書名:我、弁明せず
著者:江上剛
発行所:PHP研究所
発行年月日:2008/3/19
ページ:430頁
定価:1600 円+ 税
三井の大番頭と言われた池田成彬の伝記です。明治後期から大正時代、昭和、日銀総裁、大蔵大臣、商工大臣を歴任した。企業の経営者から30分ほど話を聞いただけで、融資額や融資条件を即断した。その判断の基準が経営者の熱意や行動力、担保の有無は殆ど気にとめなかったと言われている。
ここまでならばただ判断が早いだけだが、すごいのは融資先の企業が経営破綻した事例が殆ど無かったこと。現在ではこんな銀行は一行もない。銀行融資の原点は融資先の企業が伸びるか否かを見極めること。最初から担保も豊富で安全な企業は融資は必要ない。現在のITやカードシステムを駆使して近代的な銀行といえども最後は人間の力、眼力である。人に融資するという凄い人。大臣になって知人の葬式にも個人のお金で花輪、香典を送る。
銀行時代でも個人的な交際には自分のお金。それなりに貰っていた給料も公私を厳しくしていたため、殆ど資産を残さなかった。息子達はケンブリッジ大学へ留学させ、次男の徴兵の時、東条英機(政敵)から自分の見方になったら、内地勤務にするという電話があったが頑として断る。次男は伍長で戦死。昭和の激動期にこんな侍もいたことを感じさせる。
敢えて残念なのは北一輝に相当額の援助をしていた。三井は財閥憎しの右翼、陸軍からは命を狙われていた。それに屈することなく生きた池田成彬の物語です。