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大阪フィルハーモニー交響楽団
第348回定期演奏会

日時
2001年5月10日(木)午後7:00開演
場所
フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
指揮
朝比奈隆
曲目
ブルックナー…交響曲第7番 ホ長調(ハース版)
座席
Rサイド1階M列3番(A席)

今日は毒気づくよ

 去年行われましたベートーベンチクルスのCDですが、最後にやった9番の発売が遅れています。一発目の2番などはわずか1ヶ月後に店頭へ並んだことを考えると、収録から半年経ってもリリースの予定すら立ってないのは何かしらの理由があると思われます。
 ぶっちゃけた話、きっと商品としてのレベルに達していないためレコード会社が頭を抱えているのでしょう。出来不出来の差があまりにも大きいチクルスでしたが、これをどうするのかEXTONの出方が注目されます。

 それで今年のブルックナーサイクルですが、8番は一応名古屋公演を収録して、今は夏の大阪と東京公演待ちで、5番はこの前の大阪公演で決まり。そして4番は去年シンフォニーホールで収録済みです。
 しかし7番については今日のフェスでの定期公演一回しかないので、問答無用でこれに決まりです。
 しかしここ最近、朝比奈御大の定期における演奏に不満がある私には非常に不安を募らせる状況です。

 今日よりひとつ前に聞いた7番はシンフォニーホールでの朝比奈隆の軌跡1999でしたが、その少し前に行われた99年東京定期の模様がこの前DVD化され発売されました。
 実際に両方聞いた人の話によると大阪での演奏の方がさらに良かったそうですから、どこでもいいんで大阪公演のCDを発売してくれないでしょうか? 朝日放送が音源を持っています。
 EXTONから出る予定のブルックナー選集、私てっきり7番はこのDVDと同じ音源を使用するものと思っていました。

ブルックナー…交響曲第7番

 まず始まると、テンポ設定の速さに驚く。ある程度は予測してましたが、それ以上でした。第2楽章などあれではアダージョではなくアレグレットだ。
 前回の7番でも同様の気持ちを抱きましたが、今日の演奏はそれの比ではありませんでした。
 全体にギュッと圧縮して、4つの楽章をバランスよく配置させ、終楽章に全曲の頂点を築こう、という狙いだったようです。目指すはベートーベンのような緊密感でしょうか。
 ですから特に肥大してしまいがちな前半2楽章の締め上げ方は並ではなく、前述のように5部形式である第2楽章のアダージョはアレグレットのように流れ、第1楽章コーダや第2楽章の頂点もオケのパワーを全開にはさせませんでした。

 しかしそれもきちんとしたアンサンブルがあってのこと。今日の御大はいつにも増してオケの統率を取ることが出来ていませんでした。
 あれでよく大フィルは演奏できるなあ、と不思議に思うくらいでした。コンマスの岡田さんも大変だったみたいです。なにか予感がするのでしょうか「ヤバイ!」と思ったときのコンマスの身振りの大きいこと。半分くらいはかえって弦の縦が合わなくなる原因になってしまっていたことが涙を誘いましたが。
 特に第1Vnはひどいありさまでした。コンマスがオケ全体をまとめるのに必死だったため、自分の背後が手薄になったのでしょう。せめて第2プルトぐらいはトップにピッタリ追いてってやれよ。
 また金管はいつものように冴えなくて、ホルンはまああんなモンだとして、トランペットがしょっちゅうこけていましたし、バスチューバとワグナーチューバも怪しい音程でした。
 シンフォニーホールだと適当にごまかせたのでしょうが、フェスティバルホールはそのへんモロに聞こえてしまいます。
 ほとんど聞くに堪えないアンサンブルでしたが、チェロだけは見事でした。あんな中低音が分厚いサウンドを聞くのは初めてです。それでいてギュッと締まった音でしたから、彼らの活躍は曲全体の緊密化に大きな役割を演じてました。

 スケルツォ以降は99年の演奏とそれほど変わりはなかったのですが、フォルムを圧縮したせいかゴリゴリとして無骨な肌触りを持つ音楽でした。また99年の演奏時には終楽章に入ってすぐ「そうか! これが言いたかったのか!」とハッとしたのですが、今日の演奏にはそういうインスピレーションの発露がありませんでした。
 しかし頂点を築くフィナーレには一分の隙もなく、コーダに突入してからの大きいスケールを持つ自然な盛り上がりはやはりさすがだと思いました。
 フィニッシュの音の切り方は見事でしたが、この時のキメポーズは指揮者の御大よりコンマスの岡田さんの方が格好良かったですね(笑)

一般参賀

 最後の和音が鳴り響くと少し間が空いてから拍手。これは珍しい。大阪のラテン人もやっと拍手の仕方を覚えてきたのですね。でも拍手が始まったときにはまだ残響がホール内に残っていたので、まだまだ早いと言えますね。
 前回の5番でこの間を「ガンガン盛り上がる5番でこの間はすごい。大阪の聴衆は素晴らしい」と言う人がいましたが、この人にはチェリビダッケやヴァントのCDを聞かせてみたいです。特にヴァントの20秒近い沈黙を聞いてしまうとあんなもの当然だと思ってしまいます。
 一度御大が舞台袖に引っ込んだ後も満場の拍手がステージに送られ続けます。それでも御大はなかなか答礼に現れてくれません。こういう時、御大は非常に疲れている時なのでちょっと心配でした。
 それでも朝比奈御大はステージに再び姿を見せてくれました。いつものようにオケの後ろの方へ行きワグナーチューバを立たせようとしましたが、彼らは今日舞台の下手に座っています。それを忘れているのか、8人のホルンを立たせたかったのかよく解りませんでしたが、御大は上手のホルンに向かって「立って、立って」と合図を送ります。ホルンの人達は「先生、あっち、あっち」と下手を指差し、終いにはティンパニの人も「あっちですよ」指を指してました。(7番はホルン8本でそのうち4本は第2、4楽章でワグナーチューバに持ち替えるんですが、今日のワグナーチューバ4人はそれ専門でした)

 答礼はこの一回で終了し、オケも解散となりました。
 拍手も止み、客も会場を後にし出しましたが、やや小太りの30歳代の男性が立ち上がってしつこく拍手を送ってました。それに続き数人の人が上手の最前列に陣取り拍手をしていました。(このひと最初から立ち上がって拍手してましたけど、そんな演奏でしたか? まあ個人の自由ですけど)
 これを見た他の客も「おや、今日も呼び出すの?」といった感じで、ぞろぞろと集まり出しました。
 結局、御大はこれに応えてくれましたが、まったくの蛇足でしたね。御大は疲れて足下がおぼつかないし、バカみたいにフラッシュが焚かれるし、良いことがありませんでした。
 いつもだったら最前列に突進する私ですが、今日はこのバカ騒ぎを遠巻きに見つめるだけでした。

おわりに

 今日の演奏もEXTONによって録音されていますが、正直商品として成り立つものか疑問が残ります。EXTONは完全主義なところがあるのでなおさらです。
 つくづく朝比奈隆の軌跡1999でのブル7がCD化されないことが残念でなりません。

 総じて、ハチャメチャだった演奏会でした。

 こんな不快感を露わにした文章をさらしてしまって、ごめんなさい。でもあんなに拙い演奏なのに絶賛の評しか目に付かない状況に我慢できませんでした。あと客の反応にも。私の感性がおかしいのならそれで構わないのですが、あんなのべた褒めする気にはサラサラなりません。
 さて次回はザンデルリンクと大阪シンフォニカーによるシューマンの交響曲1番です。若々しい生命力に溢れたこの曲をこのコンビがどう表現してくれるのか、とても期待しています。


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