2001年10月はこの3公演

 


毛皮族
「ハンバーガーマシーンガーンホテールボヨーン」

こまばアゴラ劇場 10/3〜10/7
10/6(土)マチネ観劇。座席 自由(2列目上手)

作・演出 ナオミ・カリフォルニア(江本純子改め。でも改名後良くないことが続くので、今回の公演で封印し江本純子に戻るらしい)

 とある駅に降り立った男と女。男の名は久夫(吉良吉和玖)、この町で職を探している男娼。女の名はマリー(町田マリー)、この町にあるストリップ小屋を訪ねてやってきた殺し屋。しかし、ストリップ小屋は廃業していた。その小屋にいたのは、ハードコアの女・ナオミイエロー(江本純子)であった。その小屋の地下には、劇団員の男装の麗人・まことつばめ(柿丸美智恵)も住みついていた。まことつばめが集めた石炭備蓄倉庫には、手塚治虫のボツキャラクターのボツ男(清成慎太郎)とボツ子(セロトニン瘍子)が誰かに発掘されるのを待っていた。片手の労働処女(田中貴子)、鬼畜系漫画家(市木裕子)、そのアシスタント(吉牟田眞奈)らが、絡み合いながら物語は進行していく・・・。

 のだが、物語自体の起承転結は見当たらない、って言うか良くわからない。脈略があるのかないのかも不明なのである。ただ、そんな展開も勢いあるセリフで畳みかけられ、考える余地はない。最後は大レビュー大会でフィナーレだし・・・。様々なキャラクターの人物達が登場して、歌って踊って散っていく。そのステージは宝塚の正当なミュージカルに60年〜70年代にかけてのキャバレーの空気(年代は違うのだが、池袋にある昔ながらのキャバレーに行った事がある。生バンドの中、女達のケバイ笑い声が響くみたいな雰囲気。昔の映画を観ているような・・・そんなのが昔のキャバレーなのかなぁ〜と)をミックスしたみたいである。音楽、踊り、エロっぽさと日活臭さ。あっ、この日活は、ロマンポルノじゃなくてギャング映画が支流だった頃の日活。それらの要素がごちゃ混ぜにされ、みごとなセンスで飛び散る。素敵なおばかな芝居をありがとうって感謝したくなる出来映えなのである。本当に素晴らしい。加えて、エンドレスで続くカーテンコールのへなちょこさも嬉しい。おかげで毛皮族のテーマが頭にこびり付いてしまった。でも、劇中でビートルズの曲の知っている所だけを歌ってあとはふふふーんとごまかしていると同じく、♪ふふふ毛皮族〜♪って感じで、ちゃんと覚えてないんだけど。しかし、そんなテーマ曲が頭の中で鳴り響く、いつまでも、いつまでも。

 言葉の端々に見えるへなちょこさも好きである。例えば、マリーが言う「わしを止める奴はどいつだ、どどいつだ」みたいな意味を持たないセリフが絶妙に琴線の触れる。私は今回が初見だが、今回が4回目の公演らしい。どんどん伸びる可能性を秘めており、今後が恐ろしいくらいである。って言うか非常に楽しみ。
 役者もいい。江本純子の60年代フェイスにスリムなボディ、胸に★だけのエロっぽさ。いやらしさとかじゃなくて、も〜“エロ”って感じ。町田マリーの顔に似合わないバカっぷりもお気に入り。

 ただ、難を言えば、物語自体が弱い。物語をあまり必要としていない構成と言ってしまえばそれまでだが、一本筋が通った物語があったら、鬼に金棒ではないだろうか。でも、あくまで独特な美意識に基づく今のセンスを生かした物語なら・・・。

 余談だが、幕間の休憩(実際の休憩じゃなくて1幕と2幕の繋ぎ)で演じられる“GGフェス反省会の再現”には大笑い。どこまでが真実なのかわからないが、きっとほぼ真実なのでしょう。独裁者・江本純子の姿が見えるようであった。

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シベリア少女鉄道「栄冠は君に輝く」

タイニイアリス 10/6〜10/8
10/7(日)マチネ観劇。座席 自由(3列目中央)

作・演出 土屋亮一

 まず簡単なあらすじを書こうと思うのだが、最後のネタを書かないと何がおかしいのか理解できないと思う。ので、書いてしまう。まぁ書いたとしても、おもしろさを表現する文章力がないので、衝撃はまったく伝わらないと思う。再演時(ないとは思うが・・・)まで待つのでネタを知りたくない、という方は絶対読まない方がいいと断言する。この劇団はネタが命。知ると面白さは半減・・・いや全滅かもしれない。

 高校球児のカンイチ(藤原幹雄)とアキラ(吉田友則)は幼馴染である。そんな仲の二人であったが、アキラが突然敵である清水高校に転校してしまう。その事によって一人でチームを背負わなくてならなくなったカンイチ。そんながんばりを影で支えるマネージャーのナオコ(秋澤弥里)。甲子園まであと4つ。四天王を倒せば優勝というそんな時、ナオコは交通事故で他界してしまう。悲しみを乗り越えてがんばるカンイチ。ついにアキラが転校した清水高校との決勝戦をむかえる。しかし、カンイチは連投で肩を壊していた。肩をかばって投げるが、10点という大量点を取られてしまう。アキラはカンイチの肩の故障を知らないので、その不甲斐なさに激怒し、わざと力を抜いて同点にする。10点、9点、10点と両軍大量得点が続く・・・。
 序々に壊れていく登場人物達・・・。そして、高校球児の汗の物語はいつしか「ものまね王者決定戦」へと姿を変えていく・・・。

 してやられた。当日パンフに「とにかく変に考えすぎることなく、素直な気持ちでご鑑賞いただけましたら幸いです。」と書かれていたので、高校球児のちょっといい話として観てしまった私は、まんまと罠にかかってしまった。よくよく見れば登場人物の名前はカンイチ、アキラ、ナオコ、マツモト、ショウヘイ、サカキバラ、クワノとなっていた。カンイチはアキラの投球フォームを真似てと伏線も張っていた。ユニフォームにはKの文字。最後に明かされる高校名“栗田高校”・・・栗田高校のカンイチ。対するは清水高校のアキラ・・・なんてベタな展開。しかし観ている時はそんな疑りもなくストレートに受け止めてしまった。ストレートで勝負する劇団ではないと聞いていながらも(チラシにさえ直球が投げれない劇団と書いてあった)、意外と高校野児ものに引き込まれて観てたりして・・・。それが罠だったとは。公演を観た一部の観客の間で「シャレだけで作品を作ってもいいではないか」的論争が起こるほどに画期的な作品であった。初演時からそのテイストで作品作りをしているらしいが、ラストにおいて思考がガラガラと崩れさるがごとく激しく揺さぶられてしまったのは真実であり、感動的であった。本当に素晴しい。“シャレだけ”で作ろうが、そこには確信犯的な徹底した戦略があり、いたるところに張られた伏線は、結末の数分のオチの為だけに緻密に計算されたものであったわけで、土屋亮一の構成力と脚本力に感心すると共に、“新しい才能の登場だ”と確信した次第である。又、目が離せない劇団の登場である。初演時、知人から「ラストが素晴らしく、その為に費やす無駄な時間にも納得する」と聞いて気になっていたが、やっと4回目の公演にして初観劇である。もっと早くから観ていればよかったと悔やむほどの劇団であった。

 役者は素人に毛が生えたくらいの演技で、お世辞にもうまいとは言えなかった。ただ、その下手さがいい具合にバランスが取れてて嫌な感じはしなかった。かえってこの下手な演技で油断させて、ラストの大ドンデン返しに繋げているのかもと戦略的な事すら考えてしまう。

 この劇団はチラシからネタ振りが始まっているらしい。チラシを読み返すとあったわネタ振りが。「勝負は終わってみなきゃわからない。最後まで何が起こるかわからない。どうでもいいような栄冠に輝きたい。そんな劇。」だとさ。拍手喝采。

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動物電気「女傑おパンチさん」

三鷹市芸術文化センター星のホール 10/5〜10/8
10/7(土)ソワレ観劇。座席A-7

作・演出 政岡泰志

 三鷹という事でジブリ美術館にちなんだ寸劇で幕が開く。

 パンチの効く人生を送れるようにと名付けられた“おパンチ”さん(石川明子)。彼女は、漁師だった父が海で死に落ち込む母(政岡泰志)に代わって、家事を切り盛りしていた。そんなある日、新しい父ヨシミツ(辻脩人)が家にやってきた。そんな生活に嫌気がさしたおパンチさんは、都会へ旅立つ決意をする。
 都会に出てきたおパンチさん(伊藤美穂)は、「なぐり屋」という店を出し、それなりに成功を収めていた。しかし、近所の同業者の嫌がらせ、おパンチから金をせしめようと企てるシグマ(小林健一)など、様々な困難がおパンチの前を立ちふさぐ。そんな困難に立ち向かうおパンチさんの細腕繁盛記な物語。

 いつもの様に肉体を使った笑いで大満足。あれだけ広い舞台でも、そのパワーは衰える事を知らない。不満と言えば、小林健一のコーナーがなかったので、その暴走ぶりが味わえなかった事。良かったのは、伊藤美穂の活躍と新人の躍進。石川明子、川村幸枝といい味を出す役者が増えてきた。小林健一、辻脩人の二枚看板に、他の役者の面白さが加われば、今までとは違った新しい面白さが味わえると思う。そんな可能性が見えた公演でもあった。今後も期待大である。


“動物電気”自分が観た公演ベスト
1.NOは投げ飛ばす〜魂の鎖国よ開け〜
2.女傑おパンチさん
3.運べ 重い物を北へ
4.チョップが如く
5.キックで癒やす
6.人、人にパンチ

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