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11月30日(木) そんな夜さ
・パラサイト・関更新。
・山風出版でまたビックウェイヴがあるかもしれないという話。楽しみ。
・仕事がゴタゴタして、かつ呑んだくれているうちに、「猟奇の鉄人」kashibaさんと猟鉄掲示版のよしださんというネットミステリ替え歌界の両巨頭にアンサーソングをいただいてしまった。ああ、もったいのうございます。HALなのに涙がこぼれます〜。
・しかし、よしださんが書いているように、替え歌の極意は、「設定」にあり、だったのか。
黒白さんから、神津恭介ファンクラブ会報「らんだの城通信」NO.31.32合併号を送っていただく。山前譲・浜田知明「高木彬光少年向けリスト」が掲載されているのだ。貴重な冊子をありがとうこざいます。
・呑んだくれの帰り、すすきのの古本屋で、福島正実編『5分間サスペンス』(昭40.日本文芸社)購入。和洋混合のSFアンソロジー。相変わらず親父がうるさい。
・明日は、サッポロ堂に寄ってみよう。売ってれば2冊買ってきますので、小林文庫オーナーまだ未発注でしたら、送りますぜ。
・というわけで、「ネタのない奴あ、俺のとこに来い 俺もないから心配するな (中略) そのうち何とかなるだろう〜」の巻でした。



11月27日(月) ゴールドフィンガー
・既にお読みのことと思いますが、猟鉄掲示板の日下三蔵さんの書込みによると出版芸術社の山田風太郎コレクション第1巻『天狗岬殺人事件』の刊行は、刊行は12月中旬になる見通し、とのこと。嵐山さんの11/18の想像のように、ちょっと心配になってました。クリスマス・プレゼントというところですかね。
・11/23の記述の変なところに、「鬼女」と入ってました。「貴女」が「鬼女」になるなんて。許せ、猫美女殿。前に「鬼女の都」と打った学習効果か残存していた模様。
・リチャード・ハル『他言は無用』(創元推理文庫)購入。しかし、なぜ、今ハル。
「ハルを愛する人は〜
心強き人
財産もってて運転好きな
僕の伯母さん〜」
・もう一丁、「2001年」を前にして詠めり。
「HALを愛する人は〜
心広き人
チェスが強くてひなぎく好きな
僕のスパコン〜」
お粗末。
・日曜日、おげまるさんからメールをいただく。懸案の少年探偵小説作家別リスト・1950年代編に決着をつけたとのことで、リストを送ってもらいました。今週末には、貴重な成果をなんとか掲載いたしたいです。
 しかし、メールに
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 せっかく「ゴッドハンド」の称号をいただいたのに捏造するゆとりがなかったのが残念です。
○木々高太郎「怪人文学少女」 芭蕉ブック昭和29年とか
○塔晶夫「五色不動の秘密」 流刑少年昭和32年とか、今からでも入れておきましょうか?

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とあったのは、すまんこってす。「ゴッドハンド」もイメージ悪いですね。でも、こんなタイトルあったら凄い。
・昨日、雨の中、大麻の道立図書館に本を返しに行くと、例によっておげまるさんがいる。「成田さん、成田さん」と手招きされ、閲覧場所に行ってみると、机の上に分厚いコピーが載っている。
 少女の写真がど〜んと載っていて、
あたらしくはじまった物語「とびらをあけるな」
とある。ん。作者をみると、山田風太郎。
 ああ、平成のゴールドフィンガーおげまるさんが、またやった!
 「なかよし」に1年間連載の長編を掘り当てたのだ。
 必要なコピーをして、本を借りて図書館を辞去。札幌までJRで戻って駅地下で、リスト完成を祝って一献かたむける。
『完全犯罪』 楠田匡介 (同光社/昭和34) *図書館
「分譲地ゼロ番号」 船橋近くの分譲地の新居に住む夫婦に、法外な値段で家を買い取りたいという申出があった。駆け引きもあって、売り渋っているうちに、殺人事件が発生。窮地に陥った夫婦を鮎川法律事務所の香山紅子が救う。前半の家入手のためのあの手この手と少し捻った家の入手理由が面白い。田名網警部も登場。 
「殺人設計書」 *「地獄の同伴者」別題(既出)。香山紅子物
「五ツの窓」 三階の鍵のかかった部屋から病に伏せっている老人が消失。意外な犯人と大胆なトリックを使った意欲作。
「雪の犯罪」 *各種アンソロジー所収
●リスト追加
楠田匡介「五ツの窓」



11月24日(金) 『悪党どものお楽しみ』
・西の古本アイドル、橋詰久子さんからメールをいただく。なんと、前回の「わが家の夕めし」を長年愛読され、幾度となく飽くことなく眺めておられるとか。これには、驚きました。読み巧者に愛されて、この本も本望でしょう。
 巻末の東海林さだおエッセイにも書いているけど、意外に、普通の家族の夕食風景というのは、写真で残っていないものですね。最も無防備で意外性のない場面だからかもしれません。本人の発言や文章からは伝わってこないものが伝わってくるし、色んな意味で面白い本です。無論、雑誌の取材に対応する演出はあるけれど、その演出のし具合も面白い。
 文人だけでも、稲垣足穂、山田風太郎、陳舜臣、松本清張、半村良、筒井康隆、畑正憲、色川武大、寺山修司、井上ひさし、唐十郎(幼い頃の大鶴義丹も)、高橋義孝、永井龍男、壇一雄、遠藤周作、田村隆一、近藤啓太郎、丹羽文雄、中村汀女、山田太一、谷川徹三、三浦綾子(夕餉はジンギスカン)、中野重治、遠藤周作、瀬戸内晴美、小田実、庄司薫、中村武、今東光、草野新平、斉藤茂太といったところが出てきます。古本屋でみかけたら、眺めてみてはどうでしょうか。
『悪党どものお楽しみ』 パーシヴァル・ワイルド(00.11('29) ☆☆☆★ 
 元プロの賭博師ビル・マームリーが、ポーカーなどの腕利きのいかさま師たちと対決、巧妙なトリックをあばいていく連作短編集。「クイーンの定員」中最稀覯本としても知られるという。
「シンボル」 賭博師ビル・マームリーの帰郷と改心を描くイントロダクション。父と子のポーカー対決が圧巻。
「カードの出方」 農夫になったビルが後のワトソン役?トニー・クラグホーンをいかさま賭博から救い出す。ギリギリの対決を思わせるオチも決まっている。
「ポーカー・ドッグ」 またもいかさま賭博の被害にあっているトニーを救い出すために、なぜかビルは犬を求めて奔走するが・・。賭博師のトリックとその解明方法がぴったりマッチ。
「赤と黒」 ルーレットで13回連続して黒が。ルーレット・スコープなる発明まおかげで、勝負は一瞬にして決まる。
「良心の問題」 カシーノと呼ばれるトランプゲームで勝ち続ける男。結末の意外性は、O・ヘンリーばり。
「ビギナーズ・ラック」 トニーがビルになりすましてフロリダでいかさま退治を試みる。ビルの奮闘ぶりがおかしいユーモアの際立つ一編。
「火の柱」 海辺で海水着一丁でやるポーカーでいかさまが。不可能興味が濃厚。大賭博狂時代とでもいうべき雰囲気も楽しい。
「アカニレの夜」 チェス・クラブの鼻つまみものを最弱のプレーヤーがやっつけるための奇策。ビルが初めて正義のためのいかさまを試みる。冒頭と結末の文章の凝り方も面白い。
 いかさま賭博をあばく連作という設定がまずうまい。当然、そこにはトリックがあり、手がかりがあり、解明があり、探偵がいるから、ミステリで普通扱われる類の犯罪ではないものの、探偵小説的興味は濃厚である。意外な解明方法「ポーカーカードッグ」「赤と黒」)や意外な探偵の動機(「ビギナーズ・ラック」)といった探偵小説特有のテクニックも効果的に使われている。加えて、探偵自らがゲームプレーヤーになるから、阿左田哲也の麻雀小説のような勝負の迫力がある。「シンボル」の「鞭」の教訓話にはやや時代の限界も感じではないが、常連キャラも楽しく、巧みにつくられた良質の短編集である。ローリング・トゥンティーズを感じさせる邦題もうまい。



11月23日(木・祝) 『わが家の夕飯』
・パラサイト関更新。
・半年仕事が見込み薄になってきて、3時すぎまでヤケ酒。一日中倒れている。
・ふかしじゃが関係で、東京都の千葉さんからメールをいただきました。「ふかしたジャガイモには、バターはもちろんですが、塩辛を乗せてたべるべし、ということです。一度おためしあれ」とのことでした。ありがとうこざいました。今度、試してみます。
・続いて、猫美女殿から、きたあかりは美味ですね、とのお便り。貴女もふかしいも系ですか。以前出てきた「チーズの肉トロ」とは、何かという質問がありましたので、お答えします。
 風太郎家の晩飯の定番です。
 以下風太郎のエッセイ「チーズの肉トロ」(『半身棺桶』収録)から引用。
「ここ数年ほとんど毎日食べている料理があるのである。これすなわち「チーズの肉トロ」である。・・
薄い牛肉で、例のとろけるチーズ(国産で結構)を包んで焼く。大食でない私の場合、焼いたものは掌大の大きさで充分である。これに生野菜をそえ、すったニンニクと醤油で食う。ただそれだけである。・・・これでオンザロックのウィスキーをのみ、あと飯は、何ならメザシとお新香だけでもいい。」
 雑誌「GQ」の山田風太郎特集('95.3)では、「風太郎家のカルトな御馳走帖」と題して、好物「松葉蟹の味噌汁」などと並んで、写真で再現されています。「何ならメザシとお新香だけでもいい」どころか、風太郎家の食卓は、御馳走を並べることで有名ですけどね。
 『あと千回の晩餐』の「B級グルメ考」にも、
 「この料理のことをある随筆に書いてもう十年くらいたつのに、先日も一読者から、数年来「チーズの肉トロ」を食べつづけているがまだ飽きがこないという礼状がきた」と書いているくらいなので、名品といってもいいでしょう。
 わが家でも、これを真似て何回か食してみた次第。サイ君の書くところによると、
「チーズの肉トロ」は、山田風太郎家の定番料理で、とても簡単でおいしいです。しゃぶしゃぶ用のような薄切りの牛肉でチーズ(ごく普通のプロセスチーズなどでOK)を巻いて、軽く塩、コショーをして、オイルをひいたフライパンで焼きます。これを、おろしニンニク入りのポン酢でいただきます。(山田家では、ポン酢ではなくお醤油ですが)」とのこと。とろけるチーズじゃなかったの?
・東京の古本屋で、偶々拾った『わか家の夕めし』(アサヒグラフ扁・朝日文庫('86))という本がある。「アサヒグラフ」で20年以上のロングランを続けた人気コーナー「わか家の夕めし」で登場した有名人1000人近くの中から、100人を選りすぐり、家族との晩飯風景と本人のエッセイを収録した本である。よそさまが普段どんなものを食べているのかというのはなんとなく気になるところだが、晩飯にも有名人の個性が現れているので、写真を眺めているだけでも楽しい。陳舜臣家の「火鍋子」、岡本太郎の「フェジョアーダ(ブラジルの大衆料理)は、実に、「らしい」感じ。稲垣足穂は、ビール(だけ)、森敦は「カップヌードル」(だけ)、貴ノ花(先代)は、裸でしゃぶしゃぶを食し(まだ若い憲子夫人の目は空中を彷徨っている)、アントニオ猪木は、倍賞美津子夫人(当時)と並んで、「ブタの骨付きアバラ
のブラジル風」に囓りついている。筒井康隆の奥さんは美人で、長男伸輔はまだ1歳1か月といった風に家族の肖像写真にもなっている。
 この本には、我らが山田風太郎先生も登場している。
 食卓には「マグロの刺身、牛肉の串焼き、ミックスサラダ、ヌタ、タラコ煮」
 先生は、独りオンザロックを傾け、家族は後方で別の食事をしている。
寄せられた一文「「対話の不足」を憂う」(これは、多分風太郎のエッセイ集には未収録)を少し引用すれば、
「そして御覧のごとく、僕一人だけで僕の晩飯を食い、−この写真では開いてあるが、ふだんは間の襖をしめて−家族は一段低いところで、別の形態の晩飯を食う。食事の内容は異なることが多い。」
とのことである。
 この雑誌の取材の頃('69.3.14)には、「チーズの肉トロ」は、まだ山田家の食卓には、登場していなかったらしい。
・書いていて困ったのは、次第に腹が減ってきたことである。



11月20日(月) ゴッドハンド
・本日のニュース。この劇場社会で、自分の役を最後まで演じきれない役者に対する御見物衆の怒りはでかいぞ。
・『悪党どものお楽しみ』読了。
・平成のゴッドハンドおげまるさんのレポートが届きました。吹雪の中、人が部屋でふかしいもを食べているというのに、この精励、お疲れさまです。そして、またとんでもないものを発掘した模様。
 まあ、お読みください。
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 ご無沙汰しております。
 ようやっと週末だあ、と喜んだのもつかのま、明日もまた出勤ですう。火曜日あたりに代休をもらえるそうです。あは、あはは、はあ……

 札幌は吹雪です・・・(あ、ご存知ですかそうですか)

 ってまだ終わんないんだってば。
 ええと、まず「太陽少年」の再チェックから(本番入ってます)、図書館には増刊を含めて四冊しかない(はずだった)です。このまえ自宅で発掘した(とほほ)「別冊太陽 子供の昭和史 少年マンガの世界1 昭和二十年〜三十五年」(長い誌名だ)(それにしても()が(多すぎる)文章(だな))(閑話休題)では「通俗大衆少年読物誌」の見出しで「譚海」と並べて紹介されていました。
 昭和26年の6月号と8月号には久米元一の「黒魔団」と山中峯太郎の「荒野に立つ火柱」が連載。あと増刊号があったのですが、しまったメモしていない。次が30年の2 月号で、高木彬光のSF「戦慄の大地球」が連載中。これがひょっとして「宇宙戦争」の原題かと思って再チェックしたのですが、別物でした。次が同年8月号……え??
 ノートに書いてないぞ、この号。
 最初の頃のチェックはかなりずさんだったので、目次をちらっと見て黙殺してしまったのかも。このまえの「おもしろブック」の件に続いて、またしてもへこんだ瞬間でした。
 中川透の連載が載ってたんです。タイトルは「魔人鋼鉄仮面」。おお、鮎川の怪人ものじゃないかあ。
 「冒険王」や「少年画報」なども再チェックする必要があるなあ……
 気を取り直して「痛快ブック」を調べます。「野球少年」の増刊として出発し、その後独立創刊されたようです。28年9月号には楠田匡介の捕物帖「地獄の子」があり、武田武彦が「黒面将軍」を連載開始。29年11月号では同じく楠田の「人殺しカッパ」、「黒面将軍」は連載中。
 30年2月号には朝島靖之助、千葉浩、伊勢駒鳥……知らん知らん。なかったことにしましょう。
 あとは武田武彦の独壇場です。
「地獄の魔王」昭和30年6月号〜12月号
「恐怖の怪宝」昭和31年2月号〜7月号
「恐怖の怪宝第二部 死神の王冠」昭和31年8月号〜12月号
 32年になってようやく楠田匡介が登場。「魔の25時0分」(1月号〜2月号)。これを皮切りに前後編の短編ものが続きます。
 島久平が書いてます。加藤六郎のシリーズです。
「特急幽霊列車」3月号〜4月号
「恐怖の東京駅」9月号〜10月号
「狼人間」33年1月号〜2月号
「怪盗四本指」5月号〜6月号
 武田武彦もあります。
「妖怪紳士」32年5月号〜6月号
「三本指の怪獣」34年1月号〜2月号
 梶原一騎だってあります。「地獄から来た少年」32年7月号〜8月号
 尺丈助とか西田靖とか河上清とかもあるけど、これはなかったことにします。
 あとは「中学時代」です。山前さんのリストの落ち穂拾いと補注をいくつか。
 「一年生」では島田一男の「青ギツネの秘密」(33年4月号〜34年3月号)、これは香月シリーズです。
 35年12月号に三橋一夫の怪奇実話「そこにもうひとりの和子が!」。36年1月号に楠田「消えた少女」、2月号に同じく「おかしと宝石」、3月号に「ヤギ小屋の秘密」。
 「二年生」の33年12月号に楠田「とけいを売る男」。
 懸賞推理クイズの執筆が水谷準「あらしの殺人鬼」(33年11月号)、「夜行列車の惨劇」(34年2月号)と宮野村子「消えた真珠」(34年1月号)、「ゲレンデの銃声」(同3月号)。
 で、34年4月号から島田の「世界一周探偵日記」シリーズが開始。中学生の男女コンビが(もちろん保護者同伴で)世界旅行に出かけ、行く先々で事件に遭遇するトラべルミステリーですが、主人公の少年が「南郷三郎」といいます。
 探偵役を務めるのがその父親で、フルネームは出てこないけど、弁護士です。
 「日本ミステリー事典」で「南郷次郎」を引くと、「一男一女をもうけたものの、妻とは死別したようだ」とありました。
 ……どうなんでしょ?
 ちなみに翌年の「世界一周探偵飛行」の方は全然別のキャラクターでした。津田とか庄司とか海堂とかいう名前だったら面白かったのに。あ、でも38年には元鉄道公安官の「香月」おじさんが「一郎」君「ルミ子」さんと一緒に鉄道もので活躍してますわ。
 あと、34年には楠田匡介が時代もの「どくろ小判」(4月号〜12月号)を連載、翌年は一年にわたって懸賞クイズを担当しています。 といったあたりでしょうか。
 次回は「少年」を調べて、あとノートのあやしい部分を再チェックして、とりあえず一段落したいのですが(「なかよし」「りぼん」「ひとみ」と「たのしい&小学一年生」「二年生」はこの際飛ばします)、どうなることやら。ぼちぼちデータの整理にも手をつけてはいるのですが……
 では、また。

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 南郷三郎にも驚きましたが(島田版ジュナの冒険?)、なんといっても、「太陽少年」昭和30年8月号中川透(鮎川哲也)「魔人鋼鉄仮面」!!少年物までフォローした山前譲編の「鮎川哲也作品目録および著書作品目録」(『鮎川哲也読本』)にも、無論掲載されていません。しかも、同書誌によれば「那か川透」(「か」は王扁に可)、「中河透」名義の作品はあるものの、本名の「中川透」名義の作品は、ないようなので、この発見は大快挙なのではないでしょうか。しかも、「宝石」からほされていた「探偵実話」時代の作品という一点だけでも興味があるのに、「魔人鋼鉄仮面」ときては・・。素晴らしい。
 少年物調査も佳境を迎え、データ整理結果も、ほんと楽しみです。




11月19日(日) 『密室殺人』
・昨日は、吹雪。暖かい部屋で、ふかしじゃがいも(北あかり)にバターを付けて食べるのが美味。
・パラサイト・関、久しぶりの更新。
・相次いで『猟奇の鉄人』が10万、『BAR黒白』が3万、『幻想文学館』が2万アクセス突破。おめでとうこざいます。いずれも、1年でこの数字は凄いというしかないですね。
・アマゾンから、本2冊届く。宅急便は、昼間不在で受け取れないので、翌日の夜になってしまうのだ。宅急便のお兄さんが「アマゾンからです」といって、荷物を手渡してくれるのが、何やらおかしい。包みから半魚人でも、出てきそうだ。今回、突いたのは注文から、11日、結構かかってる。結局、注文した本は、3回に分かれて配送。ブツは、レジナルド・ヒル『四月の屍衣』(早川ミステリ、Mike Ashley編『The Mammoth Book of LOCKED-ROOM MYETERIES AND IMPOSSIBLE CRIMES」(Carroll & Graf)後者は、今年出たばかりらしい密室ミステリのアンソロジー(ペーパーバック)。「マンモスブック」というアンソロジーシリーズの1冊らしく、他にも50冊近く出ているようだ。SFやホラーの定番どころのほか「ドラキュラ」「歴史ミステリ」「ジャク・ザリッパー」「レズビアン・エロティカ」「パルプ・フィクション」等あって、なかなか楽しい。本書は、マンモス・ブックというだけあって、530p、27編収録の大冊。マンモスうれぴーというか。(のりぴー語・哀)
・収録作は、12編が過去の作品で、15編が書き下ろしというスタイル。過去の作品は、
L.W.ブロック&ローレンス・ブロック「The Burglar Who Smelled Smoke」
ウィリアム・ブりテン「ストラング先生挑戦を受ける」(HMM71.1) 
ジョン・ディクスン・カー「銀色のカーテン」(カー短編集1)
デニス・リンズ(マイケル・コリンズ)「出口なし」((HMM80.3)
Howell Evans「The Mystery of the Taxi-Cab」
エドワード・ホック「The Crowded of Cemetery」
Thomas Bailey Aldrich「Out of His Head」
M.D.ポースト「ズームドルフ事件」
ジャック・フットレル「モーターボート」(思考機械の事件簿2」
ビル・プロンジーニ「The Pulp Connection」
クレイトン・ロースン「天外消失」
C.N.&A.N.Williamson「The Adventure of the Jacobean House」
(プロック、プロンジーニ、ホックは邦訳あるかもしれぬが未確認)。残りの新作の執筆者は、H.R.F.キーティング、ピーター・ラヴゼイを除けば、あまり知らない作家である。
・ミルワード・ケネディ『救いの死』読了。おお、これも、一応、エイディのリストに載っているんだな。
『密室殺人』 楠田匡介 (同光社) '59.5.15 図書館 ☆☆★
 不可能興味ある短編中心のセレクション。
「ストリッパーの怪死」 密室のストリッパーが「家庭用製麺機」で殴殺。続いて、容疑者に全員アリバイがあるにもかかわらず、重要証人が殴殺。犯人も意外でなかなか。
「誰も知らない」 愛憎渦巻く屋敷で娘が殺害されるが、凶器が見あたらない。奇抜な凶器が見所。
「拳銃の謎」 密室での高名な医学博士の怪死。有名な山羊を使ったトリック。
「奇怪な腕」 美貌の入院患者が密室で、皮製の腕輪で絞殺。歴史的蘊蓄が楽しいトリック。
「灯殺人」 雲母荘というアパートでの踊り子の怪死。容疑者がいつの時点で訪問したかがポイントなのだが、「灯」がその手がかりを握っている。
「河豚の血」 宴席の後、高名な画家が寝室で怪死。事件は、単純なフグ中毒だと思われたが。殺害手段に新手。
「人肉製紙」 名士の夫人と不倫関係にある詩人が、製紙工場に連れ込まれて。夢オチかと思ったが、そうではなかった。製紙化の行程が詳細。
「殺人スキー」 札幌のスキー場。昔の恋文をもとに強請っていた男が、ストックで刺し殺される。男を訪問した人間は、次々と名乗りを挙げるのだが。解決はやや安直。
 全編に警視庁捜査一課の田名網警部が登場。事件は、特殊なグループの確執から描かれることが多い。なんといっても、奇抜なトリックが売りだが、アリバイくずしや犯人探しとうまく連動したときに「ストリッパーの怪死」のような佳編が生まれる印象。ときに結末まで手がかりが隠されるのは、減点対象である。全体のレベルは、それほど高いとはいえないが、そこはかとないユーモアともども、密室好きは楽しめる短編集。
●リスト追加
 「奇怪な腕」



11月16日(木) 『サイロの死体』
・「猟鉄」掲示板に登場していた中3生に、風太郎の本を送ったのだが、現在、友達に忍法帖を貸してて以外に好評とのこと。同級生のファンを増やしていただきたいものである。
『サイロの死体』 ロナルド・A・ノックス(国書刊行会/00.7('33)) ☆☆☆☆
 ノックスは、ずっと気になる作家だった。『陸橋殺人事件』が、というより、『まだ死んでいる』(ポケミス)の裏写真に載っている写真が、といった方が正確だ。短髪と秀でた額、知的なのにいたずら小僧のような眼は、ローマン・カソリックの大僧正というよりも、アナーキズムの理論家か美大出のパンク・ロッカーといった風情を漂わせている。(その割に、『まだ死んでいる』が「まだ読んでいない」状態なのは、なんですが)。だから、その『陸橋殺人事件』、「密室の行者」「動機」のようにミステリをどこか斜めから観た諧謔精神のようなものが、その本領なのか思っていたのだが、田舎邸のハウス・パーティで行われた「駆け落ちゲーム」に端を発する事件を扱う本書では、徹底的な探偵小説をやっている。葉巻の吸いさし、温度計、頁が破りとられた日記といった手がかりの丹念な洗い出しと解釈が続く前半は、地味な器用仕事を思わせるが、解決に至りその印象は一変する。手がかりへの拘泥は驚きの連続の解決を呼び、作中に散り敷かれた伏線の数々は光芒を放ち、ダブル・ミーニングが匂い立つ。これぞ本格、これこそ探偵小説の醍醐味。奇抜なアイデアや鬼面人驚かす設定がなくて も、たくらみと驚きに満ちた作品が書けるという好見本のような作品。多層的で緻密なプロットワークは、黄金期本格の中でも、相当上位の位置を占めるものだろう。欲をいえば、解決の後の展開は、さらに一ひねりしたものが欲しかったのだが、これは望蜀か。とまれ、パンクな大僧正の遊戯精神が高度に発揮された傑作と呼びたい。



11月15日(水) リターン・オヴ・「家建て話」 
・99.7.26から何回か話題にした「家建て話」を覚えておいでだろうか。小林信彦の週刊文春連載エッセイ「人生は五十一から」(99.1.28号)で、「原っぱで人を殺してその死体の上に大急ぎで家を建てる」という乱歩の類別トリック集成にも出てくる有名な密室トリックがあるのだが、これは乱歩が記しているように、ハーバート・ブリーンの作品などではなく、情報提供者双葉十三郎のその場の思いつき発言だったということが明かされている。(「大密室」の有栖川エッセイで、この小林エッセイのことが採り上げられた)
 ところが、このネタ、ハイデンフェルトという作家の短編(初出「EQMM」1953年2月号)にちゃんとあって、これを読んだ双葉十三郎が乱歩に教えたのではないか、時期的にも符合する。と書いたのが、上記の「家建て話」だった。双葉氏の記憶違いではないかとする失礼な憶測ではあった。
 小林信彦のエッセイは、現在『最良の日、最悪の日』(00.6)で読める。「ばかトリック」と題されたその文章を引用する。
 「「類別トリック集成」の中で、江戸川乱歩はこう書いている。
<更らに今一段奇抜なのは、双葉十三郎君に聞いたのだが、たしかハーバート・ブリーンの作だったかと思う。先ず野外で人を殺しておいて、その死体の上に大急ぎで小屋を建築して、密室を作るという着想である。簡単な小屋なら一夜で建てられるから、これは不可能ではない。殺人のあとで家を建てるというのは、チェスタートンでも思いつきそうな手趣味で、いかにも面白いと思った。>
 ところが、ハーバート・ブリーンにこんな小説はない。いつか双葉十三郎(映画評論家)さんに/そのことを訊いてみたら、「それはぼくのいいかげんな思いつきを乱歩に話しただけだよ」とニヤニヤした。」

・で、以下は、以前おげまるさんに教えてもらった話。
 実は、この話を小林信彦が書いたのは、今回が初めてではないというのだ。先行する文章は、「ヒッチコック・マガジン」1960年4月号。名作、ロバート・アーサーの「ガラスの橋」に付された文章である。該当号もお借りできたので、以下引用する。ロバート・アーサーの「五十一番目の密室」のトリックに触れ、戦後の「インチキ密室」を引き合いに出した後の文章である。
 「続幻影城」には、双葉十三郎さんがハーバート・ブリーンの作といったという、先ず人を殺しておいて、その上に小屋を建てるという奇抜なトリックが紹介されているが、双葉さんにお目にかかった際、何という作品ですか?と伺ったら、あれは僕の創作じゃヨとニヤニヤされた」
 執筆者のクレジットはないが、小林信彦は当時、中原弓彦名義で「ヒッチコック・マガジン」の編集長をしていたのだから、多分、御本人の執筆に相違ないだろう。
 この文章から、小林信彦が双葉十三郎から訊いた話は、1960年以前であることは明らかになるわけで、双葉十三郎の記憶違いという説も、かなり怪しくなってきた。
 いや、それだけの話でこざいます。しかし、雑誌のルーブリックなどよく記憶してますよね。驚きました。



11月14日(火)  
・旭屋にて、パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』(国書刊行会)、ロジャー・スカーレット『猫の手』(新樹社)、ヴェラ・キャスパリ『愛と疑惑の間に』、『幻想文学59 ボルヘス&ラテンアメリカ文学』購入。ボルヘスは、『ドン・イシドロ〜』に続いて、この「幻想文学」のほか、国書から『ボルヘスを読む』、コレクションの『論議』、現代思潮社『アトラス』がまとまって出て、時ならぬブームの感。関係ないけど、「幻想文学」の東編集長が「たけしの万物創世記」に出てました。
・これだけは、何とかこなしたいと思っているヴィンテージ・ミステリも、すっかり入超気味。ノックス『サイロの死体』を読了。これには大満足。もっと、ゆっくり読むべきだったか。




11月13日(月) いつ殺される
・ふ、二日酔いです。
・「猟鉄」「黒白」オフが早くも定員とは。凄い。
『いつ殺される』 楠田匡介(長編探偵小説全集12) 春陽堂('57.11.25)  ☆☆★
 本格的な長編としては、『模型人形殺人事件』に次ぐ二作目に当たると巻末の中島河太郎解説にある。作家が入院中の病室に女の幽霊が出没する。曰くを探っていくと、この病室は、どうやら、以前に8000万円の公金を着服して心中を遂げた農水省の官吏と愛人が運びこまれた部屋らしい。その後に入院した患者も不審な死を遂げているようだ。作家は、妻と幼なじみの刑事の協力の下に、ベッドデティクティヴに乗り出すのだが、刑事は左遷が決定し、作家にも何者かの手が迫ってくる。
 社会派的な題材に、二度にわたる人間消失、暗号や隠し場所トリックなどの本格興味を盛り込んだ作品。小説のためのメモは、215枚に及んだという。東北、北海道まで足を伸ばす刑事の捜査行により、次々と事件に関連する女性たちが浮かびあがってくる当たりの展開は、捜査小説の醍醐味を感じさせる。ただ、全体としては、あまりまとまりのいい小説とは、言い難い。作家や刑事に襲いかかる魔の手というのがスリラー風で安易な感じは否めないし、事件の背景を拡大させ続けた割には、結末は驚きに乏しい。下級役人の心中事件、背後にほのみえる政治家・官僚の暗躍、北海道に及ぶ刑事の足の捜査とくれば、いやでも『点と線』('57)を思わせるが、本作は、社会派全盛の時代にあって、孤塁を守る本格派の苦闘の跡とみたい。著者の生まれ故郷である北海道・厚田の冬の描写が光る。シリーズ・キャラクター田名網警部登場。



11月12日(日) 『箱ちがい』
・本日付けの北海道新聞日曜版に、以前、小林文庫ゲストブック及び当サイトで話題になっていた札幌市中央区南1西24の「沖本貸本店」が大写しで登場していた。「いつかどこかで」というタイトルで、「北の遺産は語る」という副題がついたコーナーの連載45回目。大きなカラー写真とともに1面を占拠している。店主の沖本博氏は80歳とのこと。インタビューに答えて曰く
「今年になって、何人客がきたかって?一人もこないよ(笑)」
 あー、不肖、私、今年3冊借りたんですけどねー。
 これでも、年金が出るから、なんとか生活できるらしい。沖本氏は、石狩の農家の五男坊に生まれ、復員後、知り合いの銭湯を手伝いながら資金をため、1957年に開業。貸本屋は、当時札幌だけで、140店の開業があった花形商売だったという。
「客が減ったのは、どこの家にもデレビがあるようになってからだろうな。この十年くらいは、客の代わりにテレビや新聞の取材の人が来るぐらいだ」
 蔵書数は、約1万冊とのこと。蔵書のユニークさにも触れて欲しかったところである。
 今度は、栗田文庫を採り上げていただきたい。
・道立図書館に3冊返却、2冊借り出し。今回も、読み終わるのに時間がかかって、閉館ぎりぎりに滑り込む。
『箱ちがい』 R.L.スティーヴンスン&ロイド・オズボーン(国書刊行会/00.9(1989)) ☆☆☆★
 「宝島」「ジキル博士とハイド氏」などで知られる文豪が息子と組んで書いたファース。莫大な金額がかかったトンチン年金組合の生き残りは、年老いたフィンズベリー兄弟だけとなった折りもおり、弟ジョゼフは鉄道事故に遭遇。ジョセフ伯父を生きているようにみせかけようと一計を案じた甥たちは、死体を巨大な箱に押し込んで、ロンドンに発送するが・・・。死体をめぐるドタバタ劇で、ヒッチコック「ハリーの災難」やライス「幸運な死体」の先駆といってもいい作品。キャラクターの輪郭は明瞭、ストーリーは予断を許さず、大団円にまとまる物語の面白さは、子供部屋で読んだスティーヴンスンやディケンズの小説の快楽を想い起こさせる。
 解説によれば、英米には、原題(The Wrong Box)をもじったWrong Boxerという「箱ちがい」マニアもいるというだけあって、多面的な読みを誘惑するような作品でもある。解説(千葉康樹)は、本書を一種のメタ・ミステリーとして読む道筋を教えてくれるのだが、本書を一種の経済小説と読むのも面白いのではないか。生き残った者がすべてを得るという「トンチン年金」という保険制度がまず、苛烈な資本主義的精神を体現している。保険があるゆえに、伯父の死体は、単なる物にとどまらず、交換価値を有する一種の貨幣としての役割を得る。登場人物の置かれた環境により、死体の交換価値は常に変動し、圧倒的に価値を減ずる「恐慌」すら発生する。本書は、死体の価値変動がもたらす悲喜劇を描いているといえなくもない。本書の元の題は、「Game of Bluff」だったという。bluffは、はったりでだます、(トランプで)自分の手を強そうにみせかけてだます。「トンチン年金」そのものが、一個の死に過剰な価値を与えるblufであり、作中モリスが署名を決断する2か月先の手形もbluffである。主要登場人物のモリスは、当時にあって投機的要素の強い「皮革商会」の経営者、マイケルは金融に長けた悪徳弁護士。資本主義経済の完成型の始まりであった19世紀ロンドンにおける、経済プレーヤーによる実に資本主義的なbluff gameは、新しい娯楽小説の型を示したといえなくもない。
 ・・・などという余計なことも考えさせてくれる、面白く何やら奥深そうな小説でありました。
●密室系リスト追加
楠田匡介『いつ殺される』、「ストリッパーの怪死」、「誰も知らない」



11月10日(金) 帯広・釧路流れ旅
・金曜日まで、帯広・釧路に出張。札幌出るときは、朝は雪。狩勝峠は吹雪。帯広の夜は氷点下。「
もう駄目ですね」と、帯広の人も釧路の人もあきらめ顔であった。
・同行の事前のリサーチよろしく、帯広では、昼は豚丼、夜はジンギスカン。釧路の夜は炉端、昼は泉屋のカツスパゲッティと食生活では充実しすぎ。腹に帯がついたようになって帰ってきた。
・帯広の空き時間に入ったリサイクル・ブックの店に古めのノベルスが多くてなかなか。ノベルスで、川奈寛「殺意のプリズム」(産報)、藤村正太「黒幕の選挙参謀」(青樹社)、「原発不発弾」(光文社)、島内透「白いめまい」(光文社)、「海風の殺意」(祥伝社)、「死の波止場」(祥伝社)、楳本捨三「灰色の海図」(双葉社)、大谷羊太郎「レコーディング殺人」(青樹社)、「偽装他殺」(徳間書店)、多岐川恭「殺人者はいない」(桃源社)、「老いた悪魔」(桃源社)、「殺人ゲーム」(KKワールドフォトプレス)、「乱れた関係」(桃源社)、「みれんな刑事」(報知新聞社)、「私の愛した悪党」(秋田書店)、単行本で中野実「楽天夫人」(東方社)、多岐川恭「氷柱」(河出書房)等々買い込む。ノベルスは、200円均一でお買い得だった。重くて持ちきれないので、同行に知られぬよう、買った手さげ袋に詰め込み宅急便で自宅に送付。なんらかの犯罪工作をやっているような感じ。多岐川のノベルスは、「私の愛した悪党」以外は、ダブリだったというオチがつくのだが。
・自宅に帰ると、アマゾンに注文した『鬼女の都』が届いていた。木曜日に届いていた由。
・同じく、K文庫の目録が届いている。安いけど、嵩張るしなあというのがあって、悩みどころ。
・出張中の読書は都筑道夫『なめくじに聞いてみろ』のみ。実は初読なのであった。短編連作スタイルの長編で、物語のうねりには欠けるが、発想・文体・センスはいまだに新しい、というかほとんど誰にも継承されていない。昭和30年代の珍しく恰好いい東京が垣間見れるのも、また嬉しい。




11月7日(火) 『死の家の記録』
・日曜日、アマゾンに注文した菅浩江『鬼女の都』につき、本日発送したというメールが来た。「2〜3日で発送」にはなっていたけど、なかなかやるじゃん。リアル本屋の客注とは、えらい違いだな。
・8日から10日まで出張です。同行が昼飯・晩飯、全部食べるところを決めていて、楽というか。考えたら、4月以来出張していない。
『死の家の記録』 楠田匡介 光風社('60.6.25)  ☆★ 図書館
 第1章が「賭博者」、第2章が「分身」。続いて「罪と罰」、「未成年」「悪霊」「作家の日記」とくれば、
なんと、タイトルまで含めてドストエフスキーの戴きではないか。北海道出身の脱獄小説を得意とした推理作家がロシアの大文豪に挑んだ野心作・・ということはまったくない。
 冒頭は、網走刑務所の門前。12年の刑期をほぼ満了して出獄した小木は、不良囚だった。一刻でも早い仮出獄を願うはずの囚人がなぜ不良囚として過ごしたのか。小木は、出獄を待っている刺客を恐ろしかったのだ。微妙な調節で、刑期満了から15日だけ早く仮出獄した小木は、追っ手の裏をかくように、帰京のコースを美幌で変え、さらに川湯、帯広、釧路と見えない刺客の手を振り切る。追っ手は、いるのか。いる。前科もちの北見の興業主が組織網を使って、小木を追跡する。小木を追う興業主の手先がまず殺される。続いて、興業主とその愛人が銃殺。さらに、小木のものと思われる死体が・・。霧の街、釧路に追う者と追われる者の旋律が流れ、死の華が咲く。
 興業主の手先として使われていた元刑事・古川(あの田名網警部の部下だった)は、割り切れない思いで、事件の捜査を続け、一見落着としたと思われる事件の真相を明らかにする。
 刑務所や犯罪者の内情に通じたリアルな描写など面白い要素もないではないが、スリラー仕立ての謎解きにとどまり、目を瞠る要素は何もない。特に、真犯人の動機は、まったくもっていただけない。クライマックスは、函館に向かう急行列車の中。グルメもリゾ狩りートもなき時代のご当地ミステリーである。


11月6日(月) 『絢爛たる殺人』
【間違って10月の方に書き込んでいたので、7日夜再アップ。とほほ】
・宿題をこなすために、連休が消滅。やんなきゃいけないことがあるときの読書がまた蜜の味で。ジョン・ホーガン『科学の終焉』という本をとったら、止められなくなる。
・「みすべす」によれば、光文シエラザード文化財団主催「第4回ミステリー大賞」を山田風太郎が受賞したらしい。中島河太郎、佐野洋、笹沢左保に続いての受賞ということになる。最近では、菊池寛賞以来の受賞ですか。何はともあれ、めでたい。
・「アマゾン・コム」の日本での営業が開始。各所からリンクが貼られているのを辿ってウィンドウ・ショップ。みているうちに、虫がうずき、新刊本屋で見あたらない本を何冊か注文してみる。一度登録すると、ワンクリック注文が使えるのがとても便利。洋書の検索をかけてみると、色々出てきてしかも安い。アントニー・バークリーの評伝があったので、これも注文してみる。
・確か、この「アマゾン・コム」のコールセンター(電話照会とかに応じるところ)が札幌に立地していたはずで、最近、札幌には、この手のコールセンターの立地が進んでいる。人件費が安く、標準語教育の必要があまりないからなんだとか。最も、コールセンターの立地が進んでいるのは、沖縄で、こちらは、官民あげて誘致に取り組んでいるらしい。フリーダイヤルで普通に話していて、最後に「担当は具志堅でした」といわれて、あれれと思う人もいるとか。
『絢爛たる殺人』 鮎川哲也監修 芦辺拓編  ☆☆☆★
 帯に曰く「世紀の探偵小説!新編集長が発掘した幻の本格推理が放つ光芒」。全編に本格魂漲る充実のアンソロジーである。
「ミデアンの井戸の七人の娘」岡村雄輔
 傑作云々とかいうより、拍手喝采というしかない一編。とんでもない不可能状況が乱打されるだけでもツボなのに、本格、通俗、「黒死館」が絶妙にブレンドされた珍品。
「むかで横丁」 宮原龍雄・須田刀太郎・山沢春雄
 なんといっても、山沢の解決編。打ち合わせなしに書かれたというのに、ほとんどの読み手の想像を上回る解決を開陳し、さらに奧座敷まで用意した「伝説」の名に恥じない名演技。しかし、さすがにここまでいくと、「詰棋パラダイス」(詰め将棋の同人誌)掲載作品という気も。
「二つの遺書」 坪田宏
 古風な告白体の間に挟まれた密室状況の設定が出色。
「ニッポン・海鷹(シーホーク)」宮原龍雄
 トリックのある本格短編の名手という印象があったのだが、これは、伝奇、衒学趣味もブレンドした驚異の一編。長編になっていればと惜しまれる。 
「風魔」 鷲尾三郎
 再読。これで、「悪魔の函」所収の4編は、全部アンソロジーで読めることになった。毛馬久利と川島美鈴物は他にないのかな。
 「ミデアン〜」と「ニッポン〜」に、とにかく個人的秘孔を突かれる。昭和20年代のこれらの書き手や作品が歴史に呑み込まれてしまった理由についても、考えさせられる。

11月3日(金・祝) 奇想天外・英文学講義
・木曜日の夕方の打合せでドンデン返し。休日出勤の羽目に。
・『創元推理20』評論賞ノミネートに「女神孝太郎」さんの名前があって懐かしい。
・本日(4日)、発送業務4件。遅れていた方、申し訳ありませんでした。
『奇想天外・英文学講義』 高山宏 講談社選書メチエ(00.10)
 「「神韻縹びょうたる詩」、「滋味掬すべき」散文をじっと味読する老紳士といった英文学(というか「英学)のじじむささ」とは、まったくもって無縁の高山英文学精髄。「吸う息吐く息の両方で神がかり的に喋る」ことができるという著者が講談社に2日間赴いて、貼り扇子で喋り倒した記録である。語り下ろしがゆえに、修辞や衒いの雑挟物もなく、いわんとすることが英文学の素人にもダイレクトに伝わってくる。
 シェイクスピアと薔薇十字団、18世紀文学と光学、ロビンソン・クルーソーと博物学、ロマン派と見せ物、1660年と1920年代、江戸のビクチュアレスク・・・英文学プロパーでは決して見えてこない隠れたチャートが次々と浮上してくる快感は、センス・オヴ・ワンダーそのものである。中でも重要だとは思えるのは、ホッケのマニエリスム論に依って、マニエリスムの本質を「つなぐことによる驚異の学、驚異の知識」と喝破したことで、17世紀前半の文化的事象あれこれがいっぺんにくくられ、コンピュータも愛も、コンシート(奇想)もオカルトも「つなぐ知」としてのマニエリスムとして串刺しにされてしまう。そうした思考を積み重ねるこの本自体がマニエリスティクな試みである。のみならず、マニエリスムは、歴史的な一研究対象にとどまらず、自分のきょうあしたの生き方を定義すると著者は、いう。それ自体、近代のものに属する日記やリストというものの本質が明らかにされる部分を読めば、パソコンで日記を書き、リストをつくり、リンクを貼るウェブマスターたちは、ミニ・マニエリストであるという曲解も許してくれそうな、元気の出る本でもある。ミステリに関して も、若干の記述があり、「二銭銅貨」が1660年代ロンドンに接続され、文化史の文脈で探偵小説を「メタ・リアリズム小説」と定義する辺りは、非常にスリリング。
 「だれも知らなかったシェイクスピア、ぼくだけが知っている」「異貌の19世紀、それはぼくだけが知っている」という傲岸不遜ともいえる態度に引く人もいるかもしれないが、視覚文化論のエッセンス把握のため!に、毎月10冊のエロ雑誌を買っているという奇人学者?の言動として愛でるべきか。
 後書きの最後は「バイバイ、英語。アディオス、英文学!」著者は、あちこちで既存の英文学界で受け入れられなかったことを悲憤慷慨する。この著者の本を読むのは初めてだが、一般的な読書好きの間では、ずっと以前から、その著書や「異貌の19世紀」シリーズによって勝利していたことは明らかだったように思う。学会内の評価というのは、そんなに気になるものなのだろうか。



11月1日(水) 平岸・南平岸
・森英俊さんからメールをいただく。入手したばかりの城戸禮「はりきりスピード娘」が、おげまるさんのレポートで少女雑誌連載と知って驚かれたよう。掲示板など拝見するに、明朗小説に凝られてますね。古典翻訳黄金時代を演出した森さんのこと。もしかして、来世紀のキーワードは明朗?
・帰りに、返りに高橋ハルカさん日記で気になっていた新規オープン平岸と南平岸のブックマーケットに行ってみる。最初、あさっての方向の本の岩本に行ってしまって涙ぐむ。ブックマーケットに着く前に、クリスピン「消えた玩具屋」、アームストロング「疑われざる者」ブレイク「血塗られた報酬」、西東登「謎に野獣事件」各100円。ブックマーケットの前に位置する、古い本ばかり置いてあるちょっと不思議な古本屋は、段ボールが積み上げられていた。あおりをくらって閉店するのかなあ。ブックマーケットの方は、ゾッキ本が多いのが特徴なんですかね。古めの新書が結構あり、梶、大谷が三歩ずつ前進してささやかな喜び。チャールズ・ブラットの「挑発」を初めて見た。(平成5年で9版重ねており、ロングセラーだったのか)、南平岸のブックマーケットは、地下鉄駅のすぐ側。甲賀三郎「犯罪・探偵・人生」(復刻版)、戸川昌子など買う。住所を探すのにブック・マーケットのサイトを見たけど(載ってなかった)、外食産業やCD販売に手を出しては撤退しているちょっと変わった会社ですね。
・『絢爛たる殺人』の感想を書こうと思ったけど、油切れ。



10月31日(火) 「黄金明王のひみつ」
・日経ネットナビ12月号特別付録「今月のおすすめホームページ集」−秋の夜長は読書−で「密室系」が採り上げられました。ミステリ系では他に「金田一耕助博物館」さん、「風読人」さん。ページを挟んで隣は、なんと大原まり子公式サイト。20年前なら、また一歩野望に近づいた、だったのだが。
・コラゲッサン・ボイル『血の雨』(東京創元社)購入。この人は、現代作家で異色作家短編集をチョイスすれば、入ってくる人だと思う。
・松橋さんから、山風関係のお宝を頂戴する。
・三角形の顔をした洋装の小柄な老婦人の件で、葉山響からメールをいただく。該当部分を引用させていただきます。
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ああ、泡坂氏のことになると何を置いても反応したくなってしまいます。これは病の域ですね。
>正解は「争う四巨頭」。フェラリーとブルドックのタケル君は出てくる
>のだが、老婦人自身は出てこないとのこと。もう忘れているが、
>本当かしらん。
本当です。疾走する老婦人の愛車フェラーリを後方から見送る人の目に、車に乗っているタケル君らしきブルドックが見える、とかそんなんじゃなかったかと記憶しています。確認していないから正確ではないかもしれませんが^^;でも、老婦人の姿が直接出てこない作品は確かにこの作品だけだったと思います。以前、全作品を読み返して老婦人の登場場面を全てチェックしたことがありますから、割と確かではないかと。って何をやってたんでしょうか僕は。若かったなぁ……

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 「青春が美しいものだなんて誰がいった」(byポール・ニザン)全然違いましたか。若い人に「若かった」といわれると、どうしていいやら。該当部分は、葉山さんの書いているとおりでした。しかし、人型記憶兵器ぶりは健在ですね。併せて、密室系作品として、折原一の新作『倒錯の帰結』をサラリと教えて頂きました。感謝。
 うちの即席三角形老婦人研究家に聞いたら、無人島が舞台の「赤島砂上」では、雑誌の写真で登場しているとのこと。確かにそのとおり。「救命艇」のヒッチコックばり。
・何故かうなっている、おげまるさんが、また、猟場からうさぎの耳を掴んで帰還した。以下引用。
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 うーむうーむ。すごいなあMORIOさん、松橋さん。
 やっぱり、お宝情報をもちながらつつましやかにROMってるお方がいらしたんだ。
 個人的に仰天ものだったのが松橋さんのさりげない一句。
>これは連載物で、内容そのものは(以下略) 
 れれ連載?
 連載というとひょっとして10月号の前後にもお話が続いて載っているあの連載のことですか?
 がーんがーんがーん
 完っ璧にチェック漏れだよおお。
 狼狽のあまり思わずがっくりとマウンドに膝をつく私でしたわさ。
 「終った……おれの野球生命が……」
 でも幸いオタク生命にはなんの支障もなかったので、いそいそと図書館に向かうのでした。
 「おもしろブック」昭和31年分を請求。はい、確かに載っておりました、「青雲寮の秘密」。8月号から11月号まで(ただし9月号は休載)の三回連載。MORIOさま、松橋さま、ご教示ありがとうございます。
 (やっぱり目次が切り取られていてぶつぶつ←言訳)。
 なるほど「天国荘奇譚」です。原作との比較はのちほど。
 「カメラ」も「週刊大衆」も彬光発言の「宝石」も、該当号は欠号。「跫音」初出の「小説春秋」だけ確認できました。MORIOさま、ありがとうございます。

 あとはいつもの調査に戻ります。まず「五年の学習」「六年の学習」を請求してみたら、二誌あわせて十二冊しかありませんでした(昭和35年までの分は、ですが)。「六年」の昭和34年2月号で水谷準の「六つの赤いつぼ(第11回)」を確認。
 「漫画少年」が三十冊ほどあり、ということはやはり国会図書館より充実してるんでしょうか。25年9月号に森下雨村の「左千夫の功名」、26年調整号〜12月号にやはり雨村の「鬼巌城」(原作者が表記してないけど、ルブランです)が載ってます。
 ついつい「ジャングル大帝」その他に読みふけってしまって気がつくと四時。慌てて「中学時代」を請求。これも「中学コース」と同じで、24年から31年まで、延々となにもない。
 31年11月号から学年別に分離。「中学時代一年生」12月号には橘外男の「魔人ウニウスの夜襲」と北村小松の「少年のひみつ」が。おお、これは期待できそうだ、と1月号を手に取ります……

○山田風太郎「黄金明王のひみつ」 中学時代一年生 昭和32年1月号〜3月号
 ……い、いや、そこまでは期待してなかったんですけど。
 こんなお話です。
 旅館の息子啓作は片腕のない客、有賀と出会います。有賀は材木商で、旅館の隣の山城家にある大きな樟の木を買いに来たというのです。山城家はかつてはこの地方きっての名家でしたが、七年前に怪盗「くも小僧」の手で秘宝「黄金明王」を盗まれてから傾きはじめ、樟の木も切り倒して売られる予定でした。
 有賀は啓作に暗号文を記した紙片を見せます。それはくも小僧の仲間から有賀が手に入れたもので、黄金明王の隠し場所を示しているらしい。十月十五日の夜、樟の木の影が落ちる場所……啓作は木を切る作業を延期してもらおうと村人に話します。村中に宝捜し騒動が起きるなか、くも小僧らしき不気味な男が現れました。
 そして十五日の夜、木を見張っていた山城家の娘真弓が姿を消し、男の死体が……
 怪盗、暗号、足跡のない殺人、と、正攻法の少年探偵小説ですね。(以下略)

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・く〜、また出た風太郎少年物!