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4.繁殖期の推定

 繁殖率の変化は図8に示してある。繁殖率は捕獲個体に占める繁殖個体の割合をいう。雄では睾丸が外部から見て下降状態にあるものを繁殖状態にあるとした。また雌では、膣開口状態のものと妊娠中のもの・授乳中のものを繁殖状態にあるとした。
 雄は1985年の春(4月)は繁殖率が15%で、その後低下していき、6月には繁殖状態の個体は捕獲されなかった。春の繁殖のピークは4月の中旬以前の3月頃にあると推定される。夏場の6月・7月は繁殖状態の個体は見られず、8月になると多くの個体が繁殖状態になり、繁殖率は83%となる。9月・10月の秋は繁殖率は100%となり、1986年の4月は'85年よりも繁殖率が高い。5月になると繁殖状態の個体は見られなくなり、'85年同様に夏場の6月・7月は繁殖率は0%であった。そして8月に再び繁殖個体が捕獲されるようになるが、'85年に比べてその割合は低い(37%)。9月になるとすべての個体が繁殖状態になっていた。10月は'85年と違い、非繁殖個体が捕獲された(56%)。この1985年と1986年の繁殖率の違いは、1986年の春が1985年の春よりも繁殖状態になるのが遅れていることを示している。
 雌の場合、1985年の春には授乳中の個体が見られた(繁殖率72%)。その後雄と同様に繁殖率が低下していき、夏場の6月・7月・8月には繁殖期は捕獲されなかった。9月になると膣開口状態の個体が捕獲されるようになる(90%)。10月になると、すべての雌が妊娠または授乳中であった。11月になると非繁殖個体が捕獲されるようになる(50%)。'86年の4月はほぼ'85年と同様の繁殖率であった(76%)。その後繁殖率が低下するが、'85年に比べて5月の繁殖率は高く(42%)、雌の場合も雄と同様に繁殖状態になるのが'86年では遅れているようである。6月・7月・8月の夏場は繁殖状態の雌は見られず、繁殖率は0%である。9月になると、繁殖状態の個体(膣開口状態)が捕獲される(68%)。そして10月になると、すべての個体が繁殖状態(授乳中)になっていた。また'85年のように10月には妊娠個体も捕獲された。
 幼体・亜成体の出現の様子は図8に示してある。幼体は体重が20g未満のものを、亜成体は体重が20g以上25g未満のものとして区別した。'85年には4月・5月に多くの幼体が出現した。5月には4月の中旬から下旬頃に生まれたと思われる個体が生長した亜成体が多く捕獲された。6月に入っても幼体・亜成体ともに捕獲された。7月・8月・9月は1匹も捕獲されず、10月に再び捕獲され始めるが、その個体数は少なく、11月に多くの幼体・亜成体が捕獲されるようになる。'86年の4月は'85年のような多くの幼体は捕獲されなかった(亜成体1匹)。5月に多くの幼体・亜成体が捕獲された。幼体は7月には捕獲されなくなるが、亜成体はまだ捕獲された(2匹)。8月・9月には幼体・亜成体は捕獲されず、10月になって1匹の幼体が捕獲された。この幼体・亜成体の出現の様子からも'86年の春は'85年の春よりも繁殖期にはいるのが遅れていることが分かる。
 前述の雄と雌の繁殖率の変化と、幼体・亜成体の出現状況及び妊娠期間が21日から26日、生まれてから体重10gになるのに平均21日(15日から27日)、15gになるには約28日を要する(村上 1974)ことから交尾期と出産期を推定すると以下のようになる。

  • 1985年 春 交尾 2月下旬から3月下旬。 出産 3月下旬から4月中旬。
  • 1986年 春 交尾 3月上旬から4月上旬。 出産 4月下旬から5月上旬。
  • 1985年 秋 交尾 9月上旬から10月上旬。 出産 9月中旬から10月中旬。
  • 1986年 秋 交尾 9月上旬〜 出産 9月下旬〜

 このように石川県では春秋2山型で、これは京都(村上 1974)や名古屋(高田 1983)と同様の結果である。

論文図表

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