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大阪フィルハーモニー交響楽団
第342回定期演奏会

日時
2000年10月20日(金)午後7:00開演
場所
フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
合唱
大阪フィルハーモニー男声合唱団
独唱
伊原直子
指揮
朝比奈隆
曲目
ブラームス
1.アルト・ラプソディー
2.交響曲第2番 ニ長調
座席
Rサイド1階M列3番(A席)

はじめに

 時間ぎりぎりに座席へと着くと舞台の上には数本のマイクが立っていました。どうもこの演奏会も録音されるようです。例のでっかいマイクだとすぐにEXTONだと判るのですが、普通のマイクだったのでレーベルまではわかりませんでした。(川縁にNHKの中継車が留まっていればFMで放送されると予想がつくのですが、これもそこまで確認できませんでした)
 オケが音合わせを済ませ会場が静まるとアルトの井原さんを先にして御大が登場しました。足取りはしっかりしていましたが、前回もそうだっただけに油断はできません。左に寄せてやや傾けて配置された指揮台に登るとその第一声を待ちました。

アルト・ラプソディー

 この曲はゲーテの詩をテクストとした15分ほどの曲で、全体を3つの部分に分けることができるが、最後まで通して演奏される。また曲名が示すとおりアルトの独唱によって曲が進められるが、最後の第3部では男性合唱が入る、ブラームスらしい穏やかで渋い曲だ。
 アルトが朗々と歌ったが、この広いホールでも歌詞がきちんと聞こえたのはみごとだった。またオケが最初から熱のこもった演奏で、気合の入っている様子が良く伝わってきた。
 ここで特筆したいのは男性合唱で、各人が曲想を良く見極めた穏やかで広々とした歌い方で、実にまとまりの良いコーラスだった。
 演奏が終わると大きな拍手が起こり、何度もソリストを呼び出すものとなった。前半があっけなく終わったのは若干物足りないが、朝比奈のことを考えたらこれで十分だろう。また会場を埋める熱気から、後半の2番には大きな期待が掛けられた。

交響曲第2番 ニ長調

 朝比奈は曲冒頭から激しい身振りでオケに指示を出す。それを受けて特に弦が表情豊かに動く。前回の演奏とは違ったアグレッシブな指揮ぶりに驚くと共にホッとする。しかし主題の提示が終わりもう一度繰り返す段になると朝比奈はほとんど棒を動かさずにただオケを見守っているだけになってしまった。まだ完調ではないようだ。今日と一ヶ月前との違いは、大フィルにほとんど手放しで任せられるベートーベンとある程度のコントロールが必要なブラームスだったことにあるのだろう。
 上で述べたように細かく指示を出す時と軽く流す時がはっきりしてはいたが、比較的早めのテンポの中で生まれてきた音楽はややおとなしいものしなやかな物腰を持ったものだった。
 この第2番の演奏にはいろいろなスタイルがあるが、私はパッション溢れた演奏を好む。特にクライマックスでどれだけアッチェレランドがかけられるのかを楽しみにし、またその加速をどこでどのようにつけるかを評価の対象としている。
 で、今日の演奏はここの部分についてだけ言えば完璧な演奏だった。このコンビによるCDでも胸のすくようなスピード感があったが、一か八かの急加速が少し残念だった。それに比べて今日の演奏はその加速が極めて自然でなおかつ爽快で、胸をすくようなクライマックスが非常に気持ち良いものだった。

 曲が終わると共に「ブラボー!」がかかり、大きな拍手がホールを埋めていった。
 御大は何度も呼び出されたが、あの広いフェスティバルホールの舞台を歩くのは辛いらしく、下手のカーテンがある所からではなく、後ろの方にあるくぐり戸を抜けてステージに現れた。
 やがてオケが解散すると客も会場を後にして、演奏会の幕は降りた。今日の様子だとスタンディングオベーションがあるかと思ったが、ブラームスごときではみんなしないないようだ。
 もし今日の演奏がCDで発売されたなら、速攻で買い求めようと思う。

おわりに

 前回のような演奏を聞いてしまうと、今回も御大の体調が気になってしまいましたが、音楽生活60年の老獪さで乗り切っていたのを見て、ホッと胸をなでおろしました。「1回でも多く舞台に立て」は素晴らしい言葉ですが、もう出演回数を減らしてもバチは当らないと思うのですがどうでしょう。

 総じて、老いても衰えずと感じた演奏会でした。

 さて、次回はヨーロッパ室内管弦楽団です。ミッシャ・マイスキーのチェロコンと言い、交響曲第2番と言い、シューマン三昧でウキウキの演奏会です。


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