孤独に耐える術としての幸福
最近、「私の幸福論」(ちくま文庫から文庫本として出ています)を久しぶりに読み返し、改めて感動しました。筆者の福田恒存氏は僕の敬愛してやまない評論家、劇作家、英文学者です。彼曰く「私は何々家とか何々者といった特定の肩書きを自分につけずに人間として生きたい…。」全人でありたいという彼の姿勢は僕も共有したいところなのです。僕にとって福田氏は、厳しいけれど心から信頼できる精神的な父親のような存在です。
この本は昭和三十年頃に女性雑誌に連載されたエッセイですが、今でも決して古びていません。ただしそんなにすいすいと読み飛ばせる類の文章ではなく、かなり気難しいところもあります。でも、筆者と対話しながらじっくりと読んで行くと、噛めば噛むほど味わいのにじみ出てくる滋養豊かな食べ物のごとく、「孤独に耐える術としての幸福」という言葉の本当の意味が胸に沁みて来て、最後は生きる力が湧いてきます。この良き古典主義者の幸福論を皆さんにもお薦めします。
(なお、福田氏についてのホームページを発見しました。こんなものもあるとは、ネットの広がりに改めて感心しました。)
http://user2.allnet.ne.jp/noz/FUKUDA/index.html
平成一二(二〇〇〇)年一〇月二九日