日本型投資銀行とは何か(承前)
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基本方針
日本型投資銀行への転身
当行は、一九八〇年代後半から、投資銀行的な業務を「総合営業」の名で実践してきている。ただし「総合営業」では、主業務はあくまで「貸出・調達」のストック業務であり、その他業務は単に主業務に付随したもの、との位置づけであった。投資銀行とは、まさに「その他業務」が主業務になることであり、ストックも、持ち切りを前提にした「固定資産」ではなく、必要に応じて保有し頻繁に入替を行う「商品在庫」にすぎない。事業法人営業では従来のように「融資」業務にこだわることなく、金融法人営業でも従来のように「金融債」販売にこだわることなく、「その他業務」も含めて幅広い営業を、自由に創意工夫しながら展開し、効率よく収益を挙げてゆくことが求められる。
当行にとって投資銀行業務を行うことは、従来と全く異なる仕事を初めてすることではなく、これまでの経験とノウハウを生かしつつ、より顧客に密着し顧客のニーズを満たすために自由で創造的な仕事をすることである。もちろん、「休日でも利息は計算される」ストック商売のように安定してはいないし、受け身でいることは許されない厳しさがあるのは当然である。しかし、我々はもはやユーティリティに戻ることは許されないし、市場や取引先が求めるのも、のうのうとしたストック商売の銀行ではなく、「かゆいところに手の届く」サービスを提供し続ける、シャープで小回りの利く金融機関であろう。
もちろん我々はストックを持たなくて済むわけではない。単なるブローカーは市場や顧客から本当の信頼は得られないし、ブローキングだけでメシが食えるほど我々の収益状況は甘くない。金融仲介とともに、自らも投資家として信用リスクや市場リスクを取引先とシェアする良質の機関投資家たりたい。従来のストック業務もこうした観点から再構成して生かしてゆくべきである。自らが信用リスク、市場リスクのマネージメントのプロであり、優れた機関投資家であることを市場や取引先に示し、かつ収益の太宗も当面はそこから出さなければならない。
日系金融機関には、外資系業者には無い、長期的視野に立った顧客との優れたリレーションシップがある。では、当行は他の日系業者との差別化をどこでするのか?
我々の主な競争相手は都銀と大手証券会社であるが、彼らにもまた弱点があり、そこを衝くことは可能である。例えば都銀は図体が大きくシャープな動きはできず、証券会社は「株屋」のイメージを払拭できないといった点である。当行の本源的強みや過去特定分野で挙げた実績を考えれば勝機は十分ある。それは一言で言えば「かゆいところに手が届く」良質かつ木目細かいサービスで他業者との差別化を図ることである。日本型投資銀行らしい、顧客の本当のニーズをよく把握したサービス例をいくつか挙げよう。日本型投資銀行としての業務戦略の具体像は後で詳しく検討したい。
ゼロ成長時代の営業戦略としての投資銀行化
地球環境の制約がますます厳しさを増す中、先進各国の経済は、基本的にゼロ成長を甘受しなければならない。こうしたゼロ成長時代は、金融機関も、シェアのやみくもの拡大ではなく、運命共同体としての既存顧客との取引の中身を充実させ、「積極的な守りの経営」という逆説的テーゼを実践すべき時代である。何故なら、一般的にクレジット・リスクはその国または地域の名目経済成長率の低下とともに増大するが、金融業でゼロ成長下に無理に自分のパイを広げようと新規顧客の開拓を強行すると、必ずクレジット・リスクを取り過ぎることになるからである。既存顧客との取引の中身を充実させることに重点を置くのであれば、今まで以上に顧客に密着し彼らのニーズを満たすことが必要であり、そのためには自由で創造的な投資銀行業務が仕事の中心でなければならない。
投資銀行化の制約要因
近年、当行は、格付低下、資金繰り悪化等で顧客が離散し、投資銀行業務の基盤となる顧客層確保が困難になっていた。営業担当は当面の課題(資金調達と資産圧縮=貸出回収、株式持合い解消)のみに奔走せざるを得ず、その他業務は放置された状況にあり、フロー収益への関心やプライオリティが低下していた。このままでは「投資銀行」は「絵に書いた餅」になり、当行は何の特徴もない中途半端な「金貸し業者」に成り下がってしまいかねない状況にあった。国有化以降も顧客基盤をめぐる状況はさほど好転していない。我々はこうした逆境を跳ね返し、日本型投資銀行としてのスキルアップを図り、顧客基盤を回復して行かなければならない。
(一九九九年八月五日)
(続く)