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大阪フィルハーモニー交響楽団
第350回定期演奏会

日時
2001年7月12日(木)午後7:00開演
場所
フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
独唱
東京混声合唱団員
指揮
岩城宏之
曲目
1.カリンニコフ…交響曲第1番 ト短調
2.藤家渓子…思い出す、ひとびとのしぐさを
3.ベリオ…シンフォニア
座席
Rサイド1階M列3番

祝! 岩城さん復帰!

 今年の春に咽頭癌(当初の発表はのどの腫瘍)の手術を受け、無事に復帰した岩城さんでしたが、この演奏会が復帰後初の来阪となりました。それにしてもこの人、頚骨痛めたり、のどの癌になったり、首周りに災難が降りかかりますね。去年の暮れにこの人の指揮をみて、その余りの覇気のなさにガッカリしましたが、そういう事情があったのかと、今になって合点がいきました。
 その岩城さんがステージ上に現れると、私はその姿を目にしてビックリしました。痩せて岩城さんがとっても小さく見えてしまいました。特に下半身が非常に細くなって、それは痛々しいほどでした。それでも岩城さんの復帰を喜ぶ満場の拍手が岩城さんを出迎え、暖かい雰囲気が会場に満ちていました。

カリンニコフ…交響曲第1番

 当初発表されていた曲順に変更があり、トリを取るはずだったこの曲が頭へと移動しました。まあベリオのシンフォニアの次にもう一曲というのはかなりキツイものだと思っていましたので、順当な変更だと思います。
 この曲はよく「メロディ! メロディ!」と言われますが、構成もしっかりしていて旋律美オンリーのものではありません。終楽章なんかとても良いと思います。(好きじゃないけど)

 今日の弦セッションはプルトの左右が入れ替わっているようで、コンサートマスターも梅澤さんとなっていました。
 演奏のほうは初っ端ホルンの頼りない音を耳にしましたが、いつものことなんでもう腹も立ちません。
 大フィル全体としては前プロの割に熱心に演奏していました。がっしりとした音で全体的に素っ気なく演奏し、ブルブルとカンタービレを利かして泣きのメロディを歌うのではなかった点がこのオケらしいと思いました。
 指揮者との意思疎通も楽章を追うにしたがって良好なものとなり、終楽章は熱のこもった音楽となって魅力あるものとなりました。
 この曲が終わると15分間の休憩に入りました。

藤家渓子…思い出す、ひとびとのしぐさを

 6月26日の「第2回現代日本オーケストラ名曲の夕べ」に同曲が取り上げられていましたが、聞きに行けなかったので、今回が初めてとなりました。
 曲は断片的なモチーフを脈絡もなく積み上げていく、という曲で別にモチーフ間の統一や何かしらの構成があるわけではなかった(聞き取れなかっただけ?)のでしたが、不思議と最後まで集中して聞かす曲でした。また最初こそこけおどしのような不協和音で始まりましたが、モチーフ自体は耳障りではなく、江戸時代の町人の喧騒とした暮らしを彷彿とさせるイメージを掻き立てるものもあり、私はそれなりに楽しめました。(好きにはなれないけど)
 曲が終わり、拍手が起こりましたが、このとき岩城さんがステージ上から「おいで、おいで」をしました。なんだ? と後ろを振り向くと真中のボックス席から若い女性が立ちあがり、舞台の上へ颯爽とあがりました。作曲者の藤家渓子さんです。黒いドレスを着たその人が指揮者の隣に立つと、会場からワッと大きな拍手が沸き起こりました。(ゲンキンだな、みんな)
 藤家さんはオケ、指揮者、聴衆に深々と頭を下げて、会場の拍手に応えていました。
 それにしても打楽器奏者だけが忙しい曲ですね。
 藤家さんが再び自分の席に戻り、奏者が舞台袖に一旦引き上げると、すぅと照明が暗転し次のシンフォニアの準備に移りました。

ベリオ…シンフォニア

 今日のメインは第2次世界大戦後に生まれた数多ある交響作品のうちでも最高傑作のひとつとして挙げられるベリオの「シンフォニア」です。
 この曲は規模が大きいんで、関西では大フィルぐらいしか演奏することができません(京響が過去にやってるそうですが)。ですから今回のように大フィルはこういう食わず嫌いで敬遠されている大規模な名作をどんどん定期公演で取り上げて欲しいと思います。(朝比奈翁が他で客を呼べてるからこそ出来るのですが)
 舞台上には8人のヴォーカリストが座る椅子とその声を拾うマイクそしてスピーカー(コンマスソロと電子ハープシコードもスピーカーから流していました。また指揮者のすぐ両サイドに置かれていたのもスピーカーで、ヴォーカリストと指揮者にもスピーカーの音が聞こえるよう彼らの方向へ向けたものです)が並べられ、ヴォーカリストそれぞれの後ろに並んだパートを細かく分割した弦楽器(なかにはチューバのまだ後ろに並んだ遠隔ヴァイオリンなんかもいました)、それに多数の管楽器と打楽器があの広いフェスの舞台を所狭しと勢ぞろいしていました。

 演奏前の準備中、まだ薄暗い舞台の上ではスタッフがセッティングに追われていましたが、ぽつぽつ自分の持ち場に座り出した団員は周りが暗いという安心感があるのか、めいめい楽しそうに最終調整を始めていました。(コンマスの梅澤さんなんか、ソロ用のマイクに「音入るかな?」とヴァイオリンを突き出して、弾く真似をしてました)
 やがて準備ができたので舞台の照明が上げられ、岩城さんが8人のヴォーカリストを引きつれて登場しました。

 スキンヘッド。いや〜目立ってましたね。“声”を担当した女4人、男4人のヴォーカリストのひとりだったんですが、最初ステージに彼が現れたときにはビックリしてしまいました。
 この曲には8人のヴォーカルが求められていますが、この人たちは“歌”だけではなく、“しゃべる”ことも要求されます。しかし普通にしゃべるとオーケストラにその声を掻き消されてしまいますから、マイクを使ってその声を拾ってやるのです。(ただベリオは喋りの内容までは聞き取れなくて良いと言っています)
 最初スキンヘッドの彼だけの声がでかく聞こえ、ちょっと耳障りだったのですが、あとから考えると他の7人が小さすぎたのです。彼は曲の内容を充分把握していたから大きな声が出せたのだと言えるでしょう。女性陣4人はこの人に引っ張られるように徐々に声が大きくなったのですが、男性の3人は真横に座っていた人が一瞬大きな声を出せただけでまったく声が出ていませんでした。情けない限りです。(男声陣はコーラス部分でも良く聞き取れませんでした)

 この曲の第2部は「オ〜〜〜〜〜〜」というヴォカリーズが中心となっているのですが、最後に「キング」とキング牧師の名を囁きます。
 68年4月4日に無念にも凶弾に倒れた、キリスト教的博愛精神で黒人差別撤廃を訴えたこの牧師の名が混沌とした響きの中から次第に浮かび上がり、一番最後に
男声「オ〜〜〜〜(死ぬほど引き伸ばされる)、キング!!」
女声「オ〜〜〜〜(死ぬほど引き伸ばされる)、キング!!」
 と叫ばれるところは曲中もっとも感動的な箇所なんですが、女声陣のシャウトが充分ではなかったため、今ひとつパンチ力に欠けてしまいました。

 ベリオのコラージュが炸裂する第3部でもヴォーカルが大活躍するのですが、スキンヘッドの彼が張り切ってしゃべっていたのを除くと、やはり声が良く聞こえず面白みに欠けました。ただスキンヘッドの彼だけはじりじりと上がっていくテンションに合わせてしゃべりも熱くなっていき、その頂点でパンと張りのある声を響かせたのが見事でした。曲を充分に把握していなかったら、ああは出来ないでしょう。
 でも、ヤッパリ声でかすぎ……。

 一方大フィルのほうですが、最初の方はおっかなびっくりの様子が感じられました。けれどそれも尻上がりに調子がよくなって行きましたので、次第に気にはならなくなりました。また岩城さんの指揮ぶりもか細い感じがして心配をしましたが、第3部ぐらいからだんだんと熱くなっていきましたので、それもひとまず安心しました。
 この曲がもっとも盛り上がるのは一番大規模な第3部で、マーラーの交響曲第2番「復活」のスケルツォを下敷きとしてさまざまな音楽がコラージュ状に散りばめられるところです。(バッハ、ブラームス、R.シュトラウス、ラベル、ドビュッシー、シェーンベルク、ストラビンスキー、ブーレーズ、シュトックハウゼン、そして自作等々古今東西の引用が聞き取れます。そう言えばベートーベンの「田園」の第2楽章なんかヤケにはっきりと浮きだたせていた)
 ここで脈絡のない音楽達が大きなうねりを見せ、ひとつの頂点を形作れば最高だったのですが、荒々しい響きは少々まとまりが良くなかった感じがしました。(もっとも、それだけにとても難しい場所なので、スタジオ録音のレコードは別としてライブで完璧な演奏はそう望めないのですが)
 しかし前1〜4部を総括する最後の第5部では、非常に集中力溢れる演奏が繰り広げられ、指揮者・オーケストラ一丸となった音楽はこちらの雑念を吹き飛ばす素晴らしいものになり、我を忘れて音楽に聞き入らせられるものとなりました。

おわりに

 曲が終わるとほんの少しだけ残響を待って、大きな拍手がワッと起こりました。「ブラボー」がでるかな? と思ったんですが、さすがに現代曲ではそこまで行かなかったようです。
 盛んな拍手に岩城さんは演奏者を次々と称えます。それでも3回目の答礼のときには、岩城さんへ盛大な拍手が送られました。

 総じて、心配してましたが期待以上だった演奏会でした。

 さて、本格的な夏到来! と言うことで、コンサートはオフシーズンに入ります。ですからコンサートリポートも1ヶ月半ほどお休みとなります。
 次の登場は9月になりますが、垂涎のライナップが並んだ楽しみな秋となりそうです。


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