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ドン・キホーテ:荒井祐子、熊川哲也、K-バレエ     (2005.6.1)

この映像は熊川哲也の主催するK-バレエ公演の記録です。主役のキトリは荒井祐子さん。1990年ローザンヌ国際バレエコンクールではプリ・ド・ローザンヌ・スカラーシップ受賞。同年、ハンブルク・バレエ学校に留学。95年東京バレエ団に入りましたが、斎藤友佳里、吉岡美佳の陰に隠れて、あまり目立たなかった。2003年にK-BALLET COMPANYに移籍、このバレエ団の水が彼女に合っていたのか、実力が開花。めきめき頭角を現し、この「ドンキホーテ」主演となったというもの。
 
この映像の荒井祐子さんは、堂々と自信に溢れているようです。溌剌と踊る姿を見ていると、こちらもとても幸せな気持ちになります。それでも第1幕は、多少緊張して力が入っていたのか、踊りが幾分堅かったようでしたが、それも最初のうちだけで、すぐに彼女の世界に引きこまれてしまいました。 1幕後半、パ・ド・ドゥでの2回目の片手リフト、長くが見応えがありました。熊川さん、わずかに足下がふらつきましたが、高々と荒井さんを持ち上げ続けたのはお見事。腕の力と足腰の強さを見せつけました。
第2幕夢場面。普通、キトリとドルシネア姫は同じダンサーが踊るのですが、熊川版のドルシネアは別の人が演じ、踊りません。ドルシネアをキトリとは別人とすることによって、夢の中でのドン・キホーテの混乱を、より強調しようというところでしょうが、これはこれで分からないわけではありませんが、全く踊らないのは寂しい気がします。キトリと妖精の女王はクラシック・チュチュのような白い短めのロマンティック?チュチュ。キトリと一緒に踊る妖精の女王の松岡梨絵さんは、手足がほっそりと長く、優雅です。1幕ではメルセデス役で出ていましたが、こちらの方が合っているよう。難しいイタリアンフェッテを全く危なげなくこなしたのは凄い。技術の高さが伺えました。キューピットは、神戸里奈さん。この役、若くて可愛けりゃいい、というわけでもないのですが、とにかく可愛いらしく、まさにキューピットという感じでした。
第3幕。華やかなテクニックが多く、バレエコンサートでもよく取り上げられるグランパ。熊川さんもローザンヌで金賞を取ったときがこのバジルだっただけあって、十八番中の十八番といった感じ。高く跳び、くるくると回る、とにかくかっこいい。でも、体力的にも、彼がこんな踊りを出来るのも数年でしょう。
短いクラシックチュチュに着替えての荒井祐子さん、小柄なだけに、このチュチュ姿は、ひときわ可愛らしく見えました。足取りも軽く、元気いっぱい、のりにのっているという感じ。まずアダージョ。目当ての高いリフトから真っ逆さまに落ちるフィッスダイブは見事に決まり大きな拍手を受けました。ただ、もう一つの見せ場、アチチュードでの独り立ちのバランスは、やや物足りなかった。サポートの手を離して、グッと堪えてバランスをとったものの、後ろに挙げた脚をすぐ下ろしてしまった。もう少し粘って持ちこたえて欲しかった。 この点、森下洋子さんパロマ・ヘレーラ、アナニア・シヴィリは、この場面、目の覚めるような長いバランスを披露しました。アナニアシヴィリは、10秒近くも、これ以上は限界というぎりぎりまで堪えて、観客を沸かせました。パ・ド・ドゥの流れを壊わすような技術偏重の「バランスの見せびらかし」は感心しないと思うけれど、ハッと息をのむバランスも「バレエ=瞬間の芸術」の要素です。 荒井さんも、次回このシーンを踊るときは、シヴィリまでとは言わなくとも、もう少し頑張って長いアチチュードのポーズに挑んで欲しいと思います。ただ、このシーンだけでなく、アダージョ全体に言えることですが、何となく荒井さんと熊川さんのパートナーシップがしっくりいっていないような感じも否めません。アダージョの主役は女性であり、男性はサポーターです。女性を美しく見せる、思い通り踊らせるのが、サポーターの役目ですが、熊川さんの踊りには、そのような女性への思いやりが感じられなかった。バランスでの支えの手の緩め方などに、もうひとつ丁寧さが欲しいような気がしました。ダンスールノーブルに徹していなかったというところでしょうか。この辺が荒井さんが思い通りバランスをとれなかったことに繋がったのかもしれません。
一方、コーダでは荒井さんは元気いっぱい。楽々とくるくる回るグランフェッテは、後半やや辛そうだったものの懸命に頑張って、至難な32回転を最後まで踊りきったのは見事でした。踊り終わってのレヴェランス、大きく波打つ胸には汗がにじみ、「やった!!」といった表情が美しかった。
ただ、一緒に踊った第1ヴァリエーションの康村和恵さんと、第3ヴァリエーションの長田佳世さんが共にプロポーションが抜群。日本人離れした美しいスタイルで長いおみ足の二人に比べると、小柄な荒井祐子さんがずんぐり見えてしましまいました。特にクラシックチュチュから覗く下半身の違いが目についてしまいます。荒井祐子さんも日本人としてはかなりのプロポーションと思うのですが、一緒に踊った二人のスタイルが良すぎてしまった。一幕や二幕のときは、全然気にならなかったのですが・・・。
 
  バレエ:ドン・キホーテ  
  キトリ:荒井 祐子、バジル:熊川 哲也
  ドン・キホーテ:ルーク・ヘイドン、ガマーシュ:サイモン・ライス
  エスパーダ:スチュアート・キャシディ、花売り娘・康村和恵、長田佳世
  妖精の女王:松岡梨恵、キューピット:神田里奈
  2004年11月 オーチャードホール
  K-BALLET COMPANY公演
 

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