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朝比奈隆の軌跡2001
ブルックナー交響曲第8番

日時
2001年7月7日(土)午後5:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
指揮
朝比奈隆
曲目
1.ブルックナー…交響曲第8番 ハ短調(ハース版)
座席
1階H列7番

はじめに

 この週は30度を超える暑い日が続きましたが、金曜日に雨が降ってくれましたので、コンサート当日はかなり過ごしやすい天候となりました。
 そのおかげか、朝比奈御大もかなり元気な様子で、9日に93才になる人とは思えないくらいハツラツとした指揮姿を見せてくれました。

 会場に足を踏み入れると、補助席が出る満員御礼状態で、前回の5番が良かっただけにホール内はかなりの興奮が渦巻いていました。
 ステージ上にはマイクがセットされ、EXTONによる録音がされていました。またテレビカメラも数台並び、ABCによる録画も同時に行われていました。
 (今日の模様は8月17日の25時くらいから「朝比奈隆のバースデイコンサート」として放送されます)
 しかしシンフォニーホールでのブル8は何年ぶりとなるのでしょうか。(7年ぶり?)

ブルックナー…交響曲第8番

 演奏が始められる瞬間、緊張感が電気のように会場を走りました。空調の低く唸る声が聞こえます。大フィルも最初から全力の演奏で、ひょっとしたら94年サントリーホールでの名演奏の再来なるか、の予感に震えました。
 弦がゴリゴリとした手触りながら、気合いの入ったアンサンブルを聞かせてくれます。特にヴィオラの熱演はここ久しくないくらい素晴らしいものでした。またチェロの充分に歌いながら締まった音に好感を持ちました。
 それよりもなによりもティンパニが絶品で、重く力強いそれでいて決してタレない音は聞いていて奇跡的な気がしました。ホントに素晴らしかった。
 またいつもミソクソに叩かれるホルンに気になるようなアラはなく、ワグナーチューバもややフラフラしていたもの金管全体的には標準の出来だったと思います。そしてあまり目立たない木管陣でしたが、要所ではかなり美しい音色を聞かせてくれました。特に第3楽章のフルートなんか絶品の美音でした。
 ここ最近、朝比奈翁が振るときはコンマスの岡田さんがもんのすごいアクションでオケを引っ張ってましたが、今日は不思議と自分の椅子にきちんと座ってました(笑)。テレビが入っているから押さえてるのかな、と邪推したのですが、しっかりしたアンサンブルを耳にすると、「あー、今日は必要ないのか」と思い至りました。

 近頃の御大は速めのテンポを採って、アッチェレランドも辞さない演奏をしますが、今日の第1楽章を聞くとそんなに速いテンポは採択されていませんでした。(往年の朝比奈に比べると速いですが) 私は冒頭のトレモロを耳にした瞬間からそのテンポ設定に納得がいきました。
 第1主題最初のフォルテッシモで響きがごちゃつきましたが、音色で気になったのはそこぐらいでした。
 各奏者への指示も力強いもので体調面は良好のようです。大フィルも御大の指示に素早く反応していて、こちらのコンディションも良好のようです。
 第1楽章も終わりに近付き、再現部最後の悪魔的な絶叫でツツとテンポが上がり、終楽章でのテンポアップを予告しました。ここを聞いて「今日も最後、突っ走る気だな」と思いました。

 いつもなら第1楽章が終わった所で充分に間を取って、遅刻したお客を待ったりするのですが、今日はすぐにスケルツォを開始しました。会場の緊張が緩まるのを避けたかったのでしょうか。
 その第2楽章ですが、レントラーっぽい長閑さを持ってましたがフォルムは締まったもので、普通は夢見るように引き延ばす中間部も速めのテンポでキリリとしたものでした。
 スケルツォが終わると音合わせを行い、インターバルを置きました。御大も指揮台の手摺りに掴まり一息です。
 そして続けられたアダージョは大フィルのメンバー渾身の演奏でした。日本のオケとは思われない立体的な音の組立に驚いてしまいました。対位法を構成する各旋律がこれだけ自己主張を行って鳴り響く演奏は聞いたことがありませんでした。ただ自己主張しすぎてややいびつなフォルムになる瞬間がありましたげど。

 アダージョが終わっても棒を降ろさない御大に気が付いて団員が急いで楽譜をめくり、客は「エヘン、エヘン」と咳をしました。客席はまだざわついていましたが、御大はアタッカでフィナーレへと突入しました。
 この楽章も幾分速めのテンポで進みましたが、第3主題などは割とじっくりと提示されました。しかし逆にこの第3主題が再現される箇所は速いテンポで演奏され驚いてしまいました。
「ここはバロック風に書いてあるので、なるべくゆっくりとやった方が良いんです」
 と御大自身語っていたのに。
 なによりもっと驚いたのはコーダでの怒濤のアッチェレランド! 第1楽章で予告されてはいたのですが、あのブチ切れたような急加速には度肝を抜かれました。
 さすがに速すぎたのか、いつもは強調させるトロンボーンが全然鳴りきっていませんでした。
 最後の大ユニゾンでは非常に白熱し、強烈な迫力を持ってこの大曲の幕が降ろされました。

 ……でも、いくらなんでもやりすぎでしょう、先生。
 ほんのちょっとのテンポアップくらいなら、ひょっとすると神々しいクライマックスになるかもしれない、と思って期待していただけに少し残念でした。
 また曲が始まったときには会場中を包み込んでいた、ピリピリとした緊張感が第1楽章後半からやや薄れたのも残念なことでした。
 全体としては非常にグレードの高い演奏でしたが、100%納得のいくものではなかったことも確かです。さて、東京ではどうなることでしょうか。

カーテンコール

 最後の音が鳴り響くとブワッと拍手が湧き起こり、ブラボー男声コーラス隊による一斉祝砲が放たれました。
 さらに2階RサイドRA席22番か21番からバチバチフラッシュが焚かれます。……おいおい、まともに目に入って眩しいっちゅうの。しかしすぐさまレセプションスタッフが止めに入って、その愚行は阻止されました。(普段は少し鬱陶しい彼らですが、今日はよくやった)
 ものすごい拍手の中、ティンパニとホルンの人が立ち上がると一際大きな喝采が起こります。御大が弦のトップと固い握手を交わすと、答礼2回でオケが解散となりました。御大が引き上げる際、ハープの3人に労をねぎらう姿が見れました。

 当然このまま終わることはなく、残った聴衆がステージに詰めかけて拍手を送り続けました。私も最前列へと突撃して拍手を送ります。
 やがて朝比奈御大がひとりでステージに姿を現すと、ワッと歓声が起こります、お爺ちゃんは椅子の背もたれに左手を掛け、私たちの賞賛を全身で受け止めていました。
 この時「ドン!」と後ろから突き飛ばされて我に返ってしまいました。見ると夫婦が私を押しのけてステージに詰め寄せ、15cm角のプレゼントを御大に手渡そうとしてました。ひとこと言ってやろうかと思いましたが、この2人瞳孔が開ききって口を薄く開いたトランス状態だったので、止めときました。まあ御大は一瞥もくれなかったのでザマアミロでしたが。
 この他にも一般参賀が終わり、客が引き上げるときに2階Rサイドから怒鳴り声が聞こえるなど、コマッタチャンがここかしこに散見された演奏会でした。
 朝比奈人気が加熱するに従って、段々とお客のマナーが悪くなってきているようです。残念なことです。
 (え〜と、拍手のタイミングですが、個人的にはもっと余韻を味わいたかったです。けれど今日の出来なら反応としてはあんなものではないでしょうか)

おわりに

 コンサートも終わり、扉をくぐり客席をあとにしたところで男性に声を掛けられました。
「すいません。Yattinさんですか?」
 ……わたしゃ、Yattinさんなんかじゃねーよ。
 ちょっとだけ、名前を騙ってメシでもゴチになろうかという企みが頭をよぎりましたが、さすがにそれはと思いとどまりました。(冗談ですよ)
 それにしても、どうして間違えられたんでしょ? Yattinさんと背格好が似てるんでしょうか。(ヲタの臭いが一緒だったりして……。ブルブルブル)

 総じて、なにもそこまでしなくても……、と思った演奏会でした。

 さて次回は、岩城さんによる藤家・ベリオ・カリンニコフです。
 春に癌の手術を受けられ、出演を非常に心配しましたが、無事にステージへ上がってくれそうです。


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