玄 関 口 【小説の部屋】 【シンフォニーの食卓】 【CD菜園s】 【コンサート道中膝栗毛】 【MIDIデータ倉庫】

関西フィルハーモニー管弦楽団
オーケストラへの招待シリーズ「みどりの日コンサート」

日時
2001年4月29日(日・祝)午後3:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
関西フィルハーモニー管弦楽団
独奏
日下紗矢子(Vn)
指揮
藤岡幸夫
曲目
1.吉松隆…鳥たちの祝祭への前奏曲(関西初演)
2.ドビュッシー…「海」
3.ドビュッシー…牧神の午後への前奏曲
4.ラヴェル…演奏会用狂詩曲「ツィガーヌ」
5.ラヴェル…「ダフニスとクロエ」第2組曲
座席
1階M列35番(S席)

プレトーク

 藤岡さんと言うと、私はイスの背もたれを抱えるようしてに座っているチラシの写真を思い浮かべますが、あれを見ると如何にもビジュアル先行で「なんだかなあ」と思ってしまいます。
 まあ実際藤岡さんが色男なのは事実なんで、どうかマダムや小マダムのハートをがっしりと掴んで、彼女達をコンサートホールへ引っ張り出してやってください。
 しかし指揮者なんて演奏中は客にケツ向けてんだから、音楽がよければ顔なんてあまり関係ないと思います。

 開演時間が来ると、関フィルの広報担当の人がマイクを持って現れました。どうやらプレトークが始まるようです。オーケストラへの招待シリーズに来るのは2度目ですが、毎回プレトークがつくとは知りませんでした。
 昨年のみどりの日が藤岡さんの正指揮者披露コンサートでしたから、今日でちょうど1年が経ったことをアナウンスして藤岡さん本人が登場しました。
 この二人、年が割と近いせいか
「僕のこと嫌いですか?」「(司会が)女性じゃないんで」
「俺、カッコつけてる?」「(微笑むが否定せず)
 とざっくばらんにトークを繰り広げ、面白いやら、ハラハラするやら楽しい時間となりました。
 他にもこんなのが、
「去年はなんとしてもキップを売りたかったから、お昼のテレビに出てバカなことをしましたね」
「本物の指揮者はどれだ!? ですね」
「そうそう、でもあの時は立ち見が出るほど満員だった」
 とか、
「この1年、関フィルの皆さんには良くしてもらいました。あ、プレイヤーだけですけど」
(二人にっこり微笑み合う)
 スリリングでしたね。

 まともな会話も当然あって、今日演奏する曲への藤岡さんのコメントや独奏を担当する日下紗矢子さんが才能溢れる人で将来が楽しみだ、ということをしゃべっていました。
 それで各曲へのコメントですが、吉松については次のセンテンスで述べることとして、残りの曲について簡単に書くと、「海」は遠くから眺める景色ではなく実際に海の真っ只中にいる描写をしている曲だ、「ダフニスとクロエ」の終曲はクスリでもやって狂ってるかのように演奏するのが肝心、てのがありました。

 また藤岡さんが、音楽家ってのは演奏が良かったらどんなに性格が悪くてもかまわない、と発言しましたが、まったくの至言だと思います。
 特に指揮者なんか出てくる音が素晴らしかったら、オケがどんなに「オケのテンポに合わせて棒を振っている」とか「リハーサルで『?』と思うところが10個ぐらいあって、本番までに全然解決できてない」とかブーブー文句たれようと関係ないと思います。(はて? 誰のことだろう)
 

吉松隆…鳥たちの祝祭への前奏曲

 今年のテーマ“Go! Go! 隆.”の一環として可能な限り聞きたいと思っている吉松隆の新曲です。今日はその関西初演となります。
 定期演奏会のチラシには“21世紀への序曲”というダサダサのタイトルがクレジットされていまして、ぜひとも揶揄したいと思っていたのですが、今日プログラムを見ると“鳥たちの祝祭への前奏曲”という結構良いタイトルになっていました。ちょっと残念。

 前述したプレトークで藤岡さんが吉松さんのことを「今、一番幸せな作曲家」と評していました。曰く「書く曲、書く曲、必ず誰かが演奏会に上げてくれる」
 このとき本人も言ってましたが、現在藤岡さんとBBCフィルとで吉松さんの全管弦楽曲を録音していまして(チャンドスレーベル)、新曲は直ちにイギリスへ送られるとのことです。
 それで藤岡さんがこの曲のスコアを見たときに、上にもありますように彼は「今、一番幸せな作曲家」だと感じたそうです。これまでの吉松さんが書く鳥のイメージは絶滅する朱鷺に思いを馳せた“朱鷺によせる哀歌”や死んだ妹に捧げられた“鳥と虹によせる雅曲”に代表されるように、とても哀しいものの象徴でしたが、この曲の鳥には確かに幸せな気分があると言っていました。
 ここで、藤岡氏
「吉松さん、プログラムに何か書いてますか?」
 と客席からプログラムを借りて、ステージ上で「フムフム」と読み始めました。
「……あー、なるほど。でも俺、こう言うの読まないんですよ」
 会場から笑いがこぼれました。
 私は初演者に近い人と作曲者が曲について言葉を交わしていないことにちょっと驚きましたが、演奏者にしてみれば作曲者の言葉と言うものは、曲に対する解釈の手助けになるかもしれませんが、同時に想像をそがれるものなのかもしれません。

 で、藤岡さんが読みもしないプログラムノートですが、相変わらず2つの世界大戦と無調音楽の台頭とを並列に扱っていることに笑えましたが、遺書みたいな以前のプログラムノートと違って明るさがありました。
(無断引用しようかと思いましたが、やめときます。気になる人はCDが発売されたとき読んでください)

 ピアノとコントラバスがユニゾンで鳴らすペダル音の上に弦楽器が順に音階を重ねていって前奏曲の幕が開けられました。
 この序奏の後、金管によって奏でられるファンファーレと弦楽器主体のしみじみとした旋律とが交互に演奏されていきます。
 真ん中で鳥のさえずりを模倣する箇所が出てきますが、それがのんびりとした朝の様子を感じさせて良い気分になります。ここで小太鼓のバチで机(?)を叩く特殊奏法がありましたが、これがトタンの上を跳ねるスズメを彷彿とさせておもしろかったです。(作曲者の狙いは別だと思いますが) しかしその叩き方にはもう少しデリカシーが欲しかった。これに限らず関フィルの打楽器陣は音の出し方が粗雑でガッカリしてしまうことがあります。非常に残念です。
 また曲について感心したことにオーケストレーションがあります。吉松氏についてオーケストレーションが特別上手いというイメージはなかったのですが、今回この曲を聞いていて、完全に鳴るオケ、ビロードような光沢を持つ音色、など感心することしきりで、氏を見直してしまいました。
 曲の冒頭が回帰すると、音楽はゆっくりと盛り上がっていきました。やがて輝かしくファンファーレが謳い上げられると、ふっと息を抜くような優しい響きで曲が締めくくられました。
 ……たっぷりと余韻を味わってからワッと大きな拍手が湧き起こり、「ブラボー!」の歓声がいくつも飛び交いました。いや〜、これ名曲ですよ、ホント。
 曲も客席の反応も最高でした。

ドビュッシー…「海」&牧神の午後への前奏曲

 ここからフランス物が始まりますが、ドビュッシーでは各楽器の音色を混ぜ合わせて混沌とした響きを出すのではなく、それぞれを明晰に分離することで海の描写を写実的に表現しようとするアプローチでした。
 前半のトリである「海」では、大きく盛り上がるところとまったりと進むところのメリハリと前後のつながりがとても良く、またオケも藤岡さんの棒に良い反応を見せ今日一番の出来となりました。この曲が終わると充分に余韻を味わってから万来の拍手が沸き起こりました。
 い〜や、客の反応(もしくはマナー)が良いと非常に気分よく音楽を楽しむことができます。

 休憩後の「牧神の午後への前奏曲」でも同じ印象でしたが、オケの冴えが「海」と比べてやや後退した感じを受けました。

日下紗矢子

 さて、プレトークでさかんにプッシュしていた日下さんですが、非常に優しい音色をしていて好感を持ちました。
 ラヴェルのツィガーヌはかなりの難曲ですが、それを立派に弾ききるところなど技巧的にはしっかりしていました。でも演奏から華(または毒)を感じ取ることができなかったので、これからの人でしょう。

ラヴェル…「ダフニスとクロエ」第2組曲

 続く「ダフニスとクロエ」はラヴェルらしい硬質な色彩感に欠け、精緻なオーケストレーションを堪能することが出来ませんでした。
 さすがに最後は藤岡さんがオケを煽りまくって白熱してましたが、それでもあまりツボにはまったものではありませんでした。

おわりに

 わりと大きな拍手が会場を包み込み、藤岡さんがメンバーを次々と立たせていきます。
 鳴り止まない拍手に対して藤岡さんとコンマスが手短く相談をすると、藤岡さんは指揮台に上がり、譜面台の楽譜をあわててゴソゴソとひっくり返しだしました。そしてお目当てのスコアを見つけるとそれを広げ、客席の方へ振り向きました。
「去年のみどりの日から一年間応援いただきどうもありがとうございました。これからもよろしくお願いします。僕もこの1年で関西フィルのみんなが一段と好きになりました。……アンコールですが、今日はドビュッシーやラヴェルのフランス物でしたが、今度10月にシベリウスを振りますので、そこから『カレリヤ』組曲の行進曲です」
シベリウス…「カレリヤ」組曲より行進曲
 シベリウスのメロディが素晴らしいこともあって、プレイヤーが実に気分良く演奏して、会場がノリノリになりました。
 それにしても次回の宣伝をするとはなかなかチャッカリしとるのう。

 総じて、サービス満点な演奏会でした。

 このレビュー読み返してみて、プレトークの描写が一番長かったってのも困ったものですな。
 さて次回は大阪センチュリーのシベリウスです。1月の大フィルに続き今年2回目となるシベリウスの1番というのが我ながら笑わせますが、センチュリーにとって一昨年の4番去年の2番に続くシベリウスということで期待しております。


コンサート道中膝栗毛の目次に戻る