過去の雑記 99年 3月上

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3月 1日
大森日記を見ていると「Noёl」という文字列があった。一瞬、ネスケでウムラウトと日本語を同居させる方法があったのかと狂喜し、表現法を検討し始めたが皆目わからない。しばらく悩んだ末、ドイツ語のエゥムラウト(ë)ではなく、キリル文字のёであろうと結論づける。残念だ。
ブラウザの95%が日本語文中でシニヨンやアクサンやウムラウトを扱えるようになれば、Web上のリストももっと気軽に作れるようになるんだが。

帰りがけに発作的に高田馬場で降りるとBIG BOX前で月例古本市をやっていた。ほとんど収穫らしい収穫はないが、そのまま帰るのも癪なので2冊ほど無理矢理買って帰ることにする。


3月 4日
古書ワタナベの未整理の本の山からロブ=グリエ『嫉妬』を発見。やはり古本屋にはマメに通うものですね。ビュトール『心変わり』、ホールドマン『ヘミングウェイごっこ』をあわせて購入。しかし、今読んでいる『グランド・ミステリー』が一向に進まないので、積読の山が増えるだけなのであった。
『グランド・ミステリー』はとんでもなく面白いので時間さえあれば一気に読みたいのだが、なかなか思うようにいかない。文章に「入る」までにちょっと時間がかかるので行き帰りの電車など寸暇を惜しんで読むのがつらいんだよね。インターネットで選ぶ全日本小説大賞1999には間に合わないかも。


3月 5日
自らの不明で忙しくなってしまった仕事の合間を縫ってガシャポンを回す。「バロム1(超人バロム1)」入手。うーむ、なんか地味なデザインだな、これ。とりあえず、無意味に股間のもっこりを再現しているあたりはマニア受け商品としては評価すべき点だろう。

オープン戦でついに投手・新庄が登板。好調ジャイアンツ打線を三者凡退に切って取った。これだけ好調ならシーズンに入ってからもきっと登板するに違いない。いまから横浜との対戦が楽しみだ。


3月 6日
飯を食いに出たついでに回す。2個目の「バロム1」と「ガブラ(アクマイザー3)」を入手。これで「ザビタン」を手に入れれば、このセットはコンプリートだ。問題は、それを回して入手する(200円で確率1/6)か、古本屋で買う(315円)かという選択だけだな。

夕方からユタ。先週の反動か参加者は異様に多く、大森望、小浜徹也、さいとうよしこ、堺三保、雑破業、添野知生、高橋良平、林、深上鴻一、福井健太、福井健太さんの後輩の方、藤元直樹、溝口哲郎、三村美衣、柳下毅一郎(あいうえお順敬称略)、都合15名。
参加人数が多いだけにさまざまな場所で独立の会話が交わされたので、全部はフォローできていないが、僕の周囲での主な話題は、『幻想文学大事典』(国書刊行会)とガメラ3の感想、梅原書簡など。
梅原書簡の話はちょっと離れた場所で交わされていたのでへらへら笑っていたら、小浜さんに「お前も「こんな誤植が多い本を出すから雑誌が潰れるんだよ」というような、変な理屈の文章を書いたことがあるじゃないか」と突っ込まれてしまった。その場では「そうは書いてない」と言ったものの、不安になって、帰宅後当該文章を確認してみるとこう書いてあった。
「(誤植が多いという記述の後)こんなことだから会社が傾くんだよ、関智…。」
確かに、「そう」は書いていないな。
#しかし、いくらなんでも本気で信じて書いたわけじゃないと思うぞ。
それはともかく
他で面白かったのは、三村さんのYAの定義を伺ったこと。88年の「ドラゴンマガジン」創刊とともにジャンルとして成立したもので、語り口の特殊性と、強いメディアミックス志向の二つで特徴づけられる、という定義はかなり納得のいくものだった。あとは、始祖を『妖精作戦』に置くという点が納得できるかどうかだな。80年代の軽エンターテインメント系SFのタイトル一覧を作って、個々にYA性を判定していけばある程度何か言えるかな?

帰りがけに大森さんから、DVDプレイヤー購入により余ったLDプレイヤーを頂いてしまう。大ラッキー。こんど帰省したときにバイファムの全話LDを持ってくることにしよう。
他にも、ファンジンを幾つか頂いてしまったり、ラファティの初出調査の絡みで"Strange Doings"をお借りしたり、もう大森邸には足を向けて寝られないのである。いや、本当にありがとうございました。

感謝の念にはちきれながら家に帰ると、柳下さんからラファティの初出関連の情報を頂いてしまった。
邦訳書に記載された「アダムには三人の兄弟がいた」が1968年、「みにくい海」が1961年というデータは、それぞれが収録されたペーパーバックに記載されたものであるらしい。ラファティの作品リスト、R.A.Lafferty Checklist (Drumm)では、それぞれ60年、61年なのだそうだ。
この問題に関してはDrummのリストに従うことでとりあえず決着として、可能な限り初出誌そのものの入手を試みるということでよしとしよう。いやしかし、柳下さん、どうもわざわざありがとうございました。文京区にも足を向けて寝られないなあ。

なんとなくやる気が出てきたので奥泉光『グランドミステリー』(角川書店)を一気に読む。7割くらいまでは戦争小説としても、ミステリーとしても、SFとしても面白かったのだが、日本人論に割くページが増えるに連れついていけなくなっていった。15年戦争を扱う小説が日本人論を展開しないわけにはいかないというのは理解出来るが、いくらなんでもくどいのでは。読んでる途中の面白さだけでも読む価値はあると思うが、後味はあんまり良くないなあ。


3月 7日
ついメルボルンGPを見てしまったり、予定外に時間が潰れてしまったが、なんとかインターネットで選ぶ全日本小説大賞1999の投票を済ませる。
中身はこんな感じ。
海外作品
  • 三つの小さな王国 スティーヴン・ミルハウザー +5
  • 夜の姉妹団 柴田元幸・編 +4
  • 虚数 スタニスワフ・レム +3
  • 魔法の猫 ダン&ドゾワ編 +3
  • ロマン ウラジーミル・ソローキン +3
  • 時空ドーナツ ルディ・ラッカー +3
  • スノウ・クラッシュ ニール・スティーヴンスン +3
  • スローリバー ニコラ・グリフィス +2
  • 疾風魔法大戦 トム・ホルト +2
  • レッド・マーズ キム・スタンリー・ロビンスン +1
国内作品
  • 恐竜文学大全 東雅夫・編 +4
  • すぐそこの遠い場所 クラフト・エヴィング商會 +4
  • <異形コレクション> 井上雅彦・編 +3
  • クラウド・コレクター クラフト・エヴィング商會 +3
  • グランドミステリー 奥泉光 +2
  • 邪馬台国はどこですか? 鯨統一郎 +2
  • ブギーポップは笑わない 上遠野浩平 +1
  • 肉食屋敷 小林泰三 +1
  • 密室・殺人 小林泰三 +1
  • ショートショート1001 星新一 0
評価は-2〜+5。
ジャンルSFに限って言うなら、平均点が高くそこそこの収穫が多かった年ということになるのかな。また、短篇が飛躍的に増大した年でもありましたね。アンソロジーに収穫が多かった。これは歴史に残る傑作!とまで感じた作品は残念ながら無かったけど、ジャンルSFでリアルタイムにそう思ったのは神林の『言壷』だけなんで、別に悲観したことじゃないっすね。全体としては恵まれた年だったんじゃないでしょうか。


3月 8日
せっかくLDプレイヤーがあるのに使わないのはもったいない、というわけで「The Nightmare Before Christmas」を買ってくる。
14インチのディスプレーはへなへなだけど、作品の素晴らしさの前にはそんな小さな欠陥は気にならなくなる。ああ、面白かった。

でも、やっぱりこれは劇場でもう一度みたいなあ。


3月 9日
ガードナー『プラネットハザード』の上巻を読了。短章を積み重ねる構成が目を惹くが、結局は章分けが極端に細かいという程度のことなので、あまり大きな効果は果たしていない。それよりは、死んでも誰にも嘆かれることのない使い捨ての惑星探査員の設定の方が強く印象に残る。
カルト的な人気を誇るような要素はないが、意表を突く設定を上手く使っているし、キャラクターの見せ方もうまいし、なによりテンポが良いので、好感が持てる。年少のSF初読者向けとしては最適だろう。
でも、それが青背で出ちゃうんだよなあ。早川はエンターテインメント路線のSFレーベルを独立させた方が良いんじゃないだろうか。ファインタック、ウェーバー、ガードナーに<宇宙大作戦>と<宇宙英雄ローダン>をつけたハヤカワ文庫WB(White Backs)を作って、昔、白背で出ていた本は全部ほうり込むというのはどうだ。
ガードナーを読んでSFに興味を持った少年が、次に手に取る本が『スローリバー』だったりしかねないというのは、やはりよくないのでは。


3月10日
などと言っているうちにガードナー『プラネットハザード』(ハヤカワ文庫SF)読了。最後までテンポ良く読めたので好感度は非常に高い。逆に言うと深みは全く無いんで大向こう受けは絶対しないと思うんだが、これはそういう本じゃないからそれでいいのだ。
共感できるキャラクター(才能はあるのに周囲から阻害されているってのはいかにも中高生向きでしょ?)があり、派手なアクションがあり、奇矯な設定があり、十分などんでんがえしがあり、大団円が待っているという(広義の)ヤングアダルトのお手本のような小説。こういった本が十分な数、「SFの名の下に」供給されていれば、そしてそれが十分に宣伝されていれば、SF読者の平均年齢が毎年一歳づつ上がっていくという事態も回避できると思うんだが。
とりあえず、アニメ誌・ゲーム誌・学年誌に連載を持つ書評家には、ぜひとも紹介を期待したいところであるよ。

ところで、必要無いかとも思うけど一応の注。自分がマニアだという自覚のある人は期待しすぎないように。あくまで、すぐれたヤングアダルトなのであって、壮大なヴィジョンだの、深遠な社会学的考察だのといった「くだらないこと」とは無縁だから。


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