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「古典派からのメッセージ・2003年〜2004年」目次へ戻る
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東洋的素養の復活

 

 福島良治氏著「英雄詩伝」(日経)という漢詩の本を共感を抱きつつ読みました。福島氏は、僕とほぼ同世代の方で、もともと長銀マンとして金融派生商品(デリバティブ)の法務の本を数多く出しておられます。僕もかつてデリバティブ業務に携わっていた縁で直接存じ上げている方です。今はみずほコーポレート銀行(旧興銀)にご勤務ですが、この人はただの銀行マンや単なるデリバティブの専門家ではありません。自分で漢詩を作るのです。毎年いただく年賀状には自作の漢詩を添えてあり、その見事さに感激します。今年ついに念願の漢詩についての本を日経から出されたのです。

 戦後、日本人は、漢詩のような東洋的素養や伝統を軽視して来ました。この本は、自ら漢詩を詠じた古今の中国や日本のリーダーたちの生きざまを映し出しつつ、東洋的素養の復活を訴えています。序に曰く、

「現代の日本人は、リーダーと言われる人であっても、過去において常識とされてきた教養を忘れ、浮薄な現状に流されているように思われてならない。」

「本書は、激動の時代を生きた英雄たち本人の詩を、その歴史状況を含めて紹介し、読者諸氏には、それを玩読してもらうことにより、自分のあるべき姿を再考してほしいと願って著したのである。」

「本書は、東洋人としての日本人の素養、誤解を恐れずに言うならば、『男子の本懐』の復活を願って著したと言っても過言ではない。」

 僕は著者の企図に心から共鳴します。漢詩の入門書として、また、かつての日本人なら皆知っていたのに今日の私たちが知らない古今のリーダーたちの生きざまを学ぶ書として、この本を皆さんにもお勧めします。

 僕にとって最も印象的だったのは、岳飛と文天祥の生きざまです。北方からの異民族の侵攻に対し、宋王朝を守る絶望的な戦いを最期まで戦い通した二人の武将の潔い生き方は、悲しいまでに美しく感じられます。また、西郷隆盛がこんな見事な漢詩を残しているとは知りませんでした。「鉄石の心」とか「意は誠を推す」といった詩詞に、西郷の武士としての純粋な魂がよく現れています。さらに、室町初期の管領、細川頼之の和漢の教養と知性に裏打ちされた政治家としての生き方も魅力的です。細川氏は我が故郷三河の出です。今でも岡崎市に細川という地名が残っています(詳しくは「中世の三河地方」をご参照下さい)。

平成一五(二〇〇三)年一二月二〇日