「そんなこと、ないよ。」
二人は、首を横にふりました。少し、真剣な声を揃えて。
「変わらないようだけど、一瞬ごとに変わってて、歌はおんなじじゃないのよ。」
「だから夜のいちばん永い、今夜の歌をお父さんに聴いてほしいの。ね、お願い。」
「上から見てると、いっつも変わらないように見えるけどなぁ……。」
困った顔をして、配達夫はもう一度、深い蒼にさざめく海辺を眺めました。
砕ける泡の破片だけが白くはじけて、砂浜に満ち引きのリズムを描いています。
くりかえし、くりかえし、同じリズムで。
「見るだけじゃ、わからないのよ。」
二人は、急に、優しい、不思議な微笑みを浮かべて言いました。
今までの無邪気な振る舞いとは違う、どこか、広がるさざなみのような表情で。
深い、海の色の瞳を、配達夫に向けて。
「ほんとうのことって、そっと触って、音を聴かなくちゃわからないのよ。」
「だって配達夫さんが今晩届けるものだって、そうでしょ?」
「……そうは言ってもなぁ。僕には、君ら二人だって同じに見えるよ。」
少し驚いたように、褐色の髪の後ろ頭をかきながら。
すると、なみほとほなみはお互いをちょっと見て、いたずらっぽくこう言ったのでした。
もう、もとの無邪気な海の女の子の表情に戻って。
「じゃあ、ためしに聴いてみる?」
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