書名:信用金庫の力 ひとをつなぐ、地域を守る
著者:吉原 毅
発行所:岩波書店
発行年月日:2012/9/5
ページ:71頁
定価:560 円+ 税
福島第一の事故の後でいち早く「脱原発宣言」で注目されている信用金庫がある。小原鐵学で知られる城南信用金庫の吉原理事長が「お金の弊害、株式会社の欠点」についていままで意識もしなかったこと教えてくれる。信用金庫というと規模の小さな銀行というように思われているかもしれないが、全く違う方式で運営されている金融機関です。銀行は株式会社であり、株式会社の仕組みは大株主の意見が通りやすいこと。従って利益優先に走る。利益が得られるなら投機にも走る。
これに対して信用金庫は協同組合方式の運営を行う。協同組合の起源はロバート・オーウェンの思想にあり、それが具体化されたイギリス・マンチェスター郊外のロッチデール・フロンティア組合であったそうです。ロッチデール方式の一番の特徴は、出資者のひとり一票方式にあります。これが民主的だというわけです。この方式はドイツを経由して明治日本の産業組合法(明治33年)による信用組合の設立につながります。なお日本でも二宮尊徳の報徳社なども同じような思想で運営されていました。
グローバリゼーション戦略、グローバル資本主義の方向に世の中が向かっていますが、ノーベル賞学者などが提唱するデリバティブ理論、投資理論など金融工学と呼ばれるものが「先進的な金融業務」というように、勘違いされている、「莫大な利益を上げる可能性がある一方、巨額の損失が発生する大きな危険が存在することです」市場のカジノ化することが金融の国際化と言って騒いでいる。小原鐵五郎も言っていますが、グローバル資本主義の行き着くところは一部の金持ちと沢山の貧乏人の格差社会の到来です。いまはお金が暴走している時代と言っています。効率・利益優先で能力主義なども人を抜きにした考え方で長続きするはずがないと警告しています。たった70ページほどの本ですが、中身は凄く濃い本です。世の中の見方を大きく変えてくれると思います。幸せ、豊かさを考え直させてくれると思います。
お金はときに人の心を狂わせる「麻薬」となる。だからそのお金の暴走を抑えて、適切にコントロールし、皆が幸せに暮らせる国家・社会をつくらなければならない。・・・小原鐵五郎
本書より
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お金をたくさん持ちすぎたり、逆に少なすぎたりすると、人間はお金というものを強く意識するようになります。お金のことばかり考えている人間はどんどん孤独になります。自分の損得ばかり考えているので卑しくなります。・・中略・・・
こうした社会では、他人に心を開いて、信頼関係を築きながら他人とつきあっていくことが少なくなり
、絶えず相手を警戒し、利害関係でしか付き合えなくなってしまいます。ここにもお金の価値や経済的な側面ばかりが強調される社会の弊害が現れています。