近況メモ(平成22[2010]年9月〜12月)
平成22(2010)年〜「酷暑の9月」から「初霜が新鮮に感じられる12月」へ
9月4日(土)晴れ
残暑というよりは、酷暑といった気象が9月になっても続いています。きょうは府中宝生会の定例の稽古日でした。朝9時頃から始まり、10月の府中市民文化祭で出す予定の仕舞「猩々」をK先生に見ていただき、皆さんと一緒に謡曲「玉葛」「船弁慶」「橋弁慶」「阿漕」を謡って午後4時くらいに終わりましたが、さすがに酷暑疲れが出てくたくたになりました。
写真左と中は、昨日と一昨日に撮った空の様子です。一昨日は真夏のような空の色でしたが、昨日の夕方には、ご覧のようなうろこ雲が見られました。夜は秋の虫たちも鳴き始めていますが、まだ昼間はセミの声も聞こえ、夏が居座っている感じです。写真右は、娘が仕事の関係でいただいてきた冬瓜(とうがん)です。まるまる太って瑞々しそうです。夏の農産物なのに「冬瓜」という表記は、冷暗所に置けば冬まで保存できるところからとも言われるようです。成分は96%が水分で、味はほとんどありませんが、煮物、あんかけ、蒸し物などとして用いられます。夏らしい食べ物ですね。
さて、今日の日本経済新聞に、小生の政治学の師匠である御厨貴東大教授が、民主党の党首選挙についてコメントされていました。この中で、特に小生が共感したのは、民主党の「トロイカ体制」なるものが、若手政治家の台頭を妨げているということです。自民党時代にさえなかった、一度辞めた党首がまた返り咲き三人で党首ポストをたらい回しにするという、民主党の人材硬直化は問題です。また、民主党政権が官僚のモラールを下げ、その力を奪っていることも小生は深く憂慮します。
また、同紙9月1日の「経済教室」では、奥村洋彦学習院大学教授が、期待値と分散がわかっている「リスク」を取り扱うことを専らとし、客観基準と集計値とで分析する従来のミクロ・マクロ経済学に加え、期待値も分散もわからない「不確実性」と主観基準を取り扱い、同質主体の集計分析になじまない異質の経済主体を前提にした「構造分析」が必要であると書かれていました。ちょうど今、小生は、一橋大学で行動経済学の知識をにわか仕込みで吸収しつつあるところですが、従来のミクロ経済学が演繹的思考方法を採るのに対し、行動経済学では、人間の経済行動の「実際」「実態」を観察、実験し、帰納的思考方法で理論構築しようとします。行動経済学のこうした実証重視の流れは、奥村教授の言われる「異質性」分析にも通じます。
さらに、8月31日の「経済教室」では、東京財団上級研究員の石川和男氏が、貸金業法や割賦販売法の改定で消費者や中小零細企業への金融サービスを一律に規制することへの強い懸念を示しておられます。貸金業者や割賦販売業者の一部に見られる「悪行」に対して行為規制を強化するのは当然ですが、金利や貸出量を一律に規制することは、善意の利用者(とりわけ零細企業の短期の資金繰りやスタートアップ企業の資金繰り)に悪影響を及ぼします。小生の経験でも、スタートアップ期のベンチャー企業が研究開発資金を工面するのに、こうしたノンバンクの「資金使途を問わない無担保無保証」の融資を利用していた事例をいくつも見かけました。こうしたゾーンの企業の資金ニーズには銀行では対応できないのです。何でも銀行がやればいいという議論もありますが、業態の棲み分けをきちんとした方が経済合理性に適うと小生は考えます。なお、貸金業法改定については、世論応答と専門知の相克―鳩山政権の金融行政をめぐって(第四回)〜同(第六回)もご参照下さい。
9月19日(日)晴れ
明日はお彼岸、まだ残暑も残るお彼岸になりそうですね。さて、下の写真は、娘が夏休みを利用して友人と行った御蔵(みくら)島の様子です。娘たちが撮影した写真から拾わせてもらいました。
御蔵島は、東京都心の南約200km、三宅島の南南東19kmにあります。東京湾の竹芝桟橋から船で夜に出て翌朝に着きます。島はほぼ円形で中央に御山(851m)を擁し、島全体が豊かな原生林で覆われているため、島としては珍しく水に恵まれているとのこと。163世帯、298人の島民が住んでいます(平成21年4月1日現在)。島内にバス、タクシー、レンタカーはなく、旅行者は徒歩もしくは宿泊施設の車両を利用するしかありません。周辺海域に野生のイルカが生息しているため、シュノーケルで水中に潜ってイルカを見るために御蔵島に行く旅行者が多いようです。娘たちも、イルカツアーに連れて行ってくれる民宿に泊まって楽しんできました。
10月2日(土)晴れ
ようやく秋の気配が漂うようになった今日この頃です。さる9月半ばに、秋らしい薪能が武蔵国分寺の跡地の広場で催され、家内の知人の方がチケットを二人分手配していただいたので、ふたりで出かけてきました。佐渡の人たちの心意気−武蔵国分寺薪能にて−と題して備忘録を記しましたので、ご覧下さい。
また、冷蔵庫を買い換えた時のエコポイントで、先週末に夫婦で日光へ日帰り旅行へ行ってきました。下の写真はその際に撮影した日光東照宮と華厳の滝です。小生、関東に住みながら、日光東照宮や華厳の滝に行ったのは初めてでした。帰りに新宿までの直通列車から見た赤城山ふもとの田畑へ落ちて行く夕日が織りなす夕焼け空に郷愁をそそられました。
さて、中国人船長釈放とのニュースにはらわたが煮えくりかえる思いをしました。稀少資源やフジタの社員を人質にとるとは、中国のやり方はやくざの恫喝と一緒です。これに屈したかたちとなった日本は世界中から軽蔑される「弱虫」になってしまいました。圧力に屈して理を通さない国など、世界から尊敬されるはずはありません。アジアや中東諸国から、かつてロシアを破った勇気あるアジアの国として尊敬を受けてきた日本も、先人たちの遺産をこれで完全に食いつぶしました。 記者会見の仙石官房長官の後ろめたそうな卑怯な面構えを見ていたら、無性に腹立たしくなりました。若い頃に学生運動ごときにうつつを抜かしていた民主党首脳には、国土・国民を守るという政治家として当たり前の気概が感じられません。
ひとつお知らせです。小生が金沢時代に知り合った九谷焼の陶芸家の谷敷(やしき)正人さんが、池袋東武で10月14日から20日まで個展を開きます。華麗な中にも格調高い品格を持つ正統派九谷焼の魅力を皆さんにも味わっていただきたく、ご案内申し上げます。池袋東武の6階1番地の美術画廊へ是非お立ち寄り下さい。
11月6日(土)晴れ
11月に入ってようやく秋らしい空気のきれいな晴れの日が続きます。朝夕はめっきり冷えるようになりました。10月から大学も後期の研究や勉強のスケジュールが走り出し、また、プライベートでも、以下ご報告の通り、この1ヶ月はなかなか充実した忙しい日々でした。まず、10月16日(土)は、府中の森芸術劇場で、市の謡曲連盟が毎年主催する各流合同の大会がありました(下の写真)。小生は仕舞「猩々」を舞わせていただきました。猩々はお酒の大好きな海の怪獣ですので、金沢時代の師匠である藪俊彦先生からいただいた、海の波がデザインされた青海波(せいがいは)の銀色の美しい扇を使わせていただきました。皆で謡った「船弁慶」も、地頭の金子文子先生に皆でしっかり声を合わせ、先生の緩急もしっかり読み取って謡えました。お役の方々も堂々と謡われ、充実感のある素謡になりました。
17日(日)は、池袋の東武百貨店で初めて個展を開かれた、九谷焼の陶芸家、谷敷(やしき)正人さんと池袋東武の中で夕食をご一緒しました。谷敷さん独特の品格のある品々でした。特に、秋の風を感じさせる草花が描かれた深い色合いの花器は印象的でした。18日(月)は、千駄ヶ谷の国立能楽堂で催された若手能楽師たちの「研鑽会」を見に行きました。終演後、一緒に会を観賞した能楽・音楽を共通の趣味とする友人の五月女さんと夕食を取りながら、しばし時間の経つのも忘れて能楽や音楽について語り込みました。20日(水)は、小生が名古屋支店で事業法人担当の課長をしていたときに知り合った中央信託銀行のN氏を訪問しました。彼はだいぶ前に銀行を辞めて、今は新興市場に上場しているメーカーの社長をしています。ちょうど部品や部材の仕入れ先として中小・零細企業と接点を持つN氏から、「近年の金融機関は企業を知る努力が足りない」という切実なお話しを聞きました。
22日(金)は、宝生能楽堂での普及能「小袖曾我」を、府中宝生会のお仲間数人と一緒に拝見しました。この曲では、二人の若い武将、曾我十郎と五郎兄弟が舞う男舞の相舞が颯爽としていてかっこいいのです。24日(日)には、一橋大学構内の「兼松講堂」で、ここをレジデンスホールとして今回結成された国立(くにたち)シンフォニカーの演奏会があり、家内の誕生日のお祝いも兼ねて家族三人で出かけました。国立シンフォニカーは、一橋大学商学部出身で50歳になって指揮者デビューし、欧州各地で客演している宮城敬雄さんが核となって、いろいろな在京オーケストラのメンバーが集まったオケです。小生の大好きなシューマンのピアノ協奏曲でソロを弾いたのは、ドイツ人ピアニスト、オリビエ・トリエンドルさんです。冒頭のオーボエ・ソロによる「ヨーロッパ音楽史上最も美しい旋律」(というのは小生の言葉です^^;)が鳴り響くやいなや、シューマンの叙情が胸に染み渡ります。シューマンの叙情は同じ年に生まれたショパンと違い、聴衆に媚びる叙情ではなく、純粋に孤独な魂の揺らぎであることを今回も強く感じました。後半のプログラムのブラームスの第一交響曲も悠揚迫らざる堂々たる演奏で、兼松講堂独特の親密な響きがとりわけ低弦楽器の柔らかさ、暖かさを際だたせていました。
11月23日(火・祝)雨のち晴れ
秋も深まり、銀杏・紅葉の美しい季節です。右写真は国立(くにたち)市内の大きな銀杏です。携帯のカメラでは全体が入りきらない大きさです。
さて、民主党政権のふらつき振りが目立ちます。鳩山前首相といい、菅首相といい、仙石官房長官といい、いずれもかつて学生運動にうつつを抜かしていた団塊の世代です。彼らは旧世代に反抗し、旧秩序を破壊しようとしたものの、それに代わる何ものをも作り出せませんでした。まさに「壊し屋」です。菅首相に指導力などあるはずもなく、現政権の大臣たちは旧態依然とした論功行賞や党内派閥バランスで任命されています。だから今回更迭された法務大臣のような無能な大臣ばかりです。民主党首脳の言動からは人間としての空虚さがそのまま現れています。この世代は政治の中枢から早く退場すべきだと改めて感じます。
特に外交は惨憺たる状況です。愛国心のかけらもない菅や仙石が、愛国心と反日思想の塊である中国首腦に対抗できるはずがありません。それにしても「平和ボケ」し続けてきた戦後日本の典型的存在である民主党首腦に外交の厳しさへの覚悟が欠如している有様は哀れとしか言いようがありません。菅首相の各国首脳と面談する顔つきは、心ここにあらずといった空虚な表情で、彼が相手に訴えかける何ものをも持ち合わせていない人間であることが露呈しています。民主党には、彼らより若い世代に国を思う心を持つまだましな人材もいますから、一日も早く世代交代すべきでしょう。
12月19日(日)晴れ
朝夕めっきり冷え込むようになりました。きょうは旧暦では霜月(十一月)十四日、下の写真のように、まさに霜が降りる季節になりました。
NHKの「坂の上の雲」、はじめはさして興味なかったのですが、今月になって、藤本隆宏扮する広瀬武夫少佐の立ち居振る舞いの雄々しさと、広瀬を慕ったロシアの伯爵令嬢アリアズナを演じたロシア人女優のあまりの美しさに惹かれ(^^;、このところ毎週見るようになりました。本木雅弘演じる秋山真之や阿部寛演じる秋山好古も明治人の覚悟と責任感をあくまで明るく演じて好感が持てます。
今日の放送では、日露関係が切迫し開戦も覚悟しなければならない状況となり、尾上菊之助扮する明治天皇が開戦に懊悩・逡巡する姿が描かれていました。明治帝が開戦に際して詠んだ「よもの海 みな兄弟(はらから)と思ふ世に など波風のたちさわぐらむ 」という歌にも、その苦悩が伺えます。司馬遼太郎は、この明治帝の逡巡を、京都の公家社会の平和主義の伝統と捉えています。確かに、明治天皇は十六歳で迎えた明治維新で東京に移るまで、京都で生まれ暮らしていましたし、死後は上円下方墳の京都の伏見桃山陵に葬られたのです。大酒飲みで豪放な近代の君主という印象のある明治帝ですが、武家ではなく公家の伝統の中で育った人だったのだと改めて気づかされた次第です。