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『すべてを投げうつ覚悟でここにきた!』バレリーナ倉永美沙      (2019.12.25)
 (情熱大陸「サンフランシスコ・バレエの倉永美沙」に感動)

かって、上野水香さん針山愛美さん中村祥子さん加治屋百合子さん等のバレリーナを取り上げたTBSテレビの「情熱大陸」が、また素敵な番組を放送してくれました。 先ごろ、ボストンバレエ団のプリンシパルという地位を捨てて、サンフランシスコ・バレエ団に移籍した日本人バレリーナのドキュメントです。
倉永美沙は、17歳の時、ローザンヌ国際バレエ・コンクールでプロ研修賞を受け、サンフランシスコ・バレエ団に在籍したが、正式契約を勝ち取れなかった。その後、ボストンバレエ団に入団し、逆境をバネにしてボストンバレエ団で実績を重ねプリンシパルまで上りつめた。 そんな彼女が2019年、『すべてを投げうつ覚悟でここにきた!』と、かって正式契約を受けられなかったサンフランシスコ・バレエ団に転籍し新しい人生を歩みだしたのです。 倉永美沙はバレリーナとしては小柄な156センチという身長。そんな彼女は『私の体格はバレエをするのに完璧なプロポーションではないのです。運命は生まれながらに決まっているものではなく、変えていくものなのだ』と努力を重ねたからこそ、自信に繋がり、こんな大胆な決断を可能にしたのでしょう。
サンフランシスコ・バレエに移籍して初めての舞台は『くるみ割り人形』。この舞台で彼女は見事、観客の心を掴んだ。 ナレーションの窪田等さんは、『卓越した技術が光る中、拍手が起こった。回転の姿はもちろん、ぴたりと静止する姿も世界屈指と言っていい』と言っていたけれど、くるみ割り人形のパ・ド・ドゥのアダージョの見せ場のバランスで彼女が見せた、このぴたりと静止する姿の美しさこそ、彼女の武器だと思う。
彼女には、トレーニングマシンというあだ名がついているそうですが、日本語で言うと『稽古の虫』でしょう。練習に没頭し、誰もがかなわないレベルに達したということでしょう。ただマシンというのはどうかと思う。 シルビー・ギエムやタマラ・ロホのように『どう、凄いでしょ!!』と言わんばかりの、ビクともしない一糸乱れぬ機械的な踊りをするダンサーならマシンというのもわかるけれど、倉永美沙さんはそんな機械的な踊りではなく、幾分不安を抱かせるようで、ほんのり愁いを感じさせるようであるからこそ、見ていてうっとりしてしまう踊りなので、マシンというのは相応しくない。 ゴルフの新星・渋野日向子がスマイルシンデレラと言われているように、倉永美沙はさしずめトレーニング・シンデレラとかトレーニング・エンジェルとかが似合うでしょう。


倉永美沙さんは、ぴたりと静止するバランスに、とくに拘っているし、自信を持っているのでしょう。 白鳥の湖やドン・キホーテの本番の舞台で、アダージョのバランスで、観客の拍手喝采を受けている映像がFacebookにアップされています。

オデイールのバランス。お見事!!(倉永美沙)
facebook(Misa-Kuranaga)より

ドン・キホーテのバランス(倉永美沙)
facebook(Misa-Kuranaga)より
彼女のフェイスブックやインスタグラムには、『堪えるのよ。もっともっと!!』と自分に言い聞かせるように、必死に歯を食いしばって、極限まで長〜い長〜いバランスを維持する訓練や、ローズアダージョの見せ場のバランスを繰り返し繰り返し念入りに稽古をする映像が多々アップされています。 これだけ長く持ちこたえる稽古を厭わない彼女、人並はずれた技術力と精神力の持ち主なのでしょう。

見事な静止、アラベスクバランス
facebook(Misa-Kuranaga)より

アチチュードバランスの限界に挑戦
facebook(Misa-Kuranaga)より

究極のアラベスクバランスの美しさの追求。
頑張って!!、堪えて、堪えて!!。
(facebook(倉永美沙)より)
また、パダドゥのアダージョなどで、男性に支えられてバランスを確保した後、手を放して極限まで堪えてバランスを維持しようと、懸命に稽古に励む映像も多々アップされています。 これだけ繰り返し繰り返し入念に稽古をしているからこそ、世界屈指の静止する姿を生むことができ、本番の舞台で観客の絶賛の拍手を受けることができるのでしょう。まさに稽古の虫、トレーニング・シンデレラですね。


ローズのバランスの稽古(倉永美沙)
(facebook(倉永美沙)より)

ドンキホーテのバランスの稽古!!(倉永美沙)
(facebook(倉永美沙)より)

オディールのバランスの稽古
facebook(Misa-Kuranaga)より
ナレーションの窪田等さんが『ぴたりと静止する姿も世界屈指』と言っていましたが、この世界屈指の技術を武器に、 『すべてを投げうつ覚悟でここにきた!』という倉永美沙さん。並々ならぬ決意が感じられる、この情熱大陸の内容でした。 倉永美沙さん、頑張れ!!

ところで、先日、とても素晴らしい、倉永美沙さんの踊りの映像を見ました。 2018年9月9日(日)めぐろパーシモンホールでのマラーホフ版「白鳥の湖」のダイジェスト映像で、主演は、倉永美沙のオデット、芳賀望の王子です。
第二幕のオデットも美しかったけれど、さらに素敵だったのは第三幕のオディール。ここでも窪田等氏が言っていた彼女の武器である「ぴたりと静止する姿」が光っていました。パ・ド・ドゥのアダージョで倉永美沙は、パートナーの手を放してから驚異的なアラベスクのバランスを維持しました。 体がギクギク揺れだし危うくなっても、ポアントの右足首を小刻みに動かして もはや、これ以上粘ったら崩れてしまうという、ぎりぎりまでの6秒近くも、長〜い〜長いバランスをとり続けたのです。 可愛らしい乙女が歯を食いしばって、必死に頑張って踊る姿は、本当に清々しく、「危ない。堪えて、堪えて!!」と声をかけたくなるほどで、手に汗握る危うさゆえに、美しい魅力に溢れていました。 彼女はバレエを踊るために、とりわけバランスの美を極めるために生まれてきたのかと思ったくらい。 最後は片手でサポートされた180度を越えるアラベスクパンシェで締めくくります。 ここまで上げると下品になりがちですが、倉永美沙のそれは全くそんな感じはせず、清々しい感じなのです。こんな人こそ、魅力的なバレリーナと言えるのでしょう。終わって、思わず、ホッとした彼女の笑顔の美しかったこと。思わず、「お疲れ様。素敵だよ!!」と声をかけたくなりました。

かって、故蘆原英了氏が「でんと立ったバランスは少しも美しくない。倒れるか倒れないかという不安なバランスこそ美しい」と言っていましたが、この倉永美沙のアラベスクとアラベスク・パンシェを見てその通りと思いました。
ただこの映像はダイジェスト版なので、作品の全体を見れません。ぜひ一幕から四幕の全部を見たいものです。できればDVDかブルーレイディスクで発売してほしいものです。


     

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