古い木製の本棚:ファンタジー


……テーブルに近い壁際に、重厚な造りの木製の本棚があった。

ただでさえ年月を経た色合いを持つこの本棚に、ランプの明かりがさらに深い味わいを与え、まるで、どこかの昔の貴族の屋敷の書斎にいる様な気分になる。

納められた本も、現代よく読まれるような本とはどこか違う、古めかしさと、謎めいた感じを持っている。

そう、ちょうど、たった今私がいる、この不思議な店の様に……。

私は、本棚から一冊の本を取りだし、ランプの明かりの中、めくりはじめた。

→カード目録:本の備忘録 をめくる


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ここでは、私の好きなファンタジーを幾つか紹介していきます。

今ファンタジーと言うと、大体の人は『ドラクエ』などのゲームの様なものをを思い浮かべると思います。

私がここで挙げるのはそういうものではなく、読む人に想像を喚起させ、その物語の持つ情景や世界が、あたかも一曲のの美しい音楽の様に感じられる、「幻想」の物語。

ここでは、そんな中から比較的読みやすいものを幾つか選んでみました。

また暇をみて数を増やしていきたいなと思っておりますので、たまにこの本棚を覗いてみてくださいね。

それでは、いざ、幻想の異世界の旅へ……。


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book『ナルニア国物語』シリーズ  C.S.ルイス著 岩波少年文庫 岩波書店

偉大なるライオン、アスランの創造した、『ものいうけもの』達の国、ナルニアの物語。
全7巻ですが、各巻が1冊で完結する別々の話で、それを順番に並べると、ナルニアの創世から終わりまで、一つの歴史となるようになっています。

少年文庫と言えあなどるなかれ。言葉を話す様々な性格の動物達や、幻獣たちの織りなすこの物語世界は、無限の美しさと楽しさを含んでいるのです。
例えば、1巻『ライオンと魔女』の冒頭近くに出てくる『街灯あと野』。雪降り積もる静かな森の中に、ただ一本光を投げかけて立つ街灯は、想像するになんともいえぬ幻の光景。

また、3巻『朝びらき丸東の海へ』で、東の世界の果ての海へと航海する船。その『さいはてのいやはての国』に近づくにつれ、光満ちていく海の描写は、想像力の限界を超えて直接心に迫ってくるものがあります。
話は多少子供向けで、またキリスト教を色濃く含んでいて、それが嫌いな人には向きませんが、読みやすいので、子供に還った気分で一度暇な時に読んでみて欲しい本です。

最後に、1巻『ライオンと魔女』の冒頭を少し。

疎開してきた古い屋敷でかくれんぼしていた4人の兄弟。末の妹、ルーシーが隠れた衣装だんすの奥へ進んでいくと、そこはもう、氷の魔女に支配されていつまでも春の来ないナルニアの国。
雪積もる『街灯あと野』で彼女が出会うのは、傘と買い物の包みを手にした、頭に羊の角をもつ一人のフォーン。
さてさて、これからこのナルニアで4人兄弟を待ち受けるのは……?


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book『黄金の鍵』  G.マクドナルド著 ちくま文庫 筑摩書房

虹の生まれる先端に落ちていた、小さな黄金の鍵。それを拾った少年は、その鍵が開く扉を、そしてその向こうにある『影が落ちてくるもとの国』を求めて、妖精の国へと旅に出る……。

この本も、どちらかというと童話に近い話を集めた、珠玉の短編集です。
特に表題作の『黄金の鍵』には、その妖精の国の、次から次へと現れる幻想の世界が読者を待っています。
それゆえに、単に物語の筋を追うだけでなく、あたかも音楽の様に流れ来る美しい世界に身を浸しながら読むのが、この物語の正しい読み方と言えましょう。
物語自体も、死の問題を含んでいたりと、たんなるおとぎ話に終わらないものがあります。

もし、「子供向けの話では物足りない」とお思いなら、同じちくま文庫、G.マクドナルド著の『リリス』をどうぞ。(ぶ厚いですが……)


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book『パーンの竜騎士』シリーズ  A.マキャフリィ著 ハヤカワSF文庫 早川書房

『赤ノ星』から惑星パーンに降り注ぐ糸胞の群。この糸胞が大地に落ちると、土にも、木にも穴を穿ち、自らが破裂するまで養分を根こそぎ吸い付くし、死の土地と化してゆく。
そんな糸胞に立ち向かうは、空間移動能力を持ち、炎を吐く竜と、彼らと心を通わせる竜騎士達。
この物語は、天駆ける竜と竜騎士達の、戦いとロマンの物語。

この本は、前2つとは違い、むしろストーリーを楽しむ本です。一見するとこの本の厚さにたじろぎさえするのですが、いざ読んでみると、そのストーリーテリングの秀逸さに引き込まれ、あっというまに読み終えてしまえます。
また、作中に登場する竜や火蜥蜴(ペットサイズの竜)はどれも個性がある奴等で、思わず親しみを感じてしまうほど。
どちらかと言うと、じっくりと物語の世界を味わうよりテンポのあり夢中になれる話を読みたい人向けの本です。

さあ、この本を読んで、気のいい竜達と共に天を駆けてみませんか……?


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ともあれ、「こういう物語もあるんだ」ということが多少なりともわかっていただければ幸いです。

ゲームなどでしかファンタジーを知らない人も、一度試しに手に取られてはいかがでしょうか。

もしかしたら、新しい世界に出会えるかもしれません……。



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