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「古典派からのメッセージ・1999年〜2000年編」目次へ戻る
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日本型投資銀行とは何か(承前)

 

V 顧客戦略

 

大企業取引の再構築

 次に、具体的な営業戦略を考えてゆこう。まず大企業取引である。大企業は全体としては余資セクター化し、企業年金も含めて「機関投資家」化が著しい。余資セクター化した大企業には基本的に融資へのニーズはなく、貸出と持合い株式を基盤にしてきた従来の大企業営業の戦略を再構築する必要がある。

 一方大企業は、バランス・シートが大きく、業務もワ―ルドワイドに幅広いので、融資以外の商材は多岐に渡り、「カネ貸し業」にこだわらなければ収益チャンスはいくらでもある。従来型の取引(貸出、株式持ち合い)の無かった企業も含めて、投資銀行機能を全面に出して大いにチャレンジすべきである。その際、企業ニーズと当行の持つ強みとを突き合わせて当行がどこに存在感を出すべきか、シャープなマーケティングが必要となる。全行的な大企業マーケティングを行い営業部店を支援する機能が必要である。

 大企業に対する営業の切り口は、本業に関る部分では、M&A、営業斡旋、関連会社取引、海外進出(撤退)サポート、気象デリバティブ、コモディティデリバティブ等があり、財務に関る部分では、資本市場からのファイナンス、海外現地法人の資金調達、年金勘定と企業本体の資金運用、各種金銭債権流動化、外国為替、金利デリバティブ等があり、極めて多岐に渡る。大企業マーケティングの一環として、余資型企業および企業年金への戦術を練り(機関投資家として分析する)、当行の資金調達の受皿および証券の投資家としてもっと重視することも必要であろう。

 大企業営業に限らないが、特に大企業営業では、従来の貸出・預金の絶対量を中心とした業務目標体系を、投資銀行にふさわしい目標体系(RAROC的なもの)に根本的に転換しなければならない。大企業向け貸出の位置づけは商品在庫ないしエントリーフィーであり、貸出だけでの収益性は期待すべきでない。貸出商品としては、自行のALM都合で捻出したスポットもの(コールに放出するのに比して効率が良い場合の、コール金利よりは高いが通常の貸出金利よりは低い短期貸出)や、付加価値もの(デリバティブや証券化がセットされた貸出)を有効に活用するのがいいだろう。

 大企業取引の意義は「当行の世間でのプレゼンス維持、向上(広義のIR)」にもある。従ってこのフィールドにおける業務目標は収益(まずは原価を賄うことが当面の目標となろう)とともに、「際立った取引」や「話題作り」にも置かれなければならないだろう。

 

中堅・中小企業との正しいつき合い方

 中堅・中小企業とは良きベンチャーキャピタルとして付き合うべきである。大企業とはニーズも異なる(例えば金利リスクヘッジよりも資金の量の確保や経営管理が必要だ)が、「投資銀行は問題解決業であり、単なるカネ貸しではない」をモットーに、貸出だけにこだわらずアプローチ手法を多様化すべきだ。投融資は小口分散し、大数の法則でしっかりポートフォリオの信用リスクを管理する。中堅・中小企業のフィールドでも、融資量だけを業務目標とせず、人材派遣を含む広義の収益性をも業績評価のポイントとすべきである。

 また、成長分野等開拓すべきターゲットについてのマーケティングを、もっともっと経営資源を投入して行う必要がある。このことは本部の重要な機能であり、従来のようにマーケティングを営業部店任せにするのは一種の放漫経営である。期待される国内成長産業は、介護、福祉、医療、葬祭、情報、通信、メディア、バイオといったところがよく挙げられるが、このへんのマーケティングは産業調査マンの腕の見せ所である。

 分散投資の中身には、海外もの、エマージェンシーものも含むべきである。日本のベンチャービジネスに過度な期待をしてはいけない。米国では一流大学や一流ビジネススクールの最も優秀な連中が起業を目指すが、日本ではそういう風土は未だ醸成されていない。日本では、まだ当面は、成長性のある新規事業は、人材、資金、ネットワークを持った大企業から生まれることが多いと思われる。ベンチャーへの投融資は、米国市場もリサーチすべきであり、ニューヨーク駐在の重要な任務の一つは優良ベンチャーの発掘かも知れない(当行自身の投融資先として以外にも、国内取引先の事業との取り結び対象として)。

 

金融法人取引の改革

 金融法人は、当行が他業者に対して比較優位を有する最もユニークな顧客基盤である。金融法人との関係では、先発する金融技法やノウハウの提供(例えばALMやリスク管理ノウハウの提供、海外撤退ノウハウの指南、不良債権の買取りなど)がリレーションの要となってきている。当行は、後に見るように(「X 組織戦略」の項参照)、こうしたノウハウの提供によって金融法人から資金を調達する手法をフル回転させ、近年の資金繰り難を乗り切ってきたのである。

 しかし今後は、従来の「ベース消化」という名の金融債割当制度はますます後退を余儀なくされる(できるだけ粘るのは当然だが)ため、自行債券の販売だけにこだわらない投資銀行としてのアクティビティがますます要求されるようになる。本部、営業部店が一体となって、先方の運用ポートフォリオへの一層深いコミットメント(投資傾向、組織、運用実権者の選好等の投資家分析)を行うことが必須であり、本部における機関投資家マーケティング機能を飛躍的に充実させる必要がある。機関投資家として今後重要性を増すと考えられる企業年金、投信・投資顧問等のファンドマネージャー、さらには富裕層個人へも投資銀行としてアプローチすべきである。そしてこれら機関投資家に対し、当行がオリジネートした証券化商品や私募投信といった、多様な運用商品を提供することが金融法人営業の重要な機能となるべきである。

 また、顧客の経営の重要課題を拾い上げ、それらを解決するノウハウの提供、コンサル機能も従来以上にブラシュアップし、かつ、資金調達の道具にとどめずそれ自体で収益化すべきことは言うまでもない。

(一九九九年八月五日)

(続く)