債権法改正 要綱仮案 情報整理

第30 売買

3 売主の追完義務

 売主の追完義務について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、その不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、この限りでない。
(2) (1)本文の規定にかかわらず、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

中間試案

4 目的物が契約の趣旨に適合しない場合の売主の責任
  民法第565条及び第570条本文の規律(代金減額請求・期間制限に関するものを除く。)を次のように改めるものとする。
 (1) 引き渡された目的物が前記3(2)に違反して契約の趣旨に適合しないものであるときは,買主は,その内容に応じて,売主に対し,目的物の修補,不足分の引渡し又は代替物の引渡しによる履行の追完を請求することができるものとする。ただし,その権利につき履行請求権の限界事由があるときは,この限りでないものとする。
 (2) …
 (3) 売主の提供する履行の追完の方法が買主の請求する方法と異なる場合には,売主の提供する方法が契約の趣旨に適合し,かつ,買主に不相当な負担を課するものでないときに限り,履行の追完は,売主が提供する方法によるものとする。

3 売主の義務
 (2) 売主が買主に引き渡すべき目的物は,種類,品質及び数量に関して,当該売買契約の趣旨に適合するものでなければならないものとする。

(概要)

 民法第565条及び第570条本文の規律を改めるものである。その際,代金減額請求権の規律を付け加えるかどうか(後記5)や,買主の権利の期間制限に関する同法第565条及び第570条本文(それぞれ同法第564条・第566条第3項の準用)の規律をどのように見直すか(後記6)等については,後の項目で取り上げている。
 本文(1)第1文は,売買の目的物が契約の趣旨に適合しないものである場合に,目的物の欠陥か数量不足かといった契約不適合の内容に応じて,その修補を請求し,又は代替物若しくは不足分の引渡しを請求することができる(履行の追完を請求する権利を有する)とするものである。ある契約不適合の追完につき修補による対応と代替物等の引渡しによる対応等のいずれもが想定される場合に,いずれを請求するかは買主の選択に委ねることを前提としている。第2文では,それらの履行の追完を請求する権利の限界事由(履行不能)につき,履行請求権の限界事由の一般原則に従うことを明らかにしている(その内容につき,前記第9,2)。
 …
 本文(3)は,買主の選択する履行の追完の方法と売主が提供する追完の方法とが異なるときは,売主の提供する追完の方法が契約の趣旨に適合し,かつ買主に不相当な負担を課すものでないときに限り,履行の追完は,売主が提供した方法によるとするものである。追完手段の選択が買主に委ねられるという本文(1)の原則に対する制約であることから,買主による選択の利益を不当に害しないものとするために,限定的な要件を設けるものである。売主が本文(3)の要件を満たす履行の追完の提供をしたときは,弁済の提供としての効力が生じ,買主は当初選択した方法による履行の追完の請求ができない。
 以上で取り上げたような目的物が契約に適合しない場合の買主の権利(後記5の代金減額請求権も含む。)の行使要件について,その不適合が「隠れた」(民法第570条)ものであるという要件を設けないこととしている。「隠れた」とは,瑕疵の存在についての買主の善意無過失を意味するとされてきたが,売主が引き渡した目的物が契約に適合しないにもかかわらず買主に過失があることのみをもって救済を一律に否定することは適切ではなく,むしろ,目的物に存する欠陥等がどこまで売買契約に織り込まれていたかを契約の趣旨を踏まえて判断すべきであるとの指摘を踏まえたものである。

赫メモ

 規律の趣旨は、中間試案4(1)本文及び同4(3)に関する中間試案概要のとおりである。
 もっとも、契約不適合が買主の帰責事由による場合にまで買主に追完請求権を認めるのは売主に酷であることから、要綱仮案(1)ただし書においては、契約の解除(要綱仮案第12、4)及び損害賠償請求(要綱仮案第11、1)と同様に、買主に帰責事由がある場合に追完請求権が否定された(部会資料81-3、9頁)。また、中間試案4(1)ただし書については、履行不能の規律(要綱仮案第10、1)が追完請求権にも適用されることは明らかであることから、要綱仮案では重ねて規定しないものとされた(部会資料75A、13頁)。

現行法

(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
第563条 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。

第564条
前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ一年以内に行使しなければならない。

(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
第565条 前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第566条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

(売主の瑕疵担保責任)
第570条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=売主,B=買主)
【瑕疵の修補に過分の費用を要するとされた例】 最高裁昭和58年1月20日判決・判時1076号56頁
 AがBから請け負った曳船について,全速力で右方急旋回する場合に発生する振動が設計の不備に基づく欠陥であり,この欠陥を修理するためには,船体を切断して後部の船体を新造したものと取り替える工事が必要であるとして,Bがその工事費用2440万円及び滞船料に相当する金員を損害賠償請求した。
 曵船の瑕疵は比較的軽微であるのに対して,瑕疵の修補には著しく過分の費用を要するものであるということができるから,民法634条1項但書の法意に照らし,Bは曳船の瑕疵の修補に代えて改造工事費及び滞船料に相当する金員を損害賠償として請求することはできない。請負代金3800万円の1割に相当する400万円を賠償額として認定した。