クラウド・コレクター : 雲をつかむような話 クラフト・エヴィング商會/著 東京 : 筑摩書房,1998. - 192p ; 21cm ISBN:4-480-87296-5 \2500 t1.クラウド コレクター t2.クモヲ ツカム ヨウナ ハナシ a1.クラフト エヴィング ショウカイ s1.アゾット |
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「雲、売ります」 クラフト・エヴィング商会の引き出しから出てきた、妙な売り文句の広告チラシ。 手作りの凝ったラベルが貼られ1番から21番の番号が振られた、 様々な形のお酒の壜21本。 「哲学サーカス」のパンフレット。 来歴のないたくさんの、「なんだかよくわからないものたち」。 そして最後に出てきたのは、3冊の手帳に記された、 『アゾット』なる異国の旅行記。 …これらは、クラフト・エヴィング商会のニ代目店主吉田伝次郎が、戦時中に 遠国『アゾット』を旅した際に持ちかえった品々だったのです……。 ……というのは実は全部嘘。 『アゾット』なる国は、全く吉田伝次郎の空想の国。 その架空の国を舞台に、先代店主は壮大な「架空旅行記」を仕立てあげたのでした。 瓶や奇妙な品々も、わざわざその壮大な「架空旅行記」のために 先代の手によって作られたものだったのです。 ……でも、何故二代目店主吉田伝次郎はこんな壮大な嘘をでっちあげたのか。 「お前に永遠を見せてやろう。」とぽつりと語った、 いちばん遠いところ、『アゾット』。 戦争のさなかで、先代は何を夢見て、何を商おうとしたのか。 その謎を、三代目クラフト・エヴィング商會店主が、3冊の手帳を読み解きながら、 様々な不思議なものの写真を交えつつ、『アゾット』を辿ってゆくのがこの本です。 |
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・久々に、ファンタジーを読んだ気がした。伝次郎さんの壮大な「嘘」は、 私にとっては「ファンタジー」なのです。いや、ホントの話。 ・と、同時に推理小説のような味もある。 3冊の手帳に記された、アゾットの21のエリアの記述には、様々な伏線 というかモチーフが眠っています。 それが読み解かれるにつれ、「なるほど…」「そうきたかっ」……とやられる ことしばしば。最後の最後まで油断は禁物。 ・彩りを添えるのが、先代もしくは三代目が作った、アゾットの品物の写真。 青い涙の結晶標本や、雲母印本、声の棺、雲砂糖……。 忘れてはいけない、エリアごとにある宿泊施設「蒸留所」で作られる蒸留酒 『ムーン・シャイナー』。 ……飲んでみたい(笑)。私も過客になりたい〜。 ……展覧会、見てみたかったです……。 ・「探偵」円田の登場する第二の手帳も面白いのですが、好きなのは第三の手帳。 特に、第17エリア『ホシボシ』、第18エリア『ナイツ』が好き。 とある理由により、夜は声を禁じられる『ナイツ』。 人々は、声を記した小さな紙片で筆談しながら、長い静かな晩餐を楽しむ。 そして、紙片となった声は、その人を偲ぶのに使われて…。 ・……下手に何か書こうとすると、即ネタばれに繋がりそうでこわいです(笑) ・忘れられたことと伝わっていくこと、地球の自転。 くるくると、回転しながら登っていって。 そんな『アゾット』への旅は、「ひい、ふう、みい」と唱えるだけで始まります。 いや、ホントの話。 |
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