私が最も好きな「白鳥の湖」の映像の一つが、この関西バレエカンパニー公演の「白鳥の湖」(全幕)です。(財)日本バレエ協会の関西支部・関西バレエカンパニーは、「バレエ芸術劇場」という名で毎年公演を行っており、今年(2006年)で33回を数えます。この「白鳥の湖」は、この第27回目(2000年)のものです。
この公演では、オデットとオディールをそれぞれ別のバレリーナが踊りました。
「白鳥の湖」は、通常、白鳥・オデットと黒鳥・オディールを一人のバレリーナが踊ります。一人で異なった性格の役を踊り分けるのは大変ですが、観る方はそこに面白みがあります。
一方、オデットとオディールそれぞれを別のバレリーナが踊り、お互いの得意技を競うのも興味があります。
この公演のオデットは堀端三由季、オディールは山下摩耶、いずれもステージで踊る以外に大阪バレエアカデミーの教師として後進の育成に努めています。この大阪バレエアカデミーは名門ワガノワメソードの伝統を受け継ぐバレエ教室だそうで、新国立劇場の契約ダンサー西川貴子も、このバレエ教室の出身です。
オデットの堀端三由季は、2004年度文化庁芸術祭舞踊部門で新人賞を受賞した実力者。
2003年の「ドン・キホーテ」でのキトリは、美しくあでやかでパッと舞台に大輪の花が咲いたようでした。
このオデットはそれより3年ほど前のものですが、スラッととても細く痩せているようにも拘わらず、
舞台に出てきたときからふんわりした空気が漂っていました。
ロシア留学で得た技術は正確で安定しているだけでなく、しっとりとした踊りには優しさが感じられます。
アラベスク・パンシェで180度まで足を挙げても、無理に挙げたというようではなく、とても自然なのです。
ここまで挙げると、品がなく感じる人もいるのですが、全くそれがなく、本当に爽やかで美しいのです。
体の柔らかさは、日頃の精進の賜物でしょうが、この爽やかな雰囲気は、堀端三由季に生来備わっている気品の良さのせいでもあるのでしょう。
気品と優雅さの中のほのかな色気・・・がオデットの魅力と思うのですが、堀端三由季、気品と優雅さについては申し分ないのですが、
もう少し色気が備わったら・・・と思うのは贅沢でしょうか。
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オディールは山下摩耶。堀端三由季に比べると一回り小柄ですが、手足が長い美しいプロポーソン。
短いチュチュから覗くふっくらとした太ももにほのかな色気を感じます。
堀端三由季のしっとり感とは正反対の軽快な踊りで、明るい笑顔がとてもチャーミング。
2005年の「眠りの森の美女」のオーロラ姫も素敵でしたが、この黒鳥はさらに魅力的。
アダージョ終盤、パートナーに片手を支えられて懸命のバランス。極限まで開いたアラベスク・パンシェは180度。思わずゴクッと唾を呑みました。
ヴァリエーションはとても魅力的。エカルテ・ドゥヴァンでのバランスの美しさにはため息が出ました。
コーダのグラン・フェッテ・アントゥールナンでは、前半、ダブルを加えたけれど、
途中から軸足のズレが大きくなりとても辛そう。今にも崩れそうでハラハラしたものの、難しい技への果敢な挑戦、立派です。
歯を食いしばって必死に持ちこたえて、後半はシングル回転。これは軸足のズレもなくバッチリで、破綻なく終了。
「ヤッタ!!」という感じの満面の笑み。
山下摩耶の踊りは、悪魔の妖艶な雰囲気は欠けていたけれど、とても軽快で爽やかさなオディールでした。
この山下摩耶のオディールを見ていて、20歳の頃の初々しい森下洋子のオディールを思い出しました。
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チョッと気になったのが、王子とオデット/オディールの女性との身長のバランス。
女性ダンサーはトゥシューズを履くと、15センチ以上背が高くなってしまうので、
男性は理想的には20センチぐらい女性より身長の高い方が望ましい。
現実問題として日本では、180センチを超える男性ダンサーは
数えるほどしかいないから、ポワントで立った時には
女性の方が背が高くなるということがまま起きてしまうのです。
相手役が背が低いと、ポーズを取った時の腰の位置が合わないので、
女性が体を曲げなくではならなくなったり、
思う存分に腕を伸ばしきれなくなることがあります。
男性の挙げた手につかまってクルクルと回る時も、
男性が背が高ければ、男性の指を軸にして回れるけれど、
女性の方が高いと、やむを得ず手首を軸にして回らなければなりません。
山下摩耶は小柄なのでポアントで立ってもパートナーの山口章より背が低く、二人のバランスはピッタリですが、
堀端三由季は山口章を超えてしまい、二人のバランスがしっくりしないのです。
オデットとオディールをそれぞれを別のバレリーナが踊ることの難しさを感じました。
堀端三由季も山下摩耶も、関東では生の舞台を全く見ることはできません。
その意味で、関西で活躍するダンサーを知ることができる、この「バレエ芸術劇場」の映像は、
離れていて見に行けない私にとって、とても有り難いものだったのです。
この映像は、一般にビデオショップ等で販売されているバレエのDVDと違い、大阪の映像作成会社が録画し、
希望者の注文に応じてDVDなどのメディアを作成して販売していたもので、高価ですが、内容も、映像の美しさも、
市販のDVDとかわりありません。むしろそれ以上のものも多々あります。
私も「眠りの森の美女」など、いくつか購入して楽しんでいます。
でも、この「バレエ芸術劇場」の映像の販売は、今後やめてしまうそうで、とても残念です。
「バレエ芸術劇場」の公演は、これからも大阪で毎年開かれるそうなので、関東在住の私も是非その映像を観たいものです。
そのためにこのDVDやビデオによる映像の販売を、今後も続けて下さることを願って止みません。
オデット:堀端三由季、王子:山口章
オディール:山下摩耶、
2000/1/28大阪フェスティバルホール
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