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「古典派からのメッセージ・1999年〜2000年編」目次へ戻る
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五木親鸞の連作

 

 現代の親鸞、蓮如ともいうべき作家が五木寛之さんである。「生きるヒント」「続・生きるヒント」「人生の目的」といった彼の人生論の連作があんなにベストセラーになったほど、日本人は、心底では浄土真宗的な癒しを求めている。親鸞は、歴史上、思い出したように日本人の心に立ち現れて来る。戦後間もなくの伊藤整、亀井勝一郎の人生論もそうだったが、今回の「五木親鸞」ブームはそれ以来の浄土真宗への回帰である。

 五木さんの「人生の目的」の後半、ラジオの深夜トーク番組を基にした自叙伝的な文章など、まさに親鸞の平易な説法を聞くようである。ここには、人生への力強い励ましや問題を積極的に解決するための行動科学的な忠告はない。宿命を受け入れること、他力に委ねること、足るを知ることなど、むしろ健全な悲観主義から、人生への慈しみや抱擁が湧き出てくる――そんな文章なのである。これはブッダの教えの本質でもある。決して敗北主義でも無気力の勧めでもない。

 生まれた瞬間から六、七歳くらいまでの間に、子どもは、親に、親として生きる喜びを充分与え尽くしているから、その上でさらに親孝行というものを子どもに期待すべきではない、と、「半ば冗談」で世間の親たちに五木氏は説いて聞かせているが、僕は親としてこの「説法」は本当にそのとおりだと思う。「親子」という何物にも代えがたい思い出を作ってくれた我が子に、心から感謝したい。

平成一二(一九九九)年一一月一四日