過去の雑記 02年 6月

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6月21日
SFM7月号読了。今号は「数の迷宮へ――暗号/数学SF特集」。

ラッカー&ディ・フィリポ「ピュタゴラスの平方根」
 ピュタゴラスが自身の哲学に反する無理数を発見してしまうまでの話。「物のイデア」(たぶん無理数)にごく近い数を思い浮かべると、物自体を呼び寄せるというネタはちょっと楽しい。

ケーガン「数理飛行士」
 世界のありようをおもいもかけない別の視点から見せるという、清く正しい本格SF。終盤の数学空間の描写は圧巻。

北原尚彦「鏡迷宮」
 アリスで暗号というところまではいいのだが、どちらも中途半端でうまく機能していない。序盤の異世界への旅立ち部分の書き込みが足りないのか。幻想が立ち上がらないため、暗号解読とアリスガジェットの羅列だけがつづく中盤以降が退屈なものになっている。

ビショップ「エイリアン・グラフィティ(突発的闖入物にまつわるある個人史)」
 突如空中に現れるようになった解読不能の暗号文というガジェットは好きだし、話の終わらせ方も納得のいくものなのだが、小説としてはどうも楽しめなかった。同じ話をワトスンが書いていれば「面白い」と言ってしまう気がするあたりがなんとも。

小林泰三「きらきらした小路」
 よい子の物理シリーズ。ここまでわかりやすい設定で種明かしをしなくても、「道なり」に読んでいけば十二分に理解できるって。いらない解説がなければもう少しは楽しめたように思うが、それならもうひとひねり欲しいか。

浅暮三文、藤原ヨウコウ 「箱組みたち」(ことのはの海、カタシロノ庭)
 濁音、半濁音が登場するなら50音でも何でもないじゃないか。

神林長平「膚の下」
谷甲州「パンドラ」
 連載を途中だけ扱っても、という意味を実感。急展開で盛り上がっているのだが、ここだけ取り出して面白いかといわれると非常に困る。全体の長さが半分で、毎回の長さがこの倍ならまた違うのだろうけど。

多田由美&神林長平「戦闘妖精・雪風」
 地球時代の回想に比べ、フェアリイ部分があまりにも退屈。

特集は小説外の記事も好印象。これで暗号と数学がもう一歩噛みあえば。

6月22日
衝動的に、東芝の携帯MP3プレイヤー付きPCカード型ハードディスク、GIGABEATを買ってしまう。4.6GBの大容量と、PCカードとしても、USB-HDとしても使えるとりまわしの良さは嬉しい。これでもうひとまわり小さければ、というのは望みすぎか。普通に便利。

帰りがけに秋葉原デパートに寄る。1F、2Fはともかく、あの3Fはなんですか。ガンダム屋に、鉄道模型に、フィギュアに、コスプレ風喫茶……。魔窟を作るにしてももう少し節度というものが。

まんがをいくつか。

村枝賢一『RED』10巻(講談社アッパーズKC)。賞金稼ぎの大群 対 特攻野郎REDチームの戦い。全編これ活劇。すばらしい。

山下和美『不思議な少年』2巻(講談社モーニングKC)。「話すこと」の勝利を描く第5話「ソクラテス」が良い。

王欣太『蒼天航路』25巻(講談社モーニングKC)。物語的には一休みの曹操家臣団篇。登場しない劉馥が最大の存在感を示すあたりはこのまんがらしい。

熊倉隆敏『もっけ』1巻(講談社アフタヌーンKC)。物の怪が見える姉と、物の怪に憑かれやすい妹の、日常怪異譚。あくまで等身大であるのが心地いい。

6月23日
長谷川裕一『クロノアイズ』6巻(講談社ZKC)読了。第一部ハデス篇完結。広げたの風呂敷をきちんとたたみ、非常に綺麗に終わっている。これなら第二部はなくても良い、あるいは無いほうが良いのでは。いや長谷川裕一のことだから、第二部が始まれば、この第一部を取り込んだ上でさらに壮大な物語に仕上げてくるとは信じてますが。

『マップス』がスペオペの傑作であるように、こちらはタイムパトロール物の傑作なので、未読などという不届きな輩は一読、二読しておくように。試験に出ます。< 出ません

昼から「少林サッカー」を見に行く。なるほど。あの台詞はここに入るのか。ベタなギャグを多用する実に香港映画らしい快作。伏線もちゃんと使い切っており好感が持てる。上映時間いっぱい、しっかりと楽しめた。

しかし。香港映画が、その本質においては、「酔拳」の頃から何も変わってないような気がするのは、僕が無知なだけなのか。

6月24日
「とりあえず、ラファティ」で、SFマガジンの追悼特集連動企画のベスト3アンケート結果が出た。

1位が「スロー・チューズデー・ナイト」というのは意外。確かに楽しい話ではあるが、ここまで高評価とは。26人中7人だからラファティ・ファンの4人に1人強が推した計算。すごい。

比較のため、SFMの作家・評論家18人によるベスト3を集計してみた。結果はこんな(( )内は票数)。
  1. (5)「町かどの穴」
  2. (4)「その町の名は?」「みにくい海」「七日間の恐怖」
  3. (3)「九百人のお祖母さん」「つぎの岩につづく」「カミロイ人の初等教育」
  4. (2)「寿限無、寿限無」「テキサス州ソドムとゴモラ」「われらかく、シャルルマーニュを悩ませり」「とどろき平」「田園の女王」「素顔のユリーマ(愚者の楽園)」「日の当たるジニー」「カミロイ人の行政組織と慣習」
  5. (1)「公明にして正大」「完全無欠の貴橄欖石」「昔には帰れない」「彼岸の影」「意思と壁紙としての世界」「一期一宴」「草の日々、藁の日々」「ブタっ腹のかあちゃん」「秘密の鰐について」「世界の蝶番はうめく」「どろぼう熊の惑星」「アダムには三人の兄弟がいた」
ファン投票1、2位の「スロー・チューズデー・ナイト」「他人の目」が入ってないのが目を引くところ。プロとファンの意識の差?
#偶然だと思う。

なお、両者を合計するとこんな感じ(6/27修正)。
  1. (7) 「町かどの穴」「スロー・チューズデー・ナイト」「その町の名は?」「みにくい海」
  2. (6) 「七日間の恐怖」
  3. (5) 「九百人のお祖母さん」「寿限無、寿限無」「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」
  4. (4.5) 「カミロイ人の初等教育」「カミロイ人の行政組織と慣習」
妙にまともだ。

で。ベスト3を選んでみた感想は、選べるかこんなもんといったところ。あまりに選択肢が多すぎて、理由づけが不可能に近い。最低ベスト10、できればベスト20以上じゃないと選びようがない。いっそのことベスト1なら、それはそれでなんとかなるのだが。改めて、偉大な作家だと思い知らされた今日この頃である。

6月25日
今日の驚いた記事。 IEのシェアって95%にもなっていたのか。ついこないだまでは3割あるかどうかだったのに。

SFM考課表7月分公開。「数理飛行士」の高評価は納得。

マップスOVAのOP、「風は翼に乗る 翼は風に乗る」を繰り返し聞く。
そして運命が 行く手を阻んでも 己信じやつは微笑む
かっこいいなあ。かっこいいアニソンベスト3なんて企画があったらまちがいなく投票するのに。後の2曲?もちろん「Hello, VIFAM」と「誰がために」だ。

しかし、いい曲だ。これをOPにして、ちゃんとわかっているスタッフが4クールのテレビシリーズにしたら傑作になると思うんだけどなあ。どこかでやらないものか。 < 無理だろう

6月26日
ゆうきまさみ「KUNIE −パンゲアの娘−」最終回。それはさすがに打ち切りっぽいなあ、と思っていたら打ち切りだったらしい。残念。面白かったのに。面白かったのに。でも、単行本で読まないと楽しくない(しかも、それでもややテンポが遅い)というのは週刊連載としては失格か。パトレイバー以降、どんどん話が遅くなっていたから、この辺で一度危機感をもつのもいいのかもしれない。ともかく、次回作に期待するのみである。

6月27日
唐沢俊一日記の6月26日。今号のSFMがあまりにもマニア的という指摘にうろうろと思う。ラファティ追悼特集をマニア的にならないようにしろといわれても、という気もするが、これだけの大特集を組むなら「ラファティって誰?」という読者も視野に入れるべきなのかも。かも。かも(無責任なので結論は出さず)。

日々の憂鬱 6月26日。「昔々、ミステリ愛好家は」からはじまる四段落は、ミステリとSFを入れ替えても完全に成立するような。これは「ジャンル読者」の存在する文芸ジャンルに共通の現象なのか、他のジャンルにはない、ミステリとSFにだけ存在する特徴なのか。時代小説はどうだろう。

6月28日
社会思想社倒産の報を受け、近所の書店で手に入る本をいくつか物色。倒れてから買いに行くくらいなら、倒れる前に買えというのは正論ではあるが、すべての本を買う経済力がない身では後追いが起きるのもしかたがないと、主張せざるを得ないのであるよ。< 何に言い訳をしてるのか。

買ったのは『魔眼』『ケルト幻想民話集』『ケルト魔法民話集』『カルタゴ』。落語系もおさえておくべきか。

松谷健二『カルタゴ興亡史』読了。知らない話も面白かったが、なにより知っている話を別側面から眺めることが出来たのが収獲。アルキメデスの住んでいた都市の名前としか認識していなかったシラクサが、シチリアのギリシア植民地の中心都市で、第一次ポエニ戦争の重要な係争地だったなんて。古典古代はちょっと勉強しなおしたい。

ああ、ギリシア系諸族、フェニキア系、ローマ系を中心に地中海の覇権を争うBritanniaスタイルのゲームは面白そうな気がする。海戦ベースというあたりで他のBritannia系と区別できるし。誰かデザインしないか。

6月29日
日比谷でSWEP2の先々行上映を観る。おお。EP1よりははるかにテンポが良いぞ。さんざん宣伝されているロマンス部分には、はいはいやってみたかったのね以上の感想はないのだが、他がいい。オビ=ワンの無能っぷりと、ドゥークー伯爵の悪役ぶりが最高。そしてなによりマスター・ヨーダ。いやすばらしい「ただの活劇」だ。旧シリーズファンへの目配せもたっぷりで、EP1から観始めた若造とは違うんだ気分も満喫できる。3POの演技も見事で、ジャージャーごときとは道化役としての格が違うことを見せつける。満足できる2時間強だった。

これで、アナキンさえ出てこなきゃなあ。
# ヘイデン・クリステンセンの演技に文句はない。キャラとしてのアナキンが鬱陶しいのだ。

6月30日
通りですれ違った青年が着ていたTシャツの胸元に、こんな文章が書いてあった。「I ♥ Gotham」。……微妙だ。
#これのどこが面白いかというと、このTシャツは明らかに「I ♥ N.Y.」と大書してある、一目見てむず痒くなるようなTシャツのパロディで、ゴッサムシティがニューヨークをモチーフとしているという知識を要求しているわけなんだけど、大半の人はそんなことは知らないだろうと思うので、そういう人から見ると、このTシャツも「I ♥ N.Y.」とまったく同様にむず痒いものに見えるんじゃないかと、余計な心配をしてしまったという、そういうことが言いたいわけです、って、一行コメントに本文の数倍する注釈をいれてんじゃねぇよという突っ込みは甘んじてお受けする用意があることを前もって表明しておくところであります、はい。

昨日入手した山本正之「正しい未来」を聞きまくる。少年の日のわくわく感を思い出させる「本通りラジオ冒険団」、ゆったりとしたラブソング「ヨーグルトワルツ」、ここにあることへの自信を取り戻してくれる「ORIGINAL −起源−」が良い。

まぎれもなく ここにあれ おお オリジナル


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