過去の雑記 99年 3月

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3月11日
最近、かろうじて映ることを発見した千葉テレビで「戦闘メカ ザブングル」を見る。もうオープニングから涙が出るくらい懐かしいんで、内容を批評するとかどうとかいう気はこれっぽっちも浮かんでこない。ラグやブルメが出てくるだけで、拍手をしそうになるくらいだ。しかも、中身も面白いという。
ああ、全話LD買おうかなあ。

3月12日
ソウヤー『スタープレックス』(ハヤカワ文庫SF)を読了。
三つの惑星の四つの種族から選ばれた1000人の科学者の乗り込んだ宇宙船スタープレックス号が、数々の冒険の中で世界の謎を解き明かしていくという一方の軸は面白いのだが、中年の危機を迎えた主人公の内省という他方の軸が駄目すぎて評価できない。作品世界がもっとかっちり作られていれば、どんな地味なテーマでもどんとこいと言えるけど、こんな荒唐無稽な世界観で魅力的な部下と愛する妻との間で揺れるおやじの心を描かれても、悩みが真に迫ってこないよね。そのギャップを笑わせると言うのが目的ならそれはそれで理解出来るんだけど、どうやらそういった方向性でもないようだし、結局こっちの軸が何のためにあるんだかさっぱり理解出来ない。
ただ、正統SFとしての軸はさすがにみごとで、『さよならダイノサウルス』でも見せた強引な力技を再び堪能させてくれる。まあ、例によって「それはないだろ、いくらなんでも」という無理のあるこじつけも多いんだけど、その辺はソウヤーの醍醐味だからしかたない。
まあ、『レッド・マーズ』『タイム・シップ』と同様の傷も大きいが読みどころもある小説、くらいに思って読み始めるのが被害が少なくてよろしいんじゃないでしょうか。

3月13日
ついにやってきてしまったDASACON当日である。他のスタッフの皆さんは、DASACONページの構築であったり、ゲスト折衝であったり、宿確保であったり、企画準備であったりと色々尽力していたわけだが、僕は何もやっていないので、いつのまにか当日になっていた感が強い。本当にこんなんで、機能するのかという不安が否でも高まってくるが、しょせん失敗したからといって、SFMのバックナンバーを失うわけではないと思うと気が楽だ。「人間万事、所詮他人事」というのは僕の座右の銘である。

朝から、藤澤さん(7)に車を出していただいて、荷物とともに水道橋へ。無事駐車場を確保できたため、荷物をそこにおいて飯を食ったり、ゲーセンに入ったりして有意義なときを過ごす。すでに気分はスタッフではなく、ただの参加者である。
しかし、Pop'nのアニソンはゲーセンだと音量が足らないっすね。

3時前に谷山浩子コンサートに向かう藤澤さんと別れ、スタッフ集合場所へ。他のスタッフがみな大荷物を抱えている中、ひとり何も持たずについていくというのは特権階級であるかのようで、非常に気分が良い。
この後、僕が用意するといっておきながら忘れていた領収書の準備を人に押し付けたり、買出し場所に向かう道をいきなり間違えたり、臨時休業の酒屋を営業していると偽ってぬか喜びさせたり、悪の限りを尽くしているうちに準備は刻々と進んでいったのであった。僕の度重なる妨害にもめげず、前向きに準備を進めていった他のスタッフの皆さんのやる気には敬服する他はない。

当日何がどのように行われ、どんなだったかについては、ここからリンクを辿っていただくのがてっとりばやいだろう。僕は、「仮にもスタッフ」をしていろんなことを心配(心配するだけ)していただけで終ってしまったので、細部を書く用意が無い。もちろん、藤澤さんに「逆襲のポケモンマスター」を聞かせていただいたり、オークションで思わぬ発見(ただ同然で手に入れた宇宙塵でクラーク「地球の太陽面通過」の初出年月を発見)したり、『海外SF翻訳作品集成』ディスク版を手に入れたり、DOSの桐上で構築したデータベースを自慢してまわったり、紙魚の手帳を大量に頂いたり、色々と楽しみはしたのだが、ちゃんと記録を取っていないのでスタッフの記事として書くには不十分なのだよ。ってなわけで、以下には私的な感想のみを記してお茶を濁すことにする。

全体としては成功したと思う。DASACON賞のシステムがいきあたりばったりで練り込みが足らなかったこと、価格的にどうクラスのSFセミナーや京フェスに比べると企画が少なく割高感を感じるかもしれないことなど大きなレベルでの問題もあったし、ゲスト企画用の道具を準備し忘れる、飲食物の量を測り間違えるなどの実務レベルの問題も多々あったが、普段SF系イベントと縁遠い人が一晩騒げる場を作るという大目標はほぼ達成できたと思うし、参加者の感想も概ね好評だった。ただ、これはゲスト企画が予想以上に盛り上がったこと、想定外のすばらしい祝電をいただきそれがウケたこと、など幾つかの僥倖に恵まれたためでもある。また、参加者の大半にとって、SFファンだけの合宿というものが初めてないし久しぶりの体験だったことも有利に作用している。全体的に今回の成功は運が良かったという面が強い。今後、定例化を考えるのであれば、もう少し準備期間を置き企画を練り込むなど油断を排した準備姿勢が望まれる。特に、DASACON賞については慎重かつ徹底した議論が必要になると思われる。
でもまあ、今は概ね成功したことを喜んでいい。前記の通り、参加者同士の関係がより密な合宿を、という当初意図は達成されたのだから。スタッフの方には、この成功を心の糧に明日に繋げて行って頂きたい。
#本当に他人事のようだな。

14日9時にDASACONそのものが終ってからも、片づけをしたり、朝飯を食いにルノアールに行ったら参加者がみんないてびっくりしたり、帰りの車がピカチュウだったり、車中で藤澤さんと会話しながら95%まで眠り込んでいたり、下宿について最後の力で最終の会計をしたら1円単位で数字が合ってびっくりしたり、いろいろあったのだが、まあそれは別の話だ。

3月14日
午後10時に一度目覚めるが、さすがに久々の徹夜と飲酒は堪えたらしく2時間でダウン。翌日が早朝(定時)から仕事ということもあり、とっとと寝る。

そのわずか2時間の日曜日の間、飯を食いながら昨日藤澤さんからあずかった小説ハヤカワ[ハィ!]を眺めて過ごす。この雑誌、ずっと「失敗したヤングアダルト誌」として認識していたのだが、あらためて眺めてみてびっくり。女子中高生を狙った雑誌だったんすね。まあ、広義のヤングアダルトに属するのは間違い無いし、失敗したのも事実なんだけど、もう少し男子向けの印象があったんでこれは意外な発見。
そうか、単にドラゴンマガジンに競り負けたんだと思ってたけど、苦手なジャンルに手を出して自滅したというのが真相だったのか。

3月15日
仕事の方は色々あって一段落。あとは単純作業だけ…、と信じたいところだ。

てなわけで一段落記念に芳林堂に寄ってシモンズ『エンディミオン』、ベッカー『リンク』、村枝『RED』1、陽気婢『えっちーず』4などを購入。『リンク』は酒井昭伸・訳なので買ってみたんだけどどんなもんでしょう。とりあえず、ドゴン族で超古代で異星人らしいんで大きな期待はしてないんすけど。

ついでにモン・コレ「魔道士の黙示録」を買ってみたら「フェンリル」が入っていたり。思わぬ形でコンプリートである。めでたい。

帰りがけに谷甲州『高度36,000キロの墜死』を読了。
クラーク軌道の都市内の殺人事件を扱ったSFミステリ。前半は谷甲州独特の油の匂いがするような描写が楽しめるが、後半になるとガタガタになってしまうのはどうも。推理ものだか、ハードボイルドだか、アクションだかわからない作りで結局どこをとっても中途半端な出来。現在、絶版というのは実に正しい評価と言えよう。

寝る前に村枝賢一『RED』1(講談社)を読了。物語の方はまだ始まったばかりなので何ともいえないが、あいかわらず動きは素晴らしい。このテンションがどこまで持続できるかが問題だが、隔週連載ならなんとか最後まで持ってくれるかな?

3月16日
近所のおもちゃ屋で店頭のショーケースを見て驚く。「たこやきマントマン」コーナーが出来てるんでやんの。そうか、時代は「たこやきマントマン」だったりするのか。奥が深いぜ。

藤元直樹さんからラファティの初出調査に関してNACSISを利用したらどうかと言う示唆と、その検索結果を教えていただく。いや、実にありがたいことである。
しかし、NACSISとは気づかなかった。技術論文の調査に使ったことはあったけど、まさか文芸誌も検索できるとは。奥が深い。

3月17日
堀晃『バビロニア・ウェーブ』(徳間書店)読了。一昨日の『高度〜』同様、平成3年購入の本だったりする。8年も前に買った本をいまさら読了すると、手元の本はどれも読むつもり(が少しはあって)で買ったんだという錯覚が出来て気分が良いぞ。

しかも、これは内容も良い。冥王星軌道の遥か彼方地球から3光日の宙域に位置し、直径1200万キロ、長さ5000光年以上にも及ぶ巨大なレーザー光束「バビロニア・ウェーブ」。もう、そのイメージだけでも勝ったも同然なのに、それが堀晃得意の静かな筆致で描かれるのだからたまらない。
また、主人公の設定も良い。宇宙島で育った操縦士というありふれた素性を、物理的な考察だけで魅力的な特徴の源泉に生まれ変わらせている。このあたりの設定能力はさすがとしか良いようが無い。もちろん、トリニティシリーズに特徴的な「滅び」のイメージも健在。全体に漂う廃虚のイメージの心地よさはまさに絶品だ。
構成にやや難があるので手放しで絶賛とはいかないが、ハードSFファンと宇宙SFファンの98%は気に入るはず。欠点も含めて「SFとはこういうものだ」と言いきる事の出来る作品である。

3月18日
昼休みに近所の書店で4月の文庫新刊予定を眺めていると火浦の新刊の予告を見つけてしまった。なんかとんでもなく悪いことが起こる前触れではないかと不安が募って仕方が無い。まあ、短編集だからたいしたことはないと思うが、これがレイクの新刊だったりした日にゃあ、恐怖の大王が訪れるのはまず間違い無いだろうな。

3月19日
谷甲州・堀晃と続いたハードSF強化週間の締めとして石原藤夫『ハイウェイ惑星』(ハヤカワ文庫JA)を読了。実に正統的な科学冒険物で、実に安心して読むことができた。ユーモアをベースにしてしまうあたりも含め、実に古臭いのだが、かえってそこが魅力となっている。新しさは何にも無いが、心地よいのはたしかだ。でも、2冊読んだら飽きるかも。

勢いで、福島正実『過去への電話』(旺文社文庫)を読了。大半がパラレルワールドの話なんでびっくり。そんなに「この現実」に違和感があったのか、福島正実。どの作品もおせじにもレベルが高いとは言い難く、そもそもそのアイデアで書き始めたのが間違いでは、と言いたくなるような作品が多いのだが、読んでる間はちゃんとひっぱられるのは思ったより文章力が高いからか。コンスタントに調子を維持できているわけではないのだが、乗っている場所は息の長い特異な文体で、けっこう読んでいて気持ち良い。とはいえ、全体の感想はやっぱり屑。致命的に落とし方が下手なんだよね。良い編集者がついていれば、もう少し面白くなったかもしれないけど。

3月20日
高田馬場芳林堂で冬目景『イエスタデイをうたって』1、山田章博『紅色魔術探偵団』、奥瀬サキ『フラワーズ』1を購入。
夕方からユタへ。例会参加者は大森望、小浜徹也、添野知生、高橋良平、林、三村美衣、柳下毅一郎(あいうえお順、敬称略)。記憶にある主な話題は八景島シーパラダイスとDASACONの印象など。
他では、<ゴーメンガースト>は実は秋に2、3巻が復刊されるかもしれないという噂を聞いたような気もするけど、事実かどうかは知らないんで断言はしない。
あと、fjで質問が出たまま店晒しにされていた「SF絵本は存在するか」という疑問については、専門家の方から詳細な回答を頂いてしまった。岩崎書店の「えどうわ」など幾つか存在するが、あまり見かけたりするものでもないというのが正解らしい。いや、僕はfjに投稿する気はないんで聞いてみただけなんですけどね。
もちろん、柳下さんからChris Drummの素晴らしい編年体Laffertyリストをお借りしたことも書き漏らすわけにはいくまい。どうもありがとうございました。そうか、<研究所>ってInstitute for Impure Scienceって名前だったのか。

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