目録カード:本の備忘録


 ……その古めかしい本棚の一番下の段の片隅に、手作りの薄いカード冊子を見つけた。

 黒い紐で紙片が閉じられたその冊子には、「紅茶店 古書目録」とある。

 外に降る雪の様に白いカードを破かないよう、注意してめくってみると、どうやらこの本棚の目録らしい。

 ただ、それにしては、本の数に対して明らかにカードの数が多すぎる上に、しばしば白紙のカードが目につく。

 この場所の空気に慣れてきてしまったのか、何となくその理由が解る気がした。

 …多分、この本棚の本達は、時にここに迷い込み、時に何処へかと去っているのだろう。

 あたかも、この店に訪れる客達の様に。

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ここでは、日常読んでてふと「いいなぁ」と思った本とかについてつらつらと書いていきます。

ただし、書評なんて書けないので、少しの紹介と、感想のかけらだけ。

しかも、読んで「書きたい」と思った時に、たまたま時間と気力がないと書かないので、

いつ、どんな本が増えるか定かではない(笑)、いわば、個人の本の備忘録に近いです……。


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目録カード No

 2

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◆カード1・書誌事項◆


 フィンガーボウルの話のつづき
     : The Continuing Story of Finger Bowl

   吉田 篤弘/著 吉田 篤弘,吉田 浩美/装丁

   東京 : 新潮社,2001. - 220p ; 19cm

   ISBN:4-10-449101-2 \1500


   t1.フィンガーボウル ノ ハナシ ノ ツヅキ
   a1.ヨシダ アツヒロ a2.ヨシダ ヒロミ
      s1.ジュールズ バーン s2.ホワイト アルバム



◆カード2・内容注記◆


<世界の果て>にある食堂を舞台にした、そこへやってくる人々の話……
……の物語のしっぽをつかみあぐねて横浜を歩いていた時に、
ふとみつけた<小さな冬の博物館>という看板。

そこで催されていたのは、白い壁に「Don't Disturb,Please」の札がかかった
ドアノブだけが展示されていた、
ジュールズ・バーンという作家の回顧展。

この<小さな冬の博物館>をきっかけに、食堂のフィンガーボウルを通して語られる
客人たちの物語が書かれてゆきます。

水に指がひたされるだけの時間だけ語られる、「フィンガーボウルの話のつづき」。
いつもながら、どこか懐かしくて不思議な、16の連作短編です。

『クラウド・コレクター』に出てきた「ゴンベン先生」や『Bolelo』の
「バティ・ホリー商会」も再登場。



◆カード3・オーナーの備忘録◆


本屋でぶらぶらと本を見て歩いていたら、ふと目に止まった白い表紙の本。
どこか見たことがあるような線画に、フォント、帯、作者「吉田篤弘」……。
……って、クラフト・エヴィング商會じゃん!(笑)
すぐさま喜んでレジに持ってったのでありました。


読み進んで、2つめのお話『ジュールズ・バーンの話のしっぽ』の、扉。
……何だよぅ、この「No.A025036」、って(笑)
もう、クラフト・エヴィング商会の本読んでると、こういうのがすぐに
気になってしまいます。
何かからくりを仕組んでないか、法則性がないか、とか(笑)


そうして、ビートルズのホワイトアルバムを鍵に、映画の予告編のように、
いろいろな人たちの話が断片のように綴られます。
レインコート博物館の話、その職員達と流れ星の話、「殺し屋」ならぬ
「クロス屋」の話、閑人カフェ……。

何だか、ついついクスッと笑ってしまうことが多かったです。
なんとも、いつもながらに懐かしいような、不思議な感じで。
そして、またそれぞれの話に繋がってるところもあったりして、
クラクラしてきます(笑)

個人的に好きなのが、「親愛なる、夜ふかしの皆様」で始まる、<6月の月放送局>
というささやかな電波の話。
ちいさな島の放送局で、どこにも届いていないかもと思いながらも、
気の向いた時だけ放送される、静かな声。
「もし、いまこの放送をどなたか聴いていらっしゃるとすれば、
それは本当に奇跡のようなことなんです。」

……何だか、ホームページを更新したり、ささやかなおなはしを書いたりするのも、
この電波に似ている気がします。

そうして、白いレコードの余白に書かれる話は、静かに続いてゆくのです。
「Don't Disturb,Please」がかかった、ドアノブの向こうで。


読み終わったあと、ふと気になって、本のカバーをはずしてみたら……
……さすが「装丁:吉田篤弘・吉田浩美」だけあるなぁと、ちょっとニヤリ。
さすがに、通し番号は振ってありませんでした、けどね。


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