■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作
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11月3日(金・祝) 奇想天外・英文学講義
・木曜日の夕方の打合せでドンデン返し。休日出勤の羽目に。
・『創元推理20』評論賞ノミネートに「女神孝太郎」さんが出てきて懐かしい。
・本日(4日)、発送業務4件。遅れていた方、申し訳ありませんでした。
・『奇想天外・英文学講義』 高山宏 講談社選書メチエ(00.10)
「「神韻縹びょうたる詩」、「滋味掬すべき」散文をじっと味読する老紳士といった英文学(というか「英学)のじじむささ」とは、まったくもって無縁の高山英文学精髄。「吸う息吐く息の両方で神がかり的に喋る」ことができるという著者が講談社に2日間赴いて、貼り扇子で喋り倒した記録である。語り下ろしがゆえに、修辞や衒いの雑挟物もなく、いわんとすることが英文学の素人にもダイレクトに伝わってくる。
シェイクスピアと薔薇十字団、18世紀文学と光学、ロビンソン・クルーソーと博物学、ロマン派と見せ物、1660年と1920年代、江戸のビクチュアレスク・・・英文学プロパーでは決して見えてこない隠れたチャートが次々と浮上してくる快感は、センス・オヴ・ワンダーそのものである。中でも重要だとは思えるのは、ホッケのマニエリスム論に依って、マニエリスムの本質を「つなぐことによる驚異の学、驚異の知識」と喝破したことで、17世紀前半の文化的事象あれこれがいっぺんにくくられ、コンピュータも愛も、コンシート(奇想)もオカルトも「つなぐ知」としてのマニエリスムとして串刺しにされてしまう。そうした思考を積み重ねるこの本自体がマニエリスティクな試みである。のみならず、マニエリスムは、歴史的な一研究対象にとどまらず、自分のきょうあしたの生き方を定義すると著者は、いう。それ自体、近代のものに属する日記やリストというものの本質が明らかにされる部分を読めば、パソコンで日記を書き、リストをつくり、リンクを貼るウェブマスターたちは、ミニ・マニエリストであるという曲解も許してくれそうな、元気の出る本でもある。ミステリに関して
も、若干の記述があり、「二銭銅貨」が1660年代ロンドンに接続され、文化史の文脈で探偵小説を「メタ・リスリズム小説」と定義する辺りは、非常にスリリング。
「だれも知らなかったシェイクスピア、ぼくだけが知っている」「異貌の19世紀、それはぼくだけが知っている」という傲岸不遜ともいえる態度に引く人もいるかもしれないが、視覚文化論のエッセンス把握のため!に、毎月10冊のエロ雑誌を買っているという奇人学者?の言動として愛でるべきか。
著者は、あちこちで既存の英文学界で受け入れられなかったことを悲憤慷慨する。この著者の本を読むのは初めてだが、一般的な読書好きの間では、ずっと以前から、その著書や「異貌の19世紀」シリーズによって勝利していたことは明らかだったと思う。学会内の評価というのは、そんなに気になるものなのだろうか。
11月1日(水) 平岸・南平岸
・森英俊さんからメールをいただく。入手したばかりの城戸禮「はりきりスピード娘」が、おげまるさんのレポートで少女雑誌連載と知って驚かれたよう。掲示板など拝見するに、明朗小説に凝られてますね。古典翻訳黄金時代を演出した森さんのこと。もしかして、来世紀のキーワードは明朗?
・帰りに、返りに高橋ハルカさん日記で気になっていた新規オープン平岸と南平岸のブックマーケットに行ってみる。最初、あさっての方向の本の岩本に行ってしまって涙ぐむ。ブックマーケットに着く前に、クリスピン「消えた玩具屋」、アームストロング「疑われざる者」ブレイク「血塗られた報酬」、西東登「謎に野獣事件」各100円。ブックマーケットの前に位置する、古い本ばかり置いてあるちょっと不思議な古本屋は、段ボールが積み上げられていた。あおりをくらって閉店するのかなあ。ブックマーケットの方は、ゾッキ本が多いのが特徴なんですかね。古めの新書が結構あり、梶、大谷が三歩ずつ前進してささやかな喜び。チャールズ・ブラットの「挑発」を初めて見た。(平成5年で9版重ねており、ロングセラーだったのか)、南平岸のブックマーケットは、地下鉄駅のすぐ側。甲賀三郎「犯罪・探偵・人生」(復刻版)、戸川昌子など買う。住所を探すのにブック・マーケットのサイトを見たけど(載ってなかった)、外食産業やCD販売に手を出しては撤退しているちょっと変わった会社ですね。
・『絢爛たる殺人』の感想を書こうと思ったけど、油切れ。
10月31日(火) 「黄金明王のひみつ」
・日経ネットナビ12月号特別付録「今月のおすすめホームページ集」−秋の夜長は読書−で「密室系」が採り上げられました。ミステリ系では他に「金田一耕助博物館」さん、「風読人」さん。ページを挟んで隣は、なんと大原まり子公式サイト。20年前なら、また一歩野望に近づいた、だったのだが。
・コラゲッサン・ボイル『血の雨』(東京創元社)購入。この人は、現代作家で異色作家短編集をチョイスすれば、入ってくる人だと思う。
・松橋さんから、山風関係のお宝を頂戴する。
・三角形の顔をした洋装の小柄な老婦人の件で、葉山響からメールをいただく。該当部分を引用させていただきます。
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ああ、泡坂氏のことになると何を置いても反応したくなってしまいます。これは病の域ですね。
>正解は「争う四巨頭」。フェラリーとブルドックのタケル君は出てくる
>のだが、老婦人自身は出てこないとのこと。もう忘れているが、
>本当かしらん。
本当です。疾走する老婦人の愛車フェラーリを後方から見送る人の目に、車に乗っているタケル君らしきブルドックが見える、とかそんなんじゃなかったかと記憶しています。確認していないから正確ではないかもしれませんが^^;でも、老婦人の姿が直接出てこない作品は確かにこの作品だけだったと思います。以前、全作品を読み返して老婦人の登場場面を全てチェックしたことがありますから、割と確かではないかと。って何をやってたんでしょうか僕は。若かったなぁ……
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「青春が美しいものだなんて誰がいった」(byポール・ニザン)全然違いましたか。若い人に「若かった」といわれると、どうしていいやら。該当部分は、葉山さんの書いているとおりでした。しかし、人型記憶兵器ぶりは健在ですね。併せて、密室系作品として、折原一の新作『倒錯の帰結』をサラリと教えて頂きました。感謝。
うちの即席三角形老婦人研究家に聞いたら、無人島が舞台の「赤島砂上」では、雑誌の写真で登場しているとのこと。確かにそのとおり。「救命艇」のヒッチコックばり。
・何故かうなっている、おげまるさんが、また、猟場からうさぎの耳を掴んで帰還した。以下引用。
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うーむうーむ。すごいなあMORIOさん、松橋さん。
やっぱり、お宝情報をもちながらつつましやかにROMってるお方がいらしたんだ。
個人的に仰天ものだったのが松橋さんのさりげない一句。
>これは連載物で、内容そのものは(以下略)
れれ連載?
連載というとひょっとして10月号の前後にもお話が続いて載っているあの連載のことですか?
がーんがーんがーん
完っ璧にチェック漏れだよおお。
狼狽のあまり思わずがっくりとマウンドに膝をつく私でしたわさ。
「終った……おれの野球生命が……」
でも幸いオタク生命にはなんの支障もなかったので、いそいそと図書館に向かうのでした。
「おもしろブック」昭和31年分を請求。はい、確かに載っておりました、「青雲寮の秘密」。8月号から11月号まで(ただし9月号は休載)の三回連載。MORIOさま、松橋さま、ご教示ありがとうございます。
(やっぱり目次が切り取られていてぶつぶつ←言訳)。
なるほど「天国荘奇譚」です。原作との比較はのちほど。
「カメラ」も「週刊大衆」も彬光発言の「宝石」も、該当号は欠号。「跫音」初出の「小説春秋」だけ確認できました。MORIOさま、ありがとうございます。
あとはいつもの調査に戻ります。まず「五年の学習」「六年の学習」を請求してみたら、二誌あわせて十二冊しかありませんでした(昭和35年までの分は、ですが)。「六年」の昭和34年2月号で水谷準の「六つの赤いつぼ(第11回)」を確認。
「漫画少年」が三十冊ほどあり、ということはやはり国会図書館より充実してるんでしょうか。25年9月号に森下雨村の「左千夫の功名」、26年調整号〜12月号にやはり雨村の「鬼巌城」(原作者が表記してないけど、ルブランです)が載ってます。
ついつい「ジャングル大帝」その他に読みふけってしまって気がつくと四時。慌てて「中学時代」を請求。これも「中学コース」と同じで、24年から31年まで、延々となにもない。
31年11月号から学年別に分離。「中学時代一年生」12月号には橘外男の「魔人ウニウスの夜襲」と北村小松の「少年のひみつ」が。おお、これは期待できそうだ、と1月号を手に取ります……
○山田風太郎「黄金明王のひみつ」 中学時代一年生 昭和32年1月号〜3月号
……い、いや、そこまでは期待してなかったんですけど。
こんなお話です。
旅館の息子啓作は片腕のない客、有賀と出会います。有賀は材木商で、旅館の隣の山城家にある大きな樟の木を買いに来たというのです。山城家はかつてはこの地方きっての名家でしたが、七年前に怪盗「くも小僧」の手で秘宝「黄金明王」を盗まれてから傾きはじめ、樟の木も切り倒して売られる予定でした。
有賀は啓作に暗号文を記した紙片を見せます。それはくも小僧の仲間から有賀が手に入れたもので、黄金明王の隠し場所を示しているらしい。十月十五日の夜、樟の木の影が落ちる場所……啓作は木を切る作業を延期してもらおうと村人に話します。村中に宝捜し騒動が起きるなか、くも小僧らしき不気味な男が現れました。
そして十五日の夜、木を見張っていた山城家の娘真弓が姿を消し、男の死体が……
怪盗、暗号、足跡のない殺人、と、正攻法の少年探偵小説ですね。(以下略)
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・く〜、また出た風太郎少年物!
10月30日(月) 世界の中心で「亜愛一郎」と叫んだけもの
・タイトルに子細はない。
・亜愛一郎3部作を立て続けに読んだサイ君が聞いてきた。三角形の顔をした洋装の小柄な老婦人が登場しない作品が一編だけあるが、それはどれか。正解は、CMの後。
・松尾由美『バルーン・タウンの手品師』(文芸春秋)、横溝正史『真珠郎』、都筑道夫『なめくじに聞いてみろ』(扶桑社文庫)購入。後の2冊は、「昭和ミステリ秘宝」シリーズの第1段。日下さんが仮称として挙げていたシリーズ名から最後の「館」の文字が消えている。「神の灯」ばりの館消失トリック。元のタイトルの方が収まりがいいけど、うさんくさげかも。まだ、この当たりのセレクションは大人しい気もするが、このシリーズが売れて、秘宝がぞろぞろ出てくるのが楽しみだ。『真珠郎』は、由利先生ものの短編4編を併録。
・『細菌人間』 筒井康隆(出版芸術社00.9) ☆☆★
以前書いたけどガソリンを飲むお父さんの挿話が小さい頃ムチャムチャ怖かった「細菌人間」などジュヴナイル5編収録。でも、昔読んだのは、その挿話の部分だけのようだ。「細菌人間」 「ミクロの血死圏」ばりの体内冒険SF。特筆すべきなのは、やはり冒頭のホラー部分で、今読んでも、相当に怖い。「マグマ大使」で母親が異星人に乗っ取られてという挿話があったけど、子どもにとって、この親が乗っ取られてという異化効果ってのは、強烈。「10万光年の追跡者」異星人に恋人を奪略された若者が12年の歳月をかけて、恋人を追うという宇宙ロマン。我が良き宇宙人スパイダアの造型は、ディズニーアニメ風。「四枚のジャック」名作「四枚の羽根」に材をとった宇宙戦闘ロマン。「W世界の少年」SF好きの少年と友人の少女がパラレル・ワールドに紛れ込んで。一度脱出してからの展開が絶妙。ギャグも冴えている。「闇に告げる声」超能力を持つ少年たちと某国スパイとの死闘。少し陰鬱なサスペンス。
大人物のテンションの必要とされていないところで、無垢な大地に50年代アメリカSFの成果を移植させようとする作者の筆は楽しげでもある。後の確信犯的童話と違って、編集部の注文の厳しい中で、毒をどのように仕込んでいるかも見所だ。
・二階堂黎人『密室殺人大百科 下』の横井司「日本の密室ミステリ案内」に出てくる作品ほかを追加。
・正解は「争う四巨頭」。フェラリーとブルドックのタケル君は出てくるのだが、老婦人自身は出てこないとのこと。もう忘れているが、本当かしらん。
●密室系リスト追加
海野十三『深夜の市長』「赤耀館事件の真相」、江戸川乱歩『猟奇の巣』『影男』、大阪圭吉「人喰い風呂」、木々高太郎『美の悲劇』、「高原の残生」、甲賀三郎『幽霊犯人』、島田一男「密室の女王」
(以上、前掲エッセイより)
海野十三「点眼器殺人事件」「電気風呂の怪死事件」、大下宇陀児「鉄管」、甲賀三郎「羅馬の酒器」、島田一男「密室の女王」、伊東鋭太郎「弓削検事の実験」、光石介太郎「十八号室の殺人」、甲賀三郎『姿なき怪盗』、岡村雄輔「紅鱒館の惨劇」(ようっびさんより。前記横井エッセイにもあり)
海野十三「「俘囚」(広沢さんより。前記横井エッセイにもあり)
横田順彌「高利貸し殺人事件」、横田順彌「ホモセクシュアル殺人事件」(上野さんより)
10月29日(日) 『黒い眠り』/「女学生の友」「少女世界」他
・『黒い眠り』 飛鳥高('60.7.6発行) ☆☆☆
かなり高レベルな短編集。
「安らかな眠り」 社長の妾宅に入った強盗と二号の会話。皮肉なオチつき。
「こわい眠り」 主人宅のカリエスの息子が密室でガス死したのに疑問を抱いた少年は真相を探る。ユニークなトリックのある謎解きと幻想性のほどよいブレンド。
「疲れた眠り」 作家の妻の死に隣家の刑事は疑問を抱き写真のアリバイトリック挑戦するが。
「満足せる社長」 社長の命令で大量の解雇を計画している人事担当が殺害されて。10分間のアリバイくずしが面白い。
「古傷」 無職の老人の死。大がかりなアリバイトリックあり。
「悪魔だけが知らぬこと」 殺人容疑で拘置所に入っている容疑者が脱走して怯える男女の真相探り。
「みずうみ」 戦後の斜陽族を食い物にする成金殺し。鮮やかなアリバイ崩し。
「七十二時間前」 食い詰めた男が殺人団の依頼を受け、七十二時間以内の殺人を請け負うが、標的は何者かに殺されて。登場する女子高生がユニーク。
多くの短編は、トリックのある謎解き小説で皮肉なオチつき。一粒で二度おいしい作品が多い。謎解きが登場人物の運命に密接に関わってくるところも好感がもてる。ただ、文章的に充実している30年代の作品より鮮烈な印象だったのは、最初期の「みずうみ」(「宝石」s25.9改題?)。直線が最短距離とは限らないというパラドックスを中核に据えた傑作。作者の初期短編は、一見無関係な幾何学精神と戦後の虚無的精神が分かち難く混淆した奇妙な色の火花のようだ。その意味でどこか天城一にも通じるところがある。「みずうみ」が描き出す軌跡は、「犯罪の場」や「天狗」の放物線のように美しい。
・おげまるさんのレポート「女学生の友」「少女世界」他編。今回もおいしいです。しかし、目次が切り取られているのが多いのは、調査奢泣かせですね。
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まず前回の補完から。
鮎川の「透明人間」は「中学二年コース」の昭和36年7月号で完結(ってこれは山前リストに載っていたような)。横溝の「怪盗X・Y・Z」は「中学三年コース」の36年4月号で完結でした。
22日に調べたのは「女学生の友」など。
図書館にあったのは、まず26年3月号。島田一男の「赤い靴の秘密」が連載中。つぎが29年の10月号(こういうパターンが多いんですよ。なんなんだろ)、島田の「黄金十字の秘密」が連載中で、これは31年3月号まで続いています。ちなみに「赤い靴」はポプラ社から、「黄金十字」は東光出版社から、それぞれ刊行されています。ひょっとすると「紫リボンの秘密」(ポプラ社)もこの雑誌が初出なのかも。
あとは……ないですねえ……なにもない。29年10月号で連載中だった西条八十の「あらしの白ばと」が延々と続いて、33年2月号で完結。と思ったら4月号からまた再開しています。まあ、スリラー風、みたいな。
城戸禮の「はりきりスピード娘」(32年9月号〜最終回未確認)、小沼丹のノン・ミステリ「白い少女」(32年7月号)、同「早春」(33年3月号)、氷川瓏の「紅ばらの秘密」(33年5月号)……で、気力が尽きて34年以降は未調査です。
これよりは「少女世界」の方が面白い。海野十三の「美しき鬼」は、『海野十三全集 別巻2』巻末の書誌によると24年2月号〜25年3月号の連載ですが、24年8月号から12月号まで確認しました。海野名義になってますが、作者は24年の5月に亡くなってますので、この部分は島田一男の代筆でしょうか。海野はその後も26年8月号付録に「ルーブル宮殿の怪盗」が再録されているほか、9月号に「幽霊射手」が載っています。前記の書誌では新作扱いになっているのですが、未発表の遺作が見つかった、ということだったのでしょうか?
島田一男は24年12月号に「紅の騎手」で登場、25年4月号から「まぼろし令嬢」を連載開始、26年5月号まで。続いて6月号から「仮面天使」、これは27年1月号ではまだ連載中ですが、2〜7月号が欠号で完結時期がわかりません。
27年8月号には高木彬光の「悪魔の口笛」(ロボットが出てくる神津もの)の第二回が載っています。28年4月号以降の号がないため、これも完結時期不明。しかしどういう読者を想定していたんだろうか、この雑誌。
三橋一夫の翻案ものがいくつかあります。「ポオルとヴィルジニィ物語」なら私でも知っていますが、「チロルの哀歌」「ザヴェの流れ」「ハルシュタットの鐘」「チルレルタールの泉」「ザルンの氷河」と続くと、なにがなんだか。あと「菫の国」「夢の手風琴」……ひょっとして全部創作だったりして。 ほかには27年1月号の大倉子「手」、同年増刊号の耶止説夫「謎の日記」、など。
あと、「少女ライフ」「少女の友」「少女ロマンス」などを覗いてみましたが、例によって西条八十と島田一男(と久米元一)ばかりです。
他に「幼年クラブ」「幼年ブック」の31年〜35年分のチェック。これもまた目次が切り取られていて(まさか寄贈主がやったわけじゃなし、どこぞの漫画マニアの仕業でしょうけど、この情熱は尊敬に価します。「冒険王」「おもしろブック」「少年画報」「少女」「少女クラブ」「中友」「コース」……めぼしい雑誌の折り込み目次は徹底的にやられています。百冊じゃきかないな)泣きながら頁を繰ります。そういう調べ方なので、きっと(これまでにも)大量のチェック漏れがあるんでしょうね。 ともあれ横溝の三津木&御子柴ものが各一編。
「まほうの金貨」 幼年ブック 昭和31年1月号〜12月号
「のろいの王冠」 幼年クラブ 昭和32年1月号〜12月号
前者は連載時期が確定。後者はひょっとしたら新発見。
ということで今週はおしまいです。
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10月28日(土) 「狂人館」/「中学コース」付録編
・とうとう山田風太郎『御用侠』を読んでしまう。でも、なぜにこれがEランク?
・昨日は、職場の観楓会で小樽。幹事として、小樽の鮨屋で宴会をして小樽ヒルトンで一泊という去年と同じ企画をしたのだが、課が変わっているからこれでいいのだ。帰りは、小樽の古本屋を襲撃。これが主目的だったわけではありません。平凡社大衆文学全集『松本泰集』』探偵小説集(保篠・横溝・浜尾)、ポリス・ヴィアン『屠殺屋入門』(奢・都館)、中野美代子『耀変』(響文社)、春陽堂文庫の連作探偵小説シリーズの買い逃し等購入。「ガリオン」の懐かしい味のカレーを食べて、「館」のケーキを買って帰る。
・HMM12月号購入。今世紀最後のHMMである。
・また、松橋さんに教えたいただいたところによると、最近の目録では、「野球少年」昭和31年11月号3500円、「少年クラブ」昭和34年2月号20000円写真付きが出ており、表紙には「笑う肉仮面」のタイトルがはっきり見えてるとのこと。野球少年を含めたこの辺の雑誌は、古書マンガ専門店だと比較的見付かり易いとのことなのですが、過去にはおもしろブックが48000円、野球少年10000円、譚海系が5000円程度という値が付いてたとのことです。ひー。
・大下宇陀児ほか『狂人館』(東方社・昭31.10.1発行) (図書館)
連作ミステリ3編を収録。
「狂人館」 大下宇陀児・水谷準・島田一男
タイトルは凄いが、中身はタイトル負け。狂人が設計したビルディングに誰が名をつけたか狂人館。階段がとんでもないところにあったり、隠し部屋があったり、常識を超えた設計思想でつくられたビルディングである。そのビルの購入の密議を立ち聞きしてしまった女会社事務員が、密議の連中に拉致されるが、狂人館の一室では、女が殺されていた。恋人の新聞記者が謎を探り、狂人館を舞台にした巨大な陰謀が明らかになる。悪人どものビルの利用計画は、この時代ならでは。
「鯨」 島田一男・鷲尾三郎・岡田鯱彦
メアリー・セレスト号ばりの不可能興味をもった拾い物の一編。木更津の漁船船長、その妻、乗組員2人をめぐる四角関係が冒頭。それぞれの思惑を秘めた四人が乗り組んでいたはずの漁船が海水浴客で賑わう大森海水浴場の海岸に突っ込んできたときに、四人の姿は消えており、甲板にはおびただしい血が流れていた。船では昼飯の支度がされており、直前で舵をきっているから、乗組員がいたのは明らかなのだが・・。岡田鯱彦の解決編が光る。
「魔法と聖書」 大下宇陀児・島田一男・岡田鯱彦
会社の金を手をつけている不良社員が会社の支配人が殺されるのを目撃。追いつめられた男は、愛人のエレベーターガールと協力して、真相に迫ろうとするが。暗号の工夫はあるものの、解決はあっけない。
・遅くなってしまいましたが、おげまるレポート「中学コース」付録編。翻訳物が王道だったのがよくわかります。しかし、長編のリライトというのは、結構苦労しただろうなあ。
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ひとつ抜けてました。追加です。
・「落岩」大藪春彦 中学生の友2年 昭和34年11月号
では別冊付録のデータを記します。現物を確認できたものについては原作者名を付記しました。逆にいうと、原作者名が表記していないものは、本誌の表紙や目次からデータを拾ったもので、現物とはタイトルが異なっている場合があります。
まず「中学一年コース」から。
s32.4「失われた世界」
s32.5「大砂漠のスパイ王」
s32.9「怪傑ドラモンド」
s32.10「恐怖の谷」
s32.11「透明人間」
s32.12「魔術師ニコラ」
s33.2「死の砂漠をゆく」
s33.4 「恐怖の暗黒街」チャータリス
s33.7「黒い鳥の秘密(=マルタの鷹)」ハメット
s33.9「夏別荘の怪事件(=神の灯)」クィーン
s33.10「ゼラール大佐の冒険」ドイル
s33.11「黄金島の殺人光線(=技師ガーリン)」A・N・トルストイ
s33.12「パリの秘密」シュー
s34.2「原子都市M(=メトロポリス)」ハルボウ
s34.3「剣と白ばら(=スカラムーシュ)」サバチニ
s34.5「化石ホテルの秘密」アーノルド・ベネット
s34.6「海の魂」アルチュール・ベルミード
s34.7「金の小箱のなぞ(=エッジウェア卿の死)」クリスティー
s34.8「悪魔のささやき(=囁く影)」カー
s34.9「無法の町(=赤い収穫)」ハメット
s34.10「あかつきの探偵(=暁の死線)」アイリッシュ
s34.11「怪盗レスター・リース」ガードナー
s34.12「二つの腕輪(=死者はよみがえる)」カー
s35.1「七つの時計」クリスティー
s35.2「のろわれた屋敷」ラインハート
s35.3「黄色い犬」シムノン
s35.4「姿なき怪人」横溝
s35.6「スターベル館の秘密」クロフツ
s35.7「人工頭脳の怪」
s35.8「密画のゆくえ」
s35.10「吸血鬼ドラキュラ」
s35.11「黒衣の少女」
s35.12「ロスト・ワールド」
s36.1「なぞの紙片」
s36.2「三人の探偵」
s36.3「五つの恐怖」
以下、「中学二年コース」編に続きます。
s33.4「ガラスの目の秘密(=義眼殺人事件)」ガードナー
s33.6「さかさま殺人事件」
s33.7「地中海の王者(=海の鷹)」サバチニ
s33.8「海底探検」
s33.9「影なき男」シャミッソー
s33.10「おまえが犯人だ(/ぬすまれた手紙)」ポー
s34.4「ささやく人形(=「まぼろしの怪人」より)」横溝
s34.6「あるいた死体」
s34.7「見えない手(=トライアル&エラー)」バークリー
s34.8「エジプト王の呪い(=カブト虫殺人事件)」ヴァン・ダイン
s34.9「探偵教室(=推理コント集)」高橋豊
s34.10「魔の紅玉(=「まぼろしの怪人」より)」横溝
s34.11「双頭の犬(/黒切手のゆくえ)」クィーン
s34.12「拳銃売ります(=コルト拳銃の謎)」グルーバー
s35.1「学校殺人事件」ヒルトン
s35.2「悪魔の首(=闇からの声)」フイルポッツ
s35.3「三十九階段のなぞ」バッカン
s35.4「帰って来た男」
s35.6「百万長者の死」
s35.7「アクロイドの死」
s35.8「透明人間」
s35.9「スタバース家の秘密」
s35.10「茶色の服の男」
s35.11「毒矢と少女」
s36.1「ふたごの秘密」
s36.2「たる」
ちなみに「中学(三年)コース」にはそれらしい付録はないです。いっそのこと、「コース」「時代」「友」の付録を、訳(リライト)者名などをきちんと拾って、昭和50年頃まで調べていけば……とも考えましたが、それをやると他のことに手が廻らなくなる。来年の課題ですね。
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10月26日(木) 魔人召喚
・晩飯は、チーズの肉トロ。ほほほ。
・出版芸術社『山田風太郎コレクション』は、編集の最後の段階みたいですぞ、皆の衆。
・「古本まゆ」のコーヒーがうらやましいぞ、中村さん@MANIAC PAVILLIONから、密室系作品の提供をいただきました。
○三雲岳斗『海底密室』
○湯川薫『イフからの手紙』
○松尾由美『バルーン・タウンの手品師』収録の3作 「バルーン・タウンの手品師」 「バルーン・タウンの自動人形」 「オリエント急行十五時四十分の謎」
とのことです。『海底密室』のみ購入済み。書評参考にしてます。
・盛岡の山風魔人MORIOさんから、さっそく続報が届きました。一夜で解き明かされる「忍法相伝64」の真相はいかに?では、謹んで引用させていただきます。
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忍法相伝64 BY MORIO
勿体ぶってすみません。「忍法相伝64」続報です。
その前に「カメラ」「おもしろブック」の件ですが、東京の文生堂か大阪の光国屋のカタログだったと思います。「カメラ」は専門誌のようでした。また「跫音」の件は、復刻原本所有者の書き込みでペン書きのようです。
サテ、いよいよ本題の「忍法相伝64」の件ですが、ずばり『73』の原型作品です。掲載誌は週刊大衆1964年1月23日号(表紙・司葉子)で8頁ほどの短編。ストーリーの骨格は長編版とほぼ同じです。
どうやら、週刊現代の連載開始が近づいて苦し紛れに転用して、エピソードを追加して長編化したというお家の事情があったのでは。
そう推測すれば『73』の出来の悪さが理解できます。ひょんなことから発見した作品です。
それでは続いてお約束の『尼寺』作者の言葉です。
江戸時代、たった一つの小さな「女の砦」があった。鎌倉東慶寺、すなわち男子禁制の駈込寺である。それは男性の横暴からのがれ身をまもる消極的な女の砦であったが、この寺がただいちど敢然として会津四十万石の大名に挑戦した事件がある。しかしこの場合、相手もはっきりと四十万石をかけてこの女の砦をふみにじる凶暴な敵意をいだいていたのであった。巨大な残忍な敵に対し、身に寸鉄もおびぬ尼僧群がいかにたたかったか、その虚虚実実の男女死闘図を描き出してみたい。題名を「尼寺五十万石」としたのは、会津四十万石に対して一歩も退かずたたかった尼僧群への賛辞がこめられていると思っていただきたい。ご愛読を願うしだい。
です。
連載開始時点では、どうやら柳生十兵衛は念頭になかったようです。
新聞連載小説は書誌作成者にとっては未開拓の穴場です。各新聞社の『社史』の付録には大体連載小説のリストが付いています。無論付いていないのもあって、地元『岩手日報』にはついてなくて、図書館のマイクロフィルムで見つけました。若しかしたら初出不明の長編『おんな牢秘抄』も新聞連載だったりして。
ところで、盛岡の古本屋は中々面白いですよ。「十字架姫」の載った『小説倶楽部』や「ビキニ」の載った『講談倶楽部』など500円以内で買ったものです。昨年は創元文庫『チューダー女王の事件』『死の扉』を裸本ですが、合せて100円で入手、という具合です。
余計なことを書いてしまいましたが、今後も密室系の頁を充実させて下さい。
PS.
鷲尾三郎のこと、書いてましたが、南郷ものは『屍の記録』と傑作「文殊の罠」があります。まだあるかも知れません。鷲尾の本は、殆ど短めの長編プラス短編が2,3編という構成になっています。
当時目次で段落を変えず、とうしで長編に見せかけるスタイルはマイナーな出版社の常套手段だったようです。
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ありがとうこざいます。このまま続報が届かなければ、路頭に迷っていたかもしれません。それにしても、『忍法相伝73』に原型短編があったとは!幻の忍法帖短編ということになりそうですね。週刊大衆1964年1月23日号に「忍法相伝64」掲載で、『忍法相伝73』(週刊現代)が同年5/14〜翌年.3/25だから、MORIOさんの推測も頷けます。
『忍法相伝』の連載時には、ほぼ同時期に始まった『伊賀』『忍法八犬伝』の連載を抱えていて、風太郎先生も火を噴いていたのかもしれません。
『尼寺〜』の作者の言葉、お手数を煩わせてすみません。講談社文庫版の解題に引用されている尾崎秀樹との対談においても、柳生十兵衛を出す気は当初なかったという趣旨のことを風太郎はいっており、それを裏付ける資料としても、価値あるものと思います。私的には『柳生忍法帖』は、数ある忍法帖の中でも最高峰であると思っており、成立事情は実に興味深いです。
>新聞連載小説・・・穴場 そうですか。今度、地元誌道新の社史でもみてみます。
>おんな牢秘抄 これも初出不明ですね。「女探偵捕物帖」からのエピソードの流用が多く、この作品が一種の原型に当たるかもかもしれないと思っているのですが。
>盛岡の古本屋 「チューダー女王」「死の扉」合わせて100円とは。絶句。盛岡に行く機会はないものか。
>鷲尾三郎 「文殊の罠」は読んではいたのですが、すっかり忘れていました。「屍の記録」にも登場してくるのですか!現在、読みかけ中でありました。
懇切丁寧な続報ありがとうこざいました。今後とも、色々御教示ください。
・現在、2つのレポートが待機中のおげまるさんからメール。「おもしろブック」の56年10月号は図書館で欠号、「カメラ」の方はさっそく次回にでも調べてみます。とのことでした。
・しかし、しかし、皆さん聞いてください。
「「おもしろブック」当該号所持者の報告を待つ」などと、まったく冗談のつもりで書いたら、本当に当該号を所持されている方から、メールをいただいてしまいました。馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、尋ね事は書いてみよ。旭川の山風魔人、松橋さんからのメールを引用させていただきます。
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『青雲寮の秘密』の正体は・・・
以前『なぞの黒かげ』についてメールをした松橋です。「おもしろブック」当該号所持者の報告を待つとのことなので、厚かましくもメール致します。私も手元に届く前は、『青春探偵団』だと思っていたのですが・・・・・。『青雲寮の秘密』の正体は、『天国荘奇譚』を少年物にしたものでした。これは連載物で、内容そのものは『天国荘奇譚』と同じみたいです。当該号の連載部分は、風太郎傑作大全EP68〜P86の「ガンちゃん死闘図」です。
(後略)
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・サイト運営者も目を白黒する、なんとも意想外の展開、一夜の謎解き。「青雲寮の秘密」は、「天国荘奇譚」の少年物でありましたか!「天国荘奇譚」の舞台の寮の名も、「青雲寮」であることに今、初めて気づきました。「泥棒御入来」には、押入れの天井の上の小宮殿「天国荘」が登場することから、「天国荘奇譚」の姉妹編といってもいいような作品ですが、内容的には別物。
「青春探偵団」の謎、最終解決が遠ざかり、新たな少年物が浮上してまいりました。なんとも、奧が深い話です。松橋さんありがとうこざいました。後略の部分も、私的においしいです。御教示感謝します。
しかし、MORIOさんと松橋さんは、山風関係古書注文では、強力なライバルかもしれません。
・さあ、今度は「カメラ」当該号所持者の方、よろしくお願いします。(図に乗るな!)
10月25日(水) 忍法相伝64!!
・「パラサイト・関」久しぶりの新着。元気だった様子。
・黒白さんのHPで、少年物の関係をとりあげていただきました。ありがとうこざいます。とはいっても、私はおげまるさんの情報をアップしているだけなので。
・MORIOさんという方から本日、驚異のメールをいただきました!!以下引用させていただきます。
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風太郎作品リストあれこれ By MORIO
盛岡に住むロートルの風太郎お宅です。道立図書館少年もの発見記、毎回楽しく拝見しています。譚海系には風太郎作品があるだろうとは思ってましたが、これほど出てくるとは!さて、本日は当方でチェックしたリストについて書きます。
鞆江と麟之介の物語(くいーん48.5)
「宝石」51年9月号の『座談会「宝石」を俎上にのせる』中に「山田君の「鞆江と麟之介の物語」というのに似たのがあります。
一人の男が、男と女と老人と、三人の人間に分裂する話」という高木彬光の発言があります。この時点では「呪恋の女」はまだ発表されていません。従って「呪恋の女」が改作なのか、改題なのか不明。表題の作品が存在したのだけは確かなようです。
ウサスラーマの錠(宝石49.7増刊)
「空の空、空の空なるかな、すべては空なり」という書き出しの散文詩風の小品で、後の中編「満員島」の原型作品。
下山総裁(春陽堂版)
下山総裁怪死という時事ネタを、秘密組織の暗躍と絡めて描いた通俗的な作品ですが、当時の労組の活動など雰囲気はあります。
袈裟ぎり写真( カメラ50.4)
古書店のカタログに「小説」として掲載されていました。残念ながら落とすことは出来ませんでした。
ビキニ環礁午前四時(講談倶楽部54.5増刊)
表題の上に「問題小説」の表記あり。惹句は「われら遂に隠るべきところなきか?!死の灰−神の造った人間の中の悪魔が齎したこの現実をみよ!!」と、凄まじい。冒頭の「ヒロシマ」の描写は、後の『魔界転生』の書き出しを思わせます。通俗的ですが、一種の反戦小説。
跫音(小説春秋56.6)
発表年月が不明だった作品。復刻版『探偵作家クラブ会報』(柏書房)の下巻、会報No.109の中島河太郎編「作品メモ 六月の創作」欄外に、表題の作品の書き込み。「跫音 風太郎 小春」とあります。
青雲寮の秘密(おもしろブック56.10)
これも古書店のカタログにありました。タイトルからいって『青春探偵団』唯一の初出不明作品「泥棒御入来」の原題作品でしょう。発表年月的にもピッタリです。これも落とせませんでした。
尼寺五十万石
『東京人』風太郎特集のグラビアに「風評集62.5」の「記念すべき最初のページに貼られているのは『尼寺五十万石』の連載を予告する「内外タイムス」インタビュー記事」とあります。因みにMORIOの地元紙「岩手日報」夕刊では、この年の10月23日スタート、64年2月4日が392回の連載です。 ご要望があれば、次回連載時の作者の言葉を送ります。パソコンで文章を打つのは疲れるので、この辺にしますが、最後に「忍法相伝64」という作品が存在するのをご存知ですか?それでは又
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・さあ、皆さんご一緒に、くまかかか。あー驚きました。私も十分ロートルですが、村上さんは、何となく同時代的に風太郎のミステリや忍法帖を読んでこられたような風格が漂っているような気がします。(違ってたら、御免なさい)それにしても、巨弾情報、本当にありがとうこざいます。
以下、蛇足というほかはないミニコメ。
鞆江と麟之介の物語
杉浦さんから山本明『カストリ雑誌研究』という本に、初出がカストリ雑誌『くいーん』の1948年5/15刊(昭和23年)とされている情報提供があった作品。(山風リストの「リストの謎」参照)
タイトルからいって、昭和27年の「呪恋の女」の原型又は同一作品ではないかと推測しておりましたが、高木彬光の発言により、「呪恋の女」に先行して、作品が存在することが明らかになりました。
ウサスラーマの錠(宝石49.7増刊)
「満員島」の原型作品でしたか。題名から、なんとなくインド物のような気がしていました。この号だけ目録にないことが多く、また、あっても外れています。
下山総裁(春陽堂版)
これは、あえて名を秘す方のご好意で読めました。「りべらる」版ですが、イラストがまた凄くて。惹句がまたなんとも。「本篇は、この人々からもたらされた秘密資料に基づいて、推理小説界の若き英才が、身の危険をも厭わず、大なる確信を以つて、書き下ろした、驚嘆すべき問題小説である」と大ギミックをぶちかましています。いまだに謎に包まれている下山事件の謎解きなんですが、贔屓目ながら松本清張の「日本の黒い霧」より説得力があるような気も。小説の後には「物欲犯罪と性的犯罪を語る」という座談会つき。出席者が風太郎先生、朝日新聞社会部矢部記者、上野署のN刑事という変な顔ぶれです。
袈裟ぎり写真(カメラ50.4)
「カメラ」というのは、小説誌なのでしょうか。改題かもしれませんが、すぐには思いつきません。もしかすると、新発見作?
ビキニ環礁午前四時(講談倶楽部54.5増刊)
これは日下三蔵さんのご好意で読めました。筋運びは多少乱暴ですけど、冒頭のシーンの迫力は凄い。
跫音(小説春秋56.6)
これで初出が明らかになりました。
「復刻版『探偵作家クラブ会報』(柏書房)の下巻、会報No.109の中島河太郎編「作品メモ 六月の創作」欄外に、表題の作品の書き込み」。書込みとは、復刻版の元版の所有者の自筆の書込みということでしょうか。「小春」とは、「小説春秋」の略称ですか。これは可愛い。
青雲寮の秘密(おもしろブック56.10)
『青春探偵団』の謎、最終解決か!
●「青春探偵団」(→幽霊御入来) 「明星」昭和31.9〜10
(昭和33.3「傑作倶楽部」に「幽霊御入来」として改題再録)
●「特に名を秘す」 昭和31.4/6〜6/29「全国学園新聞」
●「書庫の無頼漢」 昭和32.1〜3「高校時代」
●「砂の城」 昭和32.11/24〜33.3/2「全国学園新聞」
●「屋根裏の城主」 昭和33.7/6〜10/5「全国学園新聞」
●「泥棒御入来」 初出不明
となっておりましたが、「青雲寮の秘密」が昭和31.10の作品とすると時期的にはドンピシャリ。「泥棒御入来」は、まさに「青雲寮の秘密」を描いたものであることからして、同一作品の可能性が強いものと思われます。ただ、「おもしろブック」は、もう少し低年齢層の読者を対象にしている節もあって(「魔人平家ガニ」を読んだだけですが)、改作の可能性もあるかもしれません。「おもしろブック」当該号所持者の報告を待つ。
尼寺五十万石
「尼寺五十万石」(後に『柳生忍法帖』に改題)については、確かに『東京人』のグラビアの風評集(風太郎版貼雑年譜)「記念すべき最初のページに貼られているのは『尼寺五十万石』の連載を予告する「内外タイムス」インタビュー記事」とありますね。(62年5月)
中島河太郎編「戦後推理小説総目録」では、柳生忍法帖(地方新聞38)となっており、
中島河太郎編「山田風太郎年譜・作品目録」では、昭和38年の項に「柳生忍法帖」地方紙連載となっており、
「帰去来」リストでは、昭和38年の項に「尼寺五十万石→柳生忍法帖」(地方氏紙連載)となっており、
最新の『柳生忍法帖』(講談社文庫)の解題「忍法帖雑学講座8」(日下三蔵氏)においても、「一九六三年に、『尼寺五十万石』のタイトルで地方新聞に連載された後、」となっており、
MORIOさんの御指摘は「定説」を覆すこととなりそうです。幾つかの地方紙に、若干時期がずれて連載されたと思いますが、内外タイムスが先行していたようにも思えます。こういう形態の初出の特定は難しいですね。しかし、地元誌の掲載まで、追っておられるのは、凄いことです。
作者の言葉、ありがとうこざいます。
>忍法相伝64という作品が存在するのをご存知ですか?
こ、こ、これは何でしょうか。忍法相伝73が週刊現代に連載(昭和39('64)されたときのタイトルなのでしょうか。しかし、忍法相伝73の73というのは、第73番目の忍法という意味だからなあ。(忍法相伝110まで出てきます)
続報、切にお待ちしております。
10月23日(月) 『青の恐怖』
・慎吾ママを風見慎吾だと思っていて、笑殺さるる。
・『青の恐怖』 鷲尾三郎 ('59.3.28発行 同光社出版) 図書館
目次をみると同じサイズの小見出しが並んでいて、一見長編風だが、実は短めの長編「青の恐怖」、短編「雪崩」、「播かぬ種は生えぬ」を収録。この仕掛け?に気づかず読み進んで、巻半ばでいきなり「青の恐怖」が終わってしまい、驚いた。
「青の恐怖」 「蒼い黴」(探偵実話33.10−12)の改題と思われる。内田真吉は、学校にも通わず、不良をきどった典型的アプレ学生。新宿の安飲み屋の娘、布沙と付き合っているのだが、アパート代にも事欠き、立ち退きを迫られている。ある夜、古本屋の主人が店先で重傷を負い倒れているのを発見した真吉は、金庫から出ている札束に目がくらみ、倒れている主人を殴打、死に至らしめる。ナイトクラブに寄った真吉は、店の女のアパートで一夜を過ごすが、札束を目撃され、女をガス中毒で殺害。さらに、自宅に逃げ帰る途中、ヤクザあがりのタクシー運転手に弱みにつけこまれ、これも殺害。なんとか逃げおおせた真吉だったが、警視庁の刑事の手がじわりと迫り、布沙が妊娠を告げる・・。魔が差した不良学生が起こす連続殺害と絶望的な逃避行を描いたジャパニーズ・ノワール。フランス映画風の洗練は望むべくもないが、往年の日活映画とは相性がよさそう。映画データベースでみると、鷲尾三郎原作で3本が映画化されていて、1本を鈴木清順が撮っているんですね。
「雪崩」結婚はしたものの、住宅事情で同居が望めない若い恋人が、男が間借りしている家の伯母殺しを計画。宅配牛乳瓶をつかった無差別殺人に紛らわせ捜査の手を逃れた二人は、第2の殺人を敢行するが。力のこもった倒叙物。ミステリ的工夫も、凝らされているが、良心回路が切断されたようなアプレ男女が印象深い。探偵作家クラブ新人奨励賞受賞作。
「播かぬ種は生えぬ」私立探偵南郷宏、デラ・ストリートのような秘書美樹子を主人公にしたアリバイ崩しの軽快な本格物。同じ主人公で他の作品があるのだろうか。
10月22日(日) 中学コース
・「ビジネス・ジャンプ」誌10/15号から、『柳生十兵衛死す』コミック連載始まる。喫茶店で読んだのだけど、なかなか好調な滑り出し。併せて、山田風太郎の特集4P。なかなかマニアックな特集だったので、本屋で買おうと思ってよく読まなかったら、既に新しい号に入れ替わってました。うぬぬ。
・光文社カッパ・ノベルス井上雅彦『十月のカーニヴァル』購入。スタンダード作と書き下ろしが半分ずつという、ちょっと変わった形態の異形シリーズ姉妹編。メンバーは、なかなか。山田風太郎『笑う道化師』が収録されています。12月の続刊は、『雪女のキス』というこなので、これは「雪女」を入れるしかないでしょう。
・創元推理文庫から多岐川恭全5巻連続刊行始まる。創元推理文庫の従来の日本人作家ラインナップからは、やや外れるところで勝負してきた作家というイメージなので、やや意外でもあり、嬉しくもあり。時代は、多岐川だあ。第1巻は、「変人島風物誌/私の愛した悪党』のカップリング。前者は、ながらく新刊で読めなかった本格ゲーム小説、後者は極めて後味のいい本格。強力お薦めです。
・昨日、北29条のブックマート開店。朝刊で知って、開店時刻に2時間遅れて駆けつけるも、あんまりめぼしい物はなし。ところどころに空いている穴が気になったが・・。収穫は、多岐川恭『悪女の挨拶』100、大谷羊太郎『ひかり号で消えた』100といったところ。
・道立図書館から借りた5冊のうち、鷲尾三郎『屍の記録』読み終わらず延長。4冊を返却し、楠田匡介を2冊借りる。閉館ギリギリだったけど、おげまるさんは、おられなかった。そのおげまるさんからの「中学コース」レポート。
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寒いですねー。
引き続きまして「中学コース」編、まいります。
図書館には「中学コース一年〜三年」のそれぞれ昭和25年7月号、8月号がありまして、「中学一年〜三年の学習」が改題されたもののようです。その後「中学コース」として一本化されたらしいのですが、これはガチガチの高校受験誌で、目次を眺めてても、ちっとも面白くない。で、後回しにいたします。
「中学初級コース」、昭和31年4月創刊。大判の読物雑誌ですが、目を惹くのは福島正実訳のミルトン・レッサー「ロケット練習生」(昭和31年5月号〜9月号)、「トム・スイフトの宇宙冒険」(昭和31年10月号〜32年2月号)、ほかにドイルやポーのリライトがあります。32年1月号から水谷準の「魔像の秘密」が連載開始。32年4月号から「中学一年コース」「中学二年コース」として再スタート。水谷の連載は「中二」に続きます。
「中学一年コース」、昭和32年4月創刊。島田一男の「赤屋敷のなぞ」は香月シリーズ。「中学二年コース」に続いて、同誌33年5月号で完結しています。同様に33
年1月号から連載開始の横溝「まぼろしの怪人」も、「中学二年コース」34年3月号で完結。
読切は32年9月号の「魔の幽霊船」黒沼健、「オーロラの冠」高垣眸、など。
同じく「中一」昭和33年度(33年4月〜34年3月)編。いきなり水谷準の「宝石人間」が完結してますが、これは「六年の学習」あたりからの継続ですかね?
水谷は続けて「13番墓場」(5月号〜34年3月号)を連載、いずれも「魔像の墓場」と同じ、志村探偵&リス太少年のシリーズです。あとは香山滋の「恐怖谷のなぞ」(7月号〜34年3月号)、朝島靖之助「ビリー・メリー探偵物語」シリーズ、(同)、チェスタトン「古城の秘密」(8月号)、などなど。
さらに「中一」昭和34年度編。ここでも水谷準の志村&リス太もの「六つの赤いつぼ」がいきなり完結。新連載は正史の「姿なき怪人」(〜「中二」35年4月号)、ならびに彬光の神津もの「深夜の魔王」(〜35年3月号)、けっこう豪華ですね。後者は単行本未刊です。 三浦清という人の読切がいくつかありますが、これは省略。
でもって昭和35年度編。この辺になると新進の「推理作家」がぞくぞく登場してまいります。まず鮎川の「冷凍人間」(4月号〜9月号)、同じく三吉少年が活躍する「透明人間」(10月号〜36年3月号〜)。後者は「中二」に続いていますが、36年度は未調査です。
さらに楠田匡介「姫鏡台のなぞ」(4月号)、佐野洋「とんだまちがい」(5月号)、水上勉「黒い石ころ」(6月号)、多岐川恭「機械の証言」(7月号)、日影丈吉「私には秘密がある」(8月号)、結城昌治「ロワをさがせ」(9月号)、樹下太郎「墓場の気ちがい」(10月号)、と短編が続きます。
8月号のつぎに臨時増刊「夏のたのしい読物特集号」が出ています。「冷凍人間」第六回はここに掲載。増刊号に連載が載るのは、当時の学習誌の慣例なんでしょうか?
読切は結城昌治「消えた足あと」、新章文子「夕立が去ったあと」、福島正実「月世界の記念塔」、カー「どくろ城」等。 さらに1月号の次にも臨時増刊「新選世界名作集」。こちらはクリスティー「うらない殺人事件」、フットレル「完全な脱ごく」、ブノア「女王アンチネアの秘密」、キーン「ナンシーの冒険」、ドイル「海底都市アトランティス」、その他です。思考機械が中学生になってしまうのが、いかにもこの時代のジュヴナイルですね。
以下、「中学二年コース」編。 32年4月創刊。「初級コース」からの続きで、水谷の「魔像の秘密」改め「33号のなぞ」が33年3月号まで連載。この年度はこれだけです。
33年度。前述のとおり島田の「赤屋敷の秘密」と横溝の「まぼろしの怪人」が継続連載。「赤屋敷」が5月号で完結した後、同じ島田の「D山荘の秘密」(〜「中学コース」34年6月号)が続きます。 34年度では、岡田鯱彦の「なぞのプリズム」(〜7月号)くらいですか。連作の予定が、なぜか第一話のみで終了してしまいました。 35年度では横溝の「姿なき怪人」が4月号で完結、続いて「怪盗X・Y・Z」(5月号〜36年3月号〜)、これも「中三」に続いていますが完結は未確認。
「中一」と同じく増刊号が出ていますが、これが半分以上同じ内容で唖然。特に夏の号は連載以外はほとんど同じです。新年の「新選世界名作集」の方はちょっとちがっていて、スティーブンスン「南海の秘境」、ウェルズ「新スピード薬」、ドイル「失われた世界」、ナイト「空とぶ男」などが載っています。最後の人はSFのデーモン・ナイトとは別人。
で、「中学コース」ですが、最初に書いたとうり、収穫がほとんどありません。延々と。しいて拾えば柴錬の「海の呼ぶ声」(27年4月号〜28年3月号?)、清張の「武田信玄」(30年5月号〜31年増刊号)くらいですね。 34年になって、島田「D山荘の秘密」(4月号〜6月号)が「中二」から継続されてきます。35年1月に増刊の「冬季読切傑作小説特集号」が出て、ここには鮎哲「虫原博士の死」、大藪「鋼鉄はこうしてきたえられた」などが載っています。ほかに長谷川公之、高橋豊、朝島靖之助など。 35年度には多岐川恭が「夢幻城」(4月号から36年3月号)を連載。この年、昭和35
年の10月号から「中学三年コース」と改題されています。それまでは「中一」「中二」「中学」と並んでいたわけですね。
……長ったらしい割に、ほとんど収穫がないですねー。まあ、こんなものです。あと、「コース」については付録のデータを拾ってみましたので、これは次回に(まだ続くんかい)。
では、また。
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>ほとんど収穫ないですね−。
って、収穫ばかりじゃないですか。特に、昭和35年度当たりの当時の新進作家総登場は、ゾクゾク。
個別の作家の書誌的にもたまらないものがあるのでははないでしょうか。おげまるさんは、SFにも詳しく、というか元SF者。まこと、人を得た調査だと思います。今のところ、独占掲載できる「密室系」は、シアワセ者でございます。
●密室系りスト追加
飛鳥高「こわい眠り」、島田一男・鷲尾三郎・岡田鯱彦「鯨」
10月19日(木) 悪魔が見ていた
・アップのときに、感想書く暇がなかったけれど、「中学生の友」レポート圧巻です。乱歩の「奇怪なアルバイト」の初出がわかったことだけとっても凄い。これについては、小林文庫ゲストブックでも、話題となってましたね。父親の十三回忌で帰郷した小林少年が名探偵役を務める「赤毛連盟」テイストの犯人当てでした。
○謎宮会1999年2月の中川瑞穂さんの文章 (「乱歩執筆年譜」を見て思ったこと」)
○その後の中さん・高橋さんの往復メール (「江戸川乱歩執筆年譜」顛末)
をご参照ください。
大坪砂男や多岐川恭のジュヴナイルまで出てくるとは。感動です。
・国書ミルワード・ケネディ『救いの死』購入。ああ、ノックスをまだ読んでいない。挟まっていた刊行予告によると、評論エッセイを集めた「ボルヘス・コレクション」全7冊が出るらしい。この前、古本屋で買った「ボルヘスとの対話」をパラパラと読んでいたら、ボルヘスが「第七園」という約150冊の探偵小説シリーズの責任者だったという話が出てきた。最初に出したのが、ニコラス・ブレイク。それから、マイケル・イネス、ウィルキー・コリンズ、ディケンズ「エドウィン・ドルードの謎」、さらにさまざまな英米作家に進んでいったという。この叢書のリストがあれば、かなり興味深いけれども。「八岐の園」は探偵小説以上のものではないかという質問に対して、
「まあ、そうかもしれません。というのは私の背後にはチェスタトンがぁったわけで、チェスタトンは探偵小説を最大に活用するすべを知っていましたから。エラリー・クイーンやア−ル・スタンレー・ガードナーよりはるかによく知ってました。まあ、〈エラリー・クイーンもの〉は、実によくできた物語ですが。」などとおっしゃってます。
・しかし、『美濃牛』に登場する探偵、石動戯作が「イシドロ・パロディ」のもじりだという話(ソースは中村さん経由で殊能将之氏のHP)は驚きました。ヘラクレスのことではないかと考えたり、日本地名辞典(1か所あった)を調べたりしたのに。
『悪魔が見ていた』 鷲尾三郎('58.7.28/小説刊行社) ☆★ 図書館
短めの長編「悪魔が見ていた」と中編「宿命」を収録。消防署で望楼勤務についていた菅谷は、路上での殺人事件を目撃する。目撃証言が偽りであると指摘されることを恐れた菅谷は口をつぐむこととするが、現場に置き忘れられたカバンに興味を惹かれ、休憩時間に現場に赴く。そこで、見知らぬ男とカバンをめぐって争いになり、男はを誤って殺してしまう。カバンの中に100ドル札がぎっしり詰まっているのを知った菅谷は、容易ならざる事態に巻き込まれてしまったのを知るのだが。冒頭の目撃の部分にちょっとした工夫は、凝らしているものの、基本的には、アクション小説。お約束どおり、金の行方を負う組織や謎の美女が登場してくるが、主人公は、修羅場には昔からは慣れているとでもいうように、鉄拳をうならせ、女を抱く。どうにも、解せないのが、誰も信じてくれないから見なかったことにするという冒頭の主人公の心理で、後の行動とあまりにも乖離している。文章もところどころ噴飯
物の表現がでてくる。「宿命」は、女に裏切られた婦人科の医師が、自らの職業を生かした恐ろしい復讐を企てるという手記を中心にした小説で、こちらはそれなりの古風な迫力あり。
10月18日(水) 中学生の友
・「猟奇の鉄人」10/16で、14日の見出しの後をつくっていただきました。「訳していけ」のところは全員で。しかし、センス抜群ですなあ。よしだまさしさんといい、替え歌文化というのが、昔、東京の文系サークルにはあったのかしらん。昔のワセミスの替え歌というのがまた、バカバカしくも面白く、これはいずれ御紹介しましょう。
・酒飲みでバテバテ。久しぶりに研修講師なるものをやったが、息切れがしていかん。
・さあ、平成のマックス・マローワン(ネタ切れ気味)おげまるさんから、「中学生の友」巨弾レポートだ。いずれ、別ファイルにまとめなくては。
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どうも遅くなってしまいました。実を言うとこの前コピーをお渡ししたので、今回は書かなくてもいいかなあ、と、全然準備してなかったのですね。で、ちょっと詳しく記してみようかと試したらだらだら長くなって、書いても書いても終らない。そのうち小林文庫さんでいきなり召喚されてしまってアワをくったり、書いた文を操作ミスで消してしまったり。
15日に「中学コース」を調べてきたので、二週間分のデータをぼちぼちと送ります。お使いいただけるなら、適当に取捨してくださいませ。
では「中学生の友」、まいります。 図書館にあった一番古い号が昭和26年3月号。島田一男の絵物語「ネバダ颪」、橘外男の「イキストの怪塔」、白木茂の「呪われた宝石(=月長石)」がそれぞれこの号で完結、ほかに島田の「青い魔術師」と角田喜久雄の時代物「幻の美少年」が連載中。
次が同年5月号、ここでいきなり高木彬光の神津もの「がいこつ島」が完結しています。連載の量から見て、3月号で休載していたとも思えないので、これはたぶん「小学六年生」あたりから持ち上がってきたものでしょう。この前後の「小六」が図書館にないので、確認は出来ませんが。ちなみに、この作品は「科学冒険小説」らしいです。島田と角田は連載継続中。 ちょっととんでつぎが29年の10月号になります。柴錬の「スパイ第13号」と武田武彦の「黄金燈台」が連載中、ともに12月号で完結。 で、昭和30年あたりから例の「犯人あてクイズ懸賞」が登場いたします。チェック漏れがあるかもしれませんが、以下にその一覧を示します。
*武田武彦「影男」昭和30年4月号
*矢田洋「白い幽霊」昭和30年6月号
*島田一男「合宿所の怪」昭和30年8月号
*横溝正史「十二時前後」昭和30年10月号
*木々高太郎「孤島のキリスト」昭和30年11月号
*城昌幸「二枚の十両小判」昭和30年12月号
*大下宇陀児「拾ったさいふ」昭和31年1月号
*氷川瓏「模型飛行機のゆくえ」昭和31年2月号
*江戸川乱歩「奇怪なアルバイト」昭和31年4月号
*山田風太郎「毒虫党御用心」昭和31年5月号
*渡辺啓助「エリーゼはささやく」昭和31年6月号
*永瀬三吾「わいて出た警官隊」昭和31年8月号
*氷川瓏「三吉の冒険」昭和31年9月号
*千代有三「タシラマ指輪の奇跡」昭和31年10月号〜11月号
乱歩の「奇怪なアルバイト」については、謎宮会1999年2月の中川瑞穂さんの文章と、その後の中さん・高橋さんの往復メールをご参照ください。タイトルが微妙に違うのが気になりますが、比較しようとしてもソノラマ文庫が出てこない。困ったものです。 この間のクイズ以外の小説には、黒沼健「緑の血」(30年9月号〜12月号)、水谷準「双竜閣の秘密」(31年7月号)、香山滋「不思議な写真」(同)、などがあります。
32年4月号から。「中学生の友1年〜3年」として学年ごとに分離して再スタート。「1年」では香山の「火星児カセル」を連載(32年4月号〜12月号)。33年1月号?から双葉十三郎「走矢五郎の冒険」が登場、「2年」に移って34年3月号まで続きます。 で、なぜかこの後の号が一年分以上抜けています。ちょうど手塚治虫の小説「蟻人境」が連載されているあたりなんですが。のこっているのは34年11月号〜35年5月号、36年1〜3月号など。梶龍雄の推理クイズがいくつかあるのが、目を惹く程度でしょうか。
ああ、とうとう雪の予報が。
さて、続きです。「中学生の友2年」、創刊は昭和32年4月号からです。無印「中友」(昭和32年1月号〜3月号)からの継続で、氷川瓏「地球魔王」が連載、32年12月号まで続きます。32年11月号には双葉十三郎が「手首にアザのある男」を執筆。
33年1月号からは(実は1、2月号は未見ですが)横溝が「迷宮の扉」で登場、4月号からは「中学生の友3年」改め「高校進学」に移って同誌12月号で完結しています(これは金田一サーガの「正典」に加えても違和感のない力作ですので(結末は腰砕けですが)、お勧めしておきます)。
で、33年度(昭和33年4月号〜34年3月号)では双葉の「走矢五郎の冒険」シリーズが継続連載。6月号には大坪砂男が「宇宙船の怪人」で登場(ちょいめずかも)。7月号から34年1月号まで渡辺啓助が「かえる男(フロッグマン)時代」を連載。2〜3月号には城戸禮の「ミッチーおてがらノート」シリーズがあります。
34年度では手塚の「蟻人境」が継続(〜7月号)。4月号から8月号まで、島田一男が連作「少年事件記者シリーズ」を執筆。9月号からは氷川瓏の「青年刑事捜査メモ」シリーズ」に交代して、翌年3月号まで。ほかに梶龍雄の懸賞クイズ「ビル街の怪盗」(34年10月号)など。
35年度は西条八十の「黒いなぞのかぎ」(「1年」34年4月号?〜「2年」35年10月号)が継続連載。あ、城戸禮の「痛快はやぶさ娘」も継続ですな、見落してました(「1年」34年4月号〜「2年」35年12月号)。「竜崎三四郎」も登場する明朗活劇(らしい)です。ほかに梶龍雄の懸賞クイズ「宝石盗難事件」(12月号)、多岐川恭の短編「完全変装」(36年3月号)。
で、「中学生の友3年」ですが、なにしろ受験雑誌ですので、いまひとつ面白味に乏しいです。32年4月創刊号(は、実は欠号なのですが)から松本清張が歴史小説「山中鹿之助」(〜33年3月号)を連載。同じく創刊号から渡辺啓助の「姿なき訪問者」、これは10月号まで。 33年1月号から「高校進学」(細かくいうと初期は「中学生の友 高校進学」)と改題、33年度には前記の「迷宮の扉」が連載されてます。 あと、34年度には梶謙介というひとが「名記者物語」シリーズを連載。35年度は双葉の「特ダネ記者かけだす」シリーズ(4月号〜11月号)があります。
こんなところですね。つぎは「中学コース」の予定です。
では、また。
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10月16日(月) 絶景、バリ万国博
・「ダ・ヴィンチ」11月号密室小特集(4p)。二階堂黎人インタヴュー、国内密室作品年表、「有栖川有栖の密室大図鑑」制作秘話、小森健太朗の密室大分類。中村さんが既に書いてるけど、年表掲載の「十角館の殺人」って、密室物だったかなあ。
・鹿島茂『絶景、バリ万国博』(小学館文庫)00.11('92)
19世紀フランスの社会・小説の専門家(最近は現代小説に対する発言も多い)による19世紀バリ万博のモノグラフィー。といっても、ここで主に扱われているのは、1855と1867のバリ万博。消費生活スタイルの原型をつくったといわれるこれらの万博が実は、サン・シモン主義者のユートピアとして形づくられた経緯を説得力十分に描き出す。空想的共産主義としてしか知らなかったサン・シモンの思想が後継者シュバリエらによって、当時の政権内部に食い入り、物神の聖堂、高度資本主義の原風景を用意した、という著者の見取り図が実に刺激に富んでいる。万有さきわう博覧会の風景が、豊富な図版によって、再現されるのがまた楽しい。1878、1889、1900と19世紀のバリ万博は続いたらしいが、それらを扱うことになるという続編が待たれるところだ。
●密室系リスト更新
岡村雄輔「ミデアンの井戸の七人の娘」
10月14日(土) ブルースは加速していく
・宮澤さんより、角田喜久雄゜下水道」が不可能犯罪物であると教えていただきました。力点は全然別なところにあるが、密室への死体投入がありそれの一応合理的な説明がある、とのことです。ありがとうこざいました。
・篠田秀幸『幻影城の殺人』(ハルキ・ノベルス)、柄刀一『アリア系銀河鉄道』(講談社ノベルス)、倉阪鬼一郎『不可解な事件』、芦辺拓編『絢爛たる殺人』購入。『絢爛たる殺人』は、不可能犯罪物も多く、本格好きには恰好の贈り物。
・『結末のない事件』 レオ・ブルース(00.9('39)) ☆☆☆★
警察を退職して私立探偵を開業したビーフのところに、殺人罪で捕らえられている兄の無罪を立証してほしいという依頼人が訪れる。ビーフは、ワトソン役のタウンゼントとともに、事件の捜査に乗り出すが・・。
『ロープとリングの事件』(第5作)、『三人の名探偵の事件』(第1作)、『死体のない事件』(第2作)、本書(第3作)と読んできて、レオ・ブルースのミステリの特徴は、発想のラディカルさにある、と気づかされる。ブルースのミステリによく似たミステリ作家として、よく引き合いに出されるのが、クリスティだが、それは、必ずしも、ミスディレクションやプロットワークの巧みさという面だけではなく、アイデアの質という面でも共通するものがある。近年、英国流の気晴らしといった側面ばかりが強調される傾向のあるクリスティだが、実は、本格ミステリに次々とラディカルなアイデアを持ち込んだ作家であることは、いくら強調しても強調しすぎることはない。『アクロイド殺害事件』『オリエント急行殺人事件』『そして誰もいなくなった』『ゼロ時間へ』・・。小手先のアイデアではなく、本格ミステリの枠組自体を揺るがすような革新的で根底的な(つまりはラディカルな)発想がそこにはあった。
ブルースのアイデアもこれに近い。「三人の名探偵の事件から『ロープとリングの事件』まで、「三人の名探偵が推理するにもかかわらず鈍重な警官が最後に勝利するミステリがあるとしたら」「被害者が誰かわからないミステリがあるとしたら」「結末のない事件があるとしたら」・・。ブルースは、誰でも思いつくだけは思いつくかもしれない(しかし一笑に付される可能性が強い)このアイデアを実現するために、あちこちに手がかりを埋め込み、ミスディレクションを張り、ビーフとタウンゼントを右往左往させる。記述者タウンゼントは、本書においても、至るところで、自分たちが関わっている事件が(読者に提供できる)「本格ミステリ」として成立するかということを気にするが、このようにブルースの作品が一種のメタ性(「箱ちがい」の解説に「ジャンル的自意識」という、うまい言葉があった)を帯びるのは、本格ミステリの根幹の関節外しを目論むミステリとしては、ある意味で当然の帰結なのだ。こうしたジャンル的自意識は、多かれ少なかれ本格ミステリに存在するものだが(クリスティの2、30年代のミステリもまた、ジャンル的自意識に彩られている)、ブルースのそれは
、同時期の作家に比べ一層際だっているように見える。逆にいえば、ブルースの作品は、このアイデアが最大のセールスポイントであり、そのアイデアが不発に終わったり、アイデアを成立させる土台が穴だらけで、まさしくアイデア倒れを引き起こしたときは、目もあてられなくなる危険性を孕んでいるともいえる。
で、本書においてもブルースのラディカリズムは機能したか。結論からいって、ブルースとビーフは、またしても勝利したといっていい。特に、終章近くにおける本格ミステリの確信犯的関節外しは、1、2作目を上回るもので、目を瞠らされるばかりだ。難は、やはり論理性の弱さ。フェアに提示された山のような手がかりが、この絵柄だけを可能にするとすれば、これもまた、やむを得ないのかもしれないが。
●密室系リスト更新
篠田秀幸『幻影城の殺人』(てつおさんより)、倉阪鬼一朗「密室の蠅」
10月10日(火) 「永久の別れのために」
・大阪の医師・酔胡王てつおさんより、密室系作品として篠田秀幸『幻影城の殺人』を教えていただきました。「ホテル内の密室(これで2重)で、孤島から抜け出せないはずの人間に(これで3重)、金庫内にあった村正で殺害(これで4重)されたという
4重密室とフリーフォール内での空中消失がメインテーマ」とのこと。気にはなっていたんですが、どうもこの作家「蝶たちの迷宮」の期待値と内容の落差が激しかった印象が強くて・・。ともあれ、ありがとうこざいます。
本日の本には、若い女医が登場します。
・エドマンド・クリスピン『永久の別れのために』(原書房00.10('51) ☆☆☆
多数の匿名の中傷の手紙により、住民たちの間に不信が広がっている村で、続いて起こる老嬢の自殺とスイス人教師殺し。村で開業している若い女医に嫌疑が向けられるが・・。この作品を機に、ミステリ作家としては実に26年の沈黙に入るクリスピン8番目の作品。人間観察の確かさ、ストーリー
・テリングの冴えさは相変わらずなのだが、スラブスティックや陽気な書きぶりは、やや影をひそめている。旅行者と16歳の少女の出会いから始まる見事な導入、生活苦に苦しむ女医の的確な描写と転調するにもかかわらず、中盤以降やや失速気味になるように思えるのは、女医の将来に触れた記述が、物語展開の一方の興味を削いでしまうからか。謎解きの方は、犯人の偽装工作の不自然さや医学的な部分でやや難がある。クリスピンの筆は、リアルな人間描写を志向しつつ、どこかでこれまでの作品世界との折り合いをつけたがっているように思えてならない。このせめぎ合いの自覚が作者に長年の沈黙をもたらすことになったのかもしれない。
10月9日(月・祝) 毒虫党御用心
・昨日、午後から大麻の道立図書館へ行ってくる。前回、時間の余裕がなくて、目次のコピーがとれなかった「探偵王」や風太郎短編掲載号の閲覧申込みをして、閲覧場所の方へ行くと、大量の「中学生の友」に見入っている人が。あら、おげまるさんではないですか。聞けば、この日も、午後からやってきて、調査とか。頭が下がります。
・並んで、それぞれ、しばし雑誌に見入っていると、おげまるさんが声をかけてきて、雑誌を示す。あああ、またしても、おげまるさんの風太郎短編発見。そのシーンに立ち会ってしまいました。
・モノは、犯人あて探偵クイズ懸賞「毒虫党御用心」。クイズといっても7pの分量がある。この「中学生の友」犯人あてクイズ懸賞が見逃せないないらしく、小林少年登場の乱歩作品6pや横溝正史作品も見せてもらう。乱歩作品は、代作かもしれないが、後で確認したら、名張私立図書館編「江戸川乱歩執筆年譜」にも、見つからなかった。他にも高木彬光の未刊行長編もあるようだ。委細レポートは、おげまるさん、頼みましたよ。
・教えてもらった単行本未収録作「一刀斎と歩く」「十字架姫」「霧月党」と「探偵王」の目次をコピーしてホクホクしてたら、おげまるさんが閲覧していた本を見せてくれる。楠田匡介『人肉の詩集』『脱獄囚』『密室殺人』『完全犯罪』、栗田信『発酵人間』、矢野徹のあまとりあ社から出た初創作集(タイトル失念)、『秀吉になった男』・・。検索をかけると創元推理文庫「幽霊の2/3」、「首のない女」、「殺人者と恐喝者」・・。次第に頭に霞がかかってきました。道内在住の方は、近くの公共図書館に申し込めば、借り出せますので是非ご利用をほよよ−。
・帰りに、大麻のカレー屋でおげまるさんとビール。その後、札幌駅地下で延長戦。またしても、タメになる楽しいひととき。密室系掲示板置くのは、やっばり今週できませんでした。
・「毒虫党御用心」(「中学生の友」(小学館)昭31.5、解決編7)
「犯人あて探偵クイズ懸賞」としては、異色と思われる時代物。八丁堀同心の甥小吉と岡っ引きひょっとこの七兵衛が歩いていると、「えちご屋」という呉服屋の軒下に夜光蜘蛛がいるのを発見する。これは、江戸を荒らし回っている盗賊団「毒虫党」の合図だ。嫁入りするえちご屋の娘の持参金三千両を狙う毒虫党を阻止せんと、小吉たちは策略をめぐらし、いったんは危機を回避するが、へび、くまんばち、むかで、くもなどを操る特殊能力をもつ盗賊たちの罠に、七兵衛と小吉は陥ってしまい・・。妙におおげさな設定である。これのどこがクイズになるのという気もするが、結末でちゃんとクイズになる。正解は、7月号に二行。ちなみに、私はわかりませんでした。賞品が5名にハーモニカ、15名に万年筆、80名に小学館バッジというのに、ほろりと泣けてくる。
・クリスピン『永久の別れのために』読了。こればっかりは、事前に『世界ミステリ作家事典』を事前に参照しない方がいいかもしれません。
10月7日(土)『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』
・小学館文庫から山田風太郎『御用侠』復刊(619円+税)。解説は、細谷正充。初の文庫化というより、昭和51年の発刊以来、初の復刊。同解説によれば、何度も文庫化の話があったのに、作者が首を横に振り続けたため。に、断念していた経緯があったらしい。とまれ、山風党には、嬉しい復刊だ。実は、私も未読。ほほほ。
・K文庫より、荷物。送られてくる前に、既にkashibaさんや黒白さんのサイトを観て落選がどんどんわかってくるというのが、超高度トリビアル情報化社会というか。当たったのは、次のようなところ。『疑われざる者』『予告自殺』『黎明に吼える』『マーフィ』『幽霊船』『死霊の恋・ボンベイ夜話』『ゴシック幻想』『サセックスのフランケンシュタイン』『帰れカリガリ博士』幻想系が少し多くなったか。別にK文庫で買わなくてもいいような本が多いけど。
・『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』 ホルへ・ルイス・ボルヘス&アルフォ・ビオイ・カサーレス(岩波書店00.9('42)) ☆☆☆☆
ラテンアメリカ文学の巨匠二人による夢のコラボレーション。殺人罪の冤罪で、服役する元理髪店の店主が探偵役を勤める連作探偵小説集。『伝奇集』の「八岐の園」、「裏切り者と英雄のテーマ」、「死とコンパス」等で、形而上的探偵小説の極北とでもいうべき境地を達成したボルヘスだが(例えば「死とコンパス」は、クイーン『十日間の不思議』『九尾の猫』のコンデンスト版といってもいい)、これも探偵小説ファンのカサーレスと組んで、こちらは、高踏的な作風からやや離れ、探偵小説の構造に忠実な踊りを踊ってみせる。キャラクターの造型は太い線画(連作の設定を生かした意外な展開あり)、会話中心で読みやすく、チェスタートン的としかいいようのないアクロバティックな真相を開示する。とはいっても、そこは、くせ者二人。ブッキッシュで、汎世界的で、事件を解決することが世界の秘密の縁に触れるような独自の探偵小説世界が展開する。編中最も、感心したのが、「サンジャコモの計画」。複数の、性格も発言の動機も異なる登場人物の証言がどんどん事件の輪郭を曖昧にし、事件そのものから遠ざかっていくようにみえて(これはこれで快感だ)、意外な真相に回収してし
まう離れ業。論理による迷宮を突き詰めていって、「死とコンパス」の直線の迷宮、「二つの王と二つの迷宮」の点による迷宮に行き着いてしまった迷宮マニア、ボルヘスのもう一つの論理による迷宮がここにある。
10月4日(水) 栗田文庫はおそろしい
・国書、ロバート・L・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン『箱ちがい』購入。最近、クラシックの翻訳に関しては、至福なのだが、至福すぎかも。
・『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』読了。期待に違わない出来です。読みやすいのは意外。
・HMM11月号パラパラ見ていたら、木村仁良「サイバーガムシュー」のコーナーに、ドナルド・ウェストレイクの両親がアイリッシュ系とある。そうでしたか。
・貼り奥付けについて、日下三蔵さんから御教示いただく。立風書房の奥付は、基本的に貼り奥付で、初版にのみ「○月○日第一刷発行」の表記がある。だから、逆に「○月○日発行」としか書いていない本は、重版であることが判る、らしいです。東京文芸社のように、初版も重版も一律に「○月○日発行」というところ比べると、初版が特定できる立風方式は、書誌作成者には、(ちょっとだけ)ありがたい、とのことです。奥付けも奥が深い。
・平成の吉村作治(って平成か)、おげまるさんから、またまた衝撃情報が。表題は、おげまるさんからのいただき。引用します。
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一週間のご無沙汰でした。おげまるです。
先日の話です。一応、憑き物は落ちたんですけど、とりあえず道立図書館で「野球少年」の残りをコピーしました。この雑誌、昭和35年で休刊しているので、あとめぼしいのは香山滋の「いま月へむかった!」(昭和33年1月号〜10月号)くらいなものです。兄弟誌の「痛快ブック」(チャンバラ専門のB級誌です)も調べるべきかなあ、とも思いましたが、なにしろ憑き物が落ちてしまったので気力が湧かず、「漫画王」の残りと「ぼくら」のチェックにとどめました。
残りの時間で「カウントダウン」からメモしたいくつかの雑誌を調べてみます。「ウサスラーマの錠」「ころび切支丹」「死人館の白痴」「片目の人魚」「邪宗門頭巾」などの掲載誌は、なし。「一刀斎と歩く」「十字架姫」「霧月党」があったのでコピーしました。このあたりはお持ちでしょうか?「霧月党」は、なんだか「暗黒迷宮党」っぽい感じです。
あと、以前から気になっていた「サンカまだら雲」をチェック。やはり、これ、「地雷火の巻」の前半部分です。文庫版165頁「……そもどこらあたりを運ばれつつあるのだろうか?」まで。末尾に「(次号完結)/☆次号は完結編「地雷火百里」です。御期待ください。」とあります。
対照のため、図書館で『山刃夜叉』を閲覧して、帰ってから気づいたのですが、初出や文庫版で「一」「二」……とあるのが、『山刃夜叉』版では小見出しがついておりました。
で、この『山刃夜叉』を閲覧請求しようとして気づいたのですが…… 『笑う肉仮面』がありました……!!! ついこの前、七月頃にチェックした時は、ヒットしなかったんですけどね…… とりあえず、借りてきました。 道立図書館まで足を運ばなくても、地元の図書館を通じて借り出すことができたはずですので、請求なさってみてはいかがでしょうか。道内の山風マニアにとっては朗報だと思います。ただ、不心得者が「事故で紛失」したりすると困るので、ちょっと書きしぶっていたのですが。
それにしても、道立図書館の蔵書はすごいです。いままではメジャーどころしか調べてみなかったのですが、試みに「三橋一夫」と打ち込んでみると室町書房版『腹話術師』以下小説がずらり。「栗田信」で『醗酵人間』その他聞いたこともない書名がぞろぞろ。「島久平」や「岡田鯱彦」や「飛鳥高」はなかったけど、「楠田匡介」がすごい。『人肉の詩集』『脱獄囚』『密室殺人』『完全犯罪』『殺人計画』『連続完全殺人』…… し、知らなかったなー、こんなに書いてたとは。 検索画面を眺めてるうちに満腹をとおり越して胸焼けしてきたので、そのまま帰ってしまいましたが、つぎに行く時には何冊か借りてみようと思います。
では、また。
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くまかかか。あっさり、「山窩まだら雲」の正体がわかってしまったのも凄いけど、「コレクション」にも入らない短編情報が、また(絶句)。しかも、「笑う肉仮面」・・。自分は、何年北海道民やってるんだ?それに、楠田匡介の貴重本がこんなにあるとは。(北海道出身だから?)連休に行ってみます。道民山風党は、すべからく(誤用)、道立図書館へ行こう。
10月2日(月) A DAY IN THE LIFE
・9月30日(土)に「密室系」5万アクセスに届いたようです。御愛顧感謝。
・30日「名張人外境」の「人外境だより」閉鎖は残念なり。人外境主人の芸を広く知らしめた掲示板として、伝説になるかもしれない。
・土曜日、いつもは昼まで寝ているバカ夫婦、朝早く起き出し、地元の図書館へ。蔵書の市民払い下げ(除籍というらしい。大げさな)の日なのである。会場についたら、既に50人以上の人が列をつくって待っている。少し早めに行ったから、それはないと思っていたのに。並んでいるのは、老若男女だが、共通点が一つ。なんとなく貧乏そう。目白図書館では、そんなことなかったのだが。第1陣40人を呼び込み。60番目だったので、査証の発行を待つアイルランド移民のようにうなだれて待つ。随分長い間待って、会場に行ったが、見事に何もなし。呆れるほど、欲しいものがない。それでも、なんとか二人で20冊もって帰ろうとするサイ君が不憫で不憫で。この調子では、第一陣で入っても何もなかったであろう。「紅鱒館の惨劇」でも抱えて意気揚々と帰るはずだったのだが。
・倉知淳「壺中の天国」を買ってきたサイ君。「いくら?」「1900円」「高いなあ」「(遅筆の)の倉知淳なんだから、倍の値段でも生活できないよ」それもそうだ。1050枚の大作、これは楽しみ。・土曜日の夜は、いわゆる三美女と、5万アクセス・初老記念オフって、ただの猫美女慰労会でしたか。すすきの中華料理屋「バンビ」以降の惨劇については、語りたくない。
・日曜日は、酒疲れのせいか、こんこんと眠る。
・なんだかdullな日記ですみません。