過去の雑記 99年 2月

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2月21日
第2回のDASACON準備OFFのため新宿へ。用意すべきものの大半と担当、大まかなタイムスケジュールまで決まったので、まずは良い感じだ。
だいたい目鼻がついた時点で、予定会場である本郷の朝陽館本家に移動。水道橋駅から程近い落ち着いた感じの旅館で、想像より100倍は使いやすそうな建物だ。とりあえず器だけは勝利したという感じである。

旅館の素晴らしさに感動しつつ天狗で軽く飲む。結論は鼻行類偉大なりだったかな。9時ごろ帰宅。

帰り道で、ポール「世界を食べた男」(SFM'99/2)の予習としてポール「黄金の時代」(SFM'66/6)を読む。過剰生産により、貧乏な人間ほどたくさん消費しなければならなくなった世界という、ドラえもんのパクリ(笑)のような話。風刺に次ぐ風刺の無骨な話でいかにも『宇宙商人』の作者としか言いようの無い代物。ネタはこんなもんだと思うが、いくらなんでも長すぎ。

フローベル『紋切型辞典』(平凡社ライブラリー)読了。紋切型の表現を羅列し嘲笑うという狙いどころは面白いのだが、実際は、言葉そのものに対する皮肉だったり、ただの蘊蓄だったり、と別系統の定義が混ざってしまっているので印象が散漫になっている。本自体の出来はビアスの『悪魔の辞典』に比べて明らかに劣る。やはり、この手のものは作者の遺稿を再編集して出版してしまってはいけないね。

森下ページのベスト投票の結果がついに出た。投票した『時空ドーナツ』と<異形コレクション>は各々海外・国内の2位に入りまずはめでたい。僕の票が無ければ順位が落ちているというあたりもポイントが高い。それもこれも、自分の意志に反しようが死に票だけは投じるなという加沢さん(4)の教えを忠実に守ったおかげである。ありがとう、加沢さん。
『虚数』の得点が異常に少ないことを除けば、全体結果はまあこんなもんかというところ。海外の『スノウ・クラッシュ』といい、国内の『ブギーポップは笑わない』といい、1位になるには役者不足という気もするのだが、外に見せて読書案内にしてもらうベストとしてなら、この結果は妥当だ。いくら志は高くても、1位が『レッド・マーズ』じゃ一般読者はついてこないよね。

さて、次はSF Online賞だ。


2月22日
筑波帰りで早めに体が空いたので早稲田へ。欲しい本はなかったが、300円だったのでアトウッド『侍女の物語』を購入。ついでに別冊・奇天を少々買ってかえる。

帰りがけに「V3編」を回してみる。「ハサミジャガー」を入手。微妙だ。止める潮時という合図なのかもしれない。「V3」と「アオレンジャー」は欲しかったんだがなあ。

なんだかんだでSFM'99/2の五〇年代特集を読了。五〇年代独特の心地よさが満喫できた。やはり五〇年代は心の故郷ですね。
収録作中でもっとも上手いと思ったのは、当然スタージョンの「墓読み」なのだが、もっとも五〇年代的だったのはコーンブルース「必要経費は宇宙持ち」。いいよなあ、この手のベタな短篇。
もちろん再録も文句無し。コグスウェル「壁の中」なんて何度読んだかわからないが、読むたびに良い気分になってしまう。ここではないどこかに逃避する話と考えてしまうと身も蓋もないのだが、自らの翼で壁を越える話なんだから感動しないのは無理ってもの。ああ、いいなあ。

小説は気に入ったが、特集としての評価は難しいところ。SFMをまともに読み始めて8年目の僕にとってはほぼ完璧な構成だが、初読者にもこれで良いのかとなると疑問が残る。もう少し、SF史全体に対するパースペクティヴを与えるような記事が必要だったのではないか。せっかく、新人教育型の特集を組むのであれば、もう少し取っ付きやすさに気を配った方が良いかも。


2月23日
油断して先週から期待していた「ボイスラッガー」を見損なう。なんかすげぇ悔しい。


2月24日
先週からずっと読んでいる『スローリバー』は遅々として進まない。近未来の下水処理システムや、厚みのある人物造形など、どこにも欠点が見当たらないのにこれだけ進まないというのは、よほど向いていないということか。

というわけで気分転換に野阿梓「ソドムの林檎 前編」(SFM '99/2)を読む。うーむ、三分載の前編を読んだだけで評価をするのは何だけど全然駄目かも。
何が気に入らないって文体が気に入らない。それはもう、冒頭1ページで投げ出しそうになったくらい。なんなんだよ、あの過剰な読点は。
で、読点の多さもそういう芸風なんだろうと諦めて読み進んでいったのだが、比較的華美な文章主体の作家のようでいながら、漢字/かなの使い分けが不自然だったり、会話文中の語調が統一されていなかったり、ルビの使い方が不統一だったり、もう気になって気になって全然アクションに集中出来なかった。そのうち、懸命に調べて書いてるんだろうなっていう蘊蓄部分さえ耐えられなくなってくる始末。骨格となるストーリーはそこそこ面白そうなだけにもったいなくてしょうがない。
とりあえず、あるキャラが「どのレベルの」「何語で」「どんな口調で」喋っているかは、1シーンの間くらい統一しておいて欲しいものだ。


2月25日
昼休みに『SFバカ本 だるま編』、『グランドホテル』、SFマガジン99年4月号を購入。
SFマガジンの「SFファンのためのインターネットガイド」はかなり良いリンク集になってはいるんだけど、紙媒体という致命的な欠陥を抱えているので使いづらい。っていってる間にここにオンライン・リンク集が出来てました。さすがである。

とある理由でリスト魂が燃え始めたので、しばらく前から気になっていたAmeqリストのラファティ関係データとうちのデータとの差異をチェックし始める。Ameqリストのミスは膨大な収録作家数を考えれば仕方のないものだが、こちらのミスも結構見つかってしまうあたり情けない。収録作家数が2桁は違うってーのに。

で、この作業で大きな問題が浮かび上がってしまった。『子供たちの午後』収録の「アダムには三人の兄弟がいた」と『つぎの岩につづく』収録の「みにくい海」は、Index to Science Fiction Anthologies and Collectionsの初出データと、邦訳書の初出データが異なっているのだ。
具体的には、「アダム」はContentoではNew Mexico Quarterly Review 1960/Fallとなっているのに対して、『子供たちの午後』ではNew Mexico Quarterly 1968/Fallとなっており、「みにくい海」はContentoではThe Literary Review 1960/Fallとなっているのに対して、『ファンタジーへの誘い』及び『つぎの岩につづく』ではThe Literary Review 1961/Fallとなっている。
ISFDBContentoと一致しているので、それに従う方が正しそうなんだけど、どうも一抹の不安が残るんだよね。ISFDBの元ネタがContentoなんじゃないかっていう不安が。
試しに"The Ugly Sea"をAltaVistaで探してみると、1961年初出と書いている海外サイトが見つかった。もちろん、これも邦訳書と同じソースを引いているだけかもしれないんで確証にはならない。個人的には「アダム」は1960年が、「みにくい海」は1961年が正しいんじゃないかと思うんだけど、どうかなあ。
確証を得るためには、当該年度のNew Mexico Quarterly ReviewとThe Literary Reviewを探すしかないか…。

#探すのか? > おれ


2月26日
帰りがけに芳林堂により、『星界の紋章・読本』を見かける。いくらたった1000円とはいえ、これに金を払うのは人として間違っているのでは。
キャスティ『ケンブリッジ・クインテット』、冬目景『黒鉄』4、芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』6巻を購入。

『黒鉄』はますます盛り上げが上手くなってきている。第1話を読んだときにはここまで上手くなるとは思っても見なかったなあ。


2月27日
高野史緒「エクス・オペレ・オペラート」(SFM'99/2)読了。これで2月号は読み終わった。「エクス」はかなり面白かった。少なくとも過去のSFM掲載の短篇の中では一番面白い。嘘科学があったり、蘊蓄がややうざったかったりもするけど、テーマがわかりやすい分楽しく読めた。なるほど、それなりに上手い人だったのだな。

続いてジョン・L・キャスティ『ケンブリッジ・クインテット』(新潮社)読了。人工知能の可能性についてスノウ、ヴィントゲンシュタイン、ホールディン、シュレーディンガー、チューリングが論争をするという「フィクション」。本質的には科学啓蒙書なので小説として評価すべきではないのだろう。科学啓蒙書としての出来はそれなりで、人工知能入門の入門としては良く出来ている。ただ、せっかくの哲学論争があと一歩のところで終ってしまうので、フラストレーションが溜まるかも。「考える」とは何かを定義せずに「機械は考えることが出来るか」を議論してるんだから、そりゃ話が噛み合わないよなあ。

近所の古本屋で、ついふらふらと「アオレンジャー(秘密戦隊ゴレンジャー)」を購入。思わず、その足で「その名はV3編」を回しに行ってしまう。すると、なんと無事「V3」を入手。現状で手に入る宮内ヒーローが勢揃いしてしまった。
もちろん、今後「ビッグワン(ジャッカー電撃隊)」とか「三浦参謀長(超力戦隊オーレンジャー)」とか「正木本部長(特警ウインスペクター・特救指令ソルブレイン)」とかが出てしまうという危険性はあるのだが、まあそんな先のことを心配していてもしかたがない。とりあえず、「早川健」を中心に「ズバット」「V3」「アオレンジャー」をディスプレイしてみる。黒を中心にRGBの3色が並んで意外とカッコイイぞ。

さくさくっと『魔法の猫』読了。冒頭から思い入れ炸裂の序文を読むと猫に興味の無い人間はひいてしまいそうだが、個々の作品のレベルが非常に高いので序文はとっとと読み飛ばして中身を読み始めるのが吉。まあ、「跳躍者の時空」だの「鼠と竜のゲーム」だのが並ぶ目次を見れば、レベルの高さは一目瞭然ではあるが。およそ誰が読んでも4割は面白いんじゃないかというハイレベルのアンソロジーなので、できるだけ多くの人に読んでもらいたいね。

やっとの思いで『スローリバー』読了。400ページまではかなり苦労したが、そこからはわりとあっさり読み進むことが出来た。最初から、ミステリーの要素を前面に出してくれればもう少し速く読めただろうに。世界設定・人物造形・文章描写などには文句が無いだけに、ちょっと残念。
でもまあメインテーマに興味がもてなかったというのも事実なので、多少構成が変わったくらいでは評価は変わらないかも。感心はしたが面白くはなかった。

と、ここまで読んだ時点で時間切れ。とてもじゃないが『グランド・ミステリー』や『ホーリー・ファイア』は間に合いそうに無いんで、この時点でSF-Online賞に投票する。内容はこんな感じ。
  • SF長篇:R・ラッカー『時空ドーナツ』
  • FT/ホラー長篇:T・ホルト『疾風魔法大戦』
  • SF中短篇:S・レム「GOLEM XIV」
  • FT/ホラー中短篇:T・スタージョン「墓読み」
  • 第1長篇:上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』
  • ノンフィクション:長谷川裕一「すごい科学で守ります!」
  • コミック:イダタツヒコ『HeRaLD』
  • アニメ:「はれときどきぶた」
その外は棄権

長篇は2部門ともやや弱いという気はするのだが、他の候補が致命的な欠陥を抱えていたり(『タイム・シップ』『レッド・マーズ』)、趣味に合わなかったり(『スローリバー』)で投票できないんで仕方が無い。『スノウ・クラッシュ』という手もあったけど、あそこまで徹底的にエンターテインメントだと1位に推すのはちょっとね。てなわけで消去法でラッカー。まあマニア風の票を演出するにはベストでしょう。
中短篇の2部門はほぼ文句無し。FTはシモンズ「最後のクラス写真」というのも考えたけど理に落ちすぎてスタージョンのナチュラルな変さにはかなわないところがある。SFはこれしかないよなあ。
第1長篇はこれ位しか読んでいないので、投票する権利があるかどうか疑問は残るが、作品としては問題無いでしょう。少なくとも『ボーアメイカー』よりはまとまっていたし。
他はまあ、少い知識の範囲でベストを選んだつもり。「はれぶた」はアニメ史にその名を刻むべき傑作ギャグなので選んでみたが、おかげで「ファンファンファーマシー」に投票できなくなってしまった。
このベストで残念なのは、ベストコレクション/アンソロジーという枠が無いこと。せっかく<異形コレクション>を筆頭に、『恐竜文学大全』、『魔法の猫』と名アンソロジーがいくつも出た年なのにもったいないことこの上ない。アンソロジーの目次ってのはそれだけで一個の長編小説にも匹敵する価値を持つと思うんだけどな。

さて、今回は加沢さん(4)の教えを守らず、死に票を幾つか投票してみた。その分自分に忠実な投票になってるんで、これはこれで結果が楽しみである。


2月28日
夕方から、藤澤さん(7)のお誘いで「ガメラ3 邪神覚醒」の試写会を見に行く。
出掛けに何かの間違いで回した結果は「イビル(アクマイザー3)」と「早川健(快傑ズバット)」。ガシャポンを回すようになってしまってから初めてのダブりだ。取っておいても仕方が無いので、藤澤さんへの貢ぎ物にすることに決定。

映画の方は公開前なので詳細は省くがかなりの出来。特撮(あるいは前田愛)のためだけでももう1度金払って見に行ってもいいかも。ただ脚本に若干難があるのと、地上戦がカッコ悪いのは残念。ガメラはやはり、固定砲台として闘うか空中戦をしないと映えませんねえ。

でもまあ「大怪獣空中決戦」よりは遥かに面白かった。これなら「レギオン襲来」も見ておいた方がいいかな。


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