書名:そろそろ旅に
著者:松井 今朝子
発行所:講談社
発行年月日:2008/3/26
ページ:478頁
定価:1800円+税
「この世をば どりゃお暇(いとま)に 線香の 煙とともに 灰(はい)左様なら」の辞世の句を残して旅立った十返舎一九の道半ばの青春時代を描いている。重田与七郎(十返舎一九の本名)は幼友達太吉(子ども時分2人で溺れて与七郎を助けて死んでしまった)ととも(同行二人)に故郷駿河を出て江戸へ行く。でも頼っていった小田切土佐守は大坂東町奉行として転任していた。そこで大坂へ行く。
そこで小田切土佐守の家来にして貰い、奉行所に勤める。しかし浄瑠璃、女性、仕事に迷って進んでぶつかって、どうしょうもない場面で太吉が顔をだす。決断する場面には心の中の太吉を会話をする。『東海道中膝栗毛』で有名になる前の青年十返舎一九の半生を描いている。何をしても今いる場所がすっきりしない。いつも自分の場所ではないと。そして「そろそろ旅に」が台頭してくる。
大坂で材木屋の娘婿になって郭がよい。浄瑠璃作家など懸命に励むが、商いには向いていない。夫婦の間には風が。そしてそこを追い出されて、江戸に重田与七郎の青春のさまよいは続く。蔦屋重三郎、山東京伝、滝沢馬琴、式亭三馬、歌麿、写楽、豊国などおなじみの人たちと付き合っていく。青本、赤本、黄表紙、洒落本などの作家の生活、江戸情緒などたっぷりと描いている。当時の作家の暮らし向きは良くなかった。何処か良いところに婿養子に入って生活を安定させて初めて作家になれる。(暮らせる)江戸では質屋の娘婿に収まっている。十返舎一九の人となりが面白く描かれている。
本書より
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享和元年正月に、一九は『浮世道中膝栗毛』という江戸から箱根までの道中記を出版。その主人公が弥次郎兵衛と北八であり、作者一九は「駅々風土の佳勝、山川の秀異なるは諸家の道中記に精しければ此に除く」と宣言して、風景描写はほとんどなしに、二人の登場人物が繰り広げる滑稽な珍道中記を書き上げた。これが世間に当り、翌年に『東海道中膝栗毛』と銘打った第二編を出版。これで十返舎一九が戯作者として大ブレーク。これ以来、弥次郎兵衛と喜多八による東海道の旅、『膝栗毛』が延々と続き、続編として書き継がれて行った。実に二十年に及んぶ長旅のロングセラーになったとのこと。大坂編で完結した後、続編として金比羅、宮島、善光寺参りまですることになったそうだ。どこかの段階で、二人の名前の表記も弥二郎兵衛と喜多八に変わったらしい。