書名:聞く力 心をひらく35のヒント
著者:阿川 佐和子
発行所:文藝春秋
発行年月日:2012/1/20
ページ:253頁
定価:800円+税
阿川佐和子は作家阿川弘之の長女、といっても還暦ですが、昔。阿川弘之の『山本五十六』『米内光政』『井上成美』を熱心に読んだ時期もありました。関係ないか?阿川佐和子は「筑紫哲也のNEWS23」のキャスターなどを勤めていた。その後週間文春のインタビューを続けて20年、その間の経験を元にコミュケーションの要諦を楽しく、わかりすく語っている。題名からハウツウものかなと思ったけれど実は人と人のつきあいについて奥の深い極意が普通の言葉で優しく語れれている。
聞くというひとつの行為も、ただ、聞くから心から聞く、一人一人違う人から聞き出すという極意は結局各人各様でこれだというものがない。毎回が真剣勝負、コミュケーションは「生もの」そんな当たり前の事気づかせてくれる。事前準備も必要だけれど、会話のやりとりで変わっていく対談、そんな対談体験を楽しく語っている。
本書より
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頑固オヤジから普通の小学生まで、つい本音を語ってしまうのはなぜか。インタビューが苦手だったアガワが、1000人ちかい出会い、30回以上のお見合いで掴んだコミュニケーション術を初めて披露する―。
「同じ話も新しい話も、可笑しい話も、感動的な話も、人に話を聞くことで、自分の心をときめかせたいのです。素直な気持ちで好奇心の赴くまま人の話を聞いたとき、聞き手は自分の記憶や気持ちをそこに重ね合わせ、必ず何かを感じ取るはずです。そして、聞かれた側もまた、語りながら改めて自分の頭を整理して、忘れかけていた抽斗(ひきだし)を開け、思いも寄らぬ発見をするかもしれません。
でもその先輩は、こういう解説を加えていらっしゃいました。
「もし一つしか質問を見つけるためのヒントはどこに隠れているだろう。隠れているとすれば、一つ目の質問に応えている相手の、答えの中である。そうなれば、質問者は本気で相手の話を聞かざるを得ない。そして、相手の話を聞けば、必ずその答えのなかから、次の質問が見つかるはずである」
そうか・・・・。まさに目から鱗の驚きでした。質問をする。答えが返ってくる。その答えのなかの何かに疑問を持って、次の質問をする。また答えが返ってくる。その答えを聞いて、次の質問をする。まさにチェーンのようなやりとりを続けてインタビューを進めていくことが大事なのだと教えられたのです。
人と会話をするときは、相手の目を見るのが礼儀というものです。いつの頃からか、そんな教育を受けてきた覚えがあります。それゆえ私はずっと、特に礼を尽くすべきお相手の場合や、真剣に話を聞かなければいけない場においては、相手の目をじっと見つめる癖がついていたようです。
テニスプレーヤーのマルチナ・ヒンギスさんにインタビューをしたとき、私が日本語で質問をしている途中に突然、彼女が笑い出したので、「どうしたのですか」と尋ねたら、
「あなたの目は日本人らしくない」
どういう意味だ?私の目って、外国人みたい?そんなにパッチリ大きく愛くるしいのかしらと、ちょっと有頂天になりかけたら、どうやら目の大きさや色のことではなく、睨みつける力が強いという意味だったようです。
人の話はそれぞれです。無口であろうと多弁であろうと、語り方が下手でも上手でも、ほんの些細な一言のなかに、聞く者の心に響く言葉が潜んでいるものです。でもそれが、決して「立派な話」である必要はない。
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オチもないような下らぬ話の隙間にも、その人らしさや人格が表れていて、そこに共感したくなるような、なにか小さな魅力があれば、それだけでじゅうぶんです。そして、そんな話をする当の本人にとっても、自ら語ることにより、自分自身の心をもう一度見直し、何かを発見するきっかけになったとしたら、それだけで語る意味が生まれてきます。
そのために、聞き手が必要とされる媒介だとするならば、私はそんな聞き手を目指したいと思います。