過去の雑記 98年10月

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10月21日
午前半休を取り、江戸川区役所葛西事務所へ。よく考えてみると、手続きをしてから会社に向かってもフレックス時間内に着くし、だいたい住民票を取るだけなら開庁時間に行かなくてもいい、ということには前日のうちに気づいていたが、一度休むと決めてしまった体はいうことをきかない。朝からすっかり自堕落モードだ。
住民票をとってからゆっくりと中野へ。午前中に着いてしまったのでルノアールでSFマガジンを読みながら時を過ごす。至福の時間である。

ナンシー・クレス「密告者」を読了。どんなに社会的に生きることが気持ちよくても、「個」を知らなきゃ生きている意味はないんだよ、というお話。まあ、それなりに面白くはあるが趣味じゃないな。この手の社会的意義を持つテーマを扱った作品ってのはSFとして不純な気がしてしょうがない。やはり、真のSFというものは、時空の構造とか宇宙の果てとか、何の役にも立たないことについて真剣に考えるものでなくては。
続いて、川田武「ミステリチャンネルのミステリー」読了。本当にただのミステリーじゃん。短編としてはよくできていると思う。
帰りの電車では山田正紀「星砂、果つる汀に」と神林長平<新・雪風>を読む。

日本シリーズは雨天中止で一日順延。
「どっきりドクター」を見る。なんだか間延びした笑えないコメディになっていた。せっかく千葉繁を使っているのにもったいない。こんな半端なもんを作るくらいなら、アニメをやらなきゃいいのに。


10月22日
連日SFマガジンを読み続ける。10月号をやっと読了。
ジョン・G・マクデイト「地獄の黙示録(ジゴク・ノ・モクシロク)」は図書館のエレベータが自分について悩む話…というかなんというか。傑作。アイデアに負けてしまったので、文章表現だとか、構成の妙だとかがちゃんとしていたかどうかを吟味することすらできそうにない。この手のくだらない話を本当に描く臆面も無さは、今の国内作家にも見習って欲しいもんだ。
トニー・ダニエル「月に生きる」はくだらないロマンスもの。べたべたのセンチメンタリズムが気持ち悪いし、なによりできの悪い詩が織り込まれているのが興を削ぐ。今年半ばのSFM掲載ならそう目立たなかったかもしれないが、この号でこの程度では悪罵されても仕方があるまい。掲載号が悪かったとはいえるかも。まあ、本当にできが悪いんだけど。

ちなみに小説以外ではAsimov'sの年表(この号はAsimov's特集号)が面白かった。Asimov'sがどれほど数多くの傑作を輩出してきたかがよくわかる。
SFMの海外短編初出時掲載誌別リストを作ると、もっとよくわかるが。

続いて11月号を読みはじめる。この号、10月号に輪をかけてできが良い。
読む前に評判を聞くという屈辱を味わったダン・シモンズ「最後のクラス写真」は悔しいことに評判どおりの傑作。
主人公は初老にさしかかった独身の教師。教育に一生を費やしてきた彼女だが、最近の生徒にはほとほと手を焼いていた。何を言っても言うことをきかず、ただ騒ぐだけなのだ。それでも諦めることなく教育を施す彼女だが、正直しだいに疲れてきていた。そんなある日、暴徒と化した群集が学校に襲いかかった。子供達を守るため、自らの命を賭して学校を守った彼女だが…。
ストーリーだけ書くと普通小説のようだな。
あんな突拍子もない設定で、これだけ抑制の効いた語りができるとは、シモンズおそるべし。

エリザベス・A・リン「月を愛した女」は、よくできたファンタジー。どこかの神話にありそうな話を書けるという才能は偉大だと思うが、だからこの話を気に入るってわけではないのだな。このクラスの話10数編からなる連作短篇形式の創作神話だったりすれば好きになるかも。

フリッツ・ライバー「ベルゼン急行」はよくできた異色短篇。種明かしの場面がやや浮いているのが気になるが、ちゃんと恐怖(っていうよりは不安感くらいか)を感じさせてくれる、いいホラーになっている。

ジェイムズ・P・ブレイロック「十三の幻影」は、どこかで読んだようなアーバンファンタジー。小道具がアスタウンディングってところを除くと、あまり新しさはない。現代と過去があまりうまく繋がれてないのも気になるかな。ただ、雰囲気は良いので、読後感は悪くない。

日本シリーズ第3戦は出てくるピッチャーが軒並み不調で完敗。明日は本当に中3日で野村の先発らしいので4勝3敗で西武の日本一という可能性がかなり高くなってきた。だから、もっと逆転に次ぐ逆転の派手な試合はできんのか。


10月23日
昨日の続き。
神林長平<新・雪風>は唐突に不可知戦域が登場。そんな設定、心の底から忘れていたよ。前作(『戦闘妖精・雪風』)とは違い、1話でちゃんと完結している話が無いのに連作という形式を取ってるので、だらだらした話を細切れに読んでいるという印象があったが、やっとどうにか話が動いてきたようだ。とりあえず完結するまで評価は保留。
山田正紀「星砂、果つる汀に」は急転直下のまとめで第1部終了。「いくらなんでもそれはまずかろう」という設定に支えられてのことではあるが、なんとか過去の伏線がすべて一本に繋がった。見通しだけは圧倒的に良くなったので、活劇になるのであろう第2部に期待なわけだが、それにしても、あのまとめ方はもう少し何とかならなかったのか。単行本になるときには少しは整理されているんだろうけど。
佐藤哲也「イトノコ大隊」は、かんべむさしのような話。細かいクスグリはいっぱいあったのだが、肝心のサゲがどこにも見当たらない。構成は明らかに落語なので、その辺だけはきちんとして欲しかった。
藤田雅矢「ファントムの左手」は、幻肢(ファントム現象)を扱った異色短篇。それなりに味はあるが、この作家の短篇としては不思議さが足りないかも。書き手を考慮しなければ、文句無しに及第点だが、書き手を考慮するとちょっと悩んでから及第点だな。
小説以外では、「SPECIAL ARTICLE」で紹介された各作品があまりにも魅力的で強く印象に残った。特にマイクル・カンデルの"Panda Ray"は凄すぎ。『キャプテン・ジャック・ゾディアック』も『図書館のドラゴン』も長生きしなかったカンデルだけに、翻訳が出る可能性は低い気もするけど、できれば大森訳で読みたいなあ。
ってなわけでSFM11月号も読了。世界幻想文学大賞&ブラム・ストーカー賞特集というのは大当たりでしたね。ヒューゴー&ネビュラなんぞの特集よりは遥かにも面白かった。また、数年したらやってくれないかな。

芳林堂でニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』(アスキー出版局)、ジーター『垂直世界の戦士』(ハヤカワ文庫SF)を購入。ジーターの表紙はソノラマのようでちょっと意表を突かれてしまった。

日本シリーズ第4戦は野村先発で予定通りの敗北。明日の斎藤隆は勝ったとしても、第6,7戦で投げるピッチャーが思いつかない。これは西武の逆転勝利か?


10月24日
書泉西葛西で「SFマガジン」98年12月号と、柴田元幸編集のアンソロジー『いまどきの老人』(朝日新聞社)を購入。

名大OB-ML Pageの10月分ゲラが出来上がったので、見に行く。身内を誉める事になってしまい恐縮だが、浅井R(10)のグリーン・ラプチャー・ジャンキーズが傑作。ちゃんと展開すれば、神林批評としても充分なものになるんじゃないだろうか。この調子がどこまで持続できるかは知らないが、とりあえず12月も楽しみにしていよう。

日本シリーズ第5戦は斎藤隆先発で予定通りの勝利。明日以降の先発がいないという問題点が全く解消されていないが、ただ、勝ち方が良かったのは好材料か。前半の大量点はともかくとして、中盤以降、相手が点を入れる度に更に多くの点を取り返してきたのは、西武のやる気を削いだという点で大きな収穫だ。相手の中継ぎエースからホームラン2本で3点返してさあこれからというところで7点取られちゃやる気も失せるだろう。
特に、新谷・和田のバッテリーは完全に使い物にならなくなったので、残りの試合は中嶋に止めを刺す事だけを考えれば良くなった。ただ、五十嵐が打たれてしまったのが問題。調整登板で7点差もあったので気合いが乗らなかっただけだとは思うが、このままズルズルといってしまう可能性もある。残り試合を阿波野・島田の二人でどこまで繋げる事ができるかが鍵だな。


10月25日
昼頃起き出して、不動産屋で部屋の契約をする。26にもなろうかというのに、この手の手続きがことごとく初体験というのもなんだが、“大人になったような気がして”楽しかった。

今日はシリーズも移動日なので、ボーッとスポーツニュースを見ていると野村が阪神監督就任というニュースが飛び込んできた。来年も、あの台詞を聞かされるかと思うと正直頭が痛い。
まあ、野村流の、監督が絶対的な主導権を握る野球も面白いので、現場に残ってくれるのは嬉しいといえば嬉しいのだが、権藤を本気で嫌ってるんだよな、あの人。現場に残るのならパシフィックに行って欲しかった。阪神にはもうしばらく心のオアシスでいて欲しかったという思いを否定できないし(笑)。
超一流の選手がいない代わりに、スペシャリスト的な「2流の上」が大量に揃っている阪神というチームは、野村野球には向いていると思うんだけどね。

などと思いつつデータの入力作業などをしていると、SFMリストの元版(桐データファイル)で、ローマ数字(機種依存文字)を使っていることに気づく。チェックしてみたが、案の定、Webリストの方にも使われているようだ。急いで修正する。

深夜までかかってパトリック・グランヴィル『火炎樹』(国書刊行会)を読了。『リトル、ビッグ』とも『精霊たちの家』とも『ロマン』ともまた違う分厚い物語だ。
大枠は、アフリカの狂王の栄光と挫折を、シニカルな白人の青年の目を通して描くという比較的単純なものだが、見るべきところはそんなところではなく、赤道直下の熱気が立ち上るような、獣と汗の臭いが感じられるような丹念な、いや執拗なまでの描写にある。「現代最高のバロック小説!」という惹句は伊達ではない。なんの留保も無く全面的にお勧め。


10月26日
久しぶりにのだ掲示板を見に行くと、えらい事になっている。『パラサイト・イヴ』(以下、PE)関連の議論は数ヶ月前に野尻掲示板でさんざん読んだので、さすがに興味が無いんだが。
とりあえず、「PEはSFか?」問題を考える上で常に念頭に置くべきは、
「作者(瀬名秀明)も、出版社(角川書店)も、PEがSFだと言った事はない。」
という点だろう。
「PEがSFだ」と言っているのも「SFじゃない」と言っているのもどちらもSFファンなわけで、結局この論争は、題材としてあげられたPEそのものとは何の関係も無く、SFファン同士の自己のSF像についての信仰告白でしかない。
そんな、当事者以外にとっては不毛な議論に、著者が介在する必要はまったく無いと思うんだが…。瀬名秀明ってマメだなあ。
ちなみに、私見では、あれは明らかに「狭義のSF」ではない。だって、SFって書いてないんだし。ただ、容易にSFとして読む事が可能であり、その立場では、駄目なSFになるとは思う。SFとして読む際のポイントは「科学の思考法、ないしは科学の成果をリアリティの拠り所とした現実からの逸脱がある」という点であり、駄目なSFとなるポイントは「怪物を擬人化したにもかかわらず、物語を等身大の復讐劇に限定した為、作中でのリアリティのレベルが一貫しなくなっている」点だ。
「SFか、そうでないか」ってのはあんまり意味が無くて、「SFとして読むと面白いか/面白くないか」の方が重要だと思うんだけどね。例えばPEの場合なら、(狭義の)SFとして読むよりは、特撮(「怪奇大作戦」あたり)と思って読む方が面白いという議論の方が、「あんなんSFじゃない」とか「あれをSFと認めないのは心が狭い」だとかいう議論よりは遥かに有意義でしょう。

会社帰りにジーター『垂直世界の戦士』を読みはじめる。冒頭数ページは、あまりにぎこちない文章で、文意がまったく頭に入ってこなかったのだが、慣れてくるとほとんど気にならなくなってきた。
「巨大建築物の壁面に生活する人々」という大設定はわりとありきたりだが、壁面を荒らしまわる戦士集団の株上場されているなどの細かな設定が結構ツボにはまってしまった。まだ、ほとんど読み進んでいないので、これから投げ捨てることになるという可能性も否定できないが、今のところは面白い。

会社から帰ると、日本シリーズが終わっていた。優勝は横浜ベイスターズ。誤審や西武の拙攻に助けられた場面もあるが、川村が好投したらしい。よかった、よかった。
あまり「燃える」ゲームが無かったせいか、どうも盛り上がりに欠けるシリーズであった。まあ、これからのストーブ・リーグはいやがおうでも燃えるだろうけど。


10月30日
週刊現代の横浜日本一特集号を買ってみる。この手の本でOBの「昔はぬるま湯体質でダメダメだったよね」発言が載るのはありがちだが、「そんなことはない。みんな真剣だった。」発言が載るのは珍しいかも。まあ、発言者があれなんで説得力皆無ですが。
しかし、横浜案内だの、中華街紹介だの、YOKOHAMA Walkerのような雑誌である。

この数日間、山田久志の中日投手コーチ就任(決定では無い)に、二岡の巨人逆指名(決定では無い)など野球関係で気になるニュースはいくつかあったが、一番驚いたのは横浜フリューゲルス消滅のニュース。別にサッカーはどうでもいいので、フリューゲルスというチームの去就については興味がないけど、そこまで不況は深刻なのかという点では興味深い。うーむ。
しかし、ナベツネのヴェルディ脱退もありうる発言は笑ったな。わざわざ脱退しなくても、来年はJ1にいないじゃん。


10月31日
今日は東京国際ファンタスティック映画祭の初日だ。この日のためにチケットを取りながら病に倒れた大熊君の遺志を継ぐ意味でも気合いを入れていかねばならない。というわけで、晩の徹夜に備えて昼前に起床。目的意識のある朝寝坊には充実感があるな。 < ねえよ

一緒に見に行く東洋大SF研の方々とは渋谷で3時に待ち合わせなので、2時半に九段下を出る予定で神保町に向かう。今日は神田の古本祭りでもあるのだな。
12時半に竹橋について、2時間かけて九段下に向かうという予定はよかったのだが、竹橋到着時点で金がないことに気づく。すぐに郵便局を探しに向かったのだが、つい東に向かうという失敗を犯してしまった。行けども行けども郵便局は見つからず、見つかっても土曜は12時半までだったりという状況で、結局神田駅まで行ってしまった。諦めて竹橋まで戻り、九段下の九段郵便局へ。ここまで40分以上のロスである。
結局、古本市は覗かず、出版社ブースを見てまわった後、お茶の水Yellow SubmarineとBookPowerRBによっただけで、神保町を離れる。収穫は、東京三世社のブースで見つけた夢路行の『みちしるべ』と福山庸治の『夜は散歩者』。かけた時間の割には大きな収穫だった。
夢路行『みちしるべ』は謎の宇宙生命体「畑の主」を主人公とする連作。幽霊、雪女、山姥、鬼などがさりげなく人と交流する世界を描く。暖かく淡い語りが心地よい。
福山庸治『夜は散歩者』はミステリタッチの短編集。ネタそのものはありがちでも、絶妙のテンポで読ませる作品に仕上がっている。こういった作品を読むと、愚作と秀作を分けるのは、アイデアでも画のテクニックでもなく、構成力だということが実感できる。特に表題作は、おっちょこちょいの主人公のミスが次々と大きな事件を生み出していくというありがちな話を完璧に描いていて秀逸。

3時15分前頃に渋谷につき、しばらく待つうちに東洋大の方々と合流。階段に移動し、3時間に及ぶ待ち時間に入る。途中、カメラを向けられてインタビューを受けたり色々あったようだが、それは東洋大の方々の話なので、ぼくはよく知らない。しかし、何のサークルかと聞かれて(サークルで来ていると答えた時点で敗北だと思うのだが)、しばらく沈黙してから、ぼそっと「SF研です。」と答えていたのは、あまりにありがちな展開だったので笑いを抑えるのに一苦労。もっと、自信を持つか必死で隠すかしないと駄目だよ。

6時過ぎには会場入り。オープニング・イベントは前回の初参加のときの方が感動があったが、映画は前回(「イベント・ホライズン」)より今回(「ヴァンパイア〜最後の聖戦」)の方が面白かった。チープな格闘といい、三味線の入るBGMといい、無駄な長回しといい、どうにもB級テイスト満載。さすがカーペンターである。
映画終了後はオールナイト開始までの短い時間で急いで食事。ここでも田中さん(東洋大SF研2年)が、いいネタを連発していたのが印象に残った。具体的には東洋大ページの方で発表されるだろうから、ここでは詳細を省くが、「ゴジラとモスラって違うんですね」という言葉には一瞬凍ってしまいましたよ、ぼかあ。

注)田中さんの名誉のためにフォローしておくと、上の発言は、「モスラ」が独立した作品であることを知らず「ゴジラ」の1キャラクターとして生まれたと思っていたという意味だったらしい。

で、10時20分からはオールナイト。「富江」「ダークシティ」「カルミーナ」までは、それぞれに不満はありながらもどこかは面白かったので眠気をほとんど感じずに見ることができたのだが、「タロス・ザ・マミー」はあまりにもありきたりの展開だったので中盤熟睡してしまった。落ちは頭が悪くてよかったが、最後の10分以外は見るところがないぞ。それでもまあ、全体としては去年のオールナイトより面白かったけど。
ちなみにオールナイトで一番気にいったのは、新作宣伝で紹介された「殺人コンドーム」。タイトルそのまんまの話らしいのだが、ギーガーがキャラデザってのはいったい…。とりあえず、そのうち出るというキャラクター・トイ、Walking Condomに期待だ!
まあ、そんなこんなで楽しくファンタ1日目は終了。明日(というか今日)の「プラクティカル・マジック」を見に行けるかどうかに不安を残しつつ、寮へと帰ったのであった。


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