1996年8月 カイトフォトを志す

ふと、以前読んだカイトフォトの記事を思い出した。本を探し出してみると、カメラが2Kg、凧の面積が3畳・・・。写真なら経験があるし、凧も作ったことがある。面白そうだし、ひとつやってみるか・・・。

まずは凧。幅1m程度で何種類か作ってみた。単独では十分揚がる。しかし、せいぜい100gしか持ち上げられない。これではカイトフォトは遠い・・・。面積比で8倍にしても1Kgしかあがらない。それに、この構造のまま大型化できるのか? どんな素材がよいのか? 分からないことが山ほどでてくる。それなら、と凧は既製品も探すことにした。もし良い凧があればそのまま使えばよいし、参考にして自分で作ることもできる。ところで、凧は何処に売っているのだろう。もちろんおもちゃ屋にはあるが、そんなのは参考にもならない。スポーツカイトがあるのだから、スポーツ用品店? 数軒行ってみたけど、どこにも置いてなかった。出張時に東急ハンズでスポーツカイトと小型の凧を見かけたがこれではあまり参考にならない。時間ばかり過ぎて行く・・・。

 

1996年10月 STRTOSCOOP手配

 偶然、富山でスポーツカイトを扱う店を見つける。思い切って入り、“凧で写真を撮りたいと思っているのですが・・・。”と切り出す。以外にも、店長は驚きもせず、カタログの中からSTRATOSCOOP ST3を薦めてくれた。4.5Kgまで持ち上げられるという。カメラは、1眼レフの1Kg+装置で1Kgかな、なんて考えていたので安全を見込んでちょうど良い。少々高いが、思い切って注文する。この店には、カイトフォトの写真集もあり、カメラの位置もこれでわかった。

 凧が手に入るなら、あとは撮影機材のみ。ラジコン撮影を前提に、製作を始める。

 

1996年11月 凧の入手、撮影機材1号機の完成、2号機の製作

 ST3は品切れだったが、同等品のSTW/05が入手できた。早速揚げてみる。不慣れ故、手間取ったが、なんとかテスト用の鉛が持ち上がるようになり始めた。この頃、撮影用の機材が完成! しかし、カメラ抜きで1.2Kg以上もある。強度不足をおそれて頑丈に作りすぎたか・・・。手持ちのコンパクトカメラと組み合わせても1.6Kg。これだと、一眼レフを乗せると2.2Kgになる。これでは重すぎる。手直しも考えたが、2号機を製作することにした。しかし、1眼レフカメラは重い。撮影するには向きを変える必要があるのだが、この重さゆえ、駆動系には相当悩まされた。

 

1996年12月 機材の完成

 冬になり、天候が悪い日が多くなった。それでも、STW/05でカイトフォトできる見通しは立った。凧を揚げる糸の引きに手応えを感じる。これなら大丈夫だろう。機材も月末には2号機が完成。1眼レフカメラ込みで1.9Kg。年末年始は天気が良さそうなので、元旦に揚げられるかもしれない。

 

1997年1月1日 初カイトフォト

 予報通り穏やかな天気。北陸の冬には珍しい。しかし、肝心の風が全くない。今日を逃せば当分無理か、と焦りも出るが、こればかりはどうにもならない。そんな中、父が奴凧を持って外に出た。孫に見せよう昨夜用意したものだ。どうせ無理、と思ったのだが、不思議と揚がっている。どうやら上空は風があるようだ。小型パラフォイルあげると程良い引き。それなら、とSTW/05を揚げると結構強い! さっそく撮影準備をする。

 揚げ糸にカメラを付け、思い切って手を離す。カメラはちょっとためらったように見えたが、一呼吸おいてぐんぐん昇る。以外と簡単に上るなぁ・・・。興奮を抑えて、低めのところで自分に向けてまずは1枚。あとはどんどん糸を送る。100m近く出ただろうか、もうカメラがどこを向いているのかわからない。それに、相当揺れている。結果は期待できないかもしれないが、適当にカメラの向きを変え、シャッターを切る。一度降ろし、カウンターをチェック。“40!” ちゃんとシャッターは切られたようだ。初めてだし、機材も心配だから終わりにしよう。元旦に初カイトフォト!夢のようだ。 

 現像に出したのは、5日後。翌日にはできあがり、袋を広げる。相当緊張する。写真を取り出す手がふるえるような気がする。まず最初の1枚。うーんちょっとずれてる。正確に自分に向けたつもりだったのだが。あとは次々に写真をチェック。すごい! カイトフォトとは、こんなにすばらしいものなのか・・・。見慣れた景色のはずなのに、全く別世界みたいだ。これが鳥の目なのか・・・。

 カイトフォトは、すばらしい!

 

2月9日 新凧、デルタボックス入手

 パラフォイルは大きな揚力があるのだが、微風では揚がりにくい。カタログにはデルタボックスなる凧がある。子供たちが良く上げているデルタ、この真ん中に三角形の立体凧を組み合わせたものだ。安定も良いという。自作もできると思うが、まずは既製品で上げてみようと思い、と注文していたのが入手できた。夜中に広げてみるとこれがまた大きい。なにしろ幅は4mある。6畳間では無理。狭いリビングで何とか骨の扱いを覚える。すぐに揚げたかったのだが、なかなか晴れず、今日になってしまった。風は弱いが、説明書では約2mの風であがることになっている。十分のはずだ。さっそく公園に行き用意をする。今日は、子供たちも凧を揚げている。偶然にもみんなデルタである。形が似ているだけに、ちょっと緊張する。(大人の意地を見せなければ・・・) しかし、重い・・・。1.3Kgもあるこの凧が、この微風で本当に揚がるかな? 大きな凧なので、子ども達も遠目で見ている。もう後には引けない。説明書を信じるだけだ。説明書通り20m位糸を伸ばして引く! 凧はあっけなく上空へ。しかも、微動だにしない。これはすごい。心地よい日差しの中、芝生に腰を下ろし、凧揚げを愉しむ。空には大凧と、その下でくるくる回る小凧。 B29と零戦? ちょっと大げさか。

 

3月2日 糸切れ!

 今日は少し強い目の風が吹いている。風速計では4.5〜5.5m。ちょうど良い、と思ってまずデルタボックスを揚げる。引きは良いが、凧が安定しない。左右に大きく振れたり、失速したように落下したり・・・。すこし様子を見ることにする。ふと、パラフォイルならテールの分、安定しているかも、と思いつく。少し後に揚げ、高度を上げはじめたとたん、もの凄い引き。思わず前に引きずられてしまう。上空はかなりの強風だった。危険を感じ、少しずつ降ろそうと思った瞬間、手応えがなくなった。凧が、丸めたハンカチみたいになって落ちて行くのが見える。すぐに追う。何年振りの全力疾走だろう。幸い、糸が短かったので凧はすぐ近くに落ちた。池に転がり込んだものの、テールが水没したのみ。本体は一部が濡れただけ。これですんだのは幸いだった。糸の結び方が悪かったのか、それとも痛んでいたのか・・・。今日は引き揚げよう。帰りにもう一度風速計を見ると、最大15m程度。上空はこんなに吹いていたのか・・・。背筋が寒くなった。

 

3月9日 デルタボックス/新機材 初カイトフォト

 昨日出来た小型デルタボックスのテストを行う。これは、大型の凧を自作する前の試作で、小さいながらも大型と同様に念入りに縫ってある。おまけに骨はスポーツカイト用のカーボンロッド。絶対揚がるはずなのだ。先週と同じ公園に行き、風速計を確かめる。4〜5.5m。風向は一定。今日は良さそうだ。(先週もそう思ったのだが、あえて深く考えない・・・) まずは出来たばかりの小凧を揚げる。糸の調整に手間取ったが、何度か調整しているうちにだんだん良くなってきた。それに、風も安定してきたようだ。

 いよいよカイトフォト用のデルタボックスを広げる。この凧と新機材。今日こそ撮影するぞ。この風なら上がるはずだ。しかし、引きは弱く、カメラはゆっくりと上下するのみ。それでも、高度5m位まで持ち上げられたので、自分に向けてシャッターを切る。これが限界。この凧では無理なのか、と思いつつ風速計を確かめると2.5〜3.5m。これなら無理、と納得した。 ところで、高度5mでの撮影、これは空撮と呼んでいいものだろうか?

 

4月初め 新デルタボックスの製作

 ようやく布を入手し、大型デルタボックスの製作を始める。小さなデルタボックスを試作したおかげで、まあなんとかなりそうではあるが、ちょっと大きい・・・。広げれば部屋に納まらないのだから当然か。なんとか研修会までには作りたいものだ。

 

4月27日 JKPA研修会参加

 今日は待望のJKPA研修会である。JKPAには、今年の初めに入会していたのだが、他の会員の方とお会いしたことはない。厚木へは初めてだが、何とか会場付近まで行く。だいたいこのあたりか・・・と思っていると白い凧が。ここだ!と思った瞬間、河川敷に下りる道が過ぎ去った。しょうがない。一回りして戻ろう。

 JKPAの方々であることを確かめ、挨拶をしながら名刺を渡す。名刺は7色用意しているのだが、赤やオレンジといったの派手な色から減って行く。派手好きな人が多いのかな? さあ、凧が揚がり始めた。六角に連凧、そしてダブルのデルタボックス・・・。私も、と自作のデルタボックスを用意する。でも皆さんの関心はまず撮影用の機材へ。さっそく取り出して披露する。さて、この凧だが、じつは一昨日縫い上がったばかりで、まだ一度も空には上がっていない。バランス良く縫い上げたつもりだが、心配が残る。でも、“凧の専門家ばかりだから大丈夫”の室岡さんの言葉に励まされて広げる。“テストはすんでる?”の声に、“いえ、まだです”と弱々しく答える。ロッドを入れ、横棒を張ろうとすると・・・あ、長すぎ! さすがに糸のこまでは持ってこなかった。あきらめかけたが、ちょっとたわませることで一時しのぎ。糸の調整もしてもらった後は、スーッと空へ。バランスはよさそうだし、これなら十分カメラも上がるだろう。しかし、今日はこの凧には風が強すぎる。一回り小さなデルタボックスに替える。既製品なので、この場で揚げるにはちょっと抵抗がある。などと思っているうちに、バランスを崩して真っ逆様に急降下。この勢いでは、ロッドが折れるかな・・・、と思った瞬間、何とか持ち直して上空へ。ほっとする。お借りしたテールをつけて上空へ。これで安定する。

 さて、研修・・・。自己紹介を聞いていると様々な人達、と感心する。風袋の科学、珊瑚礁の研究、・・・。聞く話が全て新鮮で刺激を受ける。

 後はまた凧揚げ。いつもは独りだが、大勢で揚げるのもこれまた楽しい。技術的には未熟なのだが、これでようやくカイトフォトグラファーの一員に慣れたような気がする。