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要約

  1. 石川県夕日寺県民自然園において、生け捕りワナを用いてアカネズミの生長と繁殖状態を、足跡法を用いて空間関係の変化を研究した。
  2. 個体数の変化は雌雄ともに春の繁殖期の終わりに幼体・亜成体が出現し、移入個体も多くなり増加し、夏場に減少していって11月に再び幼体・亜成体が捕獲され増加するパターンを示す。雄において繁殖に関連すると思われる9月の多くの移入があるが、短期間にそれらは消失する。雌ではこの9月の多くの移入は見られない。
  3. 成体の25日間の生残率は、雄では9月の交尾期に最低になり、雌では10月の授乳期に最低になる。
  4. 体重分布は春に幼体・亜成体が出現し、体重分布が分散し、夏場に段々と体重分布が集中し、秋の繁殖期に一番集中する。また春より秋の方が体重分布が集中し、体重が重い方へ偏る。
  5. 繁殖期は石川県では春秋2山型であった。
  6. 行動圏の構造は、その中に中心となる地域を持つことが分かった。
  7. 長期定住個体はほとんど同じ地域を利用している。9月の交尾期にこのような長期定住個体でも移動するものが見られた。
  8. 雌雄とも繁殖期に各個体の行動圏の重複が少なく、夏場に重複が多い。雌では5月と10月の授乳期ではお互いに排他的な行動圏を持つ。
  9. 9月の交尾期の雄と雌の行動圏を見ると、特別の雄と雌が行動圏をほぼ完全に重複させている例はなかった。
  10. 幼体・亜成体は5月には雌の行動圏とよく重複するが、6月には重複が小さくなっている。また春の早生まれの個体が定住する傾向があり、遅生まれの個体は消失する傾向があった。
  11. 行動圏の大きさは標本数が少ないのではっきりしないが、繁殖期に大きくなる傾向が見られる。
  12. 個体間の距離は、雄間・雌間・雌雄間のすべての場合で繁殖期に大きく、非繁殖期には小さい。
  13. 以上の調査結果からアカネズミでは雄の場合繁殖期になると攻撃性が増大し、また非定住個体は移動性が高まり、様々な地域に移動するようになり、繁殖期の始まりにはこれら非定住個体と定住個体が混ざり合っているが定住個体は非定住個体よりも優位なために、非定住個体はすぐに移動して、定住個体の間で繁殖期の排他的な行動圏が形作られると推定される。雌の場合繁殖期にはいると行動的に避けあう傾向が強くなり、音やにおいなどの信号によりお互いの位置を知り、他の個体を避ける行動の結果が繁殖期における重複の小さい行動圏の分布形態を導き出したと推定される。

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