nector / page 3


 「お願い?僕にかい?」  潮風にさらわれないよう、手で覆いながらマッチに灯を燈して、配達夫は聞き返しました。  橙色の小さな明かりが一瞬生まれて、すぐに夜の海岸に溶け込んでいきました。  「お父さんに歌を届けて欲しいの。」  「今夜はくもっちゃって会えないから、代わりに届けて欲しいの。」  なみほ、ほなみ、と名乗った二人の女の子は、左右にちょこんと首を傾げて続けます。  和音のように重なったタイミングで、夜風にさらりと短い髪をゆらして。  「くもったから会えないって……君らのお父さんは何処にいるんだい?」  配達夫の不思議そうな質問に、顔を見合わせて、いたずらっぽくくすりと笑って。  「今は、たぶんあの辺。ずっとずっと上。」  なみほが小さな指を、蒼い灰色に霞んだ空に向けました。  「え、違うよ。もうちょっと東よ。まだそんな昇ってないわ。」  ほなみは、なみほが指したよりもう少し海に近い、低い空のかなたを指しました。  「え……?」  あっけに取られた顔の配達夫に、二人ははぴたりと澄んだ声を重ねてこう言いました。  今度は、くすくすと楽しそうに笑って。  「私たちのお父さん、お月さまなの。」

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danro