のシーンに使われた音楽だ。
 「ブラボー」につられた拍手もさすがにヤバイと思ったらしく、すぐに引っ込むと無情な響きを持ったフルートが静かに鳴り響き、若くして散った男女を悼みながら、どこか虚無的な幕切れとなった。
 面白いことにここでの音色がブルックナー第9交響曲のラストを感じさせるものだった。(これが大フィルのキャラクターなのかバーンスタインが意識したのかは判らないが)

 曲が終わると最初は出鼻をくじかれた感じのややしらけた拍手だったが、次第に大きくなり、盛大な拍手がステージに送られるようになった。
 そこでアンコールとしてシンフォニックダンスのマンボをもう一度やってくれた。「マンボ!!」の掛け声もさっき以上の大きな声がホールに響いた。
 オケが解散した後も鳴り止まない拍手に、佐渡が一人で答礼に現れた。わっと拍手が湧いて3年に渡った公演も終了となった。
 それにしても最近指揮者を一人呼び出すコンサートが増えたような気がする。みんな朝比奈のお爺ちゃんで味をしめたのかな?

おわりに

 総じて、パワー炸裂の演奏会でした。

 前回のシベリウスの2番とレスピーギの「ローマの松」のコンサートでも感じましたが、この頃の佐渡さんの演奏に満足できなくなっています。
 フランスで大きく成功している自信でしょうか、彼の生み出す音楽にゆとりが感じられるようになってきました。するとその反動で、今までの勢いやイキの良さだけでは満足させることができなくなってしまったのです。
 ユタカスタイルとしてはほぼ形ができたと思うので、後はスコアの読みを深くして内面的成熟を目指して欲しいものです。そうでないと確実に彼はここで止まるでしょう。私は佐渡裕には世界の指揮界の頂点を極める一人になるだけの才能があると信じているので、彼の更なる前進を願わずにはいられません。
 年末の第9はそういう目で見ようと思っています。

 う〜ん、なんか文句ばっかり書いてますね。でもホントは理屈抜きで面白かったですよ。(理屈を入れるとこんな文章になっちゃう)
 続いてのコンサートはフェスティバル名曲コンサートのバレエ「白鳥の湖」でした。こちらもよろしくお願いします。


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