過去の雑記 98年11月上

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11月 1日
午前9時就寝、午後1時起床。持ち帰った仕事の片づけと、引越しの手配と、ファンタレポートを片づけて夕方から「プラクティカル・マジック」を見に行く予定だったのだが、また寝てしまったので何もかも片付かず。チケットも無駄にしてしまったよ。


11月 2日
前日午前2時までかけてファンタレポートを書いたことのあおりを受けて、すっかり寝不足。とてもじゃないが、もう一晩オールナイトを見る体調じゃ無い気が。とはいえ、今日は今年のファンタの目玉「東京ファンタまんがまつり」なのだ。弱音を吐いているわけにはいかない。
会社を定時でさくっと退けて、家で軽く休息を取ってから渋谷パンテオンに向かう。途中の松屋で貧乏な夕食を食ったり、気分はすっかりアニメオタクだ。
予定より若干早く、10時半に渋谷パンテオンに到着。会場前には、いきなり行列ができている。係員に聞いてみると、どうやら当日券目当ての行列らしい。そうか、そうまでして見るものなのか。
行列を尻目に舘内に入ると、堺さんと添野さんに会う。今日のここまでの4作が期待外れだったとかで堺さんは大分気力を失っている様子である。しかし、大文字で「はずれ」と書いてあるアニメが2本もある日に何か期待していたのだろうか。きっと覚悟が足りなかったに違いない(笑)。
お二人はオールナイトは見ずに帰るとのことなのでそこでお別れし、チケット所持者用の行列に並びかける、…が、階段3階分並んでいることに気づき、行列を離れることにする。自由席ならともかく、座席指定でなぜ行列しなければならないのか?行列マニアの考える事はよくわからん。
さて、そんなこんなをしているうちに午後11時となり開場。アニソン鳴り響くパンテオンの広いホールは、むさ苦しいアニメオタクに埋め尽くされた。コスプレ人あり、メタル君あり、会場で貰ったマジンガーお面をつける人あり…、同じファンタのオールナイトでもここまで客層がかわるか、と感心することしきり。
でもまあ、「Zのテーマ」「勇者はマジンガー」「合体!ゲッターロボ」「不滅のマシン ゲッターロボ」「空飛ぶマジンガーZ」「いざ行け!ロボット軍団」など数々の名曲が鳴り響く中、合唱する奴がいなかったのは立派かも。僕は、つい心の中で口ずさんでしまいましたが。
本編及び幕間イベントについては、こちらを参照のこと。とりあえず、天下の名作「マジンガーZ対暗黒大将軍」に再会出来たことと、水木一郎の歌声を生で聞けたことだけでも行った甲斐があった。やっぱりアニメってのはぶっとい線でオーバーアクションをやってなんぼだよな。オモチャで再現できるような変形をしたり、間接があるところでしか体が曲がらないロボットを描いているうちは、アニメとしては二級以下だ。
ちなみに、今回のオールナイトの結果次第ではヒーロー特集の常設化もあるそうだ。じゃあ、次は仮面ライダーがいいな。


11月 3日
ファンタから帰って目が覚めると、いきなり4時過ぎ。やっぱり三日で2つのオールナイトはきつすぎた。面白かったから良いんだけどさ。


11月 4日
会社帰りに高田馬場芳林堂へ。王欣太『蒼天航路』14、永井豪&石川賢『ゲッターロボ』1-3、MEIMU『玩具修理者』を購入。

『蒼天航路』は相変わらず好調。正史演義とも、気がついたら切られていた文醜をここまでちゃんと書けるのはこの漫画くらいだ。fjの噂によると原案の李学仁が死んでしまったらしいので、これからどうなるかが不安ではある。

『ゲッターロボ』を買ったのは先日のオールナイト以来にわかゲッターファンになったため。必要の無い笑いを入れているあたりに前時代の少年漫画の悪弊を感じる。ただ、神隼人が殺人も厭わない学生運動の指導者という設定は今更ながらに驚き。いいのか?そんな設定、少年漫画で使って。
画面内での人死にの数も半端じゃない上に、その惨さも予想外。第一、「目の前にいるのはもう人間じゃない、虫けらなんだ」なんて台詞を吐くヒーローがいるか?ダイナミック作品の凄さは頭ではわかっていたつもりだけど、実際に読むとやはり桁違いだね。これを今の石川賢の画で、抑制無しに描ききったら本当にとんでもないものに仕上がるんじゃないかという期待がふつふつとわいてくる。とりあえず、『ゲッターロボ號』は買いだな。

『玩具修理者』は言わずと知れた小林泰三のホラー短編のマンガ版。キャラのかわいさとリアリティが両立する絵柄、原作をちゃんと換骨奪胎して自分の物語としている創作態度、いずれも立派なものだと思うのだが、だからと言ってこの漫画が優れたものになるわけではないのだな。ストーリーこそ違うものの、原作をちゃんと消化しているおかげで、ここで「怖く」なるというのがまるわかりになってしまい、まったく恐怖を感じない。むしろ、変にそつがないぶん、馬鹿笑いの種にすらならない中途半端なものに成り下がっているともいえる。
内に秘めた怨念をもたない技術だけの物語なんて、ホラーとしては何の存在意義も無いよ。


11月 5日
コンビニでマガジンSPECIAL掲載のマジンガーZのリメイクを立ち読み。どこにも美点は見受けられないのだが特にZのデザインが最低。無駄に線の多いできそこないの聖衣のような見苦しい代物で、往年のZの持つシンプルな美しさが微塵も感じられない。ダイナミック系のロボットのカッコよさはシルエットそのものだけではなく、装飾を一切施さないストイックなデザインにもあるということを忘れているのではないか?先日のオールナイトでも、ゲッターロボ(特に、ゲッター2&3)の感動的なまでの存在感と、真ゲッターの醜いまでの華美なデザインを見比べて、ロボットのデザインは退歩しているのでは、と考えていたのだが、ますますその思いを強くしてしまった。
確かに、永野デザインのエルガイムなど、線が多くとも美しくまとめたロボットも存在するが、あれは独特のシャープなシルエットがあってのこと。重量感を基調とするダイナミック・ロボットであれば漆黒の胸板をこそ目指すべきだと思うのだが。


11月 6日
二番目のオールナイトを境に悪化した風邪が最高潮。頭が全く動かない。とりあえず、定時で会社をとっとと退けることにする。今月の残業は現在−3時間だ。

やっとのことでジーター『垂直世界の戦士』を読了。この本に2週間もかけてはいかんよな。とりあえず設定は十二分に変だったし、話の展開もそれなりにお約束を裏切ってくれたんで、わりと満足の出来だった。しょせんは伏線を全部生かした大団円で終わる心地よい物語なので、今年のベストランキングに挙げるというような物ではないが、疲れているときに読んでスカッとできる読み捨てエンターテインメントとしては合格点。しかし、『ダークシーカー』といいこれといい、ずいぶん(ある意味で)素直な話なんだけど、ジーターって本当にこんな作家なのか?
とりあえず、『ドクターアダー』をとっとと読んでみよう。


11月 7日
SFマガジン12月号を読了。

目玉の<キリンヤガ>の新作(レズニック「ささやかな知識」)は5年ぶりの掲載にもかかわらず、どうしようもなくキリンヤガ。 < 当たり前である。
いままでワトスン役を勤めてきたンデミが敵に回り、もうすぐキリンヤが最大の危機を迎えるらしい。毎回展開が似ているので、どの話がどれだったかが区別できなくなってきているが、そういう人にはこれまでのストーリーガイドもついているので一安心だ。
敵が変わるだけで話の構造が同じだからどんどん印象が薄くなっているわけだが、今回はコリバがかなり追いつめられていたのでちょっと驚いた。「静的なユートピアは維持できないんだよ」というオチに終わるんじゃないかという気がだんだんしてきている。なんだ、『トマス・モアの大冒険』じゃん。

草上仁のショート・ショート3本は「まあ、こんなもんか」としか言いようが無い。「こちらITT」の切れ味を、「サクラ・サクラ」の泣かせの腕を、「くらげの日」のユーモアを、「ファンタシイ」の諧謔を、最近の作品に感じることが少ないのは、こちらが飽きてしまったからなのか、彼が慣れてしまったのか。3年くらい草上仁を断ってから読むと面白かったりするんだろうか。

神林長平の<雪風>は相変わらずだらだら続いている。先月号で、舞台は大きく動いたはずなのだが、こう連載形式で読んでいると場面転換の緊張感が感じられないのだな。ファンは文庫にまとまるまで手を出さないのが吉。

山田正紀『星砂、果つる汀に』は、先月第1部終了で伏線を整理し直した甲斐あって、快調に話が展開している。その伏線整理のために世界のリアリティを破壊する設定を持ってきてしまったので話全体の構成を整えるのは大変だと思うが、第2部だけならノン・ストップのアクションを駆動力とすることでなんとか話が持ちそうだ。ただ、話を終らせる際に反動が一気に吹き出すはずなので、その時が今から不安。まあ、最近の山田正紀の小説なんていつもそんなもんだけど。

殿谷みな子「空ガ墜チテクル」は久々に気に入った。鬱屈した日常に閉じ込められた主人公が非日常に触れる瞬間を描くという点では、いままでの作品と大きく異なるわけではないのだが、主人公がだんだんと追いつめられていくあたりの描写がいつになく秀逸。実際は、コンスタントにこのレベルのものを書いていて、今回たまたま「僕が」気に入ったというだけなのかもしれないが。

マクラウド「わが家のサッカーボール」は奇妙な味の一作。人間のからだの一部、または全体が、自由意志で、時に不随意に変身する世界を舞台に、一つの家庭で、問題が発生し解決されるまでも淡々と描いている。どんなスラップスティックでもドンとこいという設定で、これだけ静かに物語ることが出来るというのはかなりの才能かも。一読して、「変。」とつぶやくくらいの価値はある。

フリーズナー「すべての誓い」は美しく哀しいファンタジー。泣かせの要素がたっぷり用意されすぎていて、入り込むことができ無かった。2、3ヶ月に一度この手の話を読むのは精神衛生上良い気はするが、この月のラインナップの中に入ると些かくどい。この号の締めとしては、もう少し毒の強い作品の方が良かったような。

以上、とりあえず98年度のSFM掲載のフィクションをすべて読了した。SFマガジン読者賞投票作品および受賞予想作品については後日考えることにする。

午後7時前くらいから、ユタの例会。添野さんが風邪でダウン、堺さんにも用事があるとかで、メンバーは高橋良平さん、大森望さん、小浜徹也さん、三村美衣さん、雑破業さん、林の6人(推定年齢順)。夕食後のルノアールから福井健太さんとワセミスの方もう一人が参加した。
主な話題は、本の雑誌対談用「最強の兄弟」。ただ強いだけだと『レンズの子ら』を超えるのは不可能に近いことがよくわかった。銀河系狭しと活躍する兄弟に対抗する手段となると、多元宇宙狭しと活躍する兄弟か宇宙そのものが兄弟というくらいしか手はないよな。


11月 8日
昨日のユタで、「筒井の『馬の首風雲録』なら西葛西で売ってる店を2軒知っている」などと断言してしまったことを思い出し、急に不安になって古本屋を回る。が、どこにいってもありそうにない。あれ?じゃあ、あの本を見たのは中野か神保町なのか?なんにしてもデマを流してしまったことには変わりが無い。強く反省しつつ家路に向かう。
ついでに、ハヤカワ文庫以外であるかどうかを調べてみると、文春文庫に収録されていたことがわかった。これも中公とか言ってしまったような。調べもせずに物を言ってはいけないということであるな。

寮に戻るとフラフラと「第3次スーパーロボット大戦」なぞやってしまう。だからそんな暇はないんだってば。
このゲーム、10-20面は敵ユニットのバランスが絶妙で実に楽しい。特に、群がる雑魚をゲッタービームや光子力ビームで薙ぎ払っていると、頭の中で水木一郎の歌声が鳴り響き、ほとんどトリップしそうになるほどだ。ああ、モビルスーツなどといった侠雑物の無い真の「スーパーロボット大戦」が出ないかな。戦術性を持たせる方法が思いつかんけど。

深夜、SFマガジンの掲載作品をローカルのデータベースに入力し、SFマガジン読者賞の投票作品を決定する。
海外は思ったより豊作だった。実に良い感じに下らないワン・アイデアストーリーのブリン「水晶球」や、魅力的なキャラクターがウリのマーティン「モーゼ合戦」、設定に凝る志は買えるイーガン「ワンの絨毯」(以上1月号)、下らないアイデアを完璧な技術で磨き上げたシモンズ「最後のクラス写真」(11月号)など傑作がたくさんあったのだが、敢えてビッスンの「穴のなかの穴」に投票することに決定。万が一票が集まれば、続きが邦訳されるかもしれないしね。
逆に国内は取り上げるべきものが少ない。ベストとして投票していいな、という気になったのは小林泰三「海を見る人」(2月号)、山田正紀『星砂、果つる汀に』(2月号より連載中)、田中啓文「地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場」、牧野修「翁戦記」(以上9月号)の4作。連載が終了していない山田正紀を除くと、マンガトリオの争いになってしまった。
その中では、ギャグに流れかねないところを見事に踏みとどまりハードサイエンスファンタジーに仕上げた小林泰三の作品をベストとし投票することにする。
イラストレーターは例年のごとく北見隆。これはさすがに理由なんて無いな。
さて、何位までいけるかな。


11月 9日
引越しの荷造りを始めてみる。ダンボール一箱にだいたいSFマガジン百冊が入るようだ。この調子なら、二十箱もあれば本は全部詰められるかも。なんだ、思ったより物の無い部屋だったんだ。

仕事が煮詰まってきたので、逃避モード。SFMインデックス拡張の基礎作業として、1982年のSFMデータをローカルのデータベースに入力する。
入力途中で見つけたスラデックの短編「不安検出書(B式)」が傑作。しばらく前に、森下一仁のSFガイドの日記で紹介されたばかりなので詳細は省くが、じつにばかばかしい短編であった。いいよなあ、スラデック。
スラデックとか、ベイリーとか、カンデルとか、ワトスンとか、ラファティとか、この手の作家ばかり載っているSF専門誌があれば、毎月3冊くらい買ってもいいぞ。


11月10日
ジグゾーハウスから久しぶりに注文した本が届いた。購入したのは、SF宝石79年10月号、別冊奇想天外「ヒューゴー賞SF大全集」「レイ・ブラッドベリ大全集」、メリル『年刊SF傑作選7』(創元)、ラファティ『九百人のお祖母さん』(ハヤカワ海外SFノヴェルズ)、山尾悠子『夢の棲む街・遠近法』(三一書房)。
ラファティは当然文庫版を持っているのだがなんとなく買って見た。これと、メリルの7巻で「商業出版で」「書籍として」刊行されたラファティは知る限りのものを集めたことになる。次は当然雑誌になるわけだが…、Men's Clubかあ。

昨日に続きデータの入力作業。連載が途中でぶった切れることが無いようにするためには80年1月から入力する必要があることに気づきちょっと気が滅入る。80-82、98の4年分の更新作業となると、データ入力も含めると2、3日はたっぷりの作業量だ。まあ年内にできれば良しとしよう。
しかし、入力作業のために目次を見直すと新たな発見がいっぱいだ。特に興味深かったのが、<雪風>の掲載開始時期。文庫で出た時期から、80年代前半、82・3年あたりを中心に書かれた作品だと思っていたのだが、実は79年11月号、神林の2作目として始まってたんですね。そうか、来年の11月号は雪風20周年記念号になるのか。まだ若手作家のイメージがあるんだけど、神林も思いっきり中堅作家なんだなあ。しみじみ…。


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