書名:断固として進め
著者:江上 剛
発行所:徳間書店
発行年月日:2013/8/31
ページ:317頁
定価:1600円+税
石炭が石油に変わった。そのとき石炭を主力として事業をしていた会社は。世の中から自動車が無くなって、他の便利な交通機関が出てきた時トヨタ自動車はどうするだろう。みんな自動車はなくならないと思っているだろう。
富士フイルムをモデルにした小説です。デジタル化の進行でデジタルカメラ全盛時代、フィルム需要が激減、会社存亡の危機が訪れようとしていた。当事者たちは先進国ではデジカメ、でも後進国ではまだまだフィルムは需要は無くならないと思っていた。ところが技術の進歩というのは一気に来る。黒電話から段々発展してきた日本にいると、携帯電話までの道のりは遠いと考えていたが、実際は後進国では電話も無いところから一気に携帯電話が普及してしまう。技術の普及というのは最新のものが、全世界に拡散されるということを思い知らされる。
リストラが断行されるなか、化石プロジェクトなるものが立ち上がった。窓際族の中高年に、バブル期入社の覇気のない技術者などを集めて新規に事業を起こそうとした物語です。ここで化石といっているのはフィルム業を続けていければ最先端の技術、世界最高の技術を持ったベテラン社員、でも活躍する場が無くなってしまった。「事業は寿命があるけれど、技術に寿命はない。」研究所所長の戸越正也が所長の地位を投げ出してプロジェクトリーダーとして立ち上げた。彼らが創ろうとしたのはなんと化粧品、フィルムの乳化技術を突き詰めて自然素材を使った化粧品。社内からも外部からも白眼視されてなお、彼らは必死の挑戦を繰り返す。
得意分野が次の時代には足をひっぱってなかなか業種転換ができないで棲息吐息であぷあぷしている企業とは違った経営者の方針次第でベテランの技術を再び生かすことも出来る見本を示している。いつからか人はコストといわれるようになってしまったが、それを否定する小説です。それぞれ独自、世界一の技術を持っている企業、それを世の中の人たちの欲しているもの、喜ばれるものを見つけて技術の棚卸しをして、顧客の満足を見つけた企業が残っていくのですね。顧客の満足とは安いこと、心地よいこと、品質が良いことそれぞれみんな違っている。それを見つけることが出来る企業に明日があるのでしょうね。
戸越正也は現取締役常務執行役員の戸田雄三氏がモデル、日本写真フイルムは富士フイルム。日刊ゲンダイ本紙2012年9月から今年3月まで連載された「敗れざる者たち」が単行本になって「断固として進め」という題名で刊行された。
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